『百円の恋』武正晴監督、最強の布陣で挑む最新作「1番バッターから9番バッターまでそろった」喜劇【インタビュー】

2018.01.04
インタビュー

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

全国数館のロードショーから口コミでじわじわと上映館数を増やし、ついには第39回日本アカデミー賞において、優秀作品賞ならびに最優秀脚本賞受賞という大旋風を巻き起こした『百円の恋』。その監督を務めた武正晴と脚本家の足立紳が再びタッグを組んだ作品が『嘘八百』だ。そこには連続テレビ小説「てっぱん」の今井雅子も共同脚本家として名を連ねる。

嘘八百

うさんくさい目利き古物商と一筋縄ではいかぬ陶芸家がタッグを組み、「千利休ゆかりの国宝級茶器」という贋物を仕立て上げ、大御所鑑定士や文化庁らをいっぱいくわせようとする、変化球の喜劇である。20代の森川葵をのぞけば、W主演の中井貴一&佐々木蔵之介がまだまだ若い層に入り、キャストの平均年齢がゆうに60歳オーバー(!)という芸達者かつレジェンドばかりが集まった。「1番バッターから9番バッターまで、ちゃんとそろっている」と見事なチームワークだったことをうれしそうに振り返った武監督に、思い入れの深い現場と、変わりゆく映画界についても聞いた。

――『嘘八百』、ものすごく笑い、楽しく拝見させていただきました。

ホントですか? 良かったです。こういうの……受けると思いますか?

――「開運お宝コメディ」と銘打たれていて、お正月のロードショーですし、完全に家族層向けを考えて作られたのかと思っていました。脚本を30稿くらい練られたとか?

完全に家族で……とかは思っていなかったです。言われてみれば、確かに家族の話ですね。脚本については、特に大きく話を直したというより、どんどん追加していきました。ベーシックなものはもうずっと何年も前にできていて、そこにいろいろなものを詰め込んでいって、というスタイルです。今回は古美術とか、嘘の話なので、具体的なものを調べて書かなければいけないから、特に足立さんと一緒に脚本を担当してくれた今井雅子さんが、よく調べてくれて。付け加えてもらったり、もしくは引いていったりと繰り返していくうちに、撮影の日がやってきました。

――大阪・堺が舞台です。外せない土地だったんでしょうか?

そうですね。企画のベースで、堺の人たちが「何か映画を作りたい」というのがあり、そこから出てきた話なんです。かといって、観光ムービーにする必要もないので「ではどうしようか」となり、堺だと、やはり千利休やお茶の話が出てきますし、骨董、陶器などの歴史もある街なので、今の形になりましたね。

武正晴

――本作のトーンを決めた大阪弁では、方言ならではの楽しさ、遊びも盛り込みましたか?

普段、大阪の日常も含めてのおおらかな感じがいいなあと思っていたんです。関東でやっているとなかなか発展しない話が、関西だとテンポが出て面白くなるので、すごくいいなと。関西人ではない人が関西人を演じる場合は、なかなか気を遣いますけれど、『嘘八百』ではほとんど関西に住んでいらっしゃるもともと関西人の人たちが演じていますから、すごく気楽に面白がってやれました。

――佐々木さんも京都でしたよね?

そうですね。京都ですね。ただ、(佐々木さんの)お父さんが堺の大学をでていらっしゃったりと、いろいろと縁もあるみたいなんです。

――W主演となった中井さんと佐々木さんは、構想の段階から希望されていたんですか?

どちらのキャラクターをどちらにというのは決め込んでいたわけではありませんが、お二人に出て頂けたらと希望はしていました。実はキャラクターが決まったのは佐々木さん演じる野田佐輔の方が先で、地元で雁物を作っている人と決めていたんです。中井さん演じる小池則夫の方がなかなかキャラクターが決まってこなかったです。というのは、関西人にした方がいいのか、どこか別のところからやってきた人にした方がいいのかと迷っていて。ひょっとしたら中井さんに佐輔を、則夫を佐々木さんにやっていただく可能性もありました。でも、佐々木さんは関西の出身だし「じゃあ関西人役の方がいいよね」となって最終的なオファーとなりました。

――変な話、どちらが小池則夫でも野田佐輔でもお任せできる、という信頼があったんですね。

「はい。それぐらいのことはできちゃう人たちだろう」と思って。お二人とも関西弁も喋れるし、標準語も使い分けられる人なんです。結果、やはりキャラクターで則夫が中井さん、佐輔を蔵之介さんがいいとなり、現在の台本をお渡ししたら、ご本人たちも納得されたので良かったかなあと。

――佐々木さんが贋物を作るシーンは、見ごたえがありました。

僕は、そのまま「これ、作ってください」と言うだけなんですけど(笑)。陶芸家の方がやっているところを見てもらって、佐々木さんには練習してもらいました。俳優って、本当にすごいですよ。陶芸家の人たちが「なんでこんなことができるんだ!?」と、びっくりしていましたからね。見て覚える、感覚で掴むっていうのは、それはもう、ありとあらゆることができる人たちなんですよね。

嘘八百

――実際、重鎮だらけですよね。演出を手掛けられて、普段の撮影と異なる点はありましたか?

