「生きるということは、ただ呼吸をするだけ」激情の俳優・國村隼が静として存在した映画『KOKORO』【インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

フランスのオリヴィエ・アダムによる小説を、ベルギーの女性監督ヴァンニャ・ダルカンタラが、日本の美しく険しい自然を背景に人間の回復の物語を紡いだ映画KOKOROが公開に。ベルギー、フランス、カナダ、日本という4か国混成スタッフたちが集い、穏やかに心洗われる物語へ昇華。何気ない日常、そのこと自体に目を向けた心染み入るドラマだ。

その期待作に韓国映画『哭声 コクソン』で国内外の注目を浴びた國村隼が、もう一人の主人公でもある元警察官のダイスケを深みのある演技で表現。本作について「特に大きな事件が起こるわけでもなく、大まなかストーリーの流れのなかに、それぞれの個がたゆたっているような物語です」と語る國村隼に、映画KOKOROが投げかけるものについて聞く。

KOKORO

――近作の『哭声 コクソン』が衝撃的でしたが(笑)、本作は打って変わって心穏やかな作品になっておりますね。

穏やかでしたね(笑)。『哭声 コクソン』は肉体的にタフでなければいけない現場だったので、今作では少しホッとしていたところは正直ありました。KOKOROは自分が思い描いていた以上の、いい作品になったなと思っています。撮影現場ではルーベンという若いカメラマンが僕の知らないタイプのステディカムで自由自在に撮っていて、どういう映像になっているのかと思っていましたが、完成した映画を観た時にとても驚きました。

――ステディカムのイメージとはまた違うような、穏やかな映像美でした。そして、映像の語りかけも凄まじいものがありました。

そうですね。監督のヴァンニャ・ダルカンタラとルーベンの間には細かい打ち合わせはあったかと思いますが、実にフレキシブルでした。オールロケの撮影だったのですが、照明に時間をかけることもなくほぼ自然光です。あのルーベン、只者ではないなと思いましたよ(笑)。実は彼のことは話には聞いていて、ヨーロッパでは超売れっ子のカメラマン。監督とは長い知り合いで、彼女が撮るならと駆けつけてくれたそうです。

KOKORO

――それにしても『KOKORO』は、外国の方が観た日本ではありながら、人間の再生や回復という普遍的なテーマを静かに描いた力作でした。

主人公のアリス(イザベル・カレ)が日本にやって来るのですが、特に大きな事件が起こるわけでもなく、大まなかストーリーの流れのなかに、それぞれの個がたゆたっているような物語です。時々何か浮かび上がっていく程度で、また流れていく。その様子をカメラが見つめているというか、映像として編んでいくというのか。だから僕が演じたダイスケについても、具体的に何かを決めていくのではなく、台本を読み、下準備だけして後は現場で仕上げました。共演者や監督との作業を通して、ダイスケを存在させていく。それはいつもそうなんですけどね。

KOKORO

――國村さん演じる元警察官の男ダイスケは投身自殺の名所で有名な崖のある海辺の村に住み、悩める人々の心に寄り添っている人物ですね。

彼は何もしていないんです。そこにいて寄り添うだけ。相手に判断を迫らず、寄り添ってただ待っている。助け合う仲間でも、それこそ家族でもなんでもない。その人たちと同じ場所にいるという、そういう現実があるだけなんです。
そしてダイスケ自身は、彼の日常のなかで、人との関わりを持ちながら彼らを結果的に死から救うことはあるかもしれないけれど、逆に彼自身もどこか救われている部分があるのではないか。そういう理解でいましたね。

KOKORO

――ダイスケの強く“求めない”姿勢は、映画のキャラクターとしてもめずらしいと思いました。

ダイスケは警察官をすでにリタイヤしている身ですが、そんな生活のなかで何か抱えているものがあるんですね。だから彼の心の中に抱えるものと一緒に生きていくために、ダイスケ自身、彼らを救うことが必要だったのだろう、と。そして同じ時間を過ごすことが大切だと思っている。そして、そこを止まり木にして旅立ってくれることを望んでいる。
ずっと一緒にいることが大事なのではないんですね。引き留めたいわけでもない独特のスタンスなんですよ。

KOKORO

――ダイスケの心情も踏まえて、この映画は最終的にどういうメッセージを観客に投げかけていると思いますか?

