【ネタバレ考察】映画『フレンチ・コネクション』にカーチェイス定番シーンのルーツ

忙しくて映画が観れてないブルーカラー男子

カトキチ

映画好きなら、きっと一度は観たことがあるであろう、カーアクション映画や刑事モノの定番シーン。

主人公の刑事が容疑者を追っていると、その容疑者が車に乗って逃走。慌てて追うも、刑事には車がない。そこで、たまたま通りかかった一般人の車を止め、警察バッジを見せて、「ちょっと借りるよ」と運転席に乗り込み、まごつく一般人の了承も得ないまま車を走らせ犯人を追う。

犯人車との激しい衝突やカーチェイスで、ボコボコになる罪なき一般人の車。その様子を遠くから見ていた彼(彼女)は、思わずこう叫ぶ。

 

 

「おい!それはオレの車だ!」

 

 

shout

車をとられた一般人が助手席に移動して刑事と一緒に犯人を追うといった、バリエーションもある。

さて、この罪なき一般人から車を借りる(奪う)というカーチェイスの定番は、いったいどの映画から生まれたのか。ルーツを調べてみたところ、その答えらしき作品にたどり着いたので、早速ご紹介したい。

その映画とは、ウィリアム・フリードキン監督、ジーン・ハックマン主演のフレンチ・コネクション(1971)である。

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『フレンチ・コネクション』あらすじ

ニューヨーク市警のドイル(ジーン・ハックマン)は、捜査のためなら強引な手段も厭わないベテラン刑事。相棒とともに、マルセイユとニューヨークを結ぶ麻薬取引のルートを探るが、逆に命を狙われることになり…。麻薬組織壊滅に執念を燃やす刑事たちの決死の捜査を描いたサスペンス・アクション。

映画史に残る名作にしてカーチェイスの始祖

『フレンチ・コネクション』と言えば、第44回アカデミー賞で5部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・脚色賞・編集賞)を受賞した傑作。カーチェイスの始祖的な作品としても位置付けられており、ラストへ続く後半の追跡劇“電車を追うカーチェイス”は、映画史に残る名場面。そして、そこで「それはオレの車だ!」的シーンが登場する。

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出典元:YouTube(Movieclips)

監督は、当時TVドキュメンタリーを撮っていたウィリアム・フリードキン。彼が、それまで培ったドキュメンタリーの手法と、彼が影響を受けたというヌーベルバーグの手法を組み合わせたことで、『フレンチ・コネクション』は他に類を見ない唯一無二の映画になり、その副産物として「それはオレの車だ!」的様式が生まれたと推察できる。

そのシーンが生まれた背景とは何か。この映画の面白さをひもとく3つのポイントを交えて解説(ネタバレ有り)していこう。

※以下、映画『フレンチ・コネクション』のネタバレを含みます

ポイント1:オールロケ撮影のリアリズム

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出典元:YouTube(Movieclips)

まず、本作はセットを使わないオールロケで撮影されている。ロケ撮影の場合、普通は現場を一通り片付けて、人も遮断して、エキストラを入れて撮影をする。だが、映像を見ると分かる通り、『フレンチ・コネクション』では歩く人々や地面に落ちたゴミ、干された洗濯物など、生々しいリアルな街そのままで撮影が行われ、映し出されている。

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出典元:YouTube(Movieclips)

監督によると、原作小説のモデルになった刑事本人と一緒に事件にかかわった場所を巡ったという。事件が起きたまさにその場所で撮影が行われていたわけだ。他にも、劇中に登場するバーのシーンも、セットではなく、実際のお店を使って撮影が行われた。

フリードキン監督が影響を受けたというジャン=リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』に代表されるヌーベルバーグといえば、セットを使わない“ロケ撮影”で知られる。本作では、そのヌーベルバーグ的な徹底したリアリズムを取り入れることで、絶大な効果を生んでいるのだ。

ゴダール

〜「ヌーベルバーグ」とは?〜

1950年代末にフランスで始まった、商業性に縛られず自由な映画制作を志す映画運動。フランス語で「新しい波」を意味する。ロケ撮影中心、同時録音、即興演出が特徴的な手法。代表的な監督・映像作家として、ジャン=リュック・ゴダールフランソワ・トリュフォーエリック・ロメールなどがいる。

ポイント2:何が起こるかわからないアドリブ撮影

『フレンチ・コネクション』には、もうひとつヌーベルバーグ的手法が取り入れられている。それは、手持ちカメラによる“アドリブ撮影”。役者がアドリブで演じるのではなく、カメラマンがアドリブで撮るのである。街に役者を放り込み、カメラマンはそれをひたすら追った。どう動くかわからないドイルたちを追いかけ、時に、役者はフレームからはみ出る。登場人物の会話の途中で、いきなりズームされる場面もある。

