無冠の実力派怪演俳優ウィレム・デフォー、いま観ておくべき出演映画25本

2018.05.08
映画

映画マニアと呼ばないで

夏りょうこ

今年2月に開催された第68回ベルリン国際映画祭にて、映画業界に大きく貢献した人物にあたえられる名誉金熊賞を受賞したウィレム・デフォー。俳優としてのキャリア40年にして、ある時にはスパイダーマンと敵対する悪役、ある時には名もない電気技師、そしてある時にはイエス・キリストと、枠のないさまざまな人物を演じてきた。

5月12日(土)に公開される『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』では、とあるモーテルの管理人という役どころを演じたデフォーは、アカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされ、全米映画批評家協会賞をはじめ複数の賞を獲得した。

ところでみなさんは、いま再びの注目を浴びているウィレム・デフォーを、どのくらい知ってる?

アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたのは、実はこれで3度目。で、またもや逃してしまったという……。いやいや、賞なんてべつにいいのである。スクリーンでそのいかつい顔を拝めるだけでも嬉しいというファンも多いのだから(私)。

でも、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』公開をきっかけに、できればもっと知ってほしい。だって知りたいよね? え? 知りたくない?

まあそう言わず。

というわけで今回は、ウィレム・デフォー出演作のなかから選りすぐりの25本をご紹介しよう。

ストリート・オブ・ファイヤー

見るからに悪党 

ストリート・オブ・ファイヤー

ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)

公開当時大ヒットを飛ばした伝説のロックンロール映画。街に戻ってきた流れ者がギャングにさらわれた元恋人を助けに行くという西部劇的なストーリーで、アクションだらけなのに誰も死なないところがポイントである。とにかくロックロックロック。ビバ! 青春!

あらすじを聞いただけで、デフォーがどんな役なのかわかってしまう(悪党のボス)。だけどそこは80年代らしく、美女のいたぶり方もソフト。そう。これはあくまでも“ロックンロールの寓話”なのだから。

主人公のキラキラした若さが夜の闇に炸裂し、甘酸っぱさとくすぐったさでモジモジしちゃう。ちょうどデジタルリマスター版が7月21日(土)に公開されるそうなので、若かりし頃のデフォー(髪型に注目)をスクリーンでご堪能あれ。

プラトーン

デフォーここにあり

プラトーン

プラトーン』(1986)

デフォーの名を世界に知らしめた代表作が、このベトナム戦争映画である。「地獄の戦闘シーン+物哀しいクラシックのメロディ」という今ではありがちな演出がこの時代にはめずらしかった。衝撃的だった。

無法地帯状態に陥った戦場で、人間は果たしてどこまで「善」を全うできるのか? デフォーはやりたい放題の悪徳軍曹の下で良心を貫こうとするが、そのせいで敵対視されてしまう。まずはこの役で、1度目のアカデミー助演男優賞ノミネート。

ちなみにリアリティを追求するあまり、俳優たちは本物のジャングルで軍隊式トレーニングを強いられたそうだが、その過酷さに周りが次々とドロップアウトしていくなか、デフォーだけが嬉々として取り組んでいたとか。うん。やっぱりそんな人。

最後の誘惑

まさかのキリスト役

最後の誘惑

最後の誘惑』(1988)

イエスを神ではなく人間として描き、その驚くような人間臭さがあまりにもセンセーショナルだったので、信者たちが暴動を起こしたという問題作である。「人間イエス」=「誘惑されちゃう男」ってことなのだが、一体誰に誘惑されるのか、そこがミソ。

恐れ多くも神の子を演じたデフォーに当初は「?」と思ったが、ギョロ目で不敵な面構えが意外とイエスのイメージを壊しておらず。でも『プラトーン』のあとだったせいか、拷問受けても大丈夫そう。

せっかくのおいしい主演だったのに、俳優よりも作品に対する物議の方が注目を集めてしまって残念。イエスがデフォーならユダ役はハーヴェイ・カイテルっていうのもかなり斬新なキャスティングで、このツーショットがたまらんというマニアックな楽しみ方もできて、おトク感満載だ。

ミシシッピー・バーニング

スーツにメガネの新境地

ミシシッピー・バーニング

ミシシッピー・バーニング』(1988)

ゴリラ顔のデフォーがメガネをかけ、人種差別が根強く残る南部の田舎町へ赴任して奮闘するエリートFBI捜査官を演じるとは。孤立無援状態に陥って大変な目に遭いながらも捜査を続ける姿が、泣けてくる……メガネ、似合います。

なので、デフォーの新境地といってもよい作品だろう。実話を基にしている社会派映画ゆえ、観ていて明るい気分にはならないが、デフォーにとっても挑戦だったのでは?

