俳優の存在・演技力だけで映画そのものの魅力が決まる作品があります。この『アリスのままで』もそんな作品のひとつ。
近年数多くの作品に出演し、年々映画界でその存在感を増していくジュリアン・ムーアが遂にアカデミー主演女優賞を獲得したことでも話題の一本です。
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Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】病気と闘う女性を描いた感動作!だけでは終わらない本作
コロンビア大学で言語学の教鞭を取り、キャリアも家庭も順風満帆な人生を送る50歳のアリス。しかし日々の生活の中で記憶が抜け落ちることに違和感を覚え、病院に通うもアリスは若年性アルツハイマーと診断されてしまいます。
戸惑いながらアリス本人もその事実を受け入れ、日々を暮らしていくのですが、次第に記憶が保てなくなりやがて人格までも崩壊していくように・・・
というのが大まかなストーリー。病気と闘う女性の姿と家族愛に感動するヒューマンドラマ・・・ と観る前はそんな印象を持つ方が多いと思います。勿論それは間違ってはいませんが、この『アリスのままで』はただそれだけで片付けれる映画ではなかったのです。
別の角度で観ればある意味ホラー?
本作ではアリスのアルツハイマー病が進行していく過程を淡々と描いております。様々な困難に直面しつつも家族のサポートを受け、病気と向き合いながら日々を闘っていく姿が胸を打ちます。
アルツハイマー病患者が集まるシンポジウムにて、アリスがアルツハイマー患者としてスピーチをする感動的なシーンが中盤にあります。感動作として終わらせるならここがハイライトとなり映画のラストシーンになるでしょう(ここで終わっても素晴らしい作品には違いありませんが)。
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だが『アリスのままで』はここで終わらないのです。
このスピーチの後アリスの病状は悪化し、どんどん物事は忘れ人格も変わり果て、家族もそれぞれのエゴが強くなっていく現実をこれでもかと観客は見せつけられます。ここでは奇跡なんて起きません。
アリスがトイレの場所を忘れてしまい尿を漏らすシーンでは館内がどよめいた程(悲鳴をあげた人も)。観ようによってはホラー映画よりもゾッとしてしまいます。
本作のタイトル「アリスのままで」とはよく言ったもの(原題は「Still Alice」)。アリスがまもとな会話が出来ない状態にまでなって物語は終了します。そのラストシーンで「Still Alice」と大きくタイトルバックが出現しますが、考えようによっては強烈にブラックではないでしょうか。
監督を務めたリチャード・グラツァーは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の合併症で本作公開後に亡くなっており、もしかしたら別の病気ながら監督自身の心情も映画に投影されているのかもしれません。
本作の最大の魅力はジュリアン・ムーアの演技
この映画最大の魅力はジュリアン・ムーアの演技に他なりません。アルツハイマー病が進行していく初老の女性という難しい役柄を自然体で見事に演じ切っており、彼女はまさに「アリス」そのものでした。熱演という言葉を通り越して憑依しているといっても過言ではありません。
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元々ジュリアン・ムーアは長い下積みから這い上がってきた遅咲きの苦労人。オスカーを受賞した今、ハリウッドを代表する女優として誰もが認める存在でしょう。男優では50歳を過ぎても主役は張れますが、女優は50歳を過ぎるとなかなか主役は張れないのが現実(メリル・ストリープぐらいではないでしょうか)。
だがジュリアン・ムーアは50歳を過ぎても女優として堂々と主役を張れる力量をこの映画で示しています。ジュリアン・ムーア以外の女優がアリスを演じていたら、それこそ“普通”の映画になっていたかも。彼女の力強い演技だけで本作を観る価値は十分過ぎる程あります。
無駄な装飾のない真摯な演出と演技が観る者を魅了する
ただ泣きたい! 感動したい! という方にはお勧め出来ないかもしれません。観る人によって評価は分かれると思いますが、確実に観た者の心に残る作品となるでしょう。それはジュリアン・ムーアの演技があってこそですが、無駄のない丁寧な演出がそれを引き立て、見事なまでに格調高い作品に仕上げております。
ヒューマン・ドラマ好き、もしくは俳優の素晴らしい演技を堪能したい方に是非とも観て欲しい本作。特に女性ならジュリアン・ムーアの演技に感銘を受けるのではないでしょうか(男の筆者でも感銘を受けました)。
一人の俳優の力だけでここまで映画は素晴らしくなるのかと、改めて感嘆させられました。ジュリアン・ムーアの女優魂、ここにあり!