ハリウッドは古くからアメリカン・コミック(通称”アメコミ”)を題材として、1943年の『The Batman』を皮切りに、1978年『スーパーマン』、1989年『バットマン』等、人気作品を数々生み出しました。
これら大ヒット作品に続けと、マーベル・コミックスも90年代に『キャプテン・アメリカ』や『ファンタスティック・フォー』を映画化しました。しかしどの作品も満足した結果を得られず、映画史的には”失敗“の烙印を押されてしまい、波乱の歴史を歩んできました。
では、なぜ最近のアメコミ映画は大人気なのでしょうか?
いくつか要因はありますが、今回は近年のアメコミ映画における「コスチューム・デザイン」という側面に注目し、いくつかの映画をご紹介したいと思います。
X-MENから始まる変革の歴史
まずアメコミ映画の人気を再燃させたのが、2000年公開『X-メン』です。
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本作のコスチュームデザインを担当したのが、衣裳デザイナーのルイーズ・ミンゲンバックです。彼女は本作でサターン賞(優秀なSF・ファンタジー・ホラー作品に与えられる章)の衣裳賞を受賞しています。
彼女の功績は、ズバリ「コスチューム・デザインの大きな変革」です。
出典:http://www.comicvine.com/forums/battles-7/despero-vs-x-men-1563601/
コミックでは「カラフルで全身をぴったりと覆うようなタイツのコスチューム」を着ていますが、映画では「黒やグレーをベースとしたレザーやカーボン製のコスチューム」のデザインにガラリと変えたんですね。
出典:http://www.themovienetwork.com/article/bryan-singer-calls-x-men-apocalypse-rebirth
彼女の創造した新コスチュームは、一枚絵として完成された古典的コミック表現から、アクション・スタイルを補完するダイナミックで重厚なデザインに進化させました。
ヒーローが身に着けるべき耐久力の説得力を示しながらも機能性以上のかっこよさを兼ね備えています。
この挑戦的なデザインは当時のアメコミファンから、「改変してはいけない」「オリジナルへの冒涜」、邪道だ」等とクレームがついたとか。
しかしそれまでアメコミにあまり興味のなかった人々には、そのスタイリッシュなデザインが受け入れられ、新たなアメコミファンを獲得したのも事実です。
『X-メン』により変革されたコスチューム・デザインは、その後のアメコミ映画に影響を与えていきます。さらに別の映画で比較してみましょう。
ファンタスティック・フォー:苦難の道
実は過去に2回映画化されています。最初の映画はあの“B級映画の帝王”ことロジャー・コーマンの製作によるものでしたが、あまりに出来が悪く劇場未公開となりました。
参考画像はこちら。
…マヌケですねー。これはお蔵入りしたくなる…
その後、アメコミ映画ブーム真っ只中の2005年に公開されたのが『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』です。メンバーの1人に大人気女優ジェシカ・アルバを起用したことで人気を得ました。
この映画のコスチュームはタイツではないものの、コミックに準じた全身にぴったりフィットするものです。
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色調はコミックの明るいターコイズ・ブルーではなく、落ち着いたダークブルーを採用。…え~、どうしてもジェシカ・アルバに目が行くのはあなただけではないのでご安心を。
そして2015年10月9日公開の、ジョシュ・トランク監督最新作『ファンタスティック・フォー』では、ついにレザーのボディアーマーのようなコスチュームとなりました。
アメコミ本来の娯楽的要素よりも、超能力を手に入れてしまった人間の内面にスポットを当て、シリアスな人間ドラマに寄り添うようにシックなデザインを採用しています。
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次はご存知スーパーマンの映画『マン・オブ・スティール』です。コミックと比べたコスチュームの最大の違いは…お分かりでしょうか?
出典:http://www.metropolisplus.com/superman/
出典:http://odorumovie.com/rin/odoru/man_of_steel/photoclip/man_of_steel_pin-29.html
過去のアニメや映画では一貫して守ってきた赤いパンツを履いていない!さらに全身にはカーボンファイバーのようなデコボコがあしらわれ、なんとなく爬虫類の皮膚のようでもあります。
本作の監督であるザック・スナイダーは来日記者会見の際、「タイツの上に履くパンツの起源を調べていたら、ヴィクトリア朝のサーカスに出てくる怪力男にたどり着いたんだ。当時は肌を見せることを禁じられていたため、肌の色に似たタイツの上にパンツを履いていた。21世紀の現代、そのルーツに合わせる必要は無いと思って一新したのさ。」と発言しています。
この新たなスーパーマン像にも賛否両論が飛び交いましたが、世界興行収入6.6億ドルを超え大ヒット。2016年3月に日本でも公開される『バットマンVスーパーマン ジャスティスの誕生』にも、このスーパーマンが登場します。
オリジナルデザインからの脱却は既成概念を壊すのに成功し、映画特有のコスチュームに市民権を与えました。
メカニカルでスタリッシュなアントマン
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最後にピックアップするのは2015年9月19日公開『アントマン』。アントマンのコスチュームも多数あるのですが、コミックで一番有名なのが下の画像のシルバーヘルメットのタイプです。
映画版ではクロームのようなくすんだヘルメットを装着。アントマンに変身できる亜原子粒子を体内に供給するシュノーケルのようなパーツに赤い目のゴーグルを合わせて、まるで蟻のような顔に見えます。
コスチューム自体もかなり雰囲気が変わり、タイツではなくレザージャケットのようですね。
出典:http://screencrush.com/ant-man-avengers-cameo/
コスチューム・デザインから見ると、メカニックなアイアンマンと全身ぴったり系のスパイダーマンの中間点のよう。そのある意味どっちつかずなデザインは、主人公が最初はしがない泥棒であり、初代アントマンに指名される中途採用的ヒーロー像を表しているのかもしれません。
※ここに挙げたコミック画像は一例です。レザーやカーボン製のようなコスチュームのコミックもあります。
虚構の住人から、頼れる隣人へ
最近のアメコミ映画のトレンドである「人間により近しいスーパーヒーロー」。巨悪を打ち倒すパワーを発揮しながらも、実は私たちと変わらない一人の人間であり、板ばさみのアイデンティティーに悩み苦しむことがあります。
しかし私たちは、彼らが絶望の淵から立ち上がり、勇ましく輝かしいコスチュームを再び身にまとい世界を救う姿に、勇気を奮い立たせられます。
“鑑賞”から”共存”へ。コスチューム・デザインは現実と映画の2つの世界を橋渡しする重要なファクターとなり、新たな映画ファンの支持を集めるようになりました。
アメコミ映画の人気大旋風はとどまることを知りません。2016年は『デッドプール』、『キャプテン・アメリカ:シビルウォー』、『X-MEN:アポカリプス』『スーサイド・スクワッド』など、人気作品目白押しです。
俳優やキャラクター、ストーリーに加え、コスチューム・デザインにも改めて注目し別角度からの映画の面白さを発見してはいかがでしょうか?