しかもキリスト役の次にこれなんだから“カメレオン俳優”と呼ばれてもよかろうに、あまりそういう話を耳にしないところがデフォーなのである。じっと考え込んで耐え忍ぶ姿もなかなかよし。

7月4日に生まれて

もったいない使われ方

7月4日に生まれて

7月4日に生まれて』(1989)

『トップガン』で一躍人気スターとなったトム・クルーズが、マッチョなナイスガイのイメージを払拭し、演技派俳優として認められたくてがんばった話題作。

愛国心にあふれた主人公が赴任した戦場は地獄で、負傷して帰国してみたら反戦運動が盛り上がっていた。そんなこんなで自暴自棄になった車イスの彼が出会うのが、似たような境遇で車イスのデフォーである。

トム以上に荒れているデフォー。しかし、う~ん、なんてもったいない使い方なんだろう。まあ、あんまり出ると主役を食ってしまいそうだから、これでよかったのか。「またベトナムがらみの役か」と思わず、どうか温かい目で見守ってあげてほしい。

クライ・ベイビー

デフォーを探せ

クライ・ベイビー

クライ・ベイビー』(1990)

“悪趣味の帝王”と呼ばれるジョン・ウォーターズ監督の作品で、ジョニー・デップが初主演という驚きもさることながら、こんなヘンテコ映画に出演してもデフォーが浮いていないことの不思議。

階級。不良。ロカビリー音楽。それをキーワードに体制批判をした反骨精神あふれる話……といえばまあそうなのだが、そんな大げさな作りではないところがカッコイイ。デフォーは、デップが投獄された刑務所の看守役。あら?と思っているうちに消えてしまうので、探してみてください。

こんなマニアックな映画に出ても、俳優としてブレておらず。「制服姿いかつい顔権力側のワル」がひと目でわかる。願わくば、ちょびっとでもいいから踊ってほしかった。そして、左目からひとしずくの涙を流す顔を見てみたかった。

ワイルド・アット・ハート

歯ぐきの威力を見よ

ワイルド・アット・ハート

ワイルド・アット・ハート』(1990)

この映画は、ニコラス・ケイジが車の上で体をくねらせながら「ラヴ・ミー・テンダー」を歌うシーンがみどころではあるが、デフォーの歯ぐきにも注目。下卑た笑いをするきったない口元はもちろん入れ歯なのに、自前かと思うほど似合いすぎ。

なんせ監督はデヴィッド・リンチなので、出てくる人はみんな独特にヘン。そんなリンチ・ワールドで水を得た魚のようにイキイキしている(気がする)デフォーが、そりゃもうステキ。久々に「やってくれた」感のある最期のシーンも強烈だ。

わけがわからんと言われがちなリンチ作品のなかで、これは比較的鑑賞しやすいタイプではないだろうか。ひょっとしたら純愛モノかも。砂漠のヘビにも似たデフォーのねっとり笑顔が、ピリリと効いている。

BODY/ボディ

ボディに埋もれすぎ

BODY

BODY/ボディ』(1993)

当時世界のポップアイコンであったマドンナが、「セックスで大富豪の老人を殺して遺産を奪ったのか」を問われるサスペンス映画で、渾身の演技をしたつもりがゴールデンラズベリー賞最低主演女優賞を受賞してしまったという話題作。

チープなエロを求める以外にどんな鑑賞目的があるのかわからないこの作品に、よくぞ出たデフォー(弁護士役)。マドンナになすがままにされているデフォーを見て、「ちゃんと選んだの?」と言いたくなるのはファンだけではありますまい。でもがんばった。デフォーのお陰で、少しはサスペンスぽくなった。

実はこの作品に出演したことで「これで終わった……」と一瞬目の前が暗くなりかけたが、その後の活躍ぶりを考えるといらぬ心配であった。これもまあご愛嬌ということで。

時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!

