著名人の方々にネトフリで観た作品を聞く連載がスタート。今回のゲストはDJ/ミュージシャンのLicaxxxさん。国内外の音楽シーンで活躍している彼女は、音楽だけでなく映画やドラマにも詳しく、日常的にNetflixを観ているのだそう。今回紹介いただく作品は『ブラック・ミラー』「世界の“今”をダイジェスト」『秘密の森』の3本です。(ネトフリ編集部)
Licaxxx
東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー。2016年に出演したBOILER ROOM TOKYOのYoutube再生回数が約50万回再生を記録。DJとして国内外のビッグフェスやクラブに出演する他、世界各国のラジオにDJMIXを提供しメゾンブランドのコレクションやCM等、幅広い分野への楽曲提供を行う。世界中のDJとの交流の場を目指しているビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主宰。
後味悪いのにおもしろい。『ブラック・ミラー』
『ブラック・ミラー』は海外版『世にも奇妙な物語』と思ってもらえばわかりやすいかもしれないです。短編SF小説を読んでいるような気持ちになる40分〜90分程度の作品が集まったシリーズです。
ちなみに『世にも奇妙な物語』同様に『ブラック・ミラー』もほぼ後味悪いエピソードばかりだと思います(笑)。
基本的に近未来の物語が多く、これから自分の身にこうしたことが起こるかも……という怖さもありますね。例えば、SNS上での振る舞いに点数がつけられてそれに踊らされて人生が崩壊していく的なエピソードなんかは、もう現実のものになっている気がします。誰もがいいねの数とかやっぱり気にしちゃったりするじゃないですか。
そんな『ブラック・ミラー』にハマって、いろんなエピソードを観た中でも印象的だったエピソードが、シーズン4の「宇宙船カリスター号」です。オープニングがレトロフューチャーな映像で「何が起こるのかな?」と思ったら、実はゲームの世界の中、という演出から引き込まれました。
主人公はすごく内気な感じのプログラマーで、ものすごいゲームを作った会社のナンバー2。でも、社員みんなからいじられていて周囲に馴染めないんです。その人が完全に闇堕ちして、自分が作ったゲームを悪用していくんですけど、それが切ない。
そんなに長くない作品なんですけど、私が好きなスペースオペラ的なSF要素とミステリー的要素の両方が入っていて、映画のような見応えがありました。そして続編が観たくなるようなエピソードでもありますね。
そして、私がいちばん好きなエピソードがシーズン2の「シロクマ」です。
途中まで全然展開が読めないんですよ。なぜここにいるのかもわからない主人公が、何者かに追いかけられて、なぜか殺されそうになる。そんなめちゃくちゃ怖い展開で始まるんですけど、そうした事態がなぜ起こっているのかというのがエピソードの核心になっています。そのオチがまた怖くて好きなんです。
いわゆる“因果応報”的な話ではあるんですけど、ひとことでそう言い切れないようなメタ構造が入っていて、なんか気持ち悪いんですよね。というのも、このエピソードで主人公が苦しんでいるのを観ていた、自分たち視聴者もその構造に取り込まれる感じがあって、現実への皮肉も込められているのかなと思いました。
劇中に登場する市民は、主人公が謎の人物に追われて襲われている様子を、なぜかスマホのカメラで撮影しているだけで助けないんですよね。
それって実は私たちの現実でも起こっていることで、具体的にはSNSで炎上している人に対して同じようなことをやってると思うんですよ。それをドラマとして可視化されている感じがあって、考えさせられる物語だなと思います。
本作をどんな人に勧めるかと言われたら、サスペンスやミステリー、SFが好きな人ですね。あと犯罪系のドラマを観てる人は間違いなくハマると思います。でも、1話完結で毎回あまり長くないので、誰でも観やすいと思いますよ。
