本年度のアニメ話題作!『夜明け告げるルーのうた』を生み出した日本が誇る天才、湯浅政明監督に迫る!

2017.11.19
映画

映画も音楽も本も好き。

丸山瑞生

昨今、日本のアニメーション作品の人気は目覚ましく、昨年ならば『この世界の片隅に』や『君の名は。』などの話題作が公開。これらの人気は日本だけにとどまらず、海外に波及するほどの勢いです。宮崎駿や高畑勲、押井守など、日本のアニメーションは海外でも人気なのは言わずもがな。もはや、アニメーションと実写作品を区別するのは野暮でしょう。

そして今年も、2本のアニメーション作品が注目を集めました。ひとつは、森見登美彦原作の奇想天外な京都での出来事を幻想的な映像で描いた夜は短し歩けよ乙女。もうひとつは、寂れた漁港を舞台に主人公の少年・カイと人魚の少女・ルーの交流を描いた夜明け告げるルーのうた。これらのふたつの作品を手がけたのが映画監督・湯浅政明です。

夜明け告げるルーのうた

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抜群のオリジナリティと、非常に作家性の強い作画と演出、色彩感覚。上述のふたつの作品はもちろん、のちほどにご紹介する『マインド・ゲーム』でもこれまでのアニメーションらしさを覆す描写が目立ちます。
また、テレビアニメを手がけることもあり、松本大洋の同名漫画を忠実に描いた「ピンポン THE ANIMATION」や、手塚治虫的なタッチのキャラクターと絵本に迷い込んだ世界観が新鮮な「カイバ」など、どちらも「アニメーション」というジャンルの新たな表現方法を切り開いた作品たちです。

今回は、湯浅政明監督の映画作品をご紹介いたします。

マインド・ゲーム(2004)

mindgame

ある日、西は初恋の相手・みょんと再会を果たす。彼女の案内で姉・ヤンの働く焼き鳥屋に向かうが、そこでみょんが婚約していることを知る。そのとき、借金取りのヤクザがお店に押しかけ、それに巻き込まれた西はお尻の穴から銃弾を撃ち込まれ、脳天破裂の無残な死を遂げる。しかし、現世に未練を残す西は神様の意志に逆らい、生還を果たすのだった。

あらすじを読んだだけでもぶっ飛んだ内容なのはおわかりでしょう。
湯浅監督らしいデフォルメの効いたキャラクターデザインと写実的な描写の融合や、今後の作品にも活かされるドラッグ的な映像は湯浅監督作品の魅力のひとつ。話は逸れますが、ドラッグ的な映像ならばディズニーの名作『ダンボ』の酩酊のシーンも有名ですね。子ども向けの作品にもかかわらず、トラウマを残しかねない描写は印象的です。

それは湯浅監督の特徴のひとつにも当てはまるかなとも思えます。子どもが楽しめるアニメーションを生み出す無垢な部分のおもしろさ、危うさ。コミカルなタッチの奥に潜む湯浅監督特有のゆるやかな毒は全年齢を対象に突き刺さります。また、湯浅監督の作品はキャラクターがこれでもかと言うほどに動くので、映像的なおもしろさも痛快。アクション映画に匹敵の躍動感にも注目を。

浮世離れな本作を絶妙な距離感に思わせる要因のひとつが声優で、主要なキャラクターの声は吉本の芸人がほとんど。たとえ、観る側が関西弁に馴染みがなくても、日本の土着的な言語が妙に親近感を湧かせます。本作はぶっ飛んでいますし、芸術的な側面も強いですが、関西弁はそれらを抑える緩衝材的な役割を担っているように感じられます。

湯浅政明監督の傑作で、入門にもベストな作品かと思います。

夜は短し歩けよ乙女(2017)

yoruhamijikasi

森見登美彦の同名小説が原作。後輩の少女・黒髪の乙女に恋心を抱く主人公・先輩。乙女との距離を縮めるべく、偶然を装い、その目に留まろうと先輩は奔走する。友人らには「外堀を埋める日々」と笑われ、肝心の乙女も先輩の気持ちには気づかない。しかし、ふたりは京都の奇人や変人との出会いを通し、奇抜な事件に巻き込まれる。和製アリスとも呼べる不思議な恋愛物語。

