『アトミック・ブロンド』にみるヒロインのセクシュアル・マイノリティーへの進化

2017.11.04
洋画

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

ヒロインのツワモノ女子化とバイセクシュアル率の高さが今年のトレンド?

今年も残すところ2か月。そろそろ1年の総括を意識し始める季節になってきました。

君の名は。』が歴史的大ヒットを遂げ、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』や『シン・ゴジラ』でシリーズファンが大いに盛り上がった昨年に比べると、今までのところやや盛り上がりに乏しい2017年。
ただ、今年大ヒットを記録した『美女と野獣』にディズニー映画で初めてゲイ男性が登場したという事実にも象徴されているとおり、LGBTQ要素を盛り込んだ映画の増加は、継続的なトレンドと言えそうです。

今年は『ワンダーウーマン』をはじめ“強いヒロイン”が活躍する作品が目立った年でもありますが、彼女らのセクシュアリティが「どうやら異性愛者ではなさそう」あるいは「あきらかにレズビアンかバイセクシュアル」であるケースが多いのが顕著な傾向。

『ワンダーウーマン』の主人公・ダイアナは、映画のシーンには今のところ盛り込まれていないものの、原作ではバイセクシュアルという設定なのだとか。

ワンダーウーマン

ジョン・ウィック:チャプター2』に登場する女アサシン・アレス(ルビー・ローズ)も、美少年と見紛うような男装の美女でしたね。
アレスを演じるルビー・ローズはレズビアンであることを公表している女優、アレスも異性愛者ではない可能性は大いにありそうです。

ジョン・ウィック チャプター2

アクション映画ではありませんが、強い女を描いた映画と言えば『エル ELLE』もはずせません。
イザベル・ユペール演じる美魔女ミシェルは、レイプ犯すら手玉に取る凄まじく強い女性。のみならず、枯れない性欲も、彼女を語る上でのキーワードです。
彼女もまた、男性だけでなく女性の恋人もいるバイセクシュアル。監督70代・主演女優60代という高齢コンビが話題を呼んだ作品ながら、古臭いどころか、実に今らしさのある映画でした。

そして、現在公開中の『アトミック・ブロンド』!
こちらもシャーリーズ・セロン演じる女性スパイがバイセクシュアルであることが、ひとつの目玉になっています。

以降はネタバレを含みますのでご注意ください

『アトミック・ブロンド』では、シャーリーズ・セロンとソフィア・ブテラが熱いラブ・シーンを披露

アトミック・ブロンド

ベルリンの壁崩壊直前の1989年を時代背景にした『アトミック・ブロンド』は、英諜報機関MI6のロレーン・ブロートン(シャーリーズ・セロン)が東ベルリンに潜入し、同僚のパーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ)と共に諜報活動を繰り広げる……という物語。
ロレーンはタイトル通りブロンドの美人スパイですが、並みの女じゃないことは、冒頭で映し出される青痣だらけの体を晒した氷風呂入浴シーンからも一目瞭然。
長身でたくましい肉体、全身の傷痕を隠そうともしないロレーンは、ハニー・トラップがお得意の旧態然とした女スパイとは全く違う意味での「肉体派女スパイ」なんです。

ここまで男前だとさすがにセクシーシーンはないのかと思いきや、しっかりベッドシーンも。
それも、相手は男性ではなく女性、ソフィア・ブテラ演じるフランスの諜報員・デルフィーヌとの濃厚シーン!
シャーリーズ・セロンは過去に『モンスター』(03)でもレズビアンを演じているし、おそらく今最もバイセクシュアルが似合う女優の1人と言っても過言ではないのでは?
そんな彼女がソフィア・ブテラをリードするベッドシーンは、観ているほうのセクシュアリティさえ揺らぎそうな美しさです。
東西冷戦末期の殺伐とした東ベルリンを舞台に、血まみれのアクションが続く中で、数少ない華のある見せ場。同時に、肉体的にも精神的にも男を凌駕した女たちが、ついに男不要の世界を作り始めた……というフェミニズム色を強く感じるシーンでもあります。

「脱男社会」が進む女性スパイ映画

アメコミの実写化による女性ヒーロー映画は『ワンダーウーマン』で初めて興行的成功を見たそうですが、女性スパイをヒロインとする映画は、コンスタントに出ていますね。
それだけに、描かれる女性スパイ像の変遷に、時代の移り変わりを垣間見ることができます。

リュック・ベッソン監督作『ニキータ』(90)の主人公は、厳密にはスパイというより末端のアサシンですが、武器を持ち指令をこなす女性戦士ということで言えば女性スパイの一種に括ることもできるでしょうか。

ニキータ

この作品では、「ニキータ」と名乗る不良少女(アンヌ・パリロー)が、戸籍上では死んだ後、政府の密命で動く暗殺者として生まれ変わります。
華奢な体に不釣り合いないかつい軍事用ライフルを使いこなすニキータの姿が衝撃的な美しさ……その反面、殺人の目的さえ知らされず、使い捨ての駒のように扱われる彼女の惨めさ、ボスのボブ(チェッキー・カリョ)に淡い恋心を抱きつつも、報われることのない悲しみに心をえぐられます。

つまりこの作品では、女性スパイの「男社会に利用される存在」としての側面が強調されていて、カッコいい女性ヒーローものとしての女性スパイ映画ではないんです。
ラストでニキータが男たちを捨てて姿を消す顛末も、自立・解放というよりは、悲壮感が先に立ちます。
もっとも、この映画の描き出す殺伐としたニヒリズムと愛の渇望、個人的にたまらなく好きなんですが……。