「そろそろ新シーズンが来るかも」と言われてるけど、なかなか出てこないんですよね。現時点での最新であるシーズン5はエピソードも少なかったし、これまでと似た話が多い印象があったので、次のシーズンはもっとパンチがあるちょっと違う路線のものに期待したいですね。
約20分でいろいろ学べる。「世界の“今”をダイジェスト」
「世界の“今”をダイジェスト」は、豆知識を20分で教えてくれるみたいなシリーズですね。1エピソード20分ぐらいで1個のテーマを掘り下げてくれる内容で、YouTubeで勉強するような感覚というか、知識本をちょっと読んだような気分になれます。タイトル通り簡潔にダイジェストしてくれていて気楽に観られるので、ちょっとした合間に観ています。
「音楽」はシーズン1のエピソード1なので、最初に観た作品です。音楽のどんな内容を扱っているのかというと、人間がどういう風に音を音楽としてとらえているのかとか。逆に人間以外の動物は音楽を認識できるのかといった“音楽の認知”の話です。メロディーとリズムの両方を同時に認識でいるとそれが音楽になるそうなんですけど、それができるのは人間だけらしいんですよ。そういう話って、みんな知らないじゃないですか。だからすごく新鮮でしたね。
結局、見えてるものも聴いているものもすべて脳が処理して出しているものだから、耳が聞こえていたとしても脳が処理をできないと音楽にならない。そういうことを考えながら音楽を聴くのもまたおもしろいなと感じ、このエピソードをきっかけに「世界の“今”をダイジェスト」をいろいろと観始めました。
「時間」は現時点では最新のエピソードのひとつです。同じ1時間のはずなのにすごく長く感じたり、短く感じたりすることって誰しもありますよね。これはそれについて追求していたエピソードで、みんな時間について考えたことがあると思うので、きっと楽しめると思います。
この「世界の“今”をダイジェスト」は時事ネタも絡めてテーマを紹介してくれるのがいいんです。「時間」でもコロナ禍で家で過ごしていた人の中で、時間が長く感じた人が多かったけど、逆に短く感じた人もいるという調査結果が紹介されていました。
その他にも、悲しい時は長く感じて、楽しい時は短く感じるように、感情と時間感覚が連携しているという話もおもしろかったですね。
私はDJしているときに、お客さんに時間を長く感じさせるか短く感じさせるかっていうのは結構意識しています。フロアで踊っているうちに時間がわからなくなってくる感覚は大切で、あっという間に終わっている楽しさもあれば、「何時間踊ったかわからない」と思ってたのに1時間しか経っていなかったみたいな楽しみ方もあるんですよね。DJはそんな時間の感覚を、曲の速さや雰囲気などで左右できるのがおもしろいところだと思っています。
最後は「カルト」です。その名の通りカルトの歴史を簡潔にまとめて追った内容でおもしろかったです。みなさん、カルト教団ってなんとなく知ってると思うんですけど、現代のカルトはそもそもヒッピー文化から始まっているという話とか、私はその歴史までは知らなかったなと思わされました。
そして音楽もフェスでの盛り上がりなんかはカルトに近いものがあって、危ない面もあると思っているので、自分の行動についてはよく考えるようにしています。そうした場所でお客さんを熱狂させている自分にちゃんと説得力があるか。それは意識します。歴史を見れば実際にアーティストでもカルトの人はいたし、今でもちょっと怪しい人もいると思っているので、気をつけないといけないと思っています。
あと「世界の“今”をダイジェスト」は中立的な立場で物事を紹介している作品だと思いますが、世の中には「これは怪しいぞ」っていうドキュメンタリーもあるので気をつけてほしいですね。
Netflixは特にドキュメンタリーが面白いなと思いますね。もともとそんなに観ていたわけではないんですけど、Netflixを観るようになってから、海外のドキュメンタリーを観る機会が増えました。
