第72回ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞スペシャルメンションに選出された、川和田恵真監督の長編デビュー作『マイスモールランド』の先行配信が10月24日まで期間限定で実施中、さらに12月23日にはBlu-ray&DVDが発売開始となります。
主演には、ViViの専属モデルとして活躍している嵐莉菜。共演には、『MOTHER マザー』で数々の新人演技賞に輝いた奥平大兼。クルド人・サーリャの難民申請不認定後の一変する日常、それによりバイト先で出会った、東京の高校に通う聡太と自由に会えなくなるといった、難民問題を扱いつつ、2人が見せる等身大の高校生の姿を瑞々しく捉えた青春映画です。
「この映画は高校生にこそオススメできる」と語るのは、TikTokクリエイターのしんのすけさん。本作のどんな点に、しんのすけさんは惹かれたのか、なぜ高校生にオススメできるのか、話を聞きました。
日本映画らしくないポスターデザインの意味
――本作をご覧になったときの率直な印象から教えて下さい。
しんのすけ:世の中にまだ知らないことが、こんな身近にあったんだと教えてくれて感銘をうけました。僕は予告編を観るのがあまり好きじゃなくて、ポスターのデザインや概要などでその作品を観るかどうかを決めるんですけど、この映画のポスターデザインがメチャクチャいいなと思ったんです。是枝裕和監督率いる分福の作品だということもあって期待していましたが、実際に観てみると本当に素晴らしかったです。
――ポスターデザインのどの辺りに惹かれましたか。
しんのすけ:僕がこの作品を観る以前に嵐莉菜さんを知らなかったのもありますが、このデザインで『マイスモールランド』というタイトルから日本映画だと連想しなかったんです。元々、洋画の方が好きだったのもありますが、この主演、このデザインで日本を舞台にしているということが作品的にも意味のあることですし、分福の作品ということにも納得感がありました。
――分福の作品であるということへの納得感とは、具体的にはどういうことでしょうか。
しんのすけ:是枝監督は国際的にも有名で国外でも作品を作っていますから、国境を超える、国をまたぐみたいな意識があると思います。それはポスターが邦画らしくないことにも通じているのでしょうけど、分福なら、奇をてらうことなくそういう作品を作るだろうなということです。
こういう作品を作って映画館で上映できる環境って、日本にはなかなかないと思いますし、是枝監督のチームがそういう環境を築き上げてきたからこそ生まれた作品なんだと思います。
――しんのすけさんは登場人物の誰に一番共感できましたか。
しんのすけ:やっぱり、奥平大兼さんが演じた聡太ですね。聡太の抱える進路の悩みは、高校時代に誰もが抱えたことがあるから共感しやすいですし、僕自身、映画を作りたいと思い始めたのは高校の頃でした。あと、父親のいない母子家庭だったのも聡太と同じなので境遇も含めて共感できました。
僕だけじゃなく、観客の多くは聡太の目線でこの物語を観ると思うんです。なぜなら、彼が一番、僕らの目線に近いキャラクターなので、彼のセリフが一番響くものがありますね。
僕は、嵐さん演じるサーリャが自身をクルド人だって打ち明けた時に、聡太が言う「ワールドカップ出てないよね」というセリフがすごく好きなんです。セリフを読んでいる感じが全然しなくて、等身大の男子高校生の想像力の限界からようやく出てきたものという感じがします。さらに、サーリャが「(W杯)出てない」と言った後、彼の返しが「あんまり強くないんだ」と言ったのもすごいです。多分心を紛らわせた方がいいのかもとか、いろんなことを一生懸命考えた末に出てきた言葉なんですよ。
――しんのすけさんは、聡太ぐらいの年齢の時、どんな生活をおくっていましたか。
しんのすけ:実は高校の時付き合っていた彼女が在日外国人の二世だったんです。周りにも在日外国人の方はいたし、特に珍しくなかったんですが、ある時、彼女からそのことを打ち明けられるという、聡太のような経験をしました。
