トランスジェンダーの新星ダニエラ・ヴェガ、主演作『ナチュラルウーマン』で観客に問う「あなたはどの立場から観ていますか」【来日インタビュー】

2018.02.22
映画

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

トランスジェンダーな彼女が佇む、苦々しく、美しい映画が誕生した。映画『ナチュラルウーマン』は自分らしさを守るため、差別や偏見に対し闘いを挑んだトランスジェンダーの女性マリーナの葛藤を描いた物語。年の離れた最愛の恋人オルランドが急逝し、途方に暮れたマリーナが、遺族の心ない誹謗中傷に遭いながらも、彼とお別れをするために、意を決して歩き出す道のりを丁寧に綴った。

ナチュラルウーマン

第67回ベルリン国際映画祭 最優秀脚本賞(銀熊賞)受賞をはじめ、第75回ゴールデングローブ賞 最優秀外国語映画賞&第90回アカデミー賞 外国語映画賞にノミネートと、快進撃が続いている本作。

自身もトランスジェンダーであり、マリーナの心に寄り添った主演のダニエラ・ヴェガが、各国の授賞式で飛び回る中、時間を縫って来日。「メッセージを伝えるために映画を作ったんじゃない」と話したダニエラの真意を尋ねた。

ダニエラ・ヴェガ

――美しくもの哀しい作品で、様々なことを突き付けられました。ダニエラさんは、映画初主演作品として、なぜマリーナ役を引き受けられたのでしょうか?

当初はセバスティアン・レリオ監督が単に人を探していたんです。「チリのトランスジェンダーに関する研究をしているので、相談できる人を」ということでお会いしたんですね。お話をしていく中で、自分の人生の見方から芸術についてまで、本当にいろいろなことをお話しました。何だかんだ1年半、ずっと自然なやりとりをしてきたある日、突然、脚本が届いたんです。読んだときに、即座に「やる」と返事をしていましたし、「これは大きな挑戦になる」と分かりました。なぜなら、マリーナは絶対的な主役で、最初から最後までカメラはずっとマリーナから離れないから。そこへの挑戦の意味もあり、大きな挑戦に賭けようと思って受けました。

だけど、監督がセバスティアン・レリオだったことが何よりも決め手でした。セバスティアンの次回作はジュリアン・ムーアが主役(※『Gloria(原題)』)でしょう? その監督に「君ならできる」と言われたので、どうやって断っていいか分からないと言うより、断ることは役者としては絶対ないという感じでした。セバスティアンの言葉を信じました。

――セバスティアン監督との取り組みは刺激的でしたか?

セバスティアン監督は、非常にファンタスティックな方なの(笑)。

ダニエラ・ヴェガ

――どのような感じなんですか?

困ったときにも、常に横にいてくれるというか、側にいてくれるということで、決して見放さない信頼感がありました。いつも面と向かって、ちゃんとこちらの困っていること、例えば、どうしたらいいか分からないところについて聞いてくださった。あと、非常に愛情を持って、優しく語りかけてくれる監督だったんです。私にとっては本当に最高の演出だったと思います。だから、自分では「どうかな?」と思うところも、監督がいてくれたから全部「大丈夫」と思えたんです。これは日本ではまだ1回も話していないんですけど、両足の間に……。

――鏡を置くところでしょうか?

そこ。両足の間に丸い鏡を入れるところも「分かった」と言いながら、どうなるんだろうと思っていましたけど、この映画の中で一番象徴的なシーンに仕上がったと思っています。鏡の中にマリーナの顔が見えることで、「その後ろにあるものは関係ない」というのが分かるシーンだから。彼女の顔を見て、瞳で、あそこで分かる。私の好きなシーンのひとつです。結局、やっぱり監督との間のコミュニケーションがすごくできていたから、上手くいったんだと思っています。

――そのほかにも象徴的なシーンが多く出てきます。好きな場面を挙げるなら?

ほかに好きなシーンで言えば、歌の先生の所に行くところや、オペラを歌うところでしょうか。

ダニエラ・ヴェガ

――オルランドの棺を前に、ハラハラと涙をこぼされるお別れの場面も非常に印象的でした。あの涙の流し方は計算して、ですか?

