【早すぎる引退】ダニエル・デイ=ルイスがゲイ映画で見せた稀代のラブ・シーン

2017.06.27
映画

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

出世作はゲイ映画だった

ダニエル・デイ=ルイス

マイ・レフトフット』(89)・『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)・『リンカーン』(12)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したイギリスを代表する名優ダニエル・デイ=ルイス(60)が先日、公式に引退を発表しました。

マグノリア』(99)などで知られるポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『Phantom Thread(原題)』(現在製作中)が最後の出演作となります。

出演作を厳選するダニエル・デイ=ルイスが、この20年で出演した映画はわずか6本、そのため、映画界での圧倒的な評価の高さのわりに、日本での知名度は意外に低いのかもしれません。

しかし、レオナルド・ディカプリオ主演のヒット作『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)でレオ演じる主人公アムステルダム・ヴァロンの父親の仇である義眼のギャング=ビル・ザ・ブッチャーと言えば、ピンと来る人も多いのではないでしょうか?

ギャング・オブ・ニューヨーク

アムステルダムの宿敵、残忍な男でありながらもなぜかアムステルダムの父親のようにすら感じさせる不思議な存在感には、魅せられましたね。

他の追随を許さない演技で観客を魅了してきた人だけに、早すぎる引退が惜しまれます。

ところで、ダニエル・デイ=ルイスの初主演映画『マイ・ビューティフル・ランドレット』(85)こそ、不動の人気を誇るゲイ映画だということはご存知でしたか?

マイ・ビューティフル・ランドレット

80年代のイギリスはゲイ映画ラッシュ。
ルパート・エヴェレットコリン・ファースが出演する『アナザー・カントリー』(84)や、ジェームズ・ウィルビーヒュー・グラント出演の「モーリス」(87)は、現在でもゲイ映画の金字塔となっています。

そんな流れの中で登場した『マイ・ビューティフル・ランドレット』、濡れ場の濃度(!)ではダントツに突き抜けた作品なんですよね。
せっかくですから今日は、ダニエル・デイ=ルイス出演作の中でもちょっと異色のこの作品をご紹介してみたいと思います。

(以下はネタバレを含みますのでご注意ください。)

ロンドンのパキスタン移民社会をリアルに描く

舞台は1980年代のロンドン。主人公のオマル(ゴードン・ウォーネック)はパキスタン移民二世で、実業家の叔父の仕事を手伝っています。
ある時、叔父が所有する南ロンドンのコインランドリー店<ランドレット>を見せられたオマル。すっかり近所の不良たちのたまり場になって荒れ果てた店の経営を、叔父はオマルに任せます。
腕試しのチャンスを与えられたオマルは大喜び。さっそく幼馴染みの不良ジョニー(ダニエル・デイ=ルイス)を雇って、店を荒らす不良たちを追い払うことに成功します。
ジョニーの腕力とオマルの商才とで店の経営は上向きに。そして、気が付けば2人は深い関係になっています。
一方で、オマルの経営手腕を認めた叔父は、娘のタニアとの結婚を勧め、タニアも乗り気の様子。
それを知ったジョニーは……

オマルとジョニーの関係を描いたゲイ映画であると同時に、ロンドンのパキスタン移民社会と、彼らに対するイギリス人社会からの強い反発を描いた社会派映画でもあります。

映画史に残る大胆なラブ・シーン

古い映画でありながら、いまだにゲイ映画ランキングの上位にランクインしている本作。その最大の理由は、前述の濃厚なラブ・シーンにあります。
実は本作、NY版「TIMEOUT」が発表する“The 100 best sex scenes of all time”(映画のセックス・シーン ベスト100)の常連でもあるんです。
ジュリエット・ビノシュウィノナ・ライダーなど過去には共演女優とも交際の噂があったダニエル・デイ=ルイスだけに、女性とのラブ・シーンのほうがイメージに合う……と思われるかもしれませんが、多分、彼の出演作で一番大胆でエロティックなラブ・シーンが撮られたのはこの作品です。

もっとも、本作のラブ・シーンは特別露出度が高いわけではありません。
じゃあ何が凄いのかというと……
フェティシズムの真髄を突いた演出! 

もう、これに尽きます。
目玉のラブ・シーンの舞台は、店の奥の事務室。
店は営業中で、部屋のブラインドの隙間からは、店内にオマルの叔父たちがいるのが見えています。

まずはこのスリリングなシチュエーションが、第一のポイント。
そんな状況で、大胆にもオマルを後ろから抱き寄せ、Yシャツの胸元のボタンをはずして素肌を愛撫するジョニー、されるままに身を委ねるオマル……ここで、オマルがネクタイを締めたままなのが第二のポイントです。

もしや裸ネクタイは宴会芸専用のパフォーマンスだと思っていませんか?
とんでもない! 裸ネクタイこそ超王道の萌え要素だということが、この映画を観るとよ~く分かるはずです。

しかもYシャツ半脱ぎ状態というのがまた……中途半端な肌の露出がなんとも言えず淫猥。まさにゲイ映画史に残るエロスの表現と言えるんじゃないでしょうか。この偉大なる萌えシーンをオマージュしたBL作品が量産されたことは想像に難くありません。

他にも口移しに酒を飲むなど大胆な愛情表現が盛りこまれている本作、同性愛への偏見が強かった当時、こんな濃厚な場面を演じきっていること自体凄い。
ダニエル・デイ=ルイスの突き抜けたプロ精神が本作からも伝わってきます。

恋のライバルを寝取る、ディープな三角関係

ゲイ映画的観点から、もう一つこの映画の面白さを挙げるとすれば、同性愛絡みならではのディープな三角関係が描かれていること。

当時のパキスタン移民社会ではいとこ結婚が当たり前だったようで、オマルの叔父も親族たちも、オマルが叔父の娘タニアと結婚するのを望んでいます。
商売で叔父に世話になっていることもあって、オマルもまんざらでもなさそうな態度。

