映画『光』、出会うべくして出会った井浦新×瑛太「お芝居の究極の楽しみを味わってしまった」【ロングインタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

井浦新&瑛太

モデルとしてデビューし、俳優に転身という道をたどった井浦新。その背中を瑛太が見て歩いてきたことを想像すると、こうしてふたりが並ぶことに感慨深いものがある。初共演となった当人同士も、かなり熱の入った思いだったそうで、井浦が「僕は瑛太くんとの共演を熱望していた」と言えば、すかさず瑛太は「いつかご一緒できたら、思いっきりすごいことが起きちゃうんじゃないか」と思っていたと返し、やがて「お芝居の究極の楽しみを味わってしまった」という表現に昇華された。一緒にいられたことの喜びを隠さない、ふたりによる運命的な共演作『』は、ほとばしる愛が憎しみに変わるという人間の狂気、おぞましさなども浮き彫りにし、映画の持つ表現の多彩さを存分に堪能できる作品だ。インタビューでは、両者が互いの話に聞き入っては、ときおり見つめたり、微笑んだりと、わずかな時間さえ愛おしそうに共有していた。そのすべてを伝えたい。

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――おふたりは共演を熱望されていたとお伺いしました。元々のイメージやご一緒されてからの変化などがあれば、お聞かせください。

井浦:僕は共演する前までは、勝手なイメージで瑛太くん像を膨らませていました。共演して、それこそ会話をしたり一緒に酒を呑んだりする時間が生まれてから、より瑛太くんへの興味が湧いて。役者としての居方、人間性などの魅力もあり、本当に大好きな人間です。

瑛太:僕は昔から、やっぱり新さんはカリスマ……。

井浦:カリスマ(笑)?

瑛太:雲の上の方だったので。

井浦:作っているでしょう?

瑛太:いえいえ(笑)。本当に、いつかご一緒できたら、思いっきりすごいことが起きちゃうんじゃないかなっていう期待を、僕が勝手にずうっと持っていたんです。新さんのお仕事に対しての向き合い方や、好きな点ひとつひとつが、一緒に共演してみて、より立体的になりました。いろいろな側面が見られましたし、物事をものすごく深いところまで見つめる方だな、と。誠実で格好よくて、尊敬という気持ちです。ある側面では本当に触れてはいけないような狂気を持っていて、冷徹な部分もあるなって(笑)。

井浦:(笑)。

瑛太:見ちゃった感じはしました。

――瑛太さんは、お芝居していく中で感じられたんですか?

瑛太:そうですし、できあがって僕が一緒に出ていないシーンを観たときの新さんの表情もそうです。そういう意味で、怖さもあるなと。

――おふたりのシーンで、輔(瑛太)の首を信之(井浦)が絞めるシーンが、井浦さんのアドリブだそうで、驚きました。

光

井浦:一番びっくりしているのは(首を絞める行為をした)自分自身だったりもするんです。そういうことが「生まれてきたな」と思いました。僕は瑛太くんとの共演を熱望していたんですけど、それが「やっぱり間違いではなかった」という確信を持ったところでもありました。自分が生んだというより、瑛太くんが演じる輔によって生まれてきてしまったところがあり、それが楽しみだったりもするので。瑛太くんも、そう思ってくれていたらうれしいけど。

大森(立嗣)監督のもとでふたりでやるからこそ、1回しかできないことって絶対にあると信じていたんです。それがしたくて、ずっと毎日現場に楽しみに行っていた状況でした。あのときも、自分がこうしたいという気持ちよりも、瑛太くんがやる輔の芝居を感じていると、自然と体が動いた……うん、動かされました。

瑛太:新さんとのシーンは何が起こるかわからない状態で、やっていました。あとは本当にそれを感じるだけで、反応したな、と。あのシーンには喜びも悲しみもあるし、「これが愛なのかもしれない」ということも感じたし。正直、大森監督が書いた脚本の文字から生まれてくるイメージより、より複雑でいろいろな思いが詰まったシーンになっています。とてもよかったと思いました。

――本作ならではの初体験は多かったんでしょうか? 今のお話も、まさにそのひとつだったのかもしれないのですが。

井浦:技術的なことよりも、自分と撮影しているときの瑛太くんとのシーンは、「人間じゃなくなっていっているなあ」って。本当にこの作品にもリンクしてくるんですけど、動物っぽかったんです、自分自身が。何かに対して、相手のお芝居をちゃんと受けて、それに反応していくという感覚が人間の反射ではなく、動物の反応になっている感覚がありました。そういう意味で、役に引きずられてというより、自分の内側から動物的になっていっているんです。いわゆる凶暴さということではなく、動物が自分を守るためにかみ殺してしまうような。

