代表作を更新し続ける白石和彌監督「物語が撮らせてくれた」神様がくれた時間とは【ロングインタビュー】

2017.10.27
インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』、『孤狼の血』、『サニー/32』と近年輩出するラインナップを見るだけでも、ハードボイルドな実録映画や社会派エンターテインメント作品が並ぶ白石和彌監督。まもなく公開される彼女がその名を知らない鳥たちは、それらとは一変し、どうしようもない男女が絡み合う不協和音の愛を映画にした。主演は蒼井優阿部サダヲ、脇を固めるのは松坂桃李竹野内豊と、これまでの白石組常連俳優の姿がないことからも、新たな作風を届けるという気概が伝わる。

白石和彌監督

阿部サダヲ

 

阿部サダヲが体当たりで挑んだ、狂気に似た愛の形「イメージがない役をやりたかった」【インタビュー】

映画の中で起こっている生活の様子やライブ感を作品に焼き付けるため、乗らない映像も撮るというスタイルは、本作でも随所にあったとインタビューで語った白石監督は、「物語が撮らせてくれた」、「神様がくれた時間、みたいな」と、大切な記憶を分けるように言葉を尽くしてくれた。未だ42歳、代表作が更新され続ける白石監督の、今の声を届けたい。

――今回、白石チルドレンはご出演されなかったんですね。

白石チルドレン? ピエール瀧さんとかですか? ははは(笑)!

――そうです、そうです。意外な配役だったのですが、そのあたりからお伺いさせていただけますか?

原作を好きになっちゃって、どうしてもやりたいと思ったんです。読み終わったときに最初に思ったのが、十和子はやっぱり蒼井優ちゃんだったんですよね。

――読み終わったとき、すぐですか?

もう、そうですね。読み終わって、正確には映画にするかどうかを悩んで、「これだったら、やっぱりやってもいいな」と思って、最初に蒼井優ちゃんが浮かびました。当時、彼女が30歳ぐらいだったんです。で、残念ながら1年早く『アズミ・ハルコは行方不明』をやられていたんだけれど、しばらく主演作もなかった状態で、作品に対する焦燥とかが、きっとあるんじゃないのかなと勝手に思っていたんです。あれほどすごい女優ですが、一番いい作用をするんじゃないかなと思いました。

蒼井さんが今30歳だとしたら、やっぱりこの映画は「年齢差」がキーになるので、「そうか、だったら陣治は40代半ばか」と思って、阿部さんに。阿部さんも、そういう意味では、汚い人のイメージがないじゃないですか。どちらかと言うと、清潔なイメージが強いので、阿部さんにやってもらったらきっと面白いだろうなと。そのふたりが、まずはイメージできました。もちろん、受けてくれるかどうかは分からなかったんですけれど……。

――結果、望み通りのキャスティングと言いますか。

基本的には、そうですね。十和子のところは多少過激なシーンもあるので、「蒼井さん……どうかな……」と思ったけれど、「ダメ元で当たろう」とお願いしてみたら、意外と「興味、あります」みたいな話になり。では、「このふたりでいきましょう」と決まったんです。ただ、おふたりともすごく忙しかったので、確か(撮影までに)1年ちょっとくらいかかったんです。それでも「待つ価値はあるよね」と言って、やりました。

実のところ、桃李くんと竹野内さんも受けてくれるとは思えず……。僕、反対側の立場に立っても「これをやる意味、俺だったらねえな」と思っていて(笑)。

彼女がその名を知らない鳥たち

――事務所さんサイドから見て、ということですよね?

そう、その立場で「俺がマネージャーだったら断るな」という感じだったんですけれど、ふたりとも「やりたいです」と言ってくれて。

――松坂さんも竹野内さんも『孤狼の血』(※来年公開)でもご一緒されていますが、本作のほうが先だったんですか?

そう、こっちが「初めまして」で。

――白石監督は、いつも作品ありきでやられている印象です。キャスティングありき、ということはないんでしょうか?

