大九明子監督、魂の叫び「若い女なんて“大変だ”と言いながらも意外と死なない生き物だから『勝手にふるえてろ』」【インタビュー】

2017.12.22
映画

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

青春の思い出はいつだって甘い、わけではない。中学生の頃から一度も想いを伝えることもなく、10年越しで同級生に完全なる片想いを続けている主人公ヨシカ(松岡茉優)が、いよいよ現実と向き合うことになる『勝手にふるえてろ』は、恋愛における甘酸っぱい要素がほぼない、とことんビターで苦しい恋愛映画である。そんな主人公を「私こそがヨシカ」と、これまで同映画のイベントなどで幾度となく口にしている監督の大九明子は、「20代の自分に向けた応援みたいな気分」で本作を完成させたと、インタビューで思いを馳せた。

勝手にふるえてろ

私にだって、僕にだって、誰にだってある「ヨシカ」的要素――恋に向き合ったものの、破れ、恥ずかしく、苦い、悔しい、痛くなければ死んじゃいたい――を味わい尽くせる本作は、いくつもの感情がドミノ倒しのようにやってきて胸がいっぱいになる。そんな我々にも大九監督は言うのだ、「ファーック! 勝手にふるえてろ」、と。

――第30回東京国際映画祭(TIFF)「観客賞」と「東京ジェムストーン賞」(松岡)の受賞、おめでとうございます。公開前から、ものすごく話題になっていますね。

商業映画を撮るようになってちょうど今年で10年なんですけれど、これまで確たるヒットも賞もなく、しがみつくように「映画」という広い世界の末席にいさせてもらったと思っているんです。だから、我ながら不思議な感じです。受賞もすごくうれしいんですけど、映画祭にノミネートされたと聞いたときは、もしかすると賞を獲ったときより嬉しかったかもしれないです。

――TIFFのラインナップは、ものすごい数の中から選ばれるんですよね。

そうですよね。10年間やってきて、一度も言ったことのない言葉を今回初めてプロデューサーに言ったんです。ひとつは「公開を急がないで、じっくりと時期を見て公開してほしい」、もうひとつは「チャンスがあれば、賞にもチャレンジしてほしい」と。

――それだけ自信があったから、ということでしょうか?

私は映画を映画として闘っているつもりなんだけれど、どうも、なんかコンテンツという感じの軽いものとして言われることが多いんですね。きっと悪意はないと思うんですけれど、自分では「映画」だとやっているつもりがずっとあって。できれば『勝手にふるえてろ』も、映画として扱っていただきたいと思ってお願いをしました。で、幸先よく、いきなりTIFFのノミネートだったので、「ああ、言って良かった!」と思いました。

あと、やっぱりこの映画には、私が今まで鬱々と抱えていたものが全部出ちゃっているんです。私自身、ちょくちょくお仕事はいただけているけれど、なんか……映画界にいないことにされているというか、ややひねくれた気持ちもあって。拗ねた気持ちでシナリオを書いた部分もあったので、ノミネートについては、こちらが叩きつけたものに対して「観ていますよ」というアンサーに感じたんです。「見つけてくれた!」という感じがして、非常に嬉しかったです。

大九明子監督

――それだけ、監督の魂が注ぎ込まれたことが伝わったんですね。

確かに、注ぎ込んだ部分はいっぱいあります。私のことを知ってくれているスタッフたちは、シナリオを配った時点で「ヨシカって、大九さんそのものですね」みたいなことを言っていました。その時点で、すごく私のやりたい熱みたいなことを汲み取ってくれた部分もありましたし。この作品では今までよく言われてきていた「良くも悪くも大九さんだよね」という部分を、最大の武器にしてやろうと思っていました。

――だから、綿矢りささんの原作にはない描写も詰め込まれているんですか?

そう、「ヨシカだったら、これを言っても平気!」という開き直りで自分のあらゆる罵詈雑言を盛り込みました。「ファーーック!」とかもそうで。「ファック」なんていう言葉は原作にないので、綿矢さん……どう思われるかしら……と思ったけれど、すごく楽しんでくださったので安心しました。

勝手にふるえてろ

――しかし、ポップな「ファック!」でした!

ありがとうございます(笑)。日本人が言う「ファック」は、なんかいいなと思っていて。私自身、20代のときは、もっと言葉が尖がっていて「死ね」、「クズ」という言葉を乱用していたんですけれど、だんだん40代になって研ぎ澄まされた結果、「ファック」に落ち着いたから。

――落ち着かれた(笑)。

はい。洗練された「ファック」だ、と我ながら思っています(笑)。

――そうした一見激しい言葉も作品に馴染んでいますし、「ラブコメディ」という要素はわかりつつも、私自身はヨシカという女の子をきちんと描いている恋愛映画として、割と苦しく受け取ったりもしました。