反対に、そうして本能的にならないと、乗り越えられないようなシーンや現場でした。ここまで自分の本能のままにいられるのは、何て幸せなんだろうとも思いましたし。本能のままで虚構の中に飛び込んでいき、瑛太くんと芝居しているときは、それが本当のことになっていって……、と。その感覚を、自分自身が本当に喜んでいました。じゃあほかの人とほかの現場で同じことができるかと言ったら、まあできないな、と。それは自分の中では、この作品でしか絶対に味わえなかった経験です。

瑛太:僕は、お芝居はやっぱり楽しむものだと思っているんです。『』では、その究極の楽しみを味わっちゃったな、という感じはありました。計算とか頭で考えて「こうしていこう」というのを超えたところにいけたというか。もちろん、同じような体験をしたこともあるんですけれど、すべてのシーンにおいて、その快楽を得てしまった感じです。やっぱり新さんがいたからこそできたことであって……、僕はずっと胸騒ぎがしていました。「やっぱりこの役は面白いな」と思ったので、できたことですかね。

井浦新&瑛太

――おふたりと対峙する幼なじみの美花役・長谷川京子さん、信之の妻の南海子役・橋本マナミさんも非常に熱量が高かったです。初共演の感想も聞けますか?

井浦:僕は役柄上、おふたりとお芝居をする機会をいただけたんですが「女優は怖いなあ……」と思いましたね(笑)。とにかく、僕はふたりに飲み込まれないようにしないといけない、と。おふたりは全く違う女性像を、それぞれまとっていてくださいました。

京子さんは、難しい役だったと思います。幼少期も描かれているからこそ、信之、輔と同じような立場で、言ってみれば本来、自分らと同じ熱量を持ってそこにいないと、3人のバランスも崩れてしまうんですよね。撮影日数が4人の中で一番短いという現実的なところもある中で、よくあそこまで一気に仕上げたなと。僕と瑛太くんは感じ合いながら作っていきましたが、京子さんの場合は、作ってきたものをさらに現場で壊しながら美花になっていく作業だったと思います。少し違う温度差だから、人形のような心を持っている者として、ちゃんと見えたんだろうなと。そぎ落としていく作業とでも言うんでしょうか。あとは、現場で大森監督の演出を受けて、答えをどんどん出していく姿が大変そうでしたけど、それごと楽しんでいるようにさえ感じました。

橋本さんは、正直、映像がつながってみて本当に驚かされました。家族3人でいるときの顔と、輔といるときの顔が全く違う……。現場で家族の話を撮っているときにも、輔とのシーンは撮り終えてはいるのに、そんな匂いさえも全く感じず母親としている姿というのは「すごいなあ……」と唸りました。あと、橋本さんは真面目なんです。すごくしっかりとお芝居のことを考えて、ちゃんと緊張してそこにいて。ひとつひとつを悩みながら、感じながらやられている姿が、すごく印象に残りました。芝居ではなく生活感に落とし込んでいくところも、自分の中に落としていくように考えられている姿を見て、本当に真面目なんだなと。

井浦新

瑛太:僕は橋本さんとのシーンだけです。橋本さんは、「初めまして」でお会いしたとき、急に僕に質問をしてくださったんですよ。「瑛太さんは役柄を実生活に引きずり込んでしまうタイプですか? それともオンとオフで切り替えられる人ですか?」と。「初めまして」で、そういう話を女優さんとしたことがないので、そのときに、僕は橋本さんの作品に対する情熱をすごく感じました。

――今お話された役を引きずる、引きずらないという話に関して、瑛太さんはどう考えていますか?

瑛太

瑛太:数年前まで、役作りとかいろいろ考えたりもしていたんですけど、今は「瑛太という人間が輔だから」という解釈です。役っていうのは、たぶん僕がその作品に携わると決まった瞬間に、その役なんですよね。だから僕は現場に行けばよくて、行ったら役なんです。だから、僕は何もないんです。現場が終わって家に帰っても瑛太だし、現場に行っているときも瑛太でいるだけというか。そのときに僕が何をするかが役、という捉え方です。スイッチのオン、オフに関しても、現場に行ったら勝手にオンにされているんです。

――井浦さんは、いかがでしょうか?

