漫画家・松本大洋を愛する監督たち。見事な実写化を成功させた観ておくべき映画3本

2017.09.26
まとめ

映画も音楽も本も好き。

みずき

漫画家・松本大洋

松本大洋は、日本の漫画家。
代表作は「花男」「鉄コン筋クリート」「ピンポン」「ナンバーファイブ 吾」など。スポーツや闘いを題材に、男の美学や世界観を独自のタッチで表現している。最新作「Sunny」第20回文化庁メディア芸術祭のマンガ部門でも優秀賞を受賞。その芸術性の評価も高い。

余談だが、メディア芸術祭は映画作品の受賞作も多く、第20回のエンターテインメント部門の大賞は『シン・ゴジラ』、アニメーション部門では『君の名は。』や『聲の形』が受賞。映画が好きなひとにも非常に楽しみな祭典のひとつ。新進気鋭のクリエイターの受賞も目立つので、こちらも要チェック。

松本大洋の特徴は、作品ごとに変わる画風や、非常に個性の強い作品性。ゆえに、多くの漫画が実写化される昨今でも、松本大洋の漫画を漫画以外の手法を用いて表現することは難しいだろう。しかし、以下に紹介する作品はどれも原作への愛を感じられる出来栄えに思う。有名な作品も含むが、この機会に映画と原作のどちらもを楽しんでいただきたい。

青い春(2002)

aoiharu.jpg

原作は同名短編集から。本作は、その短編集に収録されている「しあわせならてをたたこう」を軸に構成。監督は、豊田利晃豊田監督の映画も松本大洋の作品と通ずるところがある。それは作品から立ち上る男臭さだ。裏社会で生きる若者たちをバイオレンスに描いた『ポルノスター』。9人の脱獄犯を描いた『ナイン・ソウルズ』。どれも剥き出しの男たちの苦痛を捉えた作品と言えるだろう。

青い春』は、不良学生たちの息苦しさ、閉鎖的な学校という空間で過ごす彼らの青春を描いた作品だ。本作に出演する役者たちは、松田龍平をはじめ、新井浩文瑛太など、いまや個性派・演技派でひっぱりだこの男たち。そんな彼らの青春時代の作品とも言える。

松本大洋の作品を薦めるときに挙げられる特徴のひとつに「不良」はキーワードのひとつだ。いわゆる、ワル。『青い春』の舞台は学校で、ここも不良の巣窟。ただ、松本大洋は不良の恐さを描くというよりも、哀愁、悲観など、そこから見出される男のかっこよさに焦点を当てた作品を生み出している。本作では、学生特有の虚無感も味のひとつだろう。物事への無関心な雰囲気の人間を演じさせれば、松田龍平の右に出る者はいないだろう。

本作の音楽には、Thee Michelle Gun Elephant(ミッシェル・ガン・エレファント)の楽曲が流れるのも素晴らしい。作品ともぴったりの音楽だ。嗄れた歌声と荒々しいロックンロールの爆音。いまでは前時代的とも言える「ロック=不良の音楽」の印象を体現している音楽だ。近年では、こういう音楽性のバンドも見かけないので、若者には目新しく映るかもしれない。上述の不良のイメージなどにピンと来なかった方にはお薦めしたい作品のひとつだ。

ピンポン(2002)

pingpong

おそらく、もっとも有名な松本大洋の作品だろう。監督は、年内に実写版『鋼の錬金術師』の公開も控える、曽利文彦。実写化に不安の声が上がりつつも、個人的には「『ピンポン』の実写化を見事に仕上げた監督ならば」と、期待大。脚本は、宮藤官九郎。キャストにも大人計画の役者が多数出演。本作から(無意識のうちに)大人計画を知った方も多いのではないだろうか。

『ピンポン』は、熱血スポ根卓球漫画だ。ひたすら、卓球に全身全霊で挑むプレイヤーたちの物語。窪塚洋介井浦新中村獅童など、個性の強い役者もベストな配役。とりわけ、中村獅童の役作りには鬼気迫るものを感じる。
スポーツが題材の漫画ならば、ヒロインの存在は不可欠に思えるが、本作にヒロインらしき女性は皆無だ。そもそも、松本大洋の漫画にヒロインらしい女性は滅多に現れない。作者曰く、女性を描くのが苦手らしく、理由はそれだけらしいが、それが無二の世界観の築いているとも言えるだろう。