泣くことについては、いくつか技術があるんです。でも、あのシーンに関しては、集中することで可能になったんだと思います。これまでオルランドに別れを告げるために、マリーナはすごく闘ってきた。オルランドはまるで幻想のように、幽霊のように、様々な場所に出てきて、その苦しんだ後に、ようやく会うところまでいく。マリーナは非常に尊厳のある女性なので、絶対にワーワーは泣かない。ただ、内には様々な想いを秘めていて、いろいろな感情が織りなす。その涙という点に、私は集中しました。

ナチュラルウーマン

――マリーナはトランスジェンダーであることで「特別扱い」を受ける場面が多々出てきます。日本でも今、トランスジェンダーが主人公であるドラマが放送されるなど、関心も高まっていたりしますが、母国のチリでは、どのような反響があるのでしょうか?

チリでは、3カ月間ずっと上映されていたんです。普通の映画だと、なかなか難しい期間の超ロングランだったので、それだけお客さんが来てくれたということで。皆さん、愛情を持って観てくれた印象があります。でも、それはチリだけではなく、世界のどこでも、愛情を持って観てくれた国が多かったので、一番嬉しかったことです。

――世界各国で愛されている象徴のように、様々な賞レースもにぎわせていますよね。現状をどう受け止めていますか?

ダニエラ・ヴェガ

とっても幸せ。たとえ賞のためにやっているわけではなくても、自分たちが表現したいものをやってきて、これだけの賞をいただけることはすごく興味深いです。でも、だからと言って、どうというのはないというのが本音なんですけど。これまでと同じ気持ちで、同じ活動の仕方を私はしていくだろうと思います。

ひとつ言いたいことは、私たちは、別にメッセージを伝えるために映画を作ったんじゃない。これは答えではなく、観客への問いです。皆さんに、「じゃあ、あなたはどの立場から観ていますか?」、「出てきた登場人物の、どの立場に共感しますか?」と、観た方々が自分に問うだろうと思っているんです。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:市川沙希)

ナチュラルウーマン

■タイトル:『ナチュラルウーマン
■コピーライト表記:
(C)2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA
■配給:アルバトロス・フィルム
■2月24日(土)、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

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    3.8
    強い人間なんて居ないんだよ
  • 賽の河原
    3.7
    チリを舞台にした映画ということで、全編スペイン語だったので字幕は不要でしたね#スペイン語再履修マン 「ストーリーを暗示するオープニング、俺は結構好きな部類に入るけど、この映画に関してはなあ...」とか思って半ばナメて観てましたけど、とっても面白かったですわ。参りました。 基本的にはいわゆる「トランスジェンダー」の主人公が色々虐げられるんですけど、作りが上手くて主人公が「こうだからこうなったんだ」とか「そうじゃなくてこうやろ!」って説明したり反論したりっていうシーンが意図的に完全にオミットされてるんですよね。 もうね、「『私はあなたみたいな人、よく分かるから』とか言ってる奴が全然分かってくれない感」とか、「『傷つけてしまったら申し訳ないけど』とかいう前振りからどうしようもなく酷え発言」とか、「良き理解者と見える人物が見せる些細な仕草から見える偏見」とかもうね、本当に我慢に我慢を重ねる展開で辛いっすね#我慢 我慢が重なるからこそ、要は主人公への追い込みが激しいからこそ終盤の展開のカタルシスも大きいですし、脚本的にも最後に大きな空白が残っていて解釈の深みがあっていいですよね。 「どうせ説教くせえ話だろ」とか思ってましたけど、普遍的な「喪失と再生の物語」で最高でしたね。去年の「セールスマン」にしろ「サウルの息子」にしろアカデミー外国語映画賞の作品は結構鉄板で面白いですね
  • summer
    2.6
    ジェンダーの問題と不倫が同時に存在しているからマリーナだけが被害者みたいに見える事に違和感を感じました。
  • はゆ
    -
    2018-021
  • Mai
    -
    No.138 /4000
「ナチュラルウーマン」
のレビュー(1272件)