星野源、ロッチ、篠原信一…声優に見出す才、アニメーションに懸ける想い―湯浅政明監督【インタビュー】

2017.07.01
インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

アニメーションのクオリティの高さが叫ばれて久しい日本において、風雲児として知られるのが湯浅政明監督だ。「四畳半神話大系」、「ピンポン THE ANIMATION」など、独創的な絵のタッチや既存のアニメ界にはなかった作風に、熱いラブコールが寄せられている。2017年前半は、湯浅監督が手掛ける『夜は短し歩けよ乙女』、『夜明け告げるルーのうた』が立て続けに劇場公開を迎え、ファンの間でうれしい悲鳴が起こった。さらに『夜明け告げるルーのうた』は、先日、アヌシー国際アニメーション映画祭の長編部門にて、見事グランプリにあたるクリスタル賞を受賞し、国内外でますます注目が高まっている。

湯浅政明監督

『夜は短し歩けよ乙女』は人気作家・森見登美彦の初期ベストセラー作品のアニメ化を、一方、『夜明け告げるルーのうた』は劇場用長編作品としては初の完全オリジナル作品と、それぞれ異なる魅力で観る者を唸らせてくれた。公開後の今だからこそ、両作のエピソードを「ネタバレもあり」で語ってもらいつつ、「順当すぎる配役は狙わない」とする、声優選びの極意についても聞いた。

――『夜明け告げるルーのうた』が公開されましたが、湯浅監督のもとには、どのような反響が届いていますか?

意外にと言いますか、「感動した」「泣いた」という話を多く聞きます。「ルーがかわいい」と言ってもらうのもあります。僕は少年の成長物語として書いたつもりなので、極端に「泣いた」っていう声を聞くと、こちらの狙い通りというか、皆感度高いというか。ちょっとした隠し味やベースにひっそり潜ませた部分を感じ取って、感動している方も多いのかなって受け止めています。

夜明け告げるルーのうた
(C)2017ルー製作委員会

――初めての劇場長編作品(オリジナル)が世に出るのは、これまでの作品と違った感覚ですか?

映画はテレビと違い、劇場に観に行くというハードルがありますよね。どうやったら来てもらえるんだろうと思いながら作っていました。前のほうが見てもらえば面白いだろうという考えだけで作っていたかもしれません。映画は広く人に認知してもらおうっていう感じなので、今回のほうがもっと受け手を意識しながら作っていますね。

――大衆に寄りそうというか。

そうですね。想像するような感じで作っていました。僕は結構速いテンポでやりたがるんですけど、あまり速くさせずに、落ち着いて風景を見せるとか。あとは、言っておくべきことをあまり出し惜しみしないようにしました。具体的には、お父さんが最後にカイに言ってあげること、伊佐木先輩が遊歩に言ってあげる言葉などです。これまでは「言わずしてわかればいいな」と思っていたんですけど、キャラクターに言ってもらったほうが言葉って強いと思ったので。

――そうした核となる言葉や台詞は、声優さんにしゃべってもらうとき、細かく演出するんですか?

まずやっていただいて、違えば言う感じです。間に木村さん(音響監督)がいらっしゃるので、木村さんと意見が違えば、そこで指摘する感じでやっています。基本的に台詞は自然なほうがいいと思っているので、大げさにならないように、言いにくければ変えていきます。

――カイ君は典型的な音楽少年というよりも、MPCでの宅録をやっていたりして、監督の人物描写へのこだわりを感じました。

僕はもともとバンドに詳しくないけど、それでもバンドものをやりたいって決めていて(笑)。時々やりとりさせてもらっている音楽家のオオルタイチさんが関西に住んでいらっしゃるので、その地に行って、実際に楽器を見せてもらったりしたんです。「こんな楽器でコードをこうつなげて、こうやって曲作るんだよ。自分のときはこうだった」というような話を聞いたりして。今ガレージバンドとかあって、楽器が弾けなくても曲作れるじゃないですか。最初は、そうやって音楽を始める人も多いし、楽器弾けなくても音楽が作れるという、ハードルなくやれるところが魅力でもあるし、今風でいいなと思ったんです。

――カイ君がウクレレを選択した理由もありますか?