堕天使とはね

時の翼

時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』(1993)

映画史上に燦然と輝く『ベルリン・天使の詩』の続編ということで注目されたが、高い芸術性を感じさせた前作に比べると「フツー」「俗っぽい」「蛇足」などと評され、ファンを少なからずガッカリさせた作品。期待が大きすぎるって罪ね。

続編なので出演者は前作とほぼ同じだが、新たなキャラクターとして時を支配する堕天使が登場。それがデフォーである。堕天使だから一応悪役かな。デフォーはこの静かな作品においても相変わらず圧倒的な存在感を見せ、ちょっと惚れ直しそうになるカッコよさ。

ナスターシャ・キンスキーが出ていて、それもみどころのひとつだろう。サービスサービス。「あの感動をもう一度」には及ばなかったものの、デフォーの幅広い作品選びに改めて驚く。クセがあるのに使い勝手がよい俳優なのである。

愛しすぎて/詩人の妻

愛が止まらない

愛しすぎて

愛しすぎて/詩人の妻』(1994)

誰ですかぁ? この役をデフォーにオファーしたのは。デフォーが演じたのは、詩人で劇作家で文芸批評家のトム・エリオット。のちにノーベル文学賞を受賞する有名人だが、当時はまだ世間に認められておらず、しかも妻との激しい愛と葛藤に悩める一人の男である。

精神的疾患から情緒不安定になってしまう妻を支え、かばい続けるデフォー。よくもまあ耐えてるよと感心していたら、宗教に救いを求めるように。ああ。夫婦生活は闘い。でもその苦悩が彼に傑作を書かせるのだから、人生とは皮肉なものだ。

大人しいなあデフォー。それにいつもより色白のような……気のせい? 最初は強烈な違和感があったが、そのうち繊細な詩人に見えてくるもので、こんなロマンティックな一面もあったのね(あくまでも役柄として)。

バスキア

やればできる爽やかさ

バスキア

バスキア』(1996)  

有名な現代アーティストであるバスキアの生涯を描いた映画。この作品にはデヴィッド・ボウイをはじめデニス・ホッパー、ゲイリー・オールドマン、クリストファー・ウォーケンなどの豪華な顔ぶれが出演していて、そのなかにデフォーもいるのだが……出番これだけですかぁ?

しかしこれが、実に爽やかでねぇ。電気屋で働く長髪のアーティスト志望というだけでもデフォーにとっては大変めずらしい役なのに、こんな爽やかに笑えるとは。腰が抜けた。

伝記映画なので実在する芸術家たちを見ているだけでも楽しく、時代の空気も味わえる。でもやっぱりみどころは、デォーの邪気のない笑顔だろう。こそばゆいけど、いいもん観たという感じ。

イングリッシュ・ペイシェント』 

いい人なの? 悪い人なの?

イングリッシュ・ペイシェント

イングリッシュ・ペイシェント』(1996)  

第2次世界大戦時代の北アフリカを舞台に繰り広げられるロマンス映画。戦争批判を盛り込んだ文学作品。アカデミー賞に最多12部門ノミネートされて作品賞を含む最多9部門を受賞したヒット作品。そんなハリウッド大作に出演したデフォーの役は、どっちかというとフツーの人だ。

そんなフツーの人を演じるデフォーに慣れていないため、例えば貴重なタマゴを落としてしまったシーンで「親指がないから……」と謝っても「わざとじゃないの?」と疑ってしまう私。親切なふるまいの裏に何かとんでもない悪だくみを隠していそうで、ハラハラする。

もしやそれを狙ってのキャスティング? テーマは単なる不倫恋愛を超えて奥深く、切ない。そんな話に親指のない謎の男が登場してそれがデフォーだと、途中からサスペンスになるんじゃないかと緊張が走る。罪深い俳優だ。

スピード2

敵役に決まってる

スピード2

スピード2』(1997)  

有名な大ヒット作『スピード』の続編。それに出演すると聞いたら「どうせ敵役」と思われてしまうのが、デフォーである。鋭い目つきで頬骨の高いシワだらけの顔。わかりやすい映画にはわかりやすい悪役を。