人は生きていくうち、知らぬ間にオリのようなものがたまっていくものです。
アリスは日本から帰国したばかりの弟の言葉にそれを気づかされ、その直後に亡くなった弟の足跡を辿る旅に出ます。自殺で名高い場所である断崖絶壁、そこでダイスケと出会うのですが、この男は自殺に向かおうとする人と向き合いつつ、また自分自身の人生と対峙して生きている。この出会った二人は実際の断崖絶壁の淵に立ちながら、また人生の淵に立っているんですね。そして人生のオリを抱えた二人はただ一緒に居る。ある時ダイスケは「生きるということは、ただ呼吸をするだけ」と話します。
二人の出会いがあり、お互いがそれぞれの形で〈KOKORO〉の解放をつかんでいく、そんな力強いメッセージを感じて貰えるのではないかと思っているのですが。

KOKORO

映画KOKOROは11月4日(土)渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

(取材・文:鴇田崇)

KOKORO
(C)Need Productions/Blue Monday Productions

【あわせて読みたい】
 温和な小日向文世を怒らせた『サバイバルファミリー』は矢口監督の“逆恨み”から始まった!?【インタビュー】
 阿部サダヲが体当たりで挑んだ、狂気に似た愛の形「イメージがない役をやりたかった」【インタビュー】
 ゆとりモンスターでブレイク 太賀、主演作に投じた愛「自分の青春映画の区切りになってもいい」【インタビュー】
 トム・フォード監督7年ぶりの新作、3つの世界が交錯する美しき愛と復讐の物語『ノクターナル・アニマルズ』
 ダメウーマンと怪獣がシンクロ!日本大好き監督が描く新感覚エンターテイメント作とは?

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • オオタケリク
    -
    安藤政信が出てるから見てみた。國村隼がカッコ良すぎた。
  • machaki
    -
    さすがです。皆さん!見ましょう。 まず、全カットと言っていいほど終始美しい自然と街並み。そしてキャストがみんなおしゃれ。また、音が少ないから目からの情報が入ること入ること。それでいて綺麗なんだからそりぁ、映画に没入するわな! 自然の強さも静けさも、人との関わりも声さえも必要最低限でいて不足はしていない。その静かさが良い。 極限まで説明を省いた新海誠である。 ワイワイしながら見るものでは決してない。何かモヤモヤした時に1人で見ることで、解決じゃないけどすっと何かが晴れると思う。
  • ErnieHoyt
    3.0
    フランス、ベルギーとカナダの制作ですが、舞台は日本。邦題は「Kokoro」。原題は”Le Coeur Regulier"。主人公のアリスの弟が久ぶりに日本から帰省して、姉に日本の恩人が居て、人生の再スタートで張り切って、お姉さんも人生もっと頼むべきと説教みたいな感じしたて、ちょっとした喧嘩になり。帰りに彼が交通事故で死ぬ。そこでアリスが弟が日本に行った場所と彼の恩人を探す。その場所に行ってみたら、自殺の名所で発覚した。自分もここでなにしに来たと想いながら、話が進む。切ないけど、映像は超綺麗。
  • 3.0
    なぜ日本にしたんだろう? そして、日本にするなら英語じゃなく日本語で、もしくは足りない英語でもこの題材でじゅうぶん寄り添うことはできるんじゃないか、と感じた。 門脇麦よかった。
  • なみ
    3.0
    多くを語らない描写が好ましく、とにかく國村隼氏の抑えた演技が光る。 美しい映像。 そして音とともに場面や主人公の気持ちの変化が表れているような。 分かりやすい高揚感もまとまりもないが、感じ取れるものがある。 あ、それと門脇麦ちゃんの英語が上手くて好感。
「KOKORO」
のレビュー(91件)