やっぱり僕がやりたい物語があって、それに合う人ですかね。人ありきは、あまりないですね。ただ、これまではなかったですけれど、もしかしたら今後、そういうことも生まれるかもしれないですよね。

でも、僕はやっぱり恵まれている。今回の4人もそうだし、役所(広司)さん(『孤狼の血』)もそうだし、綾野(剛)くん(『日本で一番悪い奴ら』)もそうだし、監督としてはすごい恵まれていると感じています。こうやっていくと、また阿部さんとももちろんやりたい、役所さんともやりたい、桃李くんともやりたい、ととめどなくなってしまうので、何か物語を見つけ、という感じですかね。

彼女がその名を知らない鳥たち

――「多少過激なシーン」では、蒼井さんがかなり堂々とやっていらっしゃったので「さすが蒼井さん」「さすが白石監督」と思ってしまったのですが。

いやいやいや。でも、どうかね。滅多にやらないんですけれど、一応、絵コンテというか、イメージコンテみたいなものを提示しました。ベッドシーンに関しては「ここまでやってほしい」と示したら、その提示より全然いっぱいやってくれたんです。

――三者三様に撮れているというか、全然違うベッドシーンでしたね。阿部さんのところは思わず笑ってしまいましたし、松坂さんはやっぱり舞台「娼年」でやったのもあったからか。

そうですね、桃李くんはスペシャリストですからね(笑)。

白石和彌監督

――(笑)。

桃李くんに話を聞けば、なんか将棋の棋士みたいな感じで、「5手先まで、1手目で何手もある」みたいな。「お前、何だよ」と言っていました(笑)。竹野内さんは、そういうシーンをほぼやったことがなくて、むしろ一番緊張されていましたね。当時、竹野内さんと阿部さんが46歳で同級生だったんです。ふたりが一緒に少し待機している時間があったんですけど、そうしたら「なんか桃李くん、ベッドシーン、上手かったらしいね」、「俺ダメでしたよ」っていう会話があって(笑)。

――そんな、反省会みたいな(笑)。

(笑)。46歳ふたりが桃李に敗北、みたいな。それを話してる二人を想像するだけで超面白くて。けど、それって(劇中の)関係性が少し出ているんじゃないかなと思ったんです。そういうのって出るから、やっぱり面白いんですよね。

――松坂さんで言うと、外せないのが大阪城のシーンだと思うんです。『日本で一番悪い奴ら』でも綾野さんの背後にそびえ立つニッカウヰスキーの画がありましたし、白石監督はランドマークを入れることを好むのかなと思ったりしていました。

どうなんでしょうね。ランドマークというか、嫌いではないですけれど、とりたてて狙っている感じでもないっちゃないんです。大阪で撮影することが、この映画にとって、すごく重要でした。関西弁じゃないと成立しないっていうのも、たぶんそうだったし。その空気感が一番重要なんだな、とは思っていて。こだわったんです、結構。

でも、いざ大阪に行くと、普通だったらやっぱり通天閣みたいな場所で撮影しがちなんだけれど、この映画はそうじゃないだろうなと。大阪なのか、どこなのか、いまいち分からないところを中心に探して行ったんです。この(主人公の)ふたりは、時間が止まったまま生きているんだろうなと思って、そういうのを探しつつ、「ここぞのところは大阪城!」、みたいな。その「ここぞ」が、僕にとってはあのシーンだという(笑)。

――ここぞが(笑)。おっしゃったように、本作のみならず、ロケーションにすごくこだわられる印象があります。白石監督にとって、とても重要な要素なんですね。

そうですね。要素という意味でもそうですし、やっぱり好きなんです。僕は、ロケハンは撮影場所を探すのではなくて、物語性を探すこととすごくシンクロしている気がしています。いつも、その作業は「このふたりってこういう商店街を歩いているんだ」、「陣治は朝、家から出て、この駐車場に軽トラが止まっていて」とすごい立体的になってくるんです。単に撮影しやすいから選ぶとか、そういうことでもない気がしていて。だからか、僕は割と「普通だったらここ選ばないよな」というところを選ぶんです。

――気になります。例えば?

「狭い」とか。その苦労して撮る感じとかが、作品にすごく良く作用するんです。すごい、そういうことを考えながらやっています。だから、人の映画を観ていても結構ロケ場所を気にしていますね。芝居ももちろん観ますけれど、ロケ場所を観ていることがすごく多いです。

――本作で、特にこだわり抜いた場所を挙げるなら、どこでしょうか?