ただ、デフォーの場合はどことなく哀愁漂う悪人顔というか、なにか深い理由があってそんなことになったんじゃないかと思わせる雰囲気もあるので、できれば成仏できるような死に方をお願いしたいものだ。

それにしても、こんなメジャーなハリウッド映画からも声がかかるなんて。しかも続編の悪役とは、注目度が高い。悪役のイメージがまた強くなったらイヤだなと思ったが、まあしょうがないですね。

アメリカン・サイコ

アップがステキ

アメリカン・サイコ

アメリカン・サイコ』(2000)

エリートでシリアル・キラー? なんだよくあるホラーかと思いきや、最後にものすごい速さで変化球が飛んでくる。こりゃもうシリアル・キラーより病んでるよ。でもその深い闇が切ない。

主演がクリスチャン・ベイル→レオナルド・ディカプリオ→クリスチャン・ベイルと変更になったそうだが、最初に戻って大正解。いかにも金持ちの坊ちゃんでハンサムでナルシストだが、瞳に狂気の光がチラチラしていて実は小心者という難しいキャラを見事に演じ、コワイやらおかしいやら。

デフォーは彼を追い詰める探偵役。にこやかでも眼が「お見通しだぜ」と言っていて、主人公とのやりとりでは緊張感が走っていいわぁ。アップになるたびインパクトの強さを再認識。ときめきます。

シャドウ・オブ・ヴァンパイア

この珍作が代表作

ヴァンパイア

シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000)

これはホラーだよね? なのに、笑いが止まらない。完璧主義の映画監督が、リアリティを求めるあまり本物のヴァンパイアを出演させるという荒唐無稽なストーリー。その本物をデフォーが演じ(特殊メイクのため素顔は認識できず)、すばらしい怪演ぶりで2度目のアカデミー助演男優賞ノミネートを果たした。

ヒロインの血をご褒美にスカウトされたヴァンパイア。でも、最後のクライマックスシーンまでおあずけにされているので、密かに悶えるヴァンパイア。我慢できずにコウモリを捕まえてチューチューしていたら、共演者に見られて引かれてしまい……なんちゅー話だ。

もちろん大マジメな映画である。よく考えると恐ろしい話だし。デフォーがたまに手をシャッシャと振り回すしぐさがなんともかわいく、利己的な人間に振り回されるヴァンパイアの方に思い入れをしてしまった。

ぼくの神さま

神父姿に萌える?

ぼくの神さま

ぼくの神さま』(2001)

ナチスから逃れるため、カトリック教徒として生活しなければならなくなったユダヤ人の子供。それを知りつつ黙って彼を庇護する神父をデフォーが演じ、いやもう聖職者の出で立ちが似合わないのなんの。元マフィア?と疑ってしまうほどだったが、そこがいいんですかねぇ。優しいだけじゃないっていう雰囲気が。

世間をあざむきながら異教徒として生きるしかない子供を演じたハーレイ・ジョエル・オスメントのメソメソ顔が、常に不安と恐怖にさらされている感を出していてグッド。何よりも彼の周りにいる村の子供たちが上手い。

デフォーが子供たちに「12使徒ゲーム」をやらせるのだが、イエス役になった一番小さい子がその役になりきろうとしてどんなことになってしまったか、デフォーは知ってんの? まあ彼は彼なりに、宗教を通じて子供たちに救いを与えようとしたのだろうけど、ちょっとモヤモヤ。

スパイダーマン

仮面はいらない

スパイダーマン

スパイダーマン』(2002)  

自ら開発したパワー増強剤の副作用で二重人格となり、その別人格が暴走して犯罪者になってしまった男。彼はスパイダーマンが尊敬していた天才科学者で、友人の父親。そういう複雑なキャラを演じたのがデフォーである。

アメコミでは、敵役も自己顕示欲の強いコスチュームを着ているが、デフォーは緑色のゴブリン・スーツと足元にはグライダー、そして般若みたいな仮面をかぶっている。でも、その仮面を取っても印象があまり変わらない……そう思ったのは私だけ?

