賞レース常連女優ジェシカ・チャステインが『ユダヤ人を救った動物園』で演じた、愛と信念で戦うヒロイン像を語る!【インタビュー】

2017.12.14
インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

2000年代、『トゥームレイダー』のアンジェリーナ・ジョリーや、『チャーリーズ・エンジェル』のキャメロン・ディアスに代表されるように、長い手足でバシバシと輩たちをスタイリッシュに投げ飛ばすような、強い女を演じられる女優たちがハリウッドで脚光を浴びた。2010年代では、屈強さに知性も光るような新たな強い女像へと群衆は憧れをアップデートし、『ゼロ・ダーク・サーティ』でCIA女性のマヤを演じ、その年の米アカデミー主演女優賞ノミネートほか、数々の女優賞で話題をさらったジェシカ・チャステインこそ、新世代のそれとなった。

ジェシカ・チャステイン
撮影奥野和彦

タフな女像を多く寄せられることについて、自身と照らし合わせたジェシカは「実際の私は『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』で演じたアントニーナと、『ゼロ・ダーク・サーティ』のマヤとのちょうど間くらい」と、チャーミングにインタビューで語った。実在した非凡な女性アントニーナの誇り高き精神を胸に演じた最新作『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』では、腕っぷしの強さとは異なる、深い愛が現実を動かすという表現に挑戦している。初来日したジェシカに、まるで天国だと語った撮影現場での出来事にくわえ、演技をする上での信条、現在ハリウッドで浮かび上がる問題まで、様々なことを聞いた。

――ジェシカが演じたアントニーナは、自分や家族を危険なところに置いてでも、ユダヤ人を守ろうとする高潔さを感じる女性でした。どのように演じていこうと考えましたか?

アントニーナが愛と思いやりを持っていたからこそ、演じたいと思いました。メディアは、人の命を救うような剣を持ったヒーローイズムばかりにフォーカスを当ててしまうときがあるけれども、彼女は愛と思いやりをツールとして戦ったわけです。そこに、すごくインスピレーションを受けたことと、歴史に忘れ去られた彼女を祝福したい思いがありました。だって、とてもフェミニンな力で戦うことができた人物ですからね。

彼女のような素晴らしい人物を演じるとなるには、やはりリスペクトの気持ちは大きくて、ワルシャワや舞台となった動物園にも行きましたし、彼女が住んでいた家にも行きました。娘のテレサさんにお話を伺えたのも大きかったです。原作ももちろん読み込みましたし、できることは何でもしました。

ユダヤ人を救った動物園

――出演したことで、何か新たに発見したことはありますか?

発見したことといえば、アントニーナは毎日生き物をケアしているわけだから、ズボンを履いていたり男性のような格好をしているものだろうと勝手に想像していたのですが、彼女がそのような格好をしたことは一度だってなかったそうです。正直すごく驚きました。強さを持った女性=男らしいスタイルというステレオタイプなイメージが私の中にあったので、真っ向から違うところがすごくワクワクしました。こんな偉業を成し遂げた女性なのに、そこまでの柔らかさを持ち、フェミニンな女性だったなんて、ね。アントニーナはマニキュアも口紅も好きだし、ドレスもとにかく好きだったそうなんです。女性的な柔らかさや感受性の豊かさみたいなものを持ちながら、強くもあれるというキャラクターになったと思っています。

――フェミニンさはとても感じるところで、ジェシカのこれまでのイメージとはまたガラリと変わっていますよね。

そうよね。例えば、『ゼロ・ダーク・サーティ』(マヤ役)とも、『女神の見えざる手』(エリザベス役)とも、今回演じたアントニーナとは違うタイプの女性像でした。強いて挙げるなら、『ツリー・オブ・ライフ』(のオブライエン夫人役)が愛や品にあふれたキャラクターだったので、同じようなところからアントニーナを模索していきました。彼女の品格、人としてのすばらしさにつながりを見出すことで、キャラクターの柔らかい部分も見つけていくことができました。

ユダヤ人を救った動物園

――ご自身のタイプは、どれかに当てはまります?

