「今日も機嫌よくやんなさいよ」というセリフが個人的に印象的だった映画が『マザーウォーター』。
つい無意識に一日を過ごしてしまいがちですが、その日の終わりにただ「疲れた」と思ったり、なんだか虚しさを感じたりするより、「今日は心地よかった」と思えた日が多ければ多いほど、生きている充実感がありますよね。
『マザーウォーター』には、そんな風に機嫌よく過ごすためのヒントが散りばめられています。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】京都を舞台に日常の風景を切り取ったような物語
『マザーウォーター』は京都の大きな川や湧き水など、水が身近にある街が舞台。
そこにはどこからかこの地に流れ着いて、ウイスキーしか出さないバーを営むセツコ(小林聡美)、コーヒー店の店主・タカコ(小泉今日子)、豆腐を作るハツミ(市川実日子)が登場します。
ほかにも家具職人のヤマノハ(加瀬亮)や銭湯の主人・オトメ(光石研)、そこで働くジン(永山絢斗)、散歩する人・マコト(もたいまさこ)、そしてみんながお世話をする赤ちゃんのポプラ(田熊直太郎)の存在も。
劇中ではそれぞれの過去や背景は深く語られません。今この街にいて、この8人がそれぞれセツコのバーやタカコのコーヒー店、ハツミの豆腐屋やオトメの銭湯などで出会って、ただ何気なく語らう姿を描いています。そういった日常にありそうな風景を映し出している作品です。
ちょっとずつ人が変化する姿が丁寧に描かれている
だから一見、彼女たちは何も変わっていないようにも感じます。
だけど、最初はタカコとヤマノハの2人、オトメとジン、マコトの3人だけしか知り合い同士でなかった輪が次第に広がっていく様子や、ハツミの豆腐屋が今まで持ち帰りしかやっていなかったのに、いつしか店先で食べられるようになったり、いつの間にかみんながポプラの世話をするようになったり……。
ちょっとずつちょっとずつ、人が変化していく姿を丁寧に描いています。
それは、明日は今日予想していたものとはまったく違う日になるかもしれないけど、とにかく「今」をしっかり生きること。そうすることで昨日よりも今日、今日より明日のほうがさらに自分に合った環境に変わっていく……という人生訓のようなものを教えてくれている気がします。
機嫌のいい一日を送るために、常識は必要ない?
こうやって人が変化していくのと同じように、機嫌よく一日を過ごすには、「今」を大切に生きるのが肝心なんだと思います。
でも本作を観ていると、それと同じくらい、常識にとらわれることなく柔軟に物事を考えていくことも、機嫌のいい一日にするには必要な気がしてくるのです。
映画の中で、いつでもご機嫌なのが赤ちゃんのポプラ。そのせいか、みんながポプラの面倒をみたがります。機嫌がいいのは大人とか社会とか常識にとらわれていないからなのかも!?
そんなポプラのように、常識に縛られず生きている人がもうひとり。それがマコトです。
いつも自分の好きなところに出没し、ハツミに豆腐をその場で食べられるように提案したり、自分の気持ちに素直になれず悩むジンに「凝り固まっている」と叱ったり、柔軟に生きることで日々、機嫌よく過ごしているキャラクターです。
そうやってまわりの目や考え方を気にしないということも、その日一日を機嫌よくするコツなんだとひしひしと伝わってきます。
水のように流れて生きるのが女性にとっての心地よい生き方?
このように一日を機嫌よく過ごすコツがわかる『マザーウォーター』ですが、心地よい生き方をも教えてくれているように感じます。それを象徴しているのが、どこからともなく京都に居着いたセツコ、タカコ、ハツミの3人が語らうところ。
そこでは、ハツミがセツコへこのままこの地にずっといるのかを問うのですが、「先のことはわからない。ただ今はここにいる。それでいいんじゃない」とセツコは答え、タカコもそれにうなずきます。
本作では、タイトルにも「ウォーター」と入っている通り、川や湧き水、銭湯など水に関わるシーンが頻繁に登場します。今はその場にいたとしても、人間以外の主役である「水」のように、流れに任せて場所や行動を変えてみるのも、女性が心地よく生きるための手段だと伝えたかったのかな、と、深読みですがそう思えるのです。
作品の雰囲気自体はとても穏やかでまったりしていますが、観れば観るほど心に染み入る言葉やシーンが見つかる映画。ちょっとつまずいてしまったときや、生き方に悩んだとき、そっとヒントをくれるかもしれません。
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