この夏、子どもだけでなく大人も楽しめる映画『バケモノの子』『インサイド・ヘッド』

映画好きなサラリーマン。

柏木雄介

毎日暑い日が続き、季節はすっかり夏ですが、学生さんは夏休みに入った方も多いかと思います。映画館も比較的家族連れや友人同士の学生の方も多く見られるようになりました。夏休みといえば、大作アニメ映画!安定の「ポケモン」「アンパンマン」などの話題映画ももちろん公開されてますが、最近ではもっぱら子どもだけでなく、大人にも楽しめるアニメ映画が多く公開されるようになりました。

今年の夏は、細田守監督の『バケモノの子』、そしてピクサー最新作『インサイド・ヘッド』がおすすめです。今回はこの2作がなぜ、大人にも楽しめる内容なのかを考察していきたいと思います。そして、意外にもこの2作にある”共通点”があるのでそちらについても著者の感想込みでご紹介します。

『バケモノの子』は誰もが通る”青春の葛藤”を描いた成長物語!

バケモノの子

細田監督最新作『バケモノの子』は公開2週間ほどで、198万人動員、興行収入25億円突破と大ヒット。そのヒットの理由のひとつは誰もが共感できる内容を描いているからだと思います。

ストーリーは、離婚により母親とともに暮らしていた少年が、その母親を事故で失い、親戚に引き取られることを拒否し渋谷に彷徨っていたところでバケモノと出会うことから始まります。そこから、人間界「渋谷」とバケモノ界「渋天街」とのパラレルワールドの世界へと引き込まれ、少年はバケモノから”九太”と名付けられ育てられます。

一言で言えば、”王道エンターテイメント映画”です。前半が「父と子の成長」を描いたストーリー。コミカルな部分もあり子どもだけでなく「親も子に学ぶ」という話は大人が観ても考えさせられる内容になっています。

ということでこちらの前半部分に関して、王道の少年漫画のテイストで、間違いなくどの世代が観ても純粋に楽しめる内容になっていると思います。前半のストーリーのベースは言うまでもなく「西遊記」にありますから、話の面白さは間違いありません。

しかし、実はこの映画の議論が分かれるところは後半にあります。後半が詰め込みすぎだという感想もあり、伝わりにくい部分もあったかもしれませんが、個人的にこの”後半部分こそ”がこの映画の醍醐味になっていると感じています。

自分の存在が誰かの成長のひとつの影響になっていること

前半部分は、言うならば、「強さとは何か?」という無垢な少年の想いを直球に問いかけたストーリーですが、後半は少し成長して青年となった主人公が「自分とは何か?」という根本的な問いに悩み苦しむ話になっています。

正直な話、自分も学生時代にそんな様なことを考えたことがありました。その過程で「闇」に飲み込まれることもあります。つまり、肉体的に成長した少年は次に精神的に大人になるために、もがき苦しむ成長の過程が描かれているのです。

その成長するための修行が、”武道”から”勉学”へ切り替わり、世界もバケモノ界から人間界へと舞い戻ります。今回脚本も担当した細田監督が、この”勉学”を視野に入れ描かれたことにとても感動しました。

自分が何者であるか?という難しい問いは、自分だけを見ても理解できるはずがありません。自分がいる狭いコミュニティの中だけでは知ることができません。世界はもっと広くて、別の世界を見ることで視野が広がり、考え方も変わります。そのひとつの手段として、大学へ行くための勉強があり、それに取り組む姿が描かれていました。

実は、親が子どもに教えられることは少ししかないということ。親から学ぶだけでなく、周りにいるたくさんの人から学び成長する過程をこの映画からは知ることができます。たくさんの人から影響を受け、自分自身が出来上がっていく。自分の存在が誰かの成長のひとつの影響となることはとっても誇らしいことだなとそんな風に感じます。

ミスチル主題歌「Starting Over」は実は映画とかなりマッチしている!