正直なところ、私はあまりアグレッシブなタイプの人間ではないんです。アントニーナとマヤとのちょうど間くらいじゃないかなって(笑)。

私ね、脚本を読むとき、自分の人生の中で実際に目にする女性像に近い女性に惹かれる傾向があるみたいなんです。だって、映画業界で描かれる女性像は「え、本当にこんな人……いる(苦笑)?」みたいに、ちょっと取り違えているところもあるし、残念ながらステレオタイプもとても多い。だけど、今回のキャラクターのような、フェミニンなヒーローイズムみたいなものは、とても惹かれます。映画に関わる上で、古風な女性、女性とはこうあるべきみたいなイメージを覆していく原動力になるような、現実に即した女性が描かれるようになればいいと思っています。

――本作では動物園が舞台なので、動物との演技も注目していて、百戦錬磨のジェシカにとっても初めての体験があったりしました?

It was in heaven for me(まるで天国にいるようだったわ)!! 生き物が大好きなんです。毎日、生き物たちと仕事ができるのは、贈り物のように感じました。

ユダヤ人を救った動物園

――動物と一緒にフレームに収まるためのポイントもありますか?

人と一緒で強制してはいけないことでしょうか。撮影前から、かなり時間をかけて仲良くなって、「自分といても安心していいのよ、決して傷つけないから」ということを知ってもらいました。彼らが自分に対して好奇心を持ってくれるのであれば、好きにさせてまず自分を知ってもらう。決して彼らのスペースに、こちらから侵入していってしまったり、何かエネルギーを押し付けることで怖がらせたり、絶対にしないように気をつけました。

動物たちとは、ゲームもたくさんやりましたよ。例えば、象のお産のシーンでは、産まれたての子象は実はお人形なんです。母親象のリリーは、人形には興味を持ってくれないんですよ。リリーはリンゴが大好きだから、私のアイデアで、リンゴをたくさん持ちこんで子象の人形のあちこちに隠したんです。そうすると、リンゴを探して子象に鼻を絡ませたりして、とてもいいシーンになったわ。リリーとはすごく仲良くなって、あるときなんか鼻で顔中を触られて、私はスライム(※鼻水)まみれでベッタベタになっちゃったの(笑)。でも、すごく貴重な経験でした。

――本作ではプロデュースにも参加されていますよね。なぜでしょうか?

1930年代のジェンダーの力学に興味がありました。夫婦の立場で見ると、物語の最初ではアントニーナの夫ヤンがすべての選択をし、彼女は指示を待っているようなところがありました。互いに危険を伴うそれぞれの役割を果たし始めたときに、当然ヤンは家を離れて外にいるので、アントニーナが家でかくまっている人々をケアしている。もし見つかれば、子供も含めて全員殺されてしまうという危険に、彼女は身をさらしていたんです。ほどなくして、ヤンとアントニーナは喧嘩をします。ヤンが「僕が毎日どんなことを経験しているか知らないだろう!?」と怒鳴ると、彼女は「あなたこそ!」と言い返す。私、あそこがすごく好きなシーンなの。あの場面を機に、物語の最後では、ふたりは平等な立場になります。また、アントニーナが子供のように指示を待っているだけの立場から、夫と平等な立場になることが、むしろ関係性をより健全なものに、素晴らしいものにしてくれるんだと学んでいく過程も、とても好きなんです。

ユダヤ人を救った動物園

――演技の信条にしていることがあれば、教えてください。

この業界に身を置くということは、共感力を身に着けるエクササイズとしても、本当に素晴らしいと感じています。いろいろな人物を演じることで、その人の人生、その人自身というものを知ることができる。そういう職業ってあまりなくて……、あ! もしかして記者のあなたもそうかもしれないわよね? ほかの人を取材して、その人の人生を知っていくんだから。

――ありがとうございます。そうでありたいと願います。

そうすることで、共感力が身に着いていくのではないかと思うから、人の経験、夢、希望、欲望、何を恐れているかを知ることができる。共感力を身に着けられることが素晴らしいと思っているからこそ、同じキャラクターではなく、いろいろなキャラクターを演じたいんです。たくさんの人生というものを知りたいから、共感力も得られると思う。それが映画界の素晴らしいところでもあると思います。

――最後に。今、ハリウッドではハーヴェイ・ワインスタインの記事に端を発し、セクハラ問題が明るみになっています。大きな変化が訪れる兆しなどを感じていますか?

