余韻こそ映画の醍醐味。記憶に残る楽曲も魅力の映画【夏篇】

映画も音楽も本も好き。

丸山瑞生

映画の主題歌や挿入歌は、その作品に余韻を残す。
今回は、過去に掲載した「春篇」に引き続き、夏に観たい映画をテーマに楽曲にも注目の作品を選びました。春は、始まりや新たな一歩をイメージさせるものが多いですが、夏は気分が高揚するもの、郷愁を抱くものが目立つように思います。

ぜひ、音楽にも注目してご鑑賞ください!

サマーウォーズ(2009)

summerwars

数学が得意だが、気弱で冴えない日々を送る高校2年生の健二は、憧れの先輩・夏希に頼まれ、夏休みに彼女の実家で夏希のフィアンセを演じることに。大家族で過ごすひと時と、密かに好意を寄せる夏希の頼みに戸惑いつつも、徐々に距離を縮めていく。ある日、健二はネット上の<仮想空間OZ>で起きた事件に巻き込まれ、その影響が現実世界にも波及。健二は夏希の一家と世界の危機に立ち向かう。

監督は、アニメーション界の売れっ子・細田守。今作の大家族・陣内家(ヒロイン・夏希の家族)は細田監督の奥さんのご家族がモデルで、監督ご自身は「親類、家族との繋がりに感銘を受けた」と語っています。次作の『おおかみこどもの雨と雪』でも、周囲の人間の子育てが物語の構想のきっかけらしく、自身の生活の圏内、とりわけ、家族を描くことにある種の意識があるのかなと思います。

サマーウォーズ』では、あらゆるところで対比が描かれ、たとえば、夏希の家族のどんちゃん騒ぎと、健二の口から語られる家族との団らんが少ない普段の暮らしぶり。また、現実よりも少しばかり近未来的なインターネットと、夏希のおばあちゃん・栄のアナログな人脈。さらに物語を俯瞰すれば、日本の原風景的な家族と、高度なネットワーク技術が巻き起こす事件。対極とも言えるこれらの様相を見事なエンタメに仕上げた作品です。

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山下達郎が見せる夏の原風景

笑って、泣けて、大団円を迎える『サマーウォーズ』は、夏にぴったりの作品。全体的にテンションも高めの作品ですが、物語を締めくくる山下達郎さんの主題歌「僕らの夏の夢」はぐっと胸に染み入る余韻を残します。

零戦が空を飛ぶ はるかな時代から
僕らがここで 出会えることも きっと決まってた

個人的にはここの歌詞に心を掴まれます。日本の夏は戦争(=零戦)を思い起こさせる季節ですが、それらが題材の映画を観たときに印象に残っているのは空の美しさなのですよね。皮肉にも夏の美しさと戦争は切り離せないのかもとすら思わさせられます。今作は一般的な戦争映画とは異なりますが、戦争を匂わせる箇所もあります。キャッチコピーも「これは新しい戦争だ。」ですしね。

日本の原風景的な家族を描いた『サマーウォーズ』ですが、主題歌では日本人が感じる夏の原風景が感じられます。青い空、白い雲、緑が豊かな森林など、そんな夏を実際に過ごしたことがなくても、日本人が感じる共通のノスタルジックな夏とでも言いましょうか。山下達郎さんの澄んだ歌声と、繊細ながらもダイナミックなサウンドが心地よい夏にぴったりのバラードです。

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ウォーターボーイズ(2001)

waterboys

廃部寸前の唯野男子高校水泳部。部員は、根性なしの3年・鈴木智のみだったが、水泳部の顧問に美人教師・佐久間先生が着任した途端、部員が激増。しかし、佐久間の目的は男子のシンクロナイズドスイミング部を作ることだったのだ。結局、残ったのは鈴木を含む難ありの5人の男子。しかも、佐久間先生が突然の産休。夏休みを迎え、でこぼこな5人のシンクロ合宿が始まる。

監督は、矢口史靖。代表作は『スウィングガールズ』など。『スウィングガールズ』と合わせ、青春映画のど真ん中の作品ですね。「目標に向けて頑張る」というのは青春映画の定石ですが、どちらも完全なる素人からのスタートだったり、徐々にシンクロやジャズに魅せられるところを描いています。学生時代の経験は今後の人生を左右する影響力を持ってると思うのですが、矢口監督はそういう体験のキラキラしたところをすくい取るのが上手な作り手です。