ああ、嬉しいです。「コメディにしたい」という思いは、白石(裕菜)プロデューサーと私の間で強烈にあったんですけれど、ただ、どういう映画にしようと原作が持っている毒っ気はありますし。個人的に、映画美学校時代に撮った映画のタイトルとリンクして、若い女なんて言うのは「大変だ、大変だ」と言いながらも「意外と死なない」生き物なんだから「勝手にふるえてろ」という20代の自分に向けた応援みたいな一文とともに、イメージが浮かんだんです。コメディではあるけれど、どうしても痛いというか、ダークなというか、ヒリヒリみたいな毒っ気の部分は出ちゃう。それで、こうなりましたね。

――監督ならではのコメディといいますか。

ふざけるところは思いっきりふざけて楽しくやりたいんですけれど、痛い部分に関しては痛く。それこそ「絶滅すべきでしょうか」というヨシカの台詞も、「誰か聴いてくれ!」という気分で書いたんです。

今お話していただいた「苦しい」という意見も、私としてはすごく嬉しいんです。もしかして人によってはハッピーな映画ではなかったかもしれないけれど、自分自身も、ハッピーな映画ではないけれど大事な映画って、すごくあるから。「あの映画の、あの主人公の、あのありよう。辛かったけど、いいよなぁ」とか。ご覧になる方が痛みを捉えてくださると嬉しいです。

――ヨシカは24歳で、この世代特有の傷つくことに敏感になっている様子も痛いほど伝わってきましたが、監督も同じような気持ちは抱えていましたか?

というか、今でもあります。非常に「傷つきやすい」と言えば可愛い感じになっちゃいますけれど、大人になった今は、傷ついたら「傷ついている」とはっきり言えるようになった。周りに甘えられるとでもいうんでしょうか。傷つきやすいというか、ビビりです。ビビりなくせに、言いたいことや不平不服がいっぱいある。

あと、20代の人って体裁を気にするんじゃないですかね。孤独であると思われたくないとか、ね。たぶん20代のときって、私も皆もいろいろな鎧を被っていたような気がします。

――絶妙な感じを、松岡さんはすごく繊細に、大胆に表現されていました。

ヨシカをお願いするにあたって、珍しく松岡さんから「役について、ゆっくり話をしたい」と言われて、クランクインの前日に3時間ぐらいかけて話をしたんです。「この役って、どれぐらいの感じですか? ああいう感じですか?」と、彼女の中でヨシカの仕上げ段階ということだと思うんですけれど。そのときに、私からは「もうすごく狭い、狭い世界に届ける映画で」と言ったんです。こんなに毒をまき散らした映画なので「狭いけれど、ヨシカ的な人に正しく届けよう!」と言って撮ったんです。

大九明子監督

――蓋を開けたら、みんなが「自分がヨシカだ」と言い出す始末でしたね(笑)。

そうなんです、なんか(笑)。本当にありがたいです。取材を受けていても、男の人までみんな「俺がヨシカだ」と言ってくださる方もいて。

――本作は、中盤で松岡さんが歌う場面が出てきます。作品への深度が変わるところですが、歌うことになった経緯を教えていただけますか?

いわゆるどんでん返しのところなので、その様子をどう説明するかというときに、アスペクト比を変えてギュッと狭くするとか、モノクロにするとか、いろいろな映像的手法を考えました。ただ、お客さんに情報を届けるために時間がかかるのは嫌だと思ったんです。ストンとヨシカを届けたいと思って、バーッとセリフにして、で、歌わせちゃおうと。

けれど、やはり歌っていうのは一番チャレンジングなことだと思ったので、シナリオの打ち合わせのときに「歌わせてみるのはどう?」と提案をしたら、意見が分かれたんですね。歌はいろいろスベっている作品もあるから、大丈夫なのかと。ただ私のイメージや説明を繰り返して、「だったら、ちょっとやってみようか」とスタッフも背中を押してくれたので、最終的に歌になりました。

――松岡さんには、どう説明されたんですか?

シナリオをお渡しして、ト書きに「ヨシカ、歌い出す」と。だから「あ、ここから歌なんだな」と理解したんだと思うんです。松岡さんからは何の質問もなかったです。

だけど、その現場で、初めて松岡さんから「できない」という言葉が出ました。ものすごく大事な場面だったんですけれど、にも関わらず、「そのテンポの中で感情をこみ上げるのができない」と言われたんです。

――あまりそういうことを言わなさそうなイメージの方です。

私も今回でご一緒するのは3回目ですが、松岡さんが「できない」と言ったのは初めて聞きました。泣きそうな感じで言ってきたので、私も動揺して。そこで、メロディを無視して台詞で言うようにお願いしたら……、あの素晴らしいお芝居が出たんです。現場では私が見とれていましたね。

――これから観る方にも楽しみにしていただきたいですね。そして、ヨシカを取り巻く「イチ」と「二」の男性陣も魅力的で。まずヨシカに想いを寄せる「二」を演じた渡辺大地さんについて、お話を伺えますか?

