9月19日に後篇が公開された『進撃の巨人』。大人気マンガの実写化という事で、8月公開の前編には多くの観客が足を運びました。
生き残りをかけ“謎の巨人”に戦いを挑む人間たちを描く、という設定は原作通りですが、変更点もありました。
漫画ファンは作品が改変されることに敏感ですし、改変したことで作品の良さが消えてしまえば炎上は必至。『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』もキャラクター設定の改変で大炎上してしまいました。
出典 : 映画『進撃の巨人』の過激表現から見る日本映画の行方
『進撃の巨人』は原作ファンが多い作品だからこそ大きな話題を呼びましたが、一方で映画自体は有名でもその元となった原作はあまり知られていないというケースもあります。
また原作は知っていても「映画で観たから読まなくてもいいや」と手を伸ばさない人も多いかと思います。
そうした原作がある映画がオリジナルと比べ、どのように変わっているのかをいくつかピックアップして紹介していきましょう。
(※以下、作品の内容に細かく触れている箇所があります)
意外?あのアクション映画にも原作があった!①:『ダイ・ハード』
まずご紹介するのが、ブルース・ウィリス主演の『ダイ・ハード』。現在までシリーズ5作が作られているアクション映画の代表作ですが、実は原作小説があったというのをご存知でしょうか。
原作はロデリック・ソープによる1979年発表の小説『ダイ・ハード』。原作の主人公は第二次大戦で活躍した元パイロットの探偵。映画では主人公が日本商社に勤める妻に会いに行きますが、原作ではアメリカの石油会社に勤める娘に会うという設定になっています。
全編通してハラハラ、ドキドキの連続という、まさにアクション映画のお手本のような作品ですが、実は人物の基本設定が前述のように異なる以外、物語展開は原作通りなのです。
裸足の主人公がガラスで足をケガしながら逃げ回るのも、パソコンとイスで作った爆弾をエレベーターに落として爆発させるのも、消火ホースを体に巻きつけてビル屋上から飛び降りるのも、外にいる警官との交信や、その警官が拳銃を抜いて主人公を助けるシーンなども、原作にそのまま書いてあるのです。
おまけに小説の冒頭で、雪が降るクリスマスの夜に主人公が車で飛行場に向かう際にトラブルに巻き込まれる描写が、シリーズ2作目の映画『ダイ・ハード2』に活かされていたりします。
そしてクライマックス、妻(原作では娘)を人質にした敵のボスと主人公が対峙するわけですが、映画を観た人ならここからの原作の展開は衝撃を受けると思います。
残念ながら原作小説は絶版になっているので、入手するには古書店やネット通販、図書館などで探すしかありませんが、是非とも読んでもらいたい作品です。
意外?あのアクション映画にも原作があった!②:『ランボー』
続いてはシルベスター・スタローン主演の『ロッキー』シリーズと並ぶ彼の代表作ですが、こちらの映画にも原作小説があります。
原作は1972年発表のディヴィッド・マレルの本格的デビュー作品『一人だけの軍隊』(映画公開時に『ランボー』に改題)です。
原作のランボーは映画のようなヒーロー然としてはいなく、どちらかというとベトナム戦争で心身ともに傷ついた若者という部分を強調しています。一方で、彼を追い詰める警察署長の執念の凄さを、映画よりも際立たせています。
ご存知の人もいるかと思いますが、映画では当初、ランボーは上司のトラウトマン上官に撃たれて死ぬという結末で、これも実は原作通りでした。しかし変更されて、ランボーが逮捕されるエンディングとなったのです。
なお、本編では使われなかったランボーが撃たれるシーンは、DVDの特典映像やシリーズ4作目の『ランボー/最後の戦場』で観る事が出来ます。
この原作も日本では絶版となっていますが、登場人物の心の弱さなどが深く掘り下げられており、映画とはまた違った面白さがあります。
長い原作を観やすくスッキリと:『ドラゴン・タトゥーの女』
原作が入手しにくい映画ばかりを取り上げるのも心苦しいので、次は現在でも原作が読める作品をご紹介しましょう。
長編すぎる原作を映画化する際は、あまり物語に関係ない部分をカットしてスッキリとまとめる事があります。近年だと例えば、デヴィッド・フィンチャー監督の2011年制作の『ドラゴン・タトゥーの女』がそれに該当するでしょうか。
原作はスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによる2005年発表の推理小説『ミレニアム1/ドラゴン・タトゥーの女』で、文庫本にして上下巻からなる長編ものですが、これには理由があり謎解きとは直接関連のない要素をふんだんに盛り込んでいるからです。
映画ではそうした部分、例えばファシズム思想に関する描写などは極力カットして観やすくしようとしています(それでも、2時間38分と長尺ですが…)。フィンチャー監督自身、謎解き要素よりも2人の主人公(ダニエル・クレイグとルーニー・マーラ)の恋愛要素に重点を置いたとインタビューで語っています。
原作は『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』を含む三部作構成となっていますが、映画は残念ながら興行成績が振るわず、続編制作が白紙になったようです。
ちなみにこの原作は本国スウェーデンで先に映画化されていて(『ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女』)、こちらはあらかじめ三部作構成です。
原作小説、フィンチャー監督版、そしてスウェーデン版。これら3つのバージョンを見比べて、それぞれの面白さを探すのもいいかもしれません。
スピルバーグらしい味付け:『ジュラシック・パーク』
この夏、シリーズ4作目『ジュラシック・ワールド』が大ヒットした「ジュラシック」シリーズ。
その原点となる『ジュラシック・パーク』の原作は1990年に発表されたマイケル・クライトンによる小説です。こちらもかなりの長編で、遺伝子操作をして恐竜を繁殖させる科学的要素が詳しく書かれていて、恐竜の数や種類も映画より多く登場します。
映画ではそうした要素を簡略化する一方で人間ドラマをより強調させています。
例えば主人公のアラン・グラント(映画ではサム・ニールが演じています)は、原作では子供好きな人物ですが映画では一転して子供が苦手で、恐竜にしか興味を示さない博士という設定に変わっています。
これは、スティーブン・スピルバーグ作品の特徴の