主人公の鈴木智を演じるのは、妻夫木聡。公開当時は20歳前後。現在では、殺人犯、悪徳警官、ゲイなど、難しい役どころもこなす、色気も漂う役者のひとり。今作の彼は頼りない男子高校生で、その奮闘っぷりがまさに青春。公開を控えている『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』も楽しみですね。
メインのキャストには玉木宏や、金子貴俊。こちらのふたりを合わせ、幾人かの出演者は、のちのドラマシリーズにも登場。映画もドラマも当時の若手俳優が総出演なので、見比べるのも楽しいと思います。

シンクロのイメージを覆すアガる選曲

シンクロを実演するときにもたくさんの音楽が流れる今作。ただ、一般的なシンクロナイズドスイミングとは楽曲の趣きが異なります。初陣での選曲は吐息がセクシーな「伊勢佐木町ブルース」。学園祭で踊るときには、ザ・ベンチャーズの「DIAMOND HEAD」。曲名は知らずとも、一度は耳にしたことのある楽曲かと思います。

また、2001年の公開当時に絶頂期のPUFFYの「愛のしるし」が流れたり、エンディングでも流れるフィンガー5の「学園天国」など、いわゆるシンクロで使われる曲とは違い、ポップスや流行歌が使われています。しかも、夏っぽくて、テンションがアガる楽しい楽曲が多め。今夏におすすめの一本です!

モテキ(2011)

moteki

三十路手前のモテない男・藤本幸世。ある日、冴えなかった彼の日々に数々の「モテ」が訪れる。劇場版で描かれるのは、2010年放映のドラマから1年後。派遣社員から正社員になった幸世に「第2のモテキ」が到来。新たに目の前に現れた女性たちと、過去の女性たちとの狭間で揺れ動く幸世。一体、彼の「モテキ」はどんな結末を迎えるのか。

監督は、大根仁。代表作は『恋の渦』や『バクマン。』など。大根監督の作品は音楽との親和性が非常に高いです。サブカルチャーに造詣が深く、おそらく、そういう作品を選び抜き、映画化しているのだと思います。前項で触れている『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』も大根監督の作品ですね。

原作は、久保ミツロウの同名漫画。元々音楽要素が数多く盛り込まれた作品なので、大根監督の作風ともぴったりだったのだと思います。主演は、森山未來。Perfumeとの共演もあり、ダンスの披露も観どころのひとつ。4人のヒロインは、長澤まさみ麻生久美子仲里依紗真木よう子。このそうそうたる面子は女性でも羨むモテキなのではないでしょうか。

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時代を超えたJーPOPのサウンドトラック的な映画

とにかく、ジャンルもごちゃ混ぜでたくさんの音楽が流れるので、それがおもしろさのひとつだと言えるでしょう。岡村靖幸、B’z、くるり、rei harakami、フィッシュマンズ、ももいろクローバー、星野源など、ポップスもロックもエレクトロニカも盛りだくさん。おそらく、久保ミツロウの音楽遍歴的なところもあるのだろうなと感じられます。

これは原作も同様ですが、流れる音楽にきちんと意味を持たせているのが素晴らしい。普通はセリフから共感を覚えますが、そこに音楽(=歌詞)のイメージが加わるので、さらに描写が深まるのでしょう。大江千里の「格好悪いふられ方」、前野健太の「友達じゃがまんできない」など、印象的な楽曲が目立ちます。

また、『モテキ』を語るに外せないのは、フジファブリックの「夜明けのBEAT」。今作のオープニングテーマです。急逝した同バンドのボーカル・志村正彦の最後の楽曲。この楽曲のMVも大根監督が手がけ、森山未來も出演。ひたすら躍り狂う森山未來の姿が必見なので、こちらもぜひ。

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さいごに

夏にはさまざまな過ごし方があると思います。田舎に帰ったり、フェスに行ったり、目標に打ち込んだり。映画でもそれぞれの夏が描かれますが、そこに付随する音楽はどれも印象的な夏を刻みます。どれもお薦めの作品なので、この機会にぜひ。

 

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