勝手にふるえてろ

渡辺さんとは、今回の構成になったときの第一稿を読んでくれた翌日に会ったんです。会ってすぐ、「冒頭のシーンとか、すごいいいですよね!」と言ってくれて。彼も自分で監督をやっているので、監督としてこのシナリオをどう捉えているかという話をすごくしてくれました。

実際、インしてからはちょっとずつ作っていった感じです。二は難しい役どころなので、調整するのに時間がかかったのはすごく覚えています。というのも、最初に楽しいシーンから入ったせいで、ちょっと面白すぎたんですよね。だから「いつもの大知くんに近い感じで、やってくださいね」とお伝えして、どこまでやればいいかを探りながらやっていきました。けど、二に関しては、とある場面さえ「ギュッと抑えていれば!」と思って、ずっと付き合っていました。

――ラストのほうのシーンですよね? ちょっと格好よすぎてズルイですよね。

そうですか(笑)? 確かに、白石プロデューサーもそのシーンの撮影中「二が格好よすぎます!」とすっ飛んできました。「シナリオもそうなんだから大丈夫、大丈夫」と言って、あの場面は、とにかくカッコよく、カッコよくしましたね。

――一方、「イチ」はヨシカが10年間片想いしている相手です。北村匠海さんにお願いした理由は何ですか?

北村くんをキャスティングできたのは、白石プロデューサーのおかげなんです。正直にお話をすると、私は北村くんを知りませんでした。けど「北村匠海という素晴らしい俳優がいる」と言われて、「誰だ?」と思っていたら、自分が観ている作品にいっぱい出ていたんです。「あ、あの人か!」と。

――役によって印象をガラリと変える方ですもんね。

カメレオンだなあ、と思いました。「あ、そういえば!」という作品がすごくあったので、素晴らしい俳優さんなんだろうなと思って、お願いしました。

――イチも格好いいけど曲者と言いますか……。

「ヨシカにはイチが王子様に見えているけれど、私はイチをそんな善人ではなくて、すごく独善的な人間だと思っているし、自分が一番大事という人」と北村さんに話したら、「僕もそう思います」と言ってくれたりして。そんなにいろいろと指示をした覚えはないんですが、所作に関して、美しくあるっていうことは、お願いしました。ただ、1回言えば、もう希望通りになっているんですよね。

――役者としての勘の良さみたいなものを感じられたりしたんですか?

勘も良いですし、北村くん、めちゃめちゃ頭がいいんですよ。たぶん、どの現場でもそう思われているから、あの若さで、あれだけいろいろ出て、存在感を発揮しているんだと思います。どの監督族にも惚れられちゃうと思いますね。

大九明子監督

――商業映画を撮ってから10年の節目というお話もありました。この先の10年、20年と、思い描いているものはありますか?

あまりなくて、もう、ただひたすら映画が撮りたいです。実は、商業映画1本目の10年前は、本当に「しばらく映画はいい……」と思うぐらい、くたびれ果てていたんです。けれど、今は一番行きたい場所は撮影現場だし、一番会いたい人はスタッフだし、ってめちゃくちゃ変わりました。「こんな自分になるとはね」と驚きです。もう書き上げているシナリオも6本ありますし。

――6本もあるんですね。

あるんです。そうやって自分で立てた企画や、オリジナル脚本でももちろんやりたいし、「大九とやりたい」と思ってくださっている人がいたら、喜んでやりたいし。とにかく映画を撮りたい思いが強いです。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:市川沙希)

映画『勝手にふるえてろ』は12月23日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー。

勝手にふるえてろ
(C)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

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  • ちなもん
    3.5
    最初のモノローグ的会話劇を観て、やばいゴミ映画かもしれないと焦ったけど、中盤くらいまで我慢してたら段々構造が分かってきて楽しめました。 ヒロインの容赦ないこじらせっぷりが素晴らしい。人間的な魅力とキャラクター的魅力はイコールじゃないなと思いました。 結末もホントどうしようもない。でもちょっと気持ちが分かっちゃう気もする僕も、どうしようもないなー
  • 根本拓実
    4.3
    君の名は。の5億倍好き。
  • mariko
    4.3
    今年80本目 度肝抜かれました。 松岡茉優すごいな! こわいくらいすごい! 誰もが憧れる生き方なのでは。 少なくとも私はまさにこれ。 ビックリした‼️ 映画の作り方もオシャレすぎる。 音の使い方が凄い変わってる… 全体的に魅力的な映画! でもかなり体力持っていかれる!
  • TG
    4.0
    正直、原作読んであんま面白いイメージなかったし、迷ったけど松岡茉優でてるしと思って借りた。 そしたらビックリ! 二の役の人も好きだけど、松岡茉優の独壇場だね。 多分これ松岡茉優じゃないと成り立ってないと思うくらい、パンチきいてたなぁ。 前半は笑える部分もあるし、後半はわかるーって感じもあって◎
  • KazukiAratani
    1.0
    ダラダラと話が続いて面白さの伝わらない映画。 あまり集中出来ず、書くことも思いつかないくらい。。
「勝手にふるえてろ」
のレビュー(22676件)