もうね、1番バッターから9番バッターまで、ちゃんとそろっている現場でしたよ。みんなに役割があって、そんなに守備が上手くない人がいても、ちゃんと横の人が拾ってくれたり、カバーリングしたりとか、すごくいいチームワークでした。4番バッターが全部いるんじゃなくて、1番から9番までで、ちゃんと下位打者もいて、クリーンナップがいて。

――坂田(利夫)さんですか?

いや、坂田さんが下位打者とか言わないですよ(笑)。曲者ですけれどね~。

でも、そういう1番から9番までのなかなか良いメンバーがそろっているので、それぞれの打席が楽しみでした。みんなが、「ただ打ってホームランだ!」ということじゃなくて、「何をするんだろう?」「何か仕掛けてくるぞ」というチームな感じがしていて。

その中心にいたのが、中井さんと佐々木さんなんです。でも、お二人だけじゃなくて、この二人を活かすために周りの人たちが、もしくはその逆もあって、非常に上手くいろいろなことを拾いあってくれていました。ときどきイレギュラーバウンドも入って。そういうのもちゃんと拾っていくのが、すごく上手くいって。チームプレイが楽しかったです。

――そこに監督としていらして、チームをけん引していくわけですよね。『嘘八百』のような、いわゆる喜劇を撮るにあたって、特別に意識されたことはありますか?

喜劇って難しいんですよ、すごく。触ると火傷するぐらいな感じがあって。今、喜劇自体が減っちゃっていて、観るお客さんも減ってきているんですよね。僕は日本の50年代の喜劇や、ハリウッドのコメディというものは、普段から観るようにしているんです。特に『嘘八百』のようなフェイクバディものは、何本か観直しました。勉強し直すというか、改めて確認したというか。

武正晴

――どのような視点でご覧になっているんですか?

僕は、映画では「それはねぇだろ」というような馬鹿馬鹿しさや、不条理なところ、驚きを入れたいといつも思うんです。コメディに説明つけるとつまらない、と勝手に思っているところがあるので、「え、なんでこうなったの?」と聞かれたときに、「いや、知りません」と答えるような感じがほしいし。「いや、別に理屈はないんだ」というようなね。理路整然としているものを、そんなに面白がれるかなと思っているんです。「そんな馬鹿な」という瞬間を、どこかで作れないかなと。映画だからできると僕は思っているんですけどね。

でも、今は「そんな馬鹿な」と言って、みんな怒っちゃうので。昔の人はおおらかで、笑ってくれたんですけれどね。今は理路整然とやらないと、「なんであの人はあそこに出てきたんですか?」と怒られちゃうから、「いや、聞かれても困ります……」となる……。そのあたりを観る人が面白がってくれればいいんですけれど、どこまで伝わるのかなと思っています。

――だから最初に「受けると思いますか?」とおっしゃっていたんですね。

うん。みんなが気楽な気持ちで、映画を観てくれるといいんだけれど、最近なかなかそうはいかなくて。ただ、これもバランスですよね。我々の先輩たちがもう100年以上やってきていることを、僕たちはただ繰り返してやっているだけなので、それをどこに放り込むかなというのをいつも思っているだけです。

嘘八百

――本作での放り込みを挙げるなら、どこになります?

塚地(武雅)さん演じる田中四郎じゃないですか。あの人、最初の脚本にはいなかったから。

――そうなんですか?

田中四郎は、放り込んでみたら面白くなるのかな、と。今回、取材しているときに、田中のような学芸員さんに出会ったんですよ、ずっと喋っている人。

――モデルがいらっしゃるんですね。

ええ、います。学芸員さんに質問をしに行ったら、ずーっと喋っているすごい人がいて(笑)。結局その方が、今回すごくいろいろとアイデアを出してくれたんですけれど。取材したときに、「ああ、こういう人が出てきたら面白いな」と思って登場させたんです。

――塚地さんにした理由もありますか?