2000年代に入ると、女性主人公のアクション映画は珍しくなくなりますが、そんな中で、2010年製作の『ソルト』では、アンジェリーナ・ジョリーがCIAの諜報員イヴリン・ソルト役に。

ソルト

レスリングのオリンピック代表選手を父に、女流チェス・プレイヤーを母に持つサラブレッド=ソルトは、身体能力・頭脳ともにずば抜けた女性。
当初は国の指令に忠実なエージェントですが、初めて心から愛した男性に対する国家の冷酷無比な仕打ちに怒り狂った彼女は、たった1人で自分の正義のための戦いを開始します。

ソルトは、束になってかかってくる男たちを相手に互角に戦う女戦士。
ニキータ同様にソルトも男性を愛し、愛は彼女の価値基準の最上位に位置しているものの、彼女は目的意識をもって行動し、自分なりの正義を貫くという点で、目的も知らされず使い捨ての駒として利用されたニキータとは対照的です。

『ソルト』は女性ヒーローものの一つの完成形に見えます。ただ、主人公のセクシュアリティは当然のごとくに異性愛者なんですよね。

今回バイセクシュアルな女性ヒーロー像を打ち出した『アトミック・ブロンド』が出現した背景には、LGBTQ問題が急速に注目度を増したここ数年の社会情勢があります。
短い期間にLGBTQ問題に関しては大きく時代が動いた……その反映が『ソルト』と『アトミック・ブロンド』の差ではないでしょうか。

フェミニズム指向を見せながら男性にもウケるロレーン型女性ヒーローは今後のトレンドに?

シャーリーズ・セロンが準主役を務めたカルト・ムービー『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)は、フェミニストのアドバイザーを迎えて製作されたとか。女性ヒーローを扱う映画ではこうした視点が今や常識なんでしょうか。

マッドマックス 怒りのデス・ロード

そういう観点で見ると、女性ヒーローの同性愛シーンを描いた『アトミック・ブロンド』も、いかにもフェミニズム指向の作品と言える気がします。というのは、男性に支配されない女性同性愛は、最もフェミニズム的恋愛形態ですから。
私も含め異性愛者の女性には自分自身の恋愛に重ねることはできないにしても、恋するロレーンとデルフィーヌの姿に、カッコいい女のひとつの理想形を見た気分になります。

ただ、フェミニズム的ヒロイン像、男性の眼にはどう映るんでしょうか?
この記事を読んで、「嫌な時代になった……」とつぶやいている男性もいるかもしれないですね……。
しかしこの映画、反応を眺めていると、男性にも、というよりむしろ男性のほうに好評な感触。
もしかしたら、ミニスカにブーツ姿のロレーンの美脚に蹴り倒されたいという願望は、実は結構な数の男性の中に潜んでいるのかも?(笑)
女性同士のベッドシーンも、男性のほうが前のめりに観てしまうモチーフですしね。
女性にとってのフェミニズムが男性にとってはエロティシズムに……映像作品におけるフェミニズムの自己矛盾とでも言いたくなるような、ちょっと皮肉な話ではありますが。
同じ映画を観つつも違う夢を見る男と女。やはり男と女の間には埋められない溝があるのかもしれません。

なんにせよ、今後バイセクシュアルな女性ヒーローがトレンドになっていきそうな予感です。

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  • はり
    3.7
    @あんまり爆音じゃない爆音映画祭
  • kazu1961
    3.6
    「アトミック・ブロンド」 原題「Atomic Blonde」 2017/10/20公開 アメリカ作品 2018-044 ストーリー展開は主役のインパクトの前に埋もれているという感がありますね。しかし、スタイリッシュなアクションシーンとシャーリーズ・セロンという極めて魅力的なスターのお陰で、その部分を補っても余りありますね。 アクションシーンは秀逸! 更に映画ならではの演出も素晴らしい。本作は音楽も注目を集めていて、80年代の洋楽をたくさん使用されています。作中でもQUEENの楽曲がいいところで使用されていますね。そして色の使い方が何より素晴らしく印象的!本作は青を基調とした画面で構成されていて、それが寒々しい印象をうまく与え、映像表現としても重要な意味を持っています。その映像と音楽の融合が見事ですね。 「マッドマックス 怒りのデス・ロード」や「ワイルド・スピード ICE BREAK」など近年はアクション映画でも活躍の幅を広げているシャーリーズ・セロンが、MI6の女スパイを演じた主演作。アントニー・ジョンソンによる人気グラフィックノベルを映画化したアクションスリラーで、「ジョン・ウィック」シリーズのプロデューサーや「デッドプール」続編の監督も務めるデビッド・リーチがメガホンをとった。共演に「X-MEN」「ウォンテッド」のジェームズ・マカボイ、「キングスマン」「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」のソフィア・ブテラ。
  • ゆうても
    4.5
    最後の展開までの作りが良かった。 それと同時に疑問も孕ませる所もまた良き。 ただ強いだけのスパイというわけじゃなくて、弱さがしっかり見えるのも魅力の1つだった。特にブロートンのアイデンティティ的な部分に強くフォーカスが当たってる気がして面白く感じた。 長回しのシーンで迫力と同時にブロートンの弱さが見えて凄く良かった。 画面の作りも良くて端から端まで綺麗。 それと音楽との連動も良くて見ていて気持ちよかった。
  • マコッサ
    1.8
    音楽に頼りすぎ。ベイビー・ドライバーと並ぶ映画の堕落
  • Yuka
    3.5
    かっこいい…強い女かっこよすぎる。そして、ビル・スカルスガルドが最高にイケメンだった。ITの時とは違う一面を見れて興奮した。
「アトミック・ブロンド」
のレビュー(8068件)