ゆるい映画で一息入れませんか?「こころがゆるむ」おすすめ映画10選

映画も音楽も本も好き。

丸山瑞生

みなさん、連休をいかがお過ごしでしょうか。
新年度や新学期は、気を張る季節だったかと思います。

ゴールデンウィークは新年度初めての長いお休み。
そこで今回は、日々の力を抜く「こころがゆるむ」映画のご紹介です。

バーバー吉野

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舞台は山間の田舎町。ここにはとある伝統があった。それはすべての少年たちは同じ髪型にしなければならないということ。その髪型は前髪を短く切り揃えられた、おかっぱ頭。しかし、東京からの転校生が現れ、少年たちは町の伝統に不信感を抱く。なぜなら、彼は茶髪の横分けでかっこいい。伝統に異議を唱え、反旗を翻した少年たちの青春ドラマ。

監督は、荻上直子。「ゆるい映画」の筆頭ともいえる『かもめ食堂』や『めがね』の監督ですね。しかし、本作『バーバー吉野』はゆるさにパンクを兼ね備えた、稀有で魅力的な作品。

冒頭の合唱シーン、伝統の髪型を「吉野ガリ」と名づけるセンスなど、以降の作品よりも独特の笑いのセンスは顕著。くすくすと笑えるゆるさが持ち味ですが、習わしに立ち向かい、髪型の自由を訴えるのは反骨的。『めがね』などのゆるさとは異なる、荻上直子監督のセンスを味わえる一本かと思います。

転々

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借金を抱えているが、返済の当てもない大学生・竹村(オダギリジョー)。借金取りの福原(三浦友和)は「借金をチャラにする代わりに俺の東京散歩に付き合え」と竹村に持ちかける。竹村は胡散臭さを感じつつも、福原の提案を受け入れ、ふたりの散歩が始まる。

豊富なネタ、独特なオフビートの作風が特徴の三木聡監督。本作は三木聡ワールドの入口にはぴったりの作品です。『転々』の面白さは、散歩中のくだらない会話、どうでもいい発見など、些細な出来事の描き方。普通の作品ならば、物語の要素にもならないものを三木聡は作品中に散りばめます。それが本作の楽しさで、散歩の醍醐味だとも思うのですよね。

ゆるさが持ち味の反面、印象的な台詞も目立ちます。主人公・竹村のかつての自宅が取り壊されたことを知り、福原は「東京の思い出の半分はコインパーキングになってる」と言います。東京らしい哀愁を感じさせる名言。

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インスタント沼

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非科学的なことを信じない雑誌編集者・沈丁花ハナメ(麻生久美子)は担当する雑誌の廃刊に伴い、会社を辞する。人生に行き詰まったハナメは、ひょんなことから自身の出生に関わる秘密を知り、行方知れずだった父親かもしれない男・沈丁花ノブロウ(風間杜夫)を訪ねる。彼の営む骨董店「電球商会」を舞台に巻き起こる、ヘンテコな人間たちが織り成すコメディ。

監督は『転々』と同じく、三木聡。あらすじを読んでもさっぱりと内容は入りませんが、三木聡らしさの詰まった作品。日常から外れた不条理さ、ネタの応酬、定番のキャストもファンには嬉しいですね。

本作の魅力は、主演の麻生久美子の存在。ドラマ「時効警察」シリーズでも活かされたコメディエンヌっぷりはバカバカしさと可愛らしさの絶妙なバランス。麻生久美子だからこその役どころではないでしょうか。『転々』の項では「三木聡ワールドの入口にはぴったりの作品」と書きましたが、本作も三木聡特有の毒素が抑えめで、取っ付きやすい作品ですね。どちらもハマれば『図鑑に載ってない虫』もお薦め。

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モヒカン故郷に帰る

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妊娠中の恋人(前田敦子)を連れ、結婚報告のために故郷へと帰ったモヒカン頭の売れないバンドマン・田村永吉(松田龍平)。久々に家族が顔を揃えるが、頑固な父親・治(柄本明)との親子喧嘩が勃発。しかし、夜には近所の住民を集めた結婚祝いの大宴会が催される。そんなとき、治は倒れ、癌だと発覚する。

監督は、沖田修一。悲しい物語を軽やかにつづる本作。湿っぽさは控えめで、病に倒れる治と、彼を取り巻く家族の絆もしっかりと描き、コメディとしてもドラマとしても楽しめる秀作。

どのキャストも素晴らしいのですが、特筆すべきは主人公・永吉の恋人を演じる前田敦子。地味で、素朴で、その姿はかつてのトップアイドルだった彼女とはまるで別人です(しかし、彼女はそういう役回りを演じることが多いですね)。家族の問題に関わり、外的な要因を引き起こす役柄は、アイドルから女優へと転身を遂げ、一癖も二癖もある役者たちとのお芝居に化学反応を起こす、女優・前田敦子自身の立ち位置とも重なります。

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セトウツミ

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監督は、大森立嗣。大阪の男子高校生、瀬戸(菅田将暉)と内海(池松壮亮)。彼らが放課後に川辺で繰り広げる会話のみを描いた作品。キャッチコピーの「この川で暇をつぶすだけのそんな青春があってもええんちゃうか」が的確で、なおかつ、本作の面白さを端的に伝えられる言葉かと思います。

これは個人的な意見ですが、学生時代の思い出には「はっきりと記憶に残る思い出」と「はっきりとは憶えてないが、楽しかった思い出」があると思うのですよね。
本作は後者の記憶を思い返させる作品で、下校中のくだらない会話や、お決まりの寄り道など、それらの学生時代の記憶に漂う「ああ、あのころは楽しかったな」の気持ちが描かれます。本当にどのエピソードも些細ですし、くだらないとも言えるのですが、こういう時間が楽しいよなと思います。75分という上映時間の短さも手軽なのでお薦めです。