やっぱり、十和子と陣治のマンション。窓の外に橋があって、川があるんだけれど、川の向こうに工場があったりとかして。準工業地帯なんですよ。で、橋からちょっと見ると、銭湯の煙突が見えたりとか。大阪は、一応都会じゃないですか。あの風景を見たときに、その都会の中で何か隠さなきゃいけないものを持ったふたりが、7~8年ここでだったら暮らせていたかなと、すごく思っちゃって。間取りももちろんそうなんですけれど。すごい、それが良かったんです。

そういうところって、撮っていて飽きないんです。あれだけシーンが多いから、普通は飽きてくるんだけれど。撮っていて飽きないことは、すごく重要なんですよね。

彼女がその名を知らない鳥たち

――飽きることもあるんですね。

もちろんありますよ。これって本当、やってみないと分からないんですけれど、撮影しやすい、しづらいというのが本当によくあって。それが上手くいっているときは、どういうふうに撮っても、すごい気持ちいいというか。あの場所は本当に「まだまだ撮れるな」という感じがあったので。

――あの気持ち悪い散らかり具合も、こだわりですよね?

もちろんこだわりです(笑)。

――現場では、その場での差し込みが多いと役者さんからもお伺いすることがあるんですけれど。

あ、もう聞くんですか? そんなこと(笑)。いや、実際そうなんですけれど。思いつきでやっています、っていう。

――それが映像で使われたり、一方で、現場にいい影響を与えることが多いんでしょうか?

何やかんや、切るほうが多いです。いつも「何で使わないのを分かっていて撮るんですか?」と言われたりするときに、「だって撮りたいから」みたいなことを言っていたんですよ。けど、この間、人から聞いた話があって。今村昌平監督が『うなぎ』のときに、明らかに使わないカットを撮り始めたんですって。誰かが「何でそんなのを撮るんですか?」と聞いたら、急に今村学校になったと。「いやいや、台本にあるシーンはここで、その前のシーンはここで、その間もあるでしょう」、「役者もスタッフも、本当はどこかで確認したい。その確認作業なんですよ」というようなことを、30分ぐらい滔々と講義になったらしいんです。

その話を聞いたときに、「ああ、(自分のやっていることが)間違っていないんだな」と思いました。確認したいというのは、すごいよく分かるんです。確認したところで、何ということはないんですけれど。でもどこか、その無駄な作業や時間が、映画で使われているところに、すごく生きてくるし、重みになるというか。台本にないところを撮ると「物語が撮らせてくれた」みたいなところがあって。ただ台詞を言うこと以上に、何かその台詞に意味を持たせられるんじゃないかなという気は、まだしています。

――非常に興味深いお話です。とはいえ、入れたくても泣く泣く削ったカットも多いのでは?

こういう話をしているわりには全然覚えていないんだけれど(笑)、結構あります。この作品に関してだと、滑稽さをどう出そうかという作業に注視していました。滑稽さと言ったって、主人公のふたりはやっぱり真剣に生きていて、相手のことを嫌だとか、好きだとかやっているんだけれど、それが滑稽に見えればいいなと思っていました。そうなれば、おかしみとか悲しみが、より出るんじゃないかと。だから、滑稽さを出すために、ひたすら、特に阿部さんのところで「こういう台詞も言ってください」、「こういう台詞も言ってください」という差し込みは、ずっとやっていました。毎回、そういうことの繰り返しなんです。

白石和彌監督

――お願いしたとき、阿部さんはすぐにやってくださるんですか? 初めてご一緒されて、どんな印象でしたか?

やっぱり芝居マシーンといいますか。僕が言ったことをまず忠実にやろうと、すごいやってくれることに、もう驚きました。もちろん阿部さんほどの方ですから、やりたいこととか、いろいろアプローチはあるんでしょうけれど。頭のいい方なので、僕が何をやりたいかを、1~2言えば10分かってくれるのが、阿部さんのすごいところだと思います。それは芝居に対してピュアだからだと僕は思っているんです。すごく尊敬できる映画人ですし、俳優ですし、またご一緒したいです。阿部さんには「関西弁じゃない役で」と言われましたけど(笑)。

彼女がその名を知らない鳥たち

――物語の中でも大きなインパクトを残すラストシーンについて、監督の想いをお聞かせください。

あのシーンは「薄暮」と言って、1日のうちで30分ぐらいしか取れない時間で、マジックアワーで撮っていたんです。24時間を、その30分のために、毎日準備して、集中して撮ったわけです。違う取材で優ちゃんも言っていたけれど、あのシーンは……なんか不思議な感覚になりましたね。普通30分しかないから「一生懸命やるぞ」と慌てふためいたり「撮り切れなかったらどうするの!?」となったりもするんだけれど。3日間用意していたんですけど、2日で撮り終わりましたし。