井浦:そうですねえ……。僕も引きずる、引きずらない、オン、オフとかは全く意識しなくなりましたね。昔、デビューして10年くらいは、「引きずるほどまで役にのめり込むことが正解なんじゃないか」と思いこんだりしたときもありました。そんなことを思わなくても、引きずってしまって、ほかの仕事ができなくなっちゃうときも昔は、あったんですよね。「役を落とすために呑もう!」なんていうときもあるんですけど、落ちるわけもないので。だから、今となっては、僕は日常というものがちゃんとあるということが、ひとつ大きな支えになっているんだろうなというのが間違いなくあります。例えば、人を殺したり、殺される撮影をしていると、心が高揚している状態ではあるんですが、家に帰れば変わらないしっかりとした日常がある。逆に、今その日常がなかったら危なかっただろうなとも思います。部屋を真っ暗にして端っこのほうでブツブツ言っている可能性、ありますからね(笑)。

いただいた信之という役でも、その役から感じたことを捨てる、落としていくというよりも、ここまでやったならば自分の栄養にしちゃえばいいんじゃないかと思うんです。食べ物と一緒というか、食っちゃって、カスは自然と出てくるから、と。そういう食っちゃうという感覚になってきているから、引きずられるとかは、今となっては悩むところではなくなったりしています。引きずっているならそれでいいだろうし、うまく次の役への力となる一滴に絞り出していればいいんじゃないかなと。かといって、同じことは二度できるわけではないので。

光

――本作はローマ国際映画祭のオフィシャル・セレクションに公式招待され、上映されました。現地に行かれた井浦さんは、直で反応を受けていかがでしたか?

井浦:ローマでは、若い方たちもいるんですけど、客層で目立ったのは50~60代の年齢層の高い方でした。しかも、ご夫婦で来られているんです。ローマという、歩けば何か芸術があるような環境の中で育った方たち―そういう人生を持つ方々が、『』を観たときに第一声に何を言うんだろうか、と僕はワクワクしていました。上映終了後、僕が入り口のところに立って観客を送り出していたんです。そのときに、皆さん、何か一言かけてくださるんです。印象に残ったのが、まず「strong」という単語。作品の持つ強さを素直に伝えてくださった。あと「beautiful」と男性も言ってくださいました。この映画の持つ芸術性というものが、芸術が豊かにある土壌で育ったローマの方たちに、だからこそしっかりと伝わったんだろうなと。

また、『』の中にはローマ帝国の創始者にまつわる神話のモチーフが入っていて、オオカミの乳を飲む双子の赤ちゃんの銅像が、信之の家の近くにドンと捨てられている場面があるんです。そこも、もちろんしっかりキャッチされていて。よりこの作品が、ローマの人たちには何を言いたいのかとか、信之と輔の関係というものがどんなものかも、ちゃんと伝わっているんだろうなと感じていました。

――そうした反応に関して、大森監督とお話をされたりしましたか?

井浦:うん。しましたけど、監督はそりゃあうれしそうでしたね。正直、監督が一番感想にドキドキしているわけで、ご自身で「とんでもないものを作っちゃった!」と言っているくらいですから。そういう意味では、監督が作ったとんでもない映画の感想に「strong」や「beautiful」とおっしゃっていただいて、拍手をいただくのは、言葉多くなく喜んでいました。

井浦新

――井浦さんから「芸術性」というキーワードも出ましたが、『光』は演技はもちろん、音楽や色彩の豊かさ、編集などまでインパクトが強く、映画でありながら、総合芸術のような印象さえ受けます。瑛太さんは、作品をどのように感じていますか?

瑛太:こうした取材を受けていても、「『』というタイトルに対してどう思いますか?」「この映画にとっての『光』って何ですか?」という質問がありました。明確な答えは考えても、考えても見当たらないんです。そういった答えのない面白さがあるのかな、という気がします。観ていただいた方、皆さん、それぞれで全然着眼点が違うんですよね。感想が絶対に一致しないというか(笑)。「あのシーンで感動したよね」とか「こういうメッセージがあったよね」という映画ではない。観てはいけないものを観てしまった、とでも言うんでしょうか。それでも「衝撃的だった」という言葉は、よくいただけています。

瑛太

』は感情移入する映画でもないし、たぶん内側に入ってくる映画だと思うんです。自分はじゃあ何のために今生きていて、何をしているのか、みたいな。そういう恐怖が心の内側に迫ってくるような映画だと思います。やっぱり芸術って衝撃的なものであってほしいと、純粋に思うんですね。観たことのないものを観てしまう、新しいものを観ることはすごく大事だと思うので。僕はそういう新しい感覚が皆さんに届いたらいいな、と思います。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:鈴木久美子)

映画『』は11月25日(土)より、新宿武蔵野館・有楽町スバル座ほか全国ロードショー。

光
(C)三浦しをん/集英社・(C)2017『光』製作委員会

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