Green DayやMaroon 5など名だたるミュージシャンのミュージックビデオを撮ってきた手腕を発揮し、満を持して初監督を務めた『(500)日のサマー』がクリーンヒットを放ったマーク・ウェブ監督。その後、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズでは、洒脱な映像と華麗なアクションを融合させるセンスを見せつけ、全世界に名を轟かせた。そして、2017年『gifted/ギフテッド』ではファミリードラマというジャンルに挑戦。
生まれてすぐに母親を亡くした7歳のメアリー(マッケナ・グレイス)と、叔父で独身のフランク(クリス・エヴァンス)による生活を、マーク監督の優しい目線によって穏やかに紡ぐ。メアリーの持つ特別な才能=「ギフテッド」とどう接するかという課題は、子供を育てていくことの難しさ、そして愛おしさを存分に感じさせてくれる。来日したマーク監督に、自身の「ギフテッド」について単独インタビューした。
――屈強なイメージが強いクリス・エヴァンスが、繊細で惑うフランクのような役にハマッたことに、まず驚きました。彼の俳優としての真価を引き出したような気持ちはありますか?
クリスはすごく多様で、思慮深い俳優なんです。「キャプテン・アメリカ」シリーズでも、すごく頑張っていると思うんですよね。あの役をあれだけ真面目に演じるのは、なかなか簡単にできることではないですし。そういう意味で言えば、「アベンジャーズ」シリーズでクリスと一緒に出演しているロバート・ダウニー・Jrやマーク・ラファロ、スカーレット・ヨハンソンなど一連の人たちは、そもそもがすごい役者だと思っています。
俳優って、いろいろなイメージを引きずって作品に出るものだから、クリスの場合は、「ストイック・マッチョ・強い男」といういいイメージを、この映画にもたらしている。それによって、フランクの葛藤がより鮮明になっていきました。
――具体的には、どういうポイントですか?
フランクは、当初、メアリーに対して感情を表現しなかったり、あえてちょっと距離を置いて冷たく接したりしているじゃないですか。そういうところは、うまく出たなと思います。あと、フランクのような役は、特にしゃべり方がおかしいとか、何か歩き方が変とかいう特徴もないでしょう? そこを、自然でどこにでもいるような男というふうに、すごくうまく演じている。「子供の面倒でちょっと困っている若い男」という感じを出すのが、よりナチュラルだったと思います。俳優として何かの特徴にしがみついて、それに頼る役作りでないことは、やっぱり彼の自信の表れなんでしょう。
――メアリーのような「ギフテッド」な子供を、天才として伸ばすか、普通の少女として生活させるか、親なら誰でもフランクと同じように迷うと思うんです。マーク監督はどう考えていますか?
フランクは、そもそもメアリーにいろいろなことを強いていて、「自分の思い通りにさせたい」というところがありすぎると思います。例えば、「学校でこう振る舞え」と言い、その通りにできないと怒ったりしますよね。そして、段々、彼もそれはいけないと学ぶ。子どもは「ギフテッド」でも「ギフテッド」でなくても、どんな子供もユニークなので、育て方も変わってくると思っています。ただ「ギフテッド」の子供たちは特別なニーズがあるから、例えばちゃんと能力に合った教育をしてあげないと、往々にして周りがつまらなくなったり、引きこもってしまったりする。あまりにも周りの子より頭がいいので、社会的な能力がなくなってしまうんですね。友達を作ったりとかも、ちゃんと導いてあげないといけない。大人がしてはいけないことはひとつで、大人の思い通りにしないということです。「うちの子は天才で、頭がよくて、試験でこんないい点数を取った」と周りに触れ込むのは、大人の傲慢さですから。それを求めてはいけないことは、言えると思います。
――マーク監督自身の「ギフテッド」は、やはりものを作ることだと思います。その源は、どこからきていると分析しますか?
Aaaaa…Mmmm……、そうだねえ~……。僕は決して宗教心が強いわけではないことを最初に断っておきますが、教会に行くと、ひとりではないという感じがするんです。若い頃に、教会に行くのと同じような気持ちを、劇場で映画を観ると感じました。孤独感が薄れるというか、連帯感が生まれてくるというか。自分自身が、その感情を再現したいと思ったし、お客さんにもその感情を僕の映画を通して感じてもらいたい、と思ったんです。その寂しくなくなる感じが、ものを作る源なのかもしれません。あと、映画作り以外は何もできなくて(笑)。ほかのやり方を知らないから、映画を作っています。
――そうしたお話を聞くと、さらに次回作が楽しみです。構想はありますか?
まだわからないんです。僕が次に何をするか、教えてくれない(笑)? もしかしたら次は日本で映画を作るかもしれないですしね。
――日本のことをどうご覧になっています?
僕にとっては、すごくミステリアスな国です。アメリカでもカズオ・イシグロさんや村上春樹さんなどが有名だから、皆も読んで楽しんでいたりはしますよ。共通点もありそうと思いながらも、こうやって来ると、いい意味での違和感があります。ヨーロッパに行くのとは全然違う。街を歩いていても看板が読めるわけでもないし、全く異質の世界に入りこんだような気持ちになるんです。でも、そういう意味ですごく興味があるかな。
――様々な国を訪れていると思いますが、それぞれで全く違う印象なんですね。
こうやってプロモーションで訪れて、2~3日しかいられないと全然謎でよくわからなくて、すごく複雑なんです。わかるためには何年もかかるかもしれないし、もしかしたら永遠にわからないかもしれない。それぞれの国が違うことは、すごく感じています。とはいえ、どの国の人たちも、例えば恋に落ちて、両親との葛藤があったり、基本的なことは同じなんですよね。そう思っています。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:市川沙希)
映画『gifted/ギフテッド』は11月23日(木・祝)より全国ロードショー。
(C)2017 Twentieth Century Fox
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