カイ君が本格的に生の方へ向かうとなると、おじいちゃんが使っていたウクレレにいくのが、親子三代の繋がりも感じさせていいのかなと思いました。ウクレレもコードをつないでエフェクターを使うと、すごく強い音にもなるので、最後にウクレレからも成長して歌っている感じになればいいと思ったんです。使う楽器からも、彼の成長が伝わればいいなと思っています。

あと、ルーは、もしかして昔から人間と仲良くしたくて、石を積み上げたりしていたのかもしれない、お爺さんのお母さんを助けたのはルーかもしれないし、お父さんもバンドをやっていてルーと会ったことがあるのかもしれない、とか。そういう親子間のつながり、ルーとのつながりも、何となく想像できる感じになるといいなと思っていました。

夜明け告げるルーのうた
(C)2017ルー製作委員会

――監督自身が、今後音楽を作る可能性もありますか?

やりたいんですけどね! 時間があったらガレージバンドやりたい。誰でも死ぬまでに1曲くらい名曲を作れると思うんです。プロはそれを続けていくのが大変なわけで、素人でも1曲くらいはいいものが作れると……。ジョン・カーペンターとかクリント・イーストウッドとか自分で劇伴作ってるけど、曲は大したことがないじゃないですか……って、それは失礼か(笑)。いいメロディを反復して使っていると「なんかそれらしいなあ」ってなるかなと思っていて、画に合う音楽で何となく流れるくらいなら、作ってみたいと思っています。

――楽しみにしています。演者さんの話もお聞きしたく、『夜明け告げるルーのうた』では篠原信一さんに特に注目が集まっていて、短い言葉で表現する力やインパクトに驚きました。

本当にすごく上手いんで、僕もびっくりしました。逆に、ああいう声と言うか音って指示できないので(笑)。持っている方の能力しかないんです。保険をかけてSEでもいけるようにと考えていたんですけど、全然必要なかったですね。篠原さんは、「もうちょっとこうできますか?」と聞くと、バリエーションもいっぱいあるんですよ(笑)。すぐその場でできるので、すごいなあって。こちらは楽ちんな収録で、たぶんすごく早く終わったと記憶しています。

――篠原さん、準備していらしたんですね。

準備……していたのかなあ(笑)? 冗談ばっかりなんですよ。初日舞台挨拶のときも言っていたけど、アフレコの現場に来たときも「俺、カイの役だと思ってたから、カイのところしか読んでないよ」って言いましたから(笑)。

湯浅政明監督

――それこそ、舞台挨拶では監督からの手紙を贈る場面で、ルー役の谷花音さんが泣いちゃうという一幕がありました。

僕はいつも、スタッフをあまり褒めないんです。それについて不満は言われるんですけど、褒めている時間がないというか(笑)。ずっと一緒に仕事してるじゃん、って。

――一緒にやっていることが信頼の証だ、と。

でも、やっぱりたまには口にしないといけないなあと思って、元々思っていたことを手紙にしました。作品は、声が入ると本当に命が入った感じになって、必ずイメージよりよくなります。花音さんは、歌の面ではちょっと苦労していたけど、サクサク進みました。歌や台詞も「よけいな感情が入らないように、人間的じゃないように」って言っただけですけど、収録を聞き直すと、やっぱりすごいんです。片言で淡々としたことしか言わないけど、あれだけ安定してハマッているっていうのは、すごい力だし演技力なんだと思います。

――今回のルー役に関しては、成人女性ではなく少女の声がよかったというところがあるんですか?

できれば、そのほうが純真というか。演技をしている感じが、あまり伝わらないほうがいいと思ったんです。大人がやると、多少気持ち悪さが出てしまう。知能高い声なのに幼くしている感じがルーのキャラクターとしてまずいなと感じまして。とはいえ、小さい子がやると、ただの子供になってしまう。だけど、ルーを花音さんがやると、子供だけど思慮深いところが出るんです。力強く心の底から「好き」と思っているんだろうなっていう感じが、花音さんがやるルーにはあると思います。

夜明け告げるルーのうた
(C)2017ルー製作委員会

――カイ君役の下田翔大さんも最高の配役でした。

本当にいいものをもらったと言いますか、彼もやっぱり役者ですよね。演技なんですけど、たぶんほかの人の演技ではできないところがあって。言うなれば、「今このときでなければ獲れないちょうどいい果物をいただいた」ような感じで。作品にとって、すごくありがたいです。

――基本的に、声優は全部監督が決めているんですか?

メインは決めていますが、木村さんといつも一緒に決めています。キャスティングは本当に楽しいんですよ。「この人はいいなあ」と思ってハマると、「やっぱりな!」って、とてもうれしいんです。

――決め手はどこにありますか?