Mr. Childrenの「Starting Over」が映画の主題歌になっていますが、もちろん単なるビッグネームを使った宣伝手段というわけではありません。「Starting Over」自体は映画のために作られた曲ではないですが、それを聞いた細田監督自身が歌詞・楽曲ともに『バケモノの子』の世界観を表現していると絶賛し映画の主題歌に決めています。

「肥大したモンスターの頭を 隠し持った散弾銃で仕留める」という歌詞の中の”モンスター”は、バケモノのことではなく自分自身の心に持つ弱い心のこと。その”モンスター”に対して”引き金を引きたい”と歌っているところはあるシーンとつながります。

またこの曲は、”モンスター”に対して以下のような感情を持ちます。

「追い詰めたモンスターの目の奥に 孤独と純粋さを見つける」「ロープで繋いで 飼い慣らしていくことが出来たら」と願います。自分の中にある不安や虚栄心、自尊心などの闇も、自分の一部だと考え認めること。そういった裏側の感情の必要性や尊さを表現したところこそが、後にご紹介する「インサイド・ヘッド」のテーマとも重なる部分です

タイトル「Starting Over」は”新たな出発”という意味です。「何かが終わり また何かが始まるんだ」きっと誰もが、そういった”闇”の感情を一度はちゃんと認め考え、その上で闘い続けるから成長するのだと思います。人生とは、結局はその繰り返しなのだと考えさせる曲、そして映画になっています。

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『インサイド・ヘッド』は自分の性格を表す感情と記憶の関係を描いた感動作!

インサイド・ヘッド

同じく今絶賛公開中の映画、『モンスターズ・インク』『カールじいさんの空飛ぶ家』のピート・ドクター監督映画、『インサイド・ヘッド』。

簡単にあらすじを説明すると、田舎町に暮らす11歳の女の子ライリーが、父親の仕事の影響により都会のサンフランシスコに引っ越しするという環境の変化の中で巻き起こる少女の感情(ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカ)を描いたものです。

先に公開された邦画『脳内ポイズンベリー』と設定が似ているということで少し話題になりましたが、そもそも感情を脳内会議するという内容はありがちな設定でありますし、かつ両者を観れば実は2つの作品の作風は似ても似つかないことが分かると思います。

その理由は『脳内ポイズンベリー』が三十路の女性の頭の中で起こる脳内会議であることに対して、『インサイド・ヘッド』は会議というより感情を重きを置いた思春期前の性格を司る記憶と感情を主に置いたものであるからです。また『インサイド・ヘッド』は心理学や脳科学の研究成果を活用しているとのことで、記憶のメカニズムや人格を形成する5つの“島”などがあり、非常に興味深い内容になっています。

誰もが共感できる内容として抽象度が強い『インサイド・ヘッド』に対して、具体的で分かりやすい設定が描かれているが共感できる人が限られたものになっている映画が『脳内ポイズンベリー』かもしれません。ちなみに私は両者ともに大好きな映画です。

表があれば、裏もある。

「インサイド・ヘッド」の面白さは、ひとによりリーダーシップを取る感情が違うことです。そしてそのひとの性格を左右する大事な記憶、分野が島となって現れることにあります。初めは、家族、友人、おふさげ、ホッケーといったような島から、成長するにつれてそれが増えていきます。そしてそのひとつひとつに大事な記憶があるのです。そこに感情が詰まっています。

ヨロコビとカナシミという対極的な二人が脳内の司令塔から離れることで、少女の感情が無機質なものになるところが印象的です。表があれば、裏もある。どちらも優劣はなくて、大切なもの。ヨロコビもカナシミもその人にとって大事な感情で、それが記憶に残り、その人らしさへと形成されるのです。

「インサイド・ヘッド」の原題「Inside Out」は、「裏返し」という意味です。どんな大事な記憶だって、ヨロコビやカナシミがあります。そのどちらかを否定したりするというわけではなく、どちらも大切にしようとすることはいろいろな経験を積んだ大人が観てとても共感できる内容だと思います。

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「物事の裏側にある大切なこと」を考えさせてくれる2作品

子どもだけでなく、大人も楽しめる映画ということで「バケモノの子」「インサイド・ヘッド」をご紹介しました。どちらも表面的に物事を見るのではなく、その事象の”裏側”にある大切なことに対して掘り下げて考えせさせる内容になっています。きっと、これらの映画を見ることで、子どもも、そしてて大人もこの夏は少し皮がむけて成長できるのではないでしょうか。

さらに今週末は、「怪盗グルーの月泥棒」「怪盗グルーのミニオン危機一発」で異様な存在感で私たちを虜にしてくれるキャラクターを前面に描いた映画『ミニオンズ』も公開ということで、この夏さらに映画館は子どもだけでなく、大人にも楽しめる場所としてさらに”暑く”盛り上がりそうです。

 

※2022年8月29日時点のVOD配信情報です。

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