似てたから。

嘘八百

――外見ですか(笑)。

(笑)。もちろん、塚地さんもお仕事をしたいなと思っていたんですけれど、いやあ、めちゃめちゃ似てるんですよ! その人を見たときに、僕は塚地さんに会ったこともないのに「あ~塚地さんだな」と思ったんです。だから、塚地さんをキャスティングできたらいいなと思ったら、たまたまタイミングが合ったのでよかったです。そういう意味では、取材している最中に段々膨らんでいきました。コメディリリーフで、ああいう人はいなくても別に話は進むんですけれど、いたほうが面白くなるから。

――話は少し戻りますが、「理路整然としないと怒る」というお話について、受け取る側の変容とでも言いますか、面白がられづらくなっている状況について、思うところをもう少しお聞かせいただけますか?

深刻な映画やシリアスな映画はもちろんあってよくて、けど、そればかりよりは、もうちょっと馬鹿馬鹿しい映画もあっていいと思うんです。昔は、馬鹿馬鹿しい映画もたくさんあったんですけれど、なかなかお金をかけてそういうものを作る雰囲気ではなくなってきていて。単純にギャグばっかりをやる映画というわけではなくて、人情喜劇的な、どこにでもいそうな人たちがやらかす、ちょっとした馬鹿馬鹿しい話というか。もしくは、普段僕らの目の前には見えてこないけれど、「裏側ではこういう話が繰り広げられているんですよ」とのぞき見できるようなものが、もう少し日本の映画も増えてもいいのかなと思っています。

……まぁ、そういう意味では、ありがたいんですけどね。こんな馬鹿な話を、お金をかけて作らせていただけるっていうのは。僕にとっては嬉しい限りで。僕はそっちの担当でいこうかなと思っていますね。難しいことを考えてもなかなか上手くいかないので、だったら、足立さんたちと馬鹿馬鹿しいことをやっていったほうがいいかなって。

――最近では少なくなっているジャンルの楽しい作品に、正面から取り組むことがすごく意義のあることなんですね。

本当の芸能の意味ってそうですからね。観てくれる人々に対して、何かちょっと一瞬でも、現実を忘れさせるような時間であればいいな、と。映画館から出て家に帰る数分とか数時間、「あーあ、なんか変なの観ちゃったな。まだ帰りたくないな~」とか思ってくれると、すごくうれしい。

僕らも映画を観ているとき、そうでしたから。「2時間ぐらい馬鹿馬鹿しい気持ちになったけれど、明日からまた学校行かなきゃいけねぇのか」とか「会社行かなきゃいけないのか、嫌だな」って(笑)。「来週また映画、観たいな」と思ってくれるといいなあ、と思うんです。

嘘八百

――武監督の映画に対しての愛が溢れていますね。

僕は、映画に救ってもらった感じがするので。だったら、何か、そういうことをもうちょっと信じてもいいのかなと思っているんです。どれぐらい世のためになるのかは知りませんけれど、役に立たないのかもしれませんけれど、今までずっとやってきたから「違うことをやれ!」と言われても、これ以外のことはできないです。だから、しがみつくしかないんです。1本1本、何とか届けたら、次……次があるかないかというだけですからね。今回ご一緒した方々と出会える可能性がまたあるので、そのおかげで次があるかもしれないし。だから、1本1本が勝負なんですよね。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:市川沙希)

映画『嘘八百』は1月5日(金)より全国ロードショー。

嘘八百
(C)2018「嘘八百」製作委員会

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    主のお二人よりも画面の端っこでなんかやってる脇の皆さんに目がいってしまい、ずっと笑ってた。そして友近に嫉妬する(笑)。木下ほうかの居酒屋のごはん地味に美味しそうやったし、あの空気たまらんので行ってみたいわ。
  • teketeke
    3.8
    キャストの豪華さ、演技力だけでも充分楽しめます。 話は期待してたよりは地味!笑
  • ぎょんす
    -
    祖母が見たいというので付き添いで。久々の邦画。みなさんやっぱり上手ですよねぇ〜安心しきって見れました。個人的には森川葵が可愛い、、
  • けんぱじ
    3.9
    中井貴一さんと佐々木蔵之介さんが共演となれば観たくなるのは当たり前ってことで期待して観ました。 この2人だけでなく、友近、木下ほうか、坂田利夫、塚地武雄、桂雀々、近藤正臣、芦屋小雁あたりの脇役陣も最高におもしろい。 騙し騙され、大博打を企てて騙し取った大金を子供達に奪われるというオチかと思いきや、娘も出国出来ないオチもあって、大阪っぽい
  • あしゃごん
    3.0
    予告がコメディコメディっていう感じだったけど、ジャンル的にはヒューマンドラマ/コメディって感じがした。 もっと笑える映画だと思っていたので、テンポはあまり良く感じられなかった。 ちょいちょいコメディって感じかな。 どんでん返し的なのはない。予想通りの進み方。
「嘘八百」
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