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出典元:YouTube(Movieclips)

何が起こるかわからない。数々のシーンにおいて、その緊張感に満ちている。顕著なのが、ドイルたちが上司にツラく当たられるシーン。その撮影では、カメラマン以外はきっちりリハーサルをした上で、本番でカメラマンを現場に入れ、初見のままその演技を撮らせたというエピソードもあるくらいだ。

映画的には不自然なこの撮影方法。しかし、それによりかえって映像にある種の自然さが生まれ、TVドキュメンタリー「密着警察24時」のようなハラハラする迫力と緊張感を醸し出している。ちなみに、撮影監督のオーウェン・ロイズマンは、本作でアカデミー賞撮影賞にノミネートされている。

ポイント3:大事故寸前、伝説の逆走カーチェイス

そして『フレンチ・コネクション』は、リアリティの追求だけにとどまらず、史上最高のカーチェイスを作り出した。その、映画史に残る伝説的カーチェイスはこうだ。

逃げる犯人をドイルが執拗に追うも、犯人は電車に乗り込んでしまう。電車に乗れなかったドイルは、車に乗り込み、犯人の乗った電車を追跡するという驚きの展開。電車が走る高架下で、激走するカーチェイスが迫力満点に描かれる。この追跡劇が、実際の事件にもとづいて描かれているということにも驚く。

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出典元:YouTube(Movieclips)

さらに、なんとこのシーン、所々ではあるが、ドイルの乗る車が道路をガチで逆走している。数台あるスタント車が、道路の幅におさまりきらなかったのだ。撮影では、本物のパトカーがサイレンを鳴らして民間の車をよけさせつつ、ドイルの車は、実際に時速140キロでクラクションを鳴らしまくりながら爆走した。運転するジーン・ハックマンの歯を食いしばった必死の形相がどアップで映されるが、つまりこれは、時速140キロで市街地を走る“マジ”の表情なのだ。

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出典元:YouTube(Movieclips)

このカーチェイスについて、フリードキン監督は「車の動きを計算して、スタント車は数台しか入れなかったが、何度もニアミスがあった。本当に大事故寸前だったよ」と語る。まさに、その「大事故寸前」の迫力がフィルムに焼き付けられているわけだ。

元々このカーチェイスは、車同士のニアミスが何度かありつつも、ぶつからずに犯人(の電車)を追うという設定だったのだが、実際にはスタントマンのミスで車同士が衝突。ただ、それがとんでもなく迫力のある画(え)になったので、そのまま使ったというからすごい。恐ろしいエピソードではあるものの、大迫力のカーチェイスを観れば納得だ。

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出典元:YouTube(Movieclips)

フリードキンは、「まだ青二才だったので考え方が浅かった」と撮影当時を振り返っている。推察の域を出ないが、時速80キロで走る電車を時速140キロの車で追いかければそのうち追いつく、とでも考えたのだろうか。だとすれば、その単純明快さこそが、名カーチェイスを生むひとつの要因になったのかもしれない。

リアリズムか演出か

さて、「それはオレの車だ!」的シーンは、この伝説的カーチェイスで登場する。ドイルが電車を追うために一般人から無理矢理に車を奪い、そこで乗っていた持ち主が「おい!なにするんだ!」的なリアクションを見せるのである。リアリズムを追求した映画であるがゆえの息抜き、一服の清涼剤的な演出だろうか。はたまた、これも事実をベースしたリアリズムによるものだろうか(であるとすれば、それはそれですごい)。

そして、本作には実はもうひとつカーチェイスの定番が登場する。ドイルが車を走らせた後、歩道からベビーカートを押した母親が車道に飛び出してくるも、間一髪でよけてセーフ。ハンドルを切った先のゴミ捨て場に突っ込み、ゴミが散乱するという、こちらもその後のカーアクションの定番となるワンシーンだ。

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出典元:YouTube(Movieclips)

リアリズムか演出か。ドキュメンタリーの手法とヌーベルバーグ的手法の相乗効果によって、カーチェイスの始祖たる名作になった『フレンチ・コネクション』。その後、さまざまなカタチで進化を遂げるカーアクションの礎をつくったことは間違いないだろう。

出典元:YouTube(Movieclips)

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参考資料:『フレンチ・コネクション』DVD特典、ウィリアム・フリードキン監督による音声解説

記事内画像:フリー素材ぱくたそ(http://www.pakutaso.com)/[ photo つるたま ][ モデル 段田隼人 ]

※2021年6月9日時点のVOD配信情報です。

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