しかしジョニーはそれが気にくわない。
そこで彼は、わざとタニアの関心を惹いて自分に恋愛感情を持つように仕向けるんですよね。
そうしておきながら、一緒に駆け落ちしようというタニアの誘いを、オマルを見捨てられないからと断る。
トドメに、「あんたはあいつと寝た?」と聞くジョニーの口調には、「俺はあいつと寝たのでね」という勝ち誇った含みが。

さらっと描かれていますが、冷静に考えるとかなりエグい男の争奪戦。ジョニーの一途さと手段を選ばない悪魔ぶりがせめぎ合うこの辺りは、本作の大きな見せ場。当時28歳のダニエル・デイ=ルイスのつややかな容姿とひとクセある雰囲気が存分に生きるシーンでもあります。

移民に対する反感を同性愛がくつがえす

本作は同性愛を特別なものとして描いてはおらず、同性愛に対する差別や偏見もまったく描かれていません。
むしろ、同性愛が根強い移民差別に突破口を開く要素になっているのが面白いところ。
かつては移民排斥運動に参加していたジョニーが、愛情からオマルの従業員に……ビジネスではオマルが上の立場ですが、メイク・ラブの場面ではジョニーがリードする側なのもいいバランスです。

重いテーマを扱いながら、味付けは軽妙でコミカル。ネイティブ・移民どちらに対しても距離を置いた視点は非常にドライで、そこもまたイギリス映画らしいところかもしれません。
移民問題に同性愛を絡めたことにどんな意味があったのかは今となっては分かりませんが、同性愛にしろ異性愛にしろ、愛という感情が解決する問題は多いということは、ひとつの真理でしょう。
もっとも、ジョニーがライバルのタニアを排除したように、愛と排他性は表裏一体でもあるんですけどね。

【あわせて読みたい】

 アラン・ドロン引退宣言!いまこそあの“ゲイ映画説”を徹底検証
 腐女子、ゲイ映画の魅力を考える
 『シングルマン』 ゲイ映画で思い知るコリン・ファースの男の色気と演技力
 99日公開!ノーラン監督セレクトの11作品から、新作『ダンケルク』の全貌を徹底予想!
 園子温監督が魂のすべてを注ぎ込んだ衝撃のドラマ「東京ヴァンパイアホテル」

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • 焼きはらす
    4.0
    支配者と被支配者の関係だった2つの人種が、イギリスの不景気によって身分、差別意識、憎悪をねじ曲げられていくのが切ない。登場人物たちは社会に振り回されてるだけなのかもしれない。 暗がりでのキスシーンの、上空からのショットが退廃的な景色の中で唯一輝いていた。
  • Moeka
    3.6
    ダニエル・デイ=ルイスの退廃的、鋭利さと繊細さが同居する若き日の魅力は眼福に尽きる。イギリスを舞台に移民の青年と労働者階級の青年の間にある恋が描かれる。移民は白人を差別し白人は移民を差別する。彼らも互いを傷つけあうがネオンの奥まったところにあるその部屋だけは社会などない特別な場所...パリテキサスのオマージュと思われるシーンや同性愛を取り扱う映画に度々登場する蝶々夫人のある晴れた日にが流れていたりと面白い。異なる人種の間の抗争やその中これが自由の証明だとでも言うように愛し合う2人の姿が眩く、バブルの音に合わせて不思議と柔らかな印象がのこる
  • 4.0
    これまでで一番観たかった作品かも。 互いに傷つけ傷つきあう二人の恋は苦くて切なくて良いんだけど、話の内容はあるような無いような感じで、言ってみれば画質の悪いただの古臭いゲイ映画に過ぎないかもしれない。 ただ他の演者には申し訳ないが、ダニエル・デイ=ルイスの存在感が別格で、群鶏の一鶴とはこういう事だったのかと思い知る。 顔立ちはそんなに美しいとは思わないんだけど彼が登場した時のオーラというか華があって他とは全く違いすぎた。 退廃的なムードを纏い射るような腹の据わった目つきはものすごく色気があるし、別の人だったらクッソダサいなとしか思わないような80年代の服装に髪型も時代を感じさせない完璧でスタイリッシュな着こなしで、これが本物のプロってやつか…と。 世の中にはこんなに格好良い人がいるのかと痺れて感動してしまった! あくまで個人的な意見だし、ほぼ主人公の魅力だけでスコアを付けてるので鑑賞は全くおすすめしません。 欲を言うならもう一人の主人公のオマールの雌鳥ぶりがもっと見たかった。 毎回邪魔が入り終わってしまうのがじれったくて、今まで濡れ場が物足りないと思ったのはこの作品だけだ。 褐色の肌にスーツ姿のオマールと、抜けるような色の白さに80'Sファッションのジョニーの一貫したファッションの対比はとても良い!
  • シォニ
    3.8
    フワッとした感じで終わって驚いたけど 差別や貧困に溢れた国で2人の間の純愛だけは本物で、だからこそ互いの為にまっすぐでいられたんだろうなあと… エーン それにしてもジョニーがオマールに向ける愛情表現はかつて移民を差別していた自分に対する贖罪意識でもあったのかなとか思うと健気さの中に人間くささが見える気がしました。そして言わずもがなシャンパン口移しと首へのキスがエロくてたまんねえ…… 2人とも凄くビジュアルからしてかっこいいので熱烈なセックスに対する執着心というか 楽しんで励んでる感じ 超〜〜映えてて良かったです🤦‍♀️
  • mimi
    -
    blub-blub blub-blub blub-blub
「マイ・ビューティフル・ランドレット」
のレビュー(376件)