日本未公開はあまりにも惜しいケヴィン・ベーコン主演映画『レールズ&タイズ』

2017.10.24
女優・俳優

世界が最後の日でも私は映画を観ている。

山下真冬

山下真冬です。長らく映画まみれ。こよなく映画を愛する東京OLです。
「映画はとても個人的なものだ」を胸奥に、低予算映画を中心に紹介してゆくつもりです。

かつてケヴィン・ベーコンを有名にしたのは青春映画『フットルース』の踊る高校生役だった。

ケヴィン・ベーコンは、『激流』(94)、『告発』(95)、『スリーパーズ』(96)などに代表されるように、 今や深刻かつ癖のある役どころを難なくこなす実力派俳優であるがゆえ、最近では2016年に公開された『ブラック・スキャンダル』(15)においても、また2017年に日本で公開された『パトリオット・デイ』(16)においてもFBI局員という離れ業。毎年FBI。役者として信頼されている証拠とも言えますね。哀愁漂う近頃のケヴィン・ベーコンは、渋い味わいでとても素敵です。

しかし、かつてケヴィン・ベーコンを有名にしたのは、青春映画『フットルース』(84)です。映画が大当たりし、主題歌も爆発的にヒットする。『フットルース』はその典型とも言える映画でした。今から30年以上も前に公開された『フットルース』は当時、主演の高校生役を演じたケヴィン・ベーコンを世界的に有名にしました。2011年にはリメイク版も製作され、舞台化もされましたので、ケニー・ロギンスが歌う「フットルース」を聴いたことがある人は大勢いると思います。

フットルース

1978年の映画デヴュー以来、数多くの映画に出演してきたケヴィン・ベーコンですが、彼の出演映画は、100%までとはいきませんが、7割~8割は観てきました。その中で作品的に好きな映画は、断然、ジェームズ・ワン監督の 『狼の死刑宣告』(07)と、今回紹介する『レールズ&タイズ』(07)です。

 『ビューティー・ショップ』(05)をご覧になった方はご承知でしょうが、ケヴィン・ベーコンにはコメディがしっくりこない。きっと観客の多くも人間の内に秘めた凶暴さをケヴィン・ベーコンが今度はどう演じてくれるのかに期待してしまっているのかも知れません。『COP CAR コップ・カー』(15)も正にそんな映画でした。そう考えると、『フットルース』から、数十年かけて、様々なキャラクターを演じ、役者として今の立場を確立したケヴィン・ベーコンには敬服してしまいます。

本作はクリント・イーストウッドの愛娘アリソン・イーストウッド初監督作品

レールズ&タイズ

『レールズ&タイズ』の監督は、あのクリント・イーストウッドの愛娘の一人であり、女優経験もある、アリソン・ イーストウッド。その上、音楽はこれまたクリント・イーストウッドの愛息のカイル・イーストウッドです。

『レールズ&タイズ』は、2007年製作の日本未公開作品で、邦題は原題の『RAILS & TIES』をカタカナにしただけの地味なものですが、実は物すごく深読みの余地を持ったタイトルなのです。

決して愉快な作品ではありませんが、映画のない日常は想像すら出来ないわたしが、2009年中に鑑賞した295本の映画の中で、最も好きな映画の中の1本です。

本作のストーリーと登場人物

愛し合いながらも、過酷な現実に向かい合うことで、むしろぎくしゃくしてしまう一組の夫婦。それがケヴィン・ベーコン演じる列車運転士のトムとマーシャ・ゲイ・ハーデン演じる看護師のミーガンです。

妻のミーガンは、あらゆる事柄の中でも女性が心から想像したくないことに直面しています。乳癌です。子供に恵まれず、夫婦二人で長らく暮らしてきたトムはそのことを認められずにいます。
 
働いている方がマシという状況下でトムが運転していた列車の前に、線路で立ち往生している一台の車。その車中には母と息子。まだ27歳の若い母親は、ほぼ寝たきり。11歳の息子デビーは家事までこなしながら、そんな母に寄り添い生活しています。きっとそれは久し振りの母と息子の外出。そこにトムの列車が車めがけて突っ込んでくる。

前方の障害物に気がついた運転士のトムは、ここで急ブレーキをかければ列車は脱線しかねない、そう判断したわけですね。しかしそのことで母を失うことになったデビーは、列車の運転士トムを恨み、なぜあの時ブレーキをかけてくれなかったのかと里親の元を逃げ出してまでトムのもとを訪ねてくるわけです。
 
デビーの登場によって夫婦が初めて経験する子供がいる空間。それはデビーにとっても、まるで父と母が揃ったような初めての体験。ぎこちなさの中にたえまない母性と培われてゆく父性をみたとき、胸が締め付けられるようでした。