おっしゃる通り、今、変化の兆しを感じてワクワクしています。ハリウッドに限らず、政治、ビジネスの世界でも同様なことが起きていますし。ひとつ思うのは、男性層が女性層の上にボスとしてあるという構造から、こうした権力だったり、セクハラやパワハラが産まれてくるんだと思います。それに対する施策として、女性層をよりリーダー的ポジションに置くのが有効なんじゃないかなと。自分たちは変わっていない、人間は学ばない部分を認識するというのが、まず第一歩ですよね。

今回の作品がいい例ですが、私がプロデュース兼主演、監督はニキ・カーロ(※女性)ですし、脚本家、原作者、スタントコーディネーターも女性だったんです。それでいて、現場は男性も女性もみんなハッピーだった。もしかしたら、職場も男性と女性の比率を平等にしていくと、みんながハッピーになるのかもしれないですね。(インタビュー・文:赤山恭子)

映画『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』は、12月15日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほかロードショー。

ユダヤ人を救った動物園
(C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

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  • Aki727
    4.0
    ユダヤ人が迫害されていた話は、これまでも何作か見てきたけど、何回見ても心にずっしりと後引く"考え"が残る。 悪化する戦況を、動物に触れながら観る側に伝えてくれるので、感情移入も2倍。 動物とこんなに触れ合う作品、時間をかけて撮ったのかな…と感じる場面も多くてそれだけで感動。 目の前の命、最善を尽くしたいがための行動、すれ違う考え、本当にどれも見ていて手に取るように胸が痛む… 子供が両手を広げて抱っこをせがんだ列車のシーンがなによりも1番グッときた。 エンディングで語るアメリカ映画は苦手だねど、実話で本当に良かったなあ、と思える。 薄っぺらい言葉になるけど、本当に罪のない人を殺めるのは絶対に良くない、と心にドシッと伝えてくれる映画。 …ポーランド行かなきゃ、と思った人も少なくないはず。 (…ジェシカチャスティンのアクセントにずっと感心…) それにしても邦題が気になるなあ…
  • R
    4.5
    2018.1.9
  • AkitoWatanabe
    4.0
    戦争モノだけど、特に難しくはなく、率直に言ってわかりやすくていい話。 ハラハラさせられるとこも多々あり、 飽きさせないストーリー。 ジェシカチャスティンはもちろんよかったけど、 なによりダニエルブリュールの、少しずつ憎たらしくなっていく演技がさすがだった。 ちょっと後半の話があっさり進んだ感はあったけど、全体的に良作かと。 個人的なハイライトは、夫のヤンが子どもたちを抱き上げて列車に乗せるシーンと、自分自身は助かるチャンスが何度もあったのに、子どもたちのために、そばから離れなかったおじいさんの信念。
  • dm10forever
    3.9
    【信念の人】 昨年「女神の見えざる手」を観て、一気にジェシカ・チャステインの虜になってしまったdmです。 今回の彼女も「信念の人」という、ある意味共通点のある役どころでしたね。ただ、エリザベス・スローンと違って、今作のアントニーナは知略も毒も持ち合わせてはいませんでしたが、ある意味では全ての命への慈愛に満ちた「女神」の如き女性でした。 先日観た「否定と肯定」でも描かれていましたが、特に近代のユダヤ人迫害(第二次世界大戦のドイツが顕著)は、吐き気がするほどの蛮行だと思っています。 