2010年に放映のテレビアニメ「四畳半神話大系」のスタッフが再集結で生み出された本作。監督・湯浅政明、原作・森見登美彦、キャラクターデザイン・中村佑介、音楽・ASIAN KUNG-FU GENERATION。それぞれの親和性が高く、さらに本作では主人公・先輩の声優には星野源を起用。一部のファンには垂涎の布陣でしょう。

原作では四つの季節を舞台に物語が描かれますが、本作ではすべてが一夜の出来事に集約。それを除けば原作にも忠実な作品で、アクの強いキャラクターたちが愛嬌たっぷりに動き回ります。前述の『マインド・ゲーム』の項でも触れましたが、物語が止まらないのはひとつの特徴かと思います。考える隙を与えないというか、ひたすらにそれぞれのキャラクターが自由。アニメーションの奔放さと豊かさが表れているなと思います。

また、本作の兄弟分とも言える「四畳半神話大系」も同様ですが、どちらも京都を巡りたくなりますね。下鴨神社で催される古本市や、京大を思わせる大学、進々堂などの喫茶店。一度でも京都を訪れたことのある方ならば、見覚えのある景色を映画のなかに見つけられるかも。森見さんの京都観光マップを片手に聖地巡礼もお薦めです。存分に京都を味わえる一品です。

夜明け告げるルーのうた(2017)

yoake

寂れた漁港の港町で、父親と祖父と暮らす男子中学生・カイ。両親の離婚がきっかけで東京から引っ越したカイは、両親に対しての複雑な思いを抱えながらも口に出すこともできず、鬱屈な日々を過ごす。ある日、クラスメイトの国夫と遊歩に誘われて人魚島を訪れたカイは、人魚の少女・ルーと出会う。カイは天真爛漫なルーと過ごすうちに自身の気持ちを言えるようになる。人間の男の子と人魚の少女が織り成す、ひと夏の物語。

アニメーション映画の祭典では、もっとも長い歴史を持つ「アヌシー国際アニメーション映画祭」。本作はこの映画祭の最高賞を受賞。『夜は短し歩けよ乙女』と公開時期も近かった本作ですが、当初はその陰に隠れていましたね。過去に日本の作品で同賞を獲ったのは、宮崎駿監督『紅の豚』と、高畑勲監督『平成狸合戦ぽんぽこ』のふたつ。大御所のお二方ですね。ちなみに受賞は22年ぶりとのこと。

湯浅監督の描く躍動感がここまで極まったかと思わせられる本作。人物はもちろん、生き物以外にも命を宿していると感じられるのが非常に魅力的です。とりわけ、海、水を用いた描写が素晴らしく、映像的な自由度はこれまでの作品からもわかるのですが、発想の奔放さに驚かされます。

本作のストーリーは明快です。少年と人魚の少女の心の交流と、そこから育まれる少年の成長。王道のストーリーと言えるでしょう。しかし、主人公・カイの置かれた状況や、そこで思い悩む彼の表情は痛切で、生々しい。現代的なドラマ性をはらんだ物語とも言えます。また、主題歌にも選ばれ、劇中でもカイたちが演奏する、斉藤和義の「歌うたいのバラッド」。これも物語にピタリとハマる名曲なので、ぜひ、一聴を。

さいごに

作家性の強い作品と商業性を兼ね備えた稀有な作家、湯浅政明
先日より『夜は短し歩けよ乙女』と『夜明け告げるルーのうた』はレンタルも開始。
ぜひ、この機会にご覧ください。