デビーを演じる当時子役のマイルズ・ヘイザーは抱きしめたくなるほど可愛いくて、こぼれ落ちる大粒の涙は忘れがたいのですが、その子役に全く喰われないケヴィン・ベーコンとマーシャ・ゲイ・ハーデンの凄み。俳優として長らく活躍することの稀有さをこの作品を通して見せつけられました。
 
登場人物は決して多くはありませんが、無駄のない台詞、それぞれの眼差しが語ることの深さ、 思い知らされる男女の差、人生の皮肉さ。重いドラマとは言えるものの、泣かせましょう的な湿っぽい演出がなされていないところは、流石に乾いた映画を得意とする父親譲りを感じさせる映画です。

本作のタイトル『RAILS & TIES』のRAILS は、線路やレールという意味だけでなく、物事や人々を運ぶための道筋のことでもであり、TIESは、縦横する列車と心が結んだ縁。そしてそれらは、背負った哀しみをほどくものでもあったわけですね。観終わってみれば、まさしくこの映画は、『レールズ&タイズ』。まるでどんよりとした雲の隙間から、透き通るような空が見えたような、寂しさと人恋しさが詰まった温かい映画です。上映時間約1時間40分。このざわめきある静かな余韻を是非。

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  • HarukaFukuda
    4.0
    妻メーガンの余命宣告を受けいれられず、目を背けるように仕事に励む機関車の運転士トム。ある日、トムの運転する特急列車が車と衝突し女性が死亡する事故が起きた。女性が息子との心中を試みた事故だったものの、息子のデイビーは間一髪で逃げきり里親に預けられ、一方のトムは謹慎処分を受けることになる。2007年、米。 薄暗くて静かな映像が印象的。 溝ができた夫婦に、赤の他人であるひとりの子どもがもたらしたもの。 王道の感動ストーリーです。ありがち展開ですが純粋に目が離せなくなります。 固く張り詰めた表情のケビン・ベーコンと、泣きわめき情緒不安定だったマーシャ・ゲイ・ハーデンが、少しずつ笑顔になっていく。 よくある感動モノっちゃ感動モノなんですが、なぜかものすごく好きなんです。びっくり。なんでこんなに好きなのかよくわからない。 ただ単なる王道展開でお涙ちょうだいストーリーは、嫌いじゃないけどめちゃくちゃ好き!ってわけじゃないのに。 なんかすごくハマったんです。 マーシャ・ゲイ・ハーデンも苦手なのに(序盤だって、末期がんの女性という同情要素を汲んでみても、泣く、わたし可哀想・わたしを優先しろ態度を顕著に夫に醸しだすあたり、あ~ハイハイこの人ほんとこういう役ね!と思ってたのに)、 後半のメーガンはもうね、わたしのなかのマーシャ・ゲイ・ハーデンではなかった(笑)そういうことまったく気にしてられなかった(笑) ケビン・ベーコンはいつのシーンもひたすらにケビン・ベーコンでしたが。 子ども苦手そうな不器用な感じがいいよね。それが後半のメーガンにデレデレしているところがなんともよいね! ちょっとコレ特別なにがいいというわけではないんだけどなんかわたしにしっくり来てしまった。出会ってしまった一作。ほんと自分でもびっくり。 ずば抜けてどこがいいってわけではないんだけど、どこにでもある平凡な感動ドラマの一作なんだけど、お気に入り作品の仲間入りです。
  • YokoOishi
    -
    備忘録
  • くろお
    4.3
    これ、あらすじ読んだ時点で泣けるだろって映画だけど、 フツーに中盤以降泣きまくってました。 確かな演技力と監督の父親ゆずり?の淡々とした演出が合う。 素晴らしい映画だった。
  • ぴっぴ
    2.5
    ケヴィン・ベーコンの振り幅の広さを感じる。 こうゆう役もしっくり。 ほどよくよい作品。 2017.10
  • マト
    3.8
    静かに染み入る良質な作品。監督はイーストウッドの娘さんってことで父親ゆずりのいぶし銀の雰囲気が受け継がれていて、しっかりとしたヒューマンドラマになってます。 ベーコンさんの役柄はかなり気が小さくて弱い男の印象。困難から逃げ出してしまうタイプ。奥さんのメーガンは優しい人。死の恐怖に押し潰されそうになっていたが、デイビーが来たおかげで残された時間を平穏かつ幸せに過ごせるようになる。 それぞれ大切な人を失ったトムとデイビーだが、そんな2人にこの先明るい未来が訪れることを願いたくなるような、そんなラストだった。音楽も優しげかつ渋めの選曲。
「レールズ&タイズ」
のレビュー(130件)