デフォーはライバル企業との競争や重役たちに追い詰められ、ストレスを溜めていた。それが薬によって覚醒し、爆発。なんだか身につまされるなあ。コスチュームが似合わないことで、悲愴感がより増す。でも、こういう悪役はもう卒業してね。

レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード

静かにキレる

レジェンド・オブ・メキシコ

レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』(2003)

同じキレるにしても、爆発的にわめきちらしながら物を投げたりするのではなく、頬がピクッとしたあと残酷な指令をサラッと出す。そんな悪のボスをデフォーが演じ、適役すぎて面白みには欠けるものの、無難な一手という感じで悪くはない。

デフォーはね。ピアノを弾きたいみたいなんですよ。で、教えてくれる先生がちょっと失礼なことを言ったとたん、その場から追い出して「指を切り落とせ」と命じる。無表情だけどものすごく怒っているのがわかってコワイ。

正直いうと、共演者たち(ジョニー・デップとミッキー・ローク)のキャラが立ちすぎていて、デフォーはかすんでいる。悪人の数も多いし……何だかなあ。でも、デフォーが深みのある悪党を演じられる貴重な人材なのも確か。悩ましいところである。

ライフ・アクアティック

赤いニット帽がまぶしい

ライフ・アクアティック

ライフ・アクアティック』(2004) 

海洋探検家で海洋ドキュメンタリー監督が、幻のジャガーザメに殺された仲間の敵を討つために潜水艦で乗り出す最後の航海。そう聞くと冒険モノのようだが、ボサノヴァ風にアレンジされたデヴィッド・ボウイの歌が流れたり、銃撃戦も緊迫感ゼロでヤル気がなさそうだったりして、なんとも体温の低い作品である。

そんなゆるい空気感のなか、デフォーが演じるのは、主人公をまるで父親か片想いの相手かのように慕う乗組員。般若顔にオシャレな制服という強烈なミスマッチが、この映画の不思議な世界観をより謎めいたものにしていて、キャスティングにもセンスあり。

とはいえ、デフォー、やっぱり浮いている。が、その浮き加減が絶妙。見ようによっては赤いニット帽もキュート。

エレニの帰郷

母の人生を見守る

エレニの帰郷

エレニの帰郷』(2008)

夫婦かと思ったら母と息子だった。デフォー演じるAととエレニ(イレーヌ・ジャコブ)のことである。エレニの見た目が若々しいというのもあるが、再会シーンで頬ずりしながらひしっと抱き合う姿が恋人同士のよう。照れるなぁ。こういうデフォーを見慣れていないもんで。 

ストーリーが過去と現在を行ったり来たりする上、デフォーの娘役の名前もエレニというまぎらわしさ。前作『エレニの旅』を観ていなかったら、人間関係を把握するまでにエネルギーが必要かも。でも映像が詩的ですばらしいので、何度もハッと目を見張る。 

スターリンの死や戦争という歴史的事件に翻弄された両親の人生。そういうプライベート的な事柄を映画にしようとしているのが、デフォーである。そう、彼は映画監督。知的でシックなファッションにドキリ。こんな静かな作品には似合わないだろうと思っていたが、ヤワじゃない苦労人の風情がなかなかの味わいであった。

アンチクライスト

お尻が目にしみる

アンチクライスト

アンチクライスト』(2009) 

愛し合っている最中に幼い息子が事故死してしまい、絶望に追い込まれた夫婦の苦悩と葛藤。そして、とどのつまりは男と女の間にある暗くて深い河が容赦なく描かれ、傑作なんだか不愉快なんだか、とにかく賛否両論を巻き起こした衝撃作である。

いつもながらの大胆な演出と徹底した暴力シーン。そして何度もあるセックスシーン。いやもう、デフォーの背中とお尻が目に焼きついてしまうんですけど。妻を愛する頼もしい夫だったのに、事態が狂気の展開になるにつれてエライ目に遭わされることに。

共演のシャーロット・ゲンズブールがものすごい女優魂を見せるが、それをしっかり受け止めるデフォーのおさえた演技は評価されるべき。ただのイケメンじゃ絶対に務まらないし、物足りない。デフォーが底力を見せてくれた一作である。

ハンター

ガッツリ主役

ハンター

ハンター』(2011)