その時は「そうなんだ」ぐらいのリアクションで、そのことを打ち明けるためにどれくらい勇気が必要だったかわからなかったんです。だけど大人になってあの時、だいぶ勇気を振り絞ったんじゃないかと考えるようになりました。この映画を見て、そんな自分の経験を思い出したりしました。
――打ち明けられた時は、あまりそのことについて深く考えなかったのですか。
しんのすけ:そうですね。今ならもっと気の利いたことが言えるかというとそんなこともないと思うんですけど。僕の経験の場合は、彼女に1人の人間としてどう接するかという個人の問題でしたけど、映画の中の聡太の場合、サーリャの父親が収容されてしまうなど、すごく深刻なことが起きて、1人の人間でどうこうできる範囲を超えてしまっていますよね。でも、聡太は自分にできることはなんだろうって考える。その結果、出てきた行動が自分のバイト代をサーリャに渡すということなんですよね。彼なりに、言葉だけじゃ何も状況は変わらないし、何かしないといけないと思ったけど、それしか思いつかなかったんでしょう。でも、サーリャからすると、同情されてるように感じて苦しい。すごく切なくなるシーンでした。
――等身大の高校生の視点からクルド人一家がどう見えるのか、観客にそれを共有してほしくて、聡太のようなキャラクターを出したんだろうなと思います。
しんのすけ:そうなんです。この映画は、聡太ぐらいの年齢の方たちに見てほしい作品だし、難しいことは全くなくて、高校生が誰でも抱える悩みが描かれている、すごくわかりやすい物語です。
あと、東京と埼玉の県境の、片田舎すぎず大都会でもない地域が舞台なのも良いです。日本のどこにでもありそうで、だれにとっても見覚えのある風景なのも、この作品を身近な物語として感じさせるために大切な要素になっていると思います。
――なんの変哲もない風景だからこそ、全国の観客にも馴染みある風景になっていると。
しんのすけ:そうですね。どこにでもある風景の中でありふれた高校生が、クルド人の難民問題に直面する。さらに東京と埼玉の間に「国境」ができるという話になっています。この映画はこれらの設定や仕掛けによって難民問題への入り口として機能していて、自分ごととして捉えやすくしていると思います。
――メインキャストの若い2人、嵐莉菜さんと奥平大兼さんの芝居はいかがでしたか。
しんのすけ:奥平さんは、最初から最後まで芝居を設計して臨んでいるように感じました。嵐さんは対照的に、その瞬間ごとの瞬発力で勝負している印象で、嵐さんがなにをやっても奥平さんがきちんと受け止めているから、彼女も自由にやれているんだろうなと思います。
嵐さんは瞬間ごとの表情がすごく良くて、例えば、教室で友達と掃除しているシーンでわちゃわちゃしているところとかすごく生っぽいし、リアルな高校生として演じることができているのが素晴らしかったです。
――嵐さんは本格的な芝居はこの映画が初めてです。女優としての才能を感じましたか。
しんのすけ:そうですね。サーリャ役はご自身のルーツもあって抜擢された面もあると思いますけど、それだけじゃなくてリアルな女子高生としての表情もふんだんに見せてくれるので、今後は役者として、そのどちらの表情も見せてくれると嬉しいですね。
――長編初監督の川和田監督のセンスをどう思いましたか。
しんのすけ:日本映画として観たことのないテーマ、身近な日常に難民問題があるんだということを、突飛にならずに描けるのはご自身のルーツもあると思いますが、多くの人が知らない日本の姿を見せてくれたことが素晴らしいです。きっと、この映画には監督ご自身の経験や感じた気持ちも入っていると思うので、そんな観たことのない日本を見せてくれて、本当にありがとうございますって感じです。
取材・文:杉本穂高
撮影:ヨシダヤスシ
映画『マイスモールランド』 12月23日(金)Blu-Ray&DVDが発売開始
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴 ほか
監督・脚本: 川和田恵真
企画:分福
配給:バンダイナムコアーツ
公式サイト: https://mysmallland.jp/
(C)2022「マイスモールランド」製作