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まほろ駅前多田便利軒

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まほろ市の駅前に位置する「多田便利軒」。この店を営むのは多田啓介(瑛太)。そして、彼の元に転がり込んだ男・行天春彦(松田龍平)。彼らに舞い込む仕事はどこか奇妙で、きな臭い依頼ばかりだが、そこからさまざまな人間模様を垣間見る。一年を通して描かれる、痛快便利屋物語。

監督は、大森立嗣。生真面目で、頼まれたことは断れない、完璧な便利屋体質の多田。怠け者だが、さらりと真理を言い放つ行天。でこぼこコンビのゆるさが魅力的な本作。
多田便利軒を訪れる依頼人たちは生きるのが下手くそな人間ばかり。彼らが持ち込む依頼は些細なものばかりですが、それでも彼らの人生には大切なものです。

多田と行天は依頼人たちと関わりを持ち、それぞれの人生に触れます。彼らは不器用なりに他人事とは思えない依頼人たちと接したり、自身と向き合います。なぜなら、多田と行天も生きるのが下手くそな人間だから。その不器用さを丁寧に描いているのも本作の見どころのひとつ。ゆるいのですが、ほろりと泣ける一本です。

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コーヒー&シガレッツ

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監督は、ジム・ジャームッシュ。オフビートの代名詞的な監督のひとり。出演者たちが実名で演じてるのも面白いですね。ビル・マーレイケイト・ブランシェットなどの役者はもちろん、イギー・ポップトム・ウェイツなどのミュージシャンも出演。

前述の『セトウツミ』とも通じる会話のみの作品で、タイトルからもわかりますが、コーヒーを飲み、煙草を吸い、とりとめのない会話が繰り広げられます。それだけです。それだけなのですが、かっこいい。
映画や漫画、アニメのキャラクターへの憧れから煙草を吸うようになる人もいると思うのですよね。『コーヒー&シガレッツ』はまさにそういう映画です。煙草を吸う姿に憧れたり、ダイナーでコーヒーを飲みながら友人と話したり。後者はアメリカ文化への憧れとも言えます。

脱力感とかっこよさを味わえるのが本作の魅力。ぜひ、コーヒーを片手に。喫煙者の方は煙草も合わせてのご鑑賞を。

パターソン

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日常生活からのインスピレーションで詩を書く、バスの運転手・パターソン(アダム・ドライバー)。彼は愛する妻・ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)、愛犬のマーヴィンと慎ましくも幸せな生活を送る。パターソンの詩は毎日の暮らしを彩るものや、人々との出会いから生み出される。本作は、パターソンと彼を取り巻く人たちとの一週間の物語。

監督は前項の『コーヒー&シガレッツ』と同じく、ジム・ジャームッシュ。『パターソン』は繰り返される日常の物語で、大きな起伏はありません。当たり前の日常の尊さを描いた作品です。

日々の業務をこなし、仕事の合間には詩をつづる。夕方には自宅に帰り、愛する妻と夕食。食後は愛犬の散歩のついでになじみのお店でお酒を一杯だけ飲む。基本的にはこれを繰り返すのですが、毎日の出来事は微妙に異なります。バスの乗客の会話に耳を傾けたり、帰り道で詩人と出会ったり。ときにはトラブルにも巻き込まれますが、それらのすべてがパターソンにインスピレーションを与えます。
劇中の詩も素晴らしいので、こちらにもご注目を。

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ムーンライズ・キングダム

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舞台は、1960年代の米東海岸ニューイングランド島。周囲の環境になじめないボーイスカウトの少年・サムと、少女・スージーは、駆け落ちを決意。島をひとりで守る警官・シャープ警部、ボーイスカウトの隊長・ウォード隊長、スージーの両親らなど、周囲の大人たちはふたりを追いかけ、小さな島に起こった波紋は瞬く間に島中に広がる。

監督は、ウェス・アンダーソン。少年と少女の小さな恋の逃避行は、大人のそれとは異なり、愛らしさと冒険心に満ち溢れてます。逃避行のプランや、サムとスージーのダンスのどこか可笑しく、ゆるい笑いを誘います。
しかし、物語にはゆるさを感じつつも、ウェス・アンダーソンの徹底的な画面の作りと美意識は相変わらずで、どこを切り取ってもお洒落。

非常に個性の強い監督ですが、こちらの『ムーンライズ・キングダム』は間口の広い作品だとも思います。新作『犬ヶ島』の公開も楽しみですね。

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チャップリンからの贈りもの

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1978年、チャップリンの遺体はスイスのレマン湖畔の墓地に埋められた。それを知ったお調子者の男・エディ(ブノワ・ポールヴールド)は、入院中の妻と幼い娘を抱えたどん底の生活を送る親友・オスマン(ロシュディ・ゼム)を誘い、チャップリンの棺を盗み、身代金をせしめようと思いつく。しかし、彼らの計画は穴だらけ。ツキにも見放されたふたりは窮地へと追い込まれる。

監督は、グザヴィエ・ボーヴォワ。本作の焦点は、物語自体のゆるさよりも、こんなにもゆるい実在の事件があるのかという驚き。実際に起こった犯罪がモチーフにもかかわらず、ピースフルでオフビート。人も死ななければ、流血も起こりません。この出来事そのものも喜劇に思えますよね。

サイレント映画へのリスペクトはもちろん、チャップリンの映画にも触れたいと思わせられる作品。本作をチャップリンへの興味の入口に据えるのも大いにありだと思います。

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さいごに

いかがでしたか?
どれも気を張らずにまったりと楽しめる作品ばかりです。
ぜひ、日々の疲れを映画とともにほぐしてくださいね。

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パターソン
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