あと、私はドキュメンタリー食べ物系がめちゃくちゃ好きなんですよ。食べ物系のドキュメンタリーの撮り方はもう抜群だと思っています。とくに好きなのはNetflixオリジナルの飯テロ系。「タコスのすべて」と「ストリート・グルメを求めて」はインサートがめっちゃ美味そうなんですよ。
私はそんな食べ物系のドキュメンタリーを、逆に一番お腹空いたときに見てます。もうそれでそれでお腹空くっていう次元を超えて、美味しそうな映像を見て満足するっていう段階に入りました(笑)。「美味しそうだな~幸せ~」みたいなちょっと食べた気になれちゃう(笑)。食べ物系は観ても暗い気持ちにならないし、次が気になる感じでもないので、普通に寝る前に観て、お腹いっぱいな幸せな気持ちで寝るっていうのが一日のシメですね。
最高レベルに複雑なサスペンス。『秘密の森』
『秘密の森』はいちばん私が好きな韓国ドラマです。ハイパーどんでん返しの連続で二転三転、そして四転まで。さらにものすごく複雑に話が作ってあって、丁寧に伏線を回収しながらいろんな謎が解き明かされていくっていうサスペンスですね。
シーズン1は検事である主人公が検察内部の汚職を暴いていく内容で、シーズン2は検察と警察上層部の抗争を描いています。韓国では検察が犯人を連れて行っちゃうと警察が関与できないとか、日本とはまた違う仕組みがあるそうで、検察と警察で争いが結構あるみたいなんですよね。そうした韓国社会の仕組みがシーズン1からしっかりと描かれているのも特徴ですね。
シーズン1に関してはとくに「全員怪しい」みたいな感じで、一つの小さい事件を暴いていくと、その事件はただの殺人に見せかけた大きな事件だった、と思いきやそれに黒幕がいて……ってどんどん繋がって広がっていく感じです。
サスペンス好きとしてはめちゃくちゃおもしろかったですし、サスペンスの中でいちばん好きと言っても過言ではないくらい。私はいわゆる警察のものとか検察・弁護士ものが全体的に好きなんですけど、これまで観てきた中でもとくに話が複雑な作品ですね。ちゃんと追っていかないと、途中でわけがわからなくなるくらい。でも、それがおもしろいんです。
私は韓国ドラマは恋愛ものから何から観るんですけど、『秘密の森』に関しては「ここまで話がよくできてるのか!」と驚きました。いわゆる韓国ドラマ好きの人にはそんなに流行ってないかもしれないんですけど、最もオススメな韓国ドラマですね。
韓国ドラマのいいところって、コメディーものでも恋愛ものでも一瞬だけサスペンス入ってくるとか、何か突然違うジャンルの要素が入ってくるところだと思うんです。1話が長いからか、全体的に“なんでもあり”の感じがして好きですね。
『秘密の森』はそんなに恋愛要素とかは出てこないんですけど、ペ・ドゥナとチョ・スンウのタッグがめっちゃいいんですよ。
チョ・スンウ演じる主人公は、病気であまり感情がないという設定なんです。それに対してペ・ドゥナが演じるのは人情味がある女刑事。その二人がタッグを組んで捜査を進めていくにつれて、ちょっとおちゃめな瞬間が出てきたり、感情がなくて記憶力がすごいからこそ解決できる事件が出てきたり。2人とも映画やミュージカルで活躍されてきた方なので、演技が上手でドラマにありがちな不自然さがない。そこも見どころですね。
あと、シーズン2の検察と警察の権利争いは、実際に韓国で問題視されてたことをドラマに反映したそうです。そういう日本以外の国の問題意識みたいなのを垣間見られるのもおもしろい点ですね。隣の国の似ている部分も、全然違う部分も見えてくるのも、『秘密の森』のおすすめポイントです。
刑事ものとか検事ものって日本にもいっぱいあると思いますけど、それ系が好きな人はぜひ観てほしいなって思いますね、『踊る大捜査線』とか『HERO』のように“一発解決”みたいなテンションもあれば、壮大な伏線回収もあるので、楽しめると思いますよ。
転載元:Netflix note