ヒトラーがどうのとかアイヒマンがどうのとかそういうことではなく、人間が人間に対してここまで残忍になれたという事が信じられないのです。 だけど、今作を観て思った。戦争という非日常下においては「戦うことは生きること」と洗脳されるため、生きるために人を殺すことがいつの間にか正当化されてしまう。そして、それはいつしか「生きるため」という冠詞がなくなり「殺すこと」が日常になってしまうんだなと痛感しました。いや、そうだったと言って欲しい。 そうじゃなければ、笑いながら平然と人間を銃で撃てる人間なんていないって言えなくなるから。 映画の冒頭、平和の象徴ともいえる動物園が爆撃を受け沢山の動物が殺されてしまいます。 自由に園内を走り回っていたラクダのアダムは命を持つ生き物が生命を謳歌しているかのように、本当に楽しそうに駆け回っていました。 しかし、そんなアダムもドイツ軍の兵士に無残に殺されてしまいます。 「動物だから・・」ではなく、ドイツ軍は「自分たち以外」を命とはみなしていなかったのです。邪魔ならどければいい、それくらいにしか思っていなかったんですね。 腹が立つとかそんな次元じゃなく本当に背筋が冷たくなる。人間がこうも残忍になれるんだと。そして自分もその人間なんだと・・。 ドイツ軍のポーランド侵攻によって幕を開けた第二次世界大戦ですが、ヒトラーが何故あそこまでユダヤ人を敵視したのか・・・。実は彼の著書「わが闘争」などでその理由の一端が書かれているが、実は論理的、哲学的な観点で当時のユダヤ系金融資本による世界介在支配を警戒していました。つまりユダヤ系の経済支配によってドイツの経済がコントロール不能に陥って、今よりも貧富の格差がより広がりドイツの統治自体が出来なくなってしまうことを危惧していたのです。 この考え方を切り取れば、ヒトラーはとてもロジカルな思考の持ち主であり、社会主義的なものだったとしても経済政策を本気でやれば、一時代を築くことこ出来たのではないかとさえ思えるのです。 では、何故そこから「ユダヤ人の大虐殺」にまで思考が飛躍していったのか・・・。 これ以上は第一次大戦からの話も絡んできますし、長くなりそうなのでまたの機会にしますが、そこから先は皆さんもご存じのように、あの「アウシュビッツの大虐殺」へと向かって歴史は針を進めます。 本当にどの映画でも感じるけど、ユダヤの人々が迫害されていく描写には心が痛む。 ヤンがゲットーから救出した少女は恐怖のあまりに心を閉ざしてしまったが、アントニーナの優しさに触れながら徐々に心を開いていく様子は、観ている側も嬉しくなってくるくらいだった。あの子が仲良しのウサギの名前を聞かれたとき「ピョートルって呼んでる。弟の名前だったから・・・」一気に胸が詰まった。彼女は奇跡的にヤンに助けられたけど、ほとんどの人は大人も子供も関係なく殺されているという現実があるんだと、あの地下室の何気ない会話の中に織り込まれた残酷なコントラスト。 ヤンは外で命懸けでユダヤ人を救い、祖国のために戦った。 アントニーナは動物園でドイツ軍に見つからないように神経を張り詰めた状況でユダヤ人を守り続けた。 どちらも命懸けだった。どっちのほうが凄いとか、どっちの方が偉いとかそういう事じゃない。比べるようなことじゃないのだ。本当にちょっとでも判断やタイミングを誤れば、その場で命を落とすような状況の連続なのだ。 そして、それを自分の為ではなく、誰かのために出来るということが凄すぎるのだ。 今の日本人は「平和ボケしている」と言われる。平和の何が悪い!と言い返したくもなるが、ある意味では反論できない部分でもある。 究極の状況で、自分や家族以外の命に対して、自分の命を懸けてでも助けることを選択できるだろうか・・・。
  • くう
    3.8
    1/17
「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」
のレビュー(1107件)