大体いつも順当すぎる配役は、狙わない感じです。意外性がありながら、ハマるといいなと思って選んでいます。自然な感じが出る人がいいと思いますし、タレントさんの声自体が好きなら、役と合って相乗効果になるほうがいいので、その人が出るほうがいいですし、ベテラン声優さんなら今までやっていないような役で、「こんな役もできるんだ」というのをやってほしいと思っています。

湯浅政明監督

――『夜は短し歩けよ乙女』の主人公・先輩役の星野源さんの起用も非常に話題になりましたよね。

星野さんにお願いした理由は、声の質がソフトで演技もできて歌も歌えて、というのもあるんですけど、どこか憎めないキャラクターというかパーソナリティを持っている方なので、彼がハマるとすごくいい主人公になると思いました。先輩は、ちょっと間違えば、内向的すぎでエキセントリックなところがあって、おかしな人で困ったちゃんじゃないですか。嫌われる可能性もあるキャラクターですけど、星野さんがやると、それは憎めない愛らしいキャラクターにしてくれるだろうという期待があったんです。

――実際に、演出で記憶に残っていることはありますか?

最初はきっちり演じられて、星野さんじゃない風でやられていたんです。それでもOKだったんですけど、だんだん星野さんらしさが出ながらの先輩になっていったので、冒頭を録り直しました。しかし冒頭一個目の台詞が、なかなか星野さん納得いかなくて、すごく何回もやったのが記憶に残っていますね。自分からもリテイクを何回も出されて「もう1回」って。僕は喉が心配になって「もういいんじゃないですかね?」とか言いながら(笑)。

夜は短し歩けよ乙女
(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

――『夜は短し歩けよ乙女』では、お酒の描写も秀逸で、DVD化されたときに家で飲みながら観たい映画でもあります。

僕も、お酒は嫌いじゃないです(笑)。若いときはお酒も強くなかったので、よくお酒を知らなかったんです。段々年を取って飲めるようになって、発見していくのが楽しみでした。最初は焼酎も芋や米、麦の種類もわからず飲んでいて、ワインも飲まなかったんですけど、あるときイタリアで飲んだ白ワインのおいしさに衝撃を受けたんです。「めっちゃおいしい♥」と(笑)。だから、その場所で飲んだり、出会わないとわからないものなんだと思い、掘っていきました。出会いがある飲み歩きの雰囲気が好きなんですよね。

――アニメではもちろん、実写でもなかなかあの飲み歩きの雰囲気は出すのは難しいのではないかと思います。

実写だと、本当にものが出てしまうので少し生々しくなるんですけど、絵だとイメージで描けるので「おいしそう」とか「光ってる」みたいな感じにできますよね。僕の感覚で言えば、ウイスキーは若いときはハイボールとかでカパカパ飲んでいたけど、いいもの割らずにはちびちび味わってもおいしいんだなと思うようになって。そんなお酒の感動を、そのまま絵にする感じで作っていました。

夜は短し歩けよ乙女
(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

――ありがとうございました。最後に、今、組んでみたい声の方っていますか?

ああ、います! 僕は大概バラエティ番組しか見ていないので(笑)、お笑いの方に注目していて。やりたかったロッチさんは念願かなってやらせてもらいました。好きでも作品にハマる役がないと、なかなかオファーも出来ないんですよね。「オーディションでは求める物が違って別の人になったたけど、あの人の声面白かったよなあ」というのは覚えていたりするので、合う役ががあれば、その人とやりたいと思います。お名前は出せないですけど、見た目は違うけどすっごく男前の声だと思う人がいて、その人といつかめちゃ男前なキャラをやれたらと考えています。あと、何度もご一緒している方ですけど、もっと新鮮な役をやってもらいたいなっていう方もいます。いつも楽々とやっている様に見える強者の演者さんもいるので、もっと難しい役をやってほしいとか(笑)。

――芸人さんの起用が続いている理由を、もう少しお伺いしてもいいですか?