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  • ラン
    4.5
    湯浅政明さんの作画が好きなのでなんの先入観もなく鑑賞しました。 結論から言うととても感動しました。 可愛らしいところもあるし、友情や家族愛、恋愛も少し入ってたりして心が温まります。 人ってこうあるべきだなと考えさせられました。 1番良かったのは、音楽。恐れ多くも何気なく聞いて何となく知ってた音楽だったのですが、この作品を見て再度聴き直し、こんなにもいい歌だったのかと再確認しました。 何気ない日常であったり、何気ない音楽をもっと心で聴こうと思いました。 キャッチコピーの「君の"好き"は僕を変える」、改めて最高です。
  • Japo
    4.1
    おしゃれな世界観。 絵のタッチ。 音楽。 すごく好きな映画です。 借りぐらしのアリエッティや、崖の上のポニョのおしゃれ感が好きな方はどうぞ。
  • ゆみこ
    4.2
    自分の好きなものや自分が好きな人にきちんと”好き”と言おうと思った。 ルーの眩しいくらいの素直さに心打たれた。これはカイをはじめルーと関わった人物全てそうであったはず。だからこそその実直さを利用する人々に心苦しさと怒りを感じた。 湯浅ワールド全開、絶好調のこの作品は夏の夜に見る夢のような幻想的かつ刹那的な作品。好きなシーンを論ったらキリがない。 オープニングのタイトルバックからかなり惹きつけられるものがあったし、魅せ方の多様さに胸が踊った。 また、個人的な意見だけどユウホのツンデレうざったかった。アニメ作品のツンデレキャラってただただ腹立たしいしなんか苦手。 そして、カイがはちゃめちゃにタイプ。私的アニメ映画好きな男キャラランキング作ったら5位以内には入る。不安定な歌声がたまらん。好き。 あと、ワン魚!かわいすぎる。好き。
  • illマン
    4.1
    斉藤和義だった ノブっぽい声と大悟っぽい声の人おると思ったら本人やった
  • MelClearwater
    2.5
    『夜明け告げるルーのうた』のタイトルとポスターがいいなって公開時に思って密かに気になっていた作品。 "ワン魚"(犬魚)やべぇぇぇぇぇ!!!wwwww キモい?かわいい?どっちだよ!!(笑) ルーとカイの関係って兄妹みたいなものだと思っていたんだけど、見ていたらどうやらそうじゃないみたいで、少し失望してしまった。いや、ルーのキスはすごく可愛いんだけど「あ、そっちなのね…」って知ったときの喪失感。あの歳の差なら兄妹でいいじゃん!私はむしろ兄妹の関係を望んでいたよ!ありきたりなLOVEのほうじゃなくてさ! カイは一人っ子だから目の前に小さな可愛い女の子が現れたら妹にしたくなると思ったんだけど…。私自身が一人っ子だからカイ目線でルーを見ていて自然とそういう気持ちになった。でも、カイがルーにキスをしてもらったときの表情を見た瞬間、気持ちが離れてしまった。 たぶんここが最初のつまらなくなったきっかけ。 キャラクターも魅力的…なようでどこかで見たことがあるかんじ。この既視感が原因で上手く作品に入り込めなかった。 あと、主人公が暗い人間である必要はなかったと思う。ルーの存在がカイの性格にもたらした変化が微妙だったし、どちらかというと、カイが顔を下げて暗いかと思えば急に顔を上げて明るくなるのを見ると、単なる気分屋みたいに思えた。お母さんの件もあまり話に絡んでこなかったのもあって、もっとストーリーに影響させていたのならカイの性格に反映していたのに納得できたと思うんだよね。(『思い出のマーニー』の杏奈みたいに。) ルーの喋り方もポニョみたいにじゃなくて、もっと普通に喋っていても良かった。あと、ルーが登場したときは大騒ぎだったのに、ルーのパパが登場したときは全然そうじゃなかったのも違和感。ぜっったいパパのほうが見た目がヤバイ。そもそもパパが何をしたかったのかすらよく分からない。 この映画の中では先輩が好きだったかな!湯浅監督作品の女性の先輩っていいよね。 ストーリーも途中で間延びしていると感じてちょっと退屈になった。もう少し完結にまとめてくれたら良かったのにな~。脚色は珍しくても根っこはどこかで聞いたことがあるようなお話で新鮮味に欠けていたし。他にもいろいろ矛盾を感じたところがあったんだよね。書いたらキリがなくなりそう。 それと、これを言ったら本当に申し訳ないんだけど主人公の歌が下手…だった。これはもう歌自体の好みもあると思う!こういう歌にはこういう歌い方が良いんだよね、きっと! 私は今まで湯浅監督作品を見てきて、監督らしい世界観が気に入っていたんだけど、今回はその"らしさ"をあまり感じることができなかった。 結論としては、物足りなさが残る映画でした。なんだか批判ばっかりになってしまいすみません。 でも、お爺さんの傘がいくつかの小さな伏線になっているのは良かった。ラストの商店街のカラフルな傘はとても綺麗だった。 あと、タイトルとポスターはめっちゃ好きです…! 最後はあそこまで言ったんだから…ねぇ!ねぇ!ねぇ!?
「夜明け告げるルーのうた」
のレビュー(4849件)