悲喜こもごもの庶民の日常を、独特のテンポとユーモアあふれる詩情で描きつづけるフィンランドの巨匠、アキ・カウリスマキ監督の最新作『希望のかなた』は、欧州が直面する難民問題を切り口に、不寛容になりつつある現代に、ちょっとしたユーモアと人情でささやかな抵抗を試みる映画です。
カウリスマキ監督らしい、暖かさと乾いたユーモアが満載で、観る人全てに希望を与える人間讃歌です。
シビアな難民問題にユーモアで切り込む
カウリスマキ監督作品の最大の特徴は、独特のテンポから発せられるユーモアあふれるシーン。無表情で仏頂面、一見とっつきにくそうに見える登場人物たちが、真剣なのにどこかおかしな行動を取る様に、笑顔にさせられ、観ているこちらはいつしか親近感を覚えるようになります。
前作『ル・アーヴルの靴みがき』につづいて、難民問題というシビアな題材を扱っていますが、カウリスマキ監督は厳しい問題設定の中にも決してユーモアを忘れていません。むしろ不寛容が覆う時代だからこそ、こうしたユーモアが一層大事なのだと言っているかのような、そんな力強くも温かい作品です。
■相変わらず、アキ・カウリスマキは物語の引き際をわきまえてる。 落語のように見事なものだった!だけど、いつもと違うのは、 映画が終わった後、ホッと胸をなでおろすんじゃなくで、くちゃくちゃに泣いてしまったこと。(HELLnoFujiさん)
■アキ・カウリスマキの魅力は独特の間や、音楽及び色合いも含めたオサレ感や、人間に対する見立てだけでなく、過剰でないことにもあると思う。(arunenokotoさん)
■今回もカウリスマキの“芸風”はいかんなく発揮されていた。難民というヘビーなテーマながら、無駄のないシンプルかつ程よい寓話性。そして浮遊感のある独特のおかしみと哀愁で、観客をぐいぐいカウリスマキワールドに引き込んでいく。(kane0919さん)
人が人を助けるのに理由はいらない。それが人情
酒浸りの妻と別れ、友人もいないヴィクストロムは、ある日行き倒れていたシリア人難民、カーリドを無条件で雇い入れます。決して儲かっているわけではないレストランで、しかも難民認定を受けていないカーリドを受け入れるのはリスクだらけでメリットはありません。
優しくする理由などなにもないのに、ヴィクストロムも、レストランの従業員も警察が来た時には一致団結して彼を匿い、カーリドの妹が見つかった時も彼女の入国を何も言わずに助けます。人が人を助けるのに理由はいらない。それが人情であり、人としての自然な振る舞いなのだと言わんばかりのカウリスマキ監督の演出は、本当の人情とは何かについて考えさせられます。
■物理的に満たされた日本人が忘れた満足がある作品でした。 きっと自分が思っているほど我々は一人じゃないし不幸でもないし、幸せなことも楽しいことも見落としているだけである。鑑賞後、そんな満たされた気持ちになります。(pandaopenさん)
■シュールな世界観と絶妙な間合い。表情は無いが心がある。省略の美学。また見返したくなる味わい深い作品でした。(rieko03549さん)
カウリスマキ監督の日本愛
カウリスマキ監督といえば、小津安二郎監督を敬愛し、大の日本びいきとしても有名。過去には『過去のない男』でクレイジーケンバンドの楽曲を使用したこともありますが、本作でも監督の日本愛が感じられるシーンが登場します。
レストランオーナーの主人公、ヴィクストロムは店の売上向上のため、唐突に寿司の提供を初めるのですが、従業員一同ハッピを着て、素人作りのおかしな握り寿司を振る舞うシーンは作中随一の爆笑シーンとなっています。
かつては来日のたびに渋谷の寿司屋に通いつめていた監督の、日本食、そして日本への愛が垣間みられます。
■音楽がかっこよくて、日本の古い歌も合ってるんだか合ってないんだかよく分かんないけど、しっくりくるのが不思議。(tanio523さん)
■遠く離れたノルウェーだけど、そこかしこに日本が出てくる。観たらわかるけど、本当にそこかしこ…笑それもまた感情移入しやすくて良かったな。(animatonさん)
「希望のかなた」はある意味“ヒーロー”もの
試写会上映終了後、トークショーを開催。イラストレーターでエッセイストの石川三千花さんが劇中内に登場する前掛けを着用して登壇されました!
開口一番に「レストランにジミヘンのポスターがあるのがすごい気になって。相変わらずカウリスマキの場末感はいいですよね。以前よりも社会的なメッセージがこめられるようになったけど、それでも『希望のかなた』は政治的なところにいかずに、いい塩梅でいつものカウリスマキ節が出ているからスゴイ好きなんです。相変わらず寡黙でクスッとするような感じとか、カウリスマキの良い感じがある映画ですね。」とコメント。
80年代カウリスマキがデビューし注目されたころから追い続ける石川さんがその思い出を語る場面では
「カウリスマキは80年代にジム・ジャームッシュと一緒に出てきて、二人ともポジティブな世の中に対してそこからはずれている人たちが映画に出てくるんだけど、カウリスマキの方はつつましやかだけど小さな幸せを描いている。貧しいけど清く正しく美しく生きている人たちが出てきて、見るとほっとするんです。カウリスマキ作品はずっと見続けているけど、決してメインストリームにはいかない。でもアメコミみたいなスーパーヒーローだけじゃなくて、たまにはこういうのも必要ですよね。」とアキ・カウリマスキが描き出した新たなヒーロー像と例えました。
またカウリスマキ映画には必ず出演する、監督の歴代の愛犬については
「毎回犬が出てくるけど、犬もいわゆるハリウッドのようなメジャー作品に出てくる犬と全然違うのよね。犬タレとは全然違う。人情味の溢れる犬なのよね。」
と『希望のかなた』だけでなく、監督・カウリスマキの愛犬の魅力についてまでたっぷりと語っていただきました。
■鑑賞後にイラストレーターの石川三千花さんによる、トークイベントがあった。 ちょっとした小ネタも聞けて、得した気分。(focenokanom0198さん)
■トークショーで、石川三千花さんにお薦めいただいたアキ・カウリスマキ監督の『浮き雲』など、今度ぜひ観てみようと思います。(masalemonさん)
優しさとユーモアたっぷりな小ネタが詰まった『希望のかなた』は12月2日より全国ロードショーとなります。
◆映画『希望のかなた』 information
あらすじ:シリア難民の青年カーリドは、北欧フィンランドの首都ヘルシンキに流れつく。彼の願いは“いい人々のいい国”だと聞いたここフィンランドで、生き別れた妹を見つけて暮らすこと。しかし難民申請は却下され、街中では理不尽な差別と暴力にさらされてしまう。そんな彼にしがないレストランオーナーのヴィクストロムは救いの手をさしのべ、自身のレストラン“ゴールデン・パイント”にカーリドを雇い入れる。世間からすこしはみ出たようなゴールデン・パイントの店員たちもカーリドを受け入れはじめた頃、彼のもとに妹が見つかったという知らせが入るのだった…。
上映時間:98分
2017年12月2日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー!
配給:ユーロスペース
公式サイト:http://kibou-film.com/
(C) SPUTNIK OY, 2017
※2022年11月26日時点のVOD配信情報です。