企業に雇われて絶滅種を追い続ける孤独なハンター。しかし、ステイ先の家族と触れ合ううち、彼のなかである変化が起こり始める……というとハートウォーミングなストーリーのようだが、環境保護主義者と地元民との対立や絶滅種の奪いもあり、なかなかスリリングな映画である。

デフォー、出ずっぱりです。オペラを愛し、キレイ好きで無口な男。役作りのために専門家から体臭の消し方などの実践的なサバイバル訓練を受けたそうで、相変わらずの徹底ぶりだ。銃が似合うのう。顔は怖いけど根は優しくて情に厚い。こんな静かなデフォーもなかなかステキである。

タスマニアの神秘的な大自然にチラホラ降る雪が美しい。この作品で、デフォーはオーストラリア映画協会賞主演男優賞にノミネート。今後はバイオレンス系アクションよりも、こういう孤高の役を演じるデフォーをじっくりと観てみたい。

グランド・ブダペスト・ホテル

嬉しそうにバイクで疾走

グランド・ブタベスト・ホテル

グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)

『ライフ・アクアティック』と同じウェス・アンダーソン監督の作品に再出演。しかし、役柄はずいぶん違う。というか、こちらはあまりにもデフォーぽく、まさか悪者じゃないよねと思っていたら主人公を捕まえる側の人間だった。容赦なく追い詰める姿が、しっくりくるわぁ。

おとぎ話のようなかわいらしい色彩とデザイン。そんな架空世界で高級ホテルのコンシェルジュとベルボーイが繰り広げる冒険物語なのに、やはりこの監督らしく、血わき肉踊るようなサスペンス感に乏しい。そこで一服の刺激剤となっているのが、デフォーの存在だろう。

雪山をバイクで疾走し、どこまでも追いかけてくるしつこい奴。お菓子の国で大人が遊んでいるみたいな映像のなか、デフォーだけがリアルだ。マジだ。豪華キャストのなかで埋もれてしまうかと心配したが、悪のオーラは健在であった。

ドッグ・イート・ドッグ

つぶらな瞳の狂犬

ドッグ・イート・ドッグ

ドッグ・イート・ドッグ』(2016)

今までさんざん悪役を演じてきたデフォーだが、ここまで鬼畜なのは初めてかもね。いや、とんでもないバカだから鬼畜になっちゃうの。それを自分でもわかっていて、でもどうしようもなくて、実は人知れず悔いてるの。そこらへんがだんだんわかってくるとちょっとかわいいかなと思ってしまうけど、それまではその鬼畜ぶりが目も当てられない。

今回は現実に存在しそうな悪人だから、ちょっとシャレにならん。ニコラス・ケイジが賢く見えるほどデフォーの考えなさは致命的だが、そんなデフォーが途中からつぶらな瞳になってきているような……目の錯覚? 演技力?

ギャングから誘拐の仕事を依頼された前科者たちが、思いも寄らないミスを犯してしまい、次第に追い込まれていく。そこらへんの悲劇(喜劇)的展開は、クエンティン・タランティーノが撮ったら面白かったんじゃ……。ニコラス・ケイジと共演しているデフォーが嬉しそうで、何よりだ。

オリエント急行殺人事件

目立ちはしないがアヤシイ

オリエント急行殺人事件

出番が少ない……デフォー目当てに見た人(私)は、少々おかんむりではないだろうか。このミステリーはそもそも登場人物が多いのでまあしょうがないかと思いつつ、もう少し見せ場があってもよかったのに。残念無念。

それにしても、いつもながらメガネをかけると別人ですな。神経質なインテリで、でもどこかアヤシイ。今回はそこが狙いだから成功している。主要メンバーの濃いキャラと複雑な物語に気をとられて見逃しそうになるが、なかなかしぶい立ち位置ではなかろうか。

名バイプレイヤーとしてきっちり務めを果たしているデフォー。映画のなかであまりフォーカスされていないのに(ポスターを見てもどこにいるのかわからない)名前がちゃんとクレジットされるのは、メジャー俳優の証だと思いたい。

いかがでしたか? 

インパクトのある風貌なのに、ハリウッド超大作から作家性の強いミニシアター系作品まで、どんな役でもこなしてしまう演技力と存在感。いつかはアカデミー賞をその手に! 

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