『ピンポン』のキーワードは「スポ根」。野球や、ボクシングなど、これまでに手がけたスポーツが題材の漫画と比べれば、卓球は非常に地味で、なおかつ、マイナーだ。基本的にはテーブルほどの台上で展開されるスポーツなので、動きもコンパクトに見える。そんなスポーツを躍動感に溢れた画力で見せ、卓球の印象を変えた作品が本作だと思う。それは、映画化に際しても同様だろう。漫画的な動きも見事に実写化に落とし込み、シンプルな熱血スポ根映画に仕上げている。

また、舞台が江ノ島周辺なのもいい。血の滲む練習の合間に差し込まれる、江ノ電からの景色や、江ノ島を望む海岸。張り詰めたシーンも目立つが、ゆったりと時間が流れるシーンも多く、そのコントラストも素晴らしい。あの周辺を舞台に描かれる作品は足を運びたいと思わせられる。ロケーション的にも楽しめる一本だ。

鉄コン筋クリート(2006)

tekkon

松本大洋の異端な才能が詰め込まれた作品で、画力や物語はもちろん、セリフやキャラクターの個性など、忘れられない強烈な印象を与える。また、本作は彼の作品群のなかでもバイオレンスな描写が際立った作品だ(映画化に際し、海外での上映はR指定の対象)。主人公はふたりの子ども、シロとクロ。超人的な身体能力を持つ彼らの生活は暴力や強盗が生活の糧だ。そんな彼らが暮らす町、宝街でのヤクザや警察を巻き込んだ騒動を描く。

監督は、マイケル・アリアス。制作は、気鋭のスタジオ・STUDIO 4℃。声優には、二宮和也蒼井優を起用。当時、この起用には驚いたが、蒼井優のシロのハマりっぷりにはさらに驚いた。松本大洋の絵は個性が強く、それだけで敬遠するひともいるかと思う。ただ、本作のキャラクターデザインを手がけた西見祥示郎のデザインは松本大洋の特異さを残しつつも、原作よりも可愛らしい風合いの人物像に仕上げた。

原作にも感じられる情報量の多さは映画でも健在だ。ビル群はもちろん、雑多な街の風景など、映画のために再構築が施された街のデザインだが、それが見事にハマった。非常にカラフルで、雑多。アジアの途上国や、大阪など、様々な都市が入り混じった世界観はそれだけでも楽しめるだろう。2Dと3Dの中間っぽい独特の映像にも注目を。

『鉄コン筋クリート』のキーワードは「ふたりの主人公」。これは、ほかの作品とも共通なのだが、松本大洋の作品には相反するふたりの主人公が置かれることが多い。本作では、シロとクロ。名前からもわかりやすい。『ピンポン』のペコとスマイルも本名は、星野と月本。これは作品のシンボルマークにもなっている。
とりわけ、本作のシロとクロはお互いを補い合う関係を示している。シロは「クロの足りないところのネジ、シロがぜんぶ持ってた」と言う。それは、逆もしかり。『鉄コン筋クリート』はバイオレンスな物語だが、シロとクロのお互いを思い合う関係性は、とてもやさしい。人間の脆いところをしっかりと描く。それが松本大洋の作品の魅力だと思う。

さいごに

どれもアクの強い作品ながら、しっかりと映画的にも楽しめる作品ばかり。
ぜひ、漫画と見比べつつのご鑑賞を。

【あわせて読みたい】
 不良もユルさも衝動も青春!青春映画を彩る音楽
 映画を彩る狂わせガールたち!魔性の女の魅力にハマる
 ロック好きは絶対ハマる!デヴィッド・フィンチャーの「不穏」を音で描くトレント・レズナーの音楽【サントラに耳を傾ける】
 この秋必見!心に沁みわたる感動作 もしも過去に戻れるとしたら…?【人生で忘れられない人がいる】あなたに贈る珠玉の物語
 ダニエル・ラドクリフ、最新“主演作”で死体を熱演!?愛おしくてたまらない大傑作『スイス・アーミー・マン』

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
「鉄コン筋クリート」
のレビュー(14929件)