撮っている瞬間は、そういうことから一切解放されて、すごいハイになったというか、不思議な時間で。そこまでいろいろ苦労して撮ったぶん、すごく神様がくれた時間、みたいな。そんな不思議な感覚でしたね。

――士気が上がっていたんですね。

それはそうだと思います。変なテンションになれた。東京だったらそうはいかなくて、家に帰って、また、となっちゃうけれど、ずっと大阪にいたのも、そういうことなんだろうなとは思うし。あのシーンを観て、初めて、お客さんも僕たちも「やっぱり本当に幸せな映画だったんだろうな」と思うんです。この映画は「共感できない」「共感度0」とか、いろいろコピーがあるけれど、すごく美しい物語を撮っていたんだなと感じました。そこには愛があったから、なんですけれど。

――監督が撮りたかったことは、今お話されたところに込められていますか?

そうですね。キャッチコピーでは「究極の愛」と書いてありますよね。汚いおっさんが、そういうものを持っていることがファンタジーではあるけれど、どこか僕の願望でもあるというか。この、本当に1万分の1でもいいから、そんなふうになってみたい、という感じはありました。無償の愛ですよね。よく言うのは、愛って求めるものか、求められるものか、みたいな。やっぱり誰かに求めるんじゃなくて、与える愛こそがやっぱり美しいんだろうなと思います。

彼女がその名を知らない鳥たちは10月28日(土)より全国ロードショー。

彼女がその名を知らない鳥たち
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

(インタビュー・文:赤山恭子、撮影:市川沙希)

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    4.3
    言い知れぬ欲求不満を抱えた女・十和子(蒼井優)は金も地位もない卑しい同居人・陣治(阿部サダヲ)を嫌いながらも彼の給金で暮らしていた。そんな彼女には忘れられないかつての恋人・黒崎(竹野内豊)がいる。ある日、十和子は黒崎の面影を宿した妻子をもつ男・水島(松坂桃李)と関係を持ち始める。そんな時、刑事から黒崎の失踪を告げられた十和子は陣治を疑い、水島に危険が及ぶことに怯えることになる― 『ユリゴコロ』と同じ原作者さんのお話。共感度0%、不快度100%という謳い文句でしたが、私はそんなことないように感じました。確かに主要登場人物は全員クズみたいな奴ばかり。それでも私はこの作品に込められたメッセージとして「愛」を感じました。この作品はラブストーリーでも、「恋」を扱った作品でもないです。でも紛れもない「愛」。自らのすべてを捧げてでも守りたいものがある。立派な愛だと思いました。図らずも涙が零れてしまう、そして忘れられない、そんな切なくて優しくて汚ならしい、人間らしい作品でした。 とにかく俳優陣の演技力が高かったです。低予算だったことも、あの俗な人間らしさをかえって上手く表していたのではないでしょうか。万人受けする映画ではないと思いますが、蒼井優さんをはじめとするキャストが表現する人間の心の葛藤に、少なからず共感できるところはあると思います。 これ以上言葉で書くと情緒がない感じがするのでやめます。 あ、私松坂桃李さん大好きでシンケンジャー以来ファンなんですけど、松坂桃李史上最高に色っぽかったので、彼のファンの方には特に一見の価値ある映画だと思います笑
  • Mao
    -
    誰にも共感できないしどちらかといえばホラーだったけど最後はなんだか泣きそうになってしまったよ。 全員クズだけど全員の演技が素晴らしすぎた 松坂桃李のエロさっぷりすげえ。 見た目より中身ってことなのかね
  • クズお
    3.4
    男性サービスデー 「最後まで押し通せなかったらやさしさではない。途中でくじけるなら悪人になればいい。優しさは根性です」 っていう、名言を思い出した。
  • zonomayu
    -
    阿部サダヲの狂気的な目力。食べ方の汚さ素晴らしかった。 前半あんまり乗れなかったけど後半引き込まれてしまった。竹野内豊あんなに色黒だったかな?と思ったけど。色気か溢れてた。
  • omoriririri
    3.5
    いけいけ!ゴーゴー!蒼井優!!!好き!!チャック開いてます俳優松坂桃李もグー。 脚本が残念すぎ。。時間軸を自由にとびまわれるのは小説だけの力なんだから、、映画で安易にとぶとテレビドラマみたいに安っぽくなるよ。。 でもでもやっぱり白石監督。人間ドラマとコントのギリギリを攻める神業
「彼女がその名を知らない鳥たち」
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