マインド・ゲーム』のときに思ったんですけど、芸人さんは、すごくアニメに合うと思ってるんです。人によっては実写では「下手くそ」と言われてしまうかもしれない方でも、アニメだと意外とハマる場合があって。というのも、たぶんコントをやられているからか、感情の緩急が早いんですよね。鼻水ズルズルとか、「うえ~~」って泣くとか、アドリブも上手い方が多いです。なおかつ声が独特だったりすると面白いんですよね。(取材・文:赤山恭子/撮影:市川沙希)

湯浅政明監督

『夜は短し歩けよ乙女』、『夜明け告げるルーのうた』は絶賛上映中。

夜明け告げるルーのうた

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  • 市川沙希
    4.7
    すごく好き。
  • Yujinユージン
    3.5
    -分かり合う為に必要なこと- 「夜は短し恋せよ乙女」は心に残る作品だった。 「マインドゲーム」ふざけてるのかと思いきや、ほとばしるエネルギーに最後は感動させられた。 今回も絵の躍動感がすごい。 人物や背景までも伸び伸びと動いてる気がする。 中盤のイッちゃってるダンスシーンのズムズム感とか、見ていて楽しー! 絵の手作り感がすごい。 下書きなしで描いてる?って雑な画を愛しく思えるかどうかで好みが分かれそうな気がする。 寂れた田舎の港町。ここ暮らす物語の主人公は、多感な時期の子供たち。自身の進路に悩み、大人達の思惑の間で揺れ動く。 地元の田舎町で一生を暮らすか、都会へ出るか。 田舎町はどこか閉鎖的で、それが嫌で地元を飛び出しても結局上手くいかずに地元に根付くパターンもある。 自分に合った、 居場所を作りたい。 必要とされたい。 王国が欲しい。 そんな中、人魚のルーが登場。 環境の変化を恐れ、 自身を脅かす存在としてルーを見る目と、 町おこしに利用出来る存在としてルーを見る目と。 大人(自分含む)ってズルいなーって思うのは、「あなたの為だから」とか言って本当は自分の為だったりする。そんなあんちくしょうな真似が不信感を募らせたりする。 この物語も例外でなく、大人たちの思惑によって翻弄され傷ついてく。 町はどんどん騷ぎが大きくなり、 反対に少年は自身の殻に籠もりシンジ君状態。 そしてある大災害が発生。 乱暴な言い方をすると、これは住民や主人公の為の荒治療に思える。 時に説明するよりも、皆が同じ事象を体験し共有することで気づくことがある。そこに言葉と行動で結束し、信頼が生まれ、事態を乗り越える力になっていく。 思いを伝えることが出来なかった青春。 地元の海が懐かしくなった今日この頃。。
  • へる酔ぃ
    3.5
    液体がぶるんぶるんひゅ~ん。 主題歌である斉藤和義の「歌うたいのバラッド」が好きだったのでうまく入り込めず。
  • マヒロ
    4.0
    田舎の港町に住む、何事にも無気力な少年・カイは、同級生にバンドに誘われたことをきっかけに、不思議な人魚・ルーと出会うことになる…というお話。 湯浅監督の「映像だけで語る力」は今作でも爆発していて、ルーとカイが街中を歩くシーン、思わぬところで効いてくる傘のシーン、疾走するルーのパパ、そしてカイの祖父が真実を知るシーンなど、何も語らずとも登場人物の感情が手に取るように分かる表現力は流石としか言いようがない。最後のは思わず涙腺が緩んだ。 題材が題材だけに水の描写が多いんだけど、水中の揺らめきとか光の屈折なんかをアニメーションならではのダイナミックな描写で描いているのも自身の現れなんだろうな。 『マインドゲーム』の狂いっぷりには及ばないけど、突然踊り出す人々みたいなトンデモシーンも違和感なく受け入れられるのも、湯浅監督だからこそなのかも。 ストーリーやキャラクター的にはちょっと気になるところもチラホラあって、例えば人魚に恨みを持つ「タコばあさん」は行動やその顛末も含めてカイの祖父と役割が丸かぶりしていて存在意義が分からないし、主人公のカイは最初から最後まで何を考えているのかがハッキリしないので、感情移入しづらい。キーキャラクターであるルーも、思っていたより活躍しないのが物足りない。最初のセッションシーンはすごい良かったので、もっとルーが唄う場面を入れて欲しかったな。何よりタイトルが『夜明け告げるルーのうた』なのに夜明け告げるところで唄わないのはいかがなもんか。 『夜は短し〜』なんかに比べてもレビュー数が極端に少ないので、あんまり観られていないんだろうけど、埋もれてしまうには惜しい作品だと思う。オリジナルでバカ受けした『君の名は』はやっぱり突然変異的存在だったのかな。 (2017.120)[25]
  • やまだ
    3.8
    よかったね、終盤の傘満開になる場面で救われた感じ。あとは女性陣の声のトーンを下げるだけ
「夜明け告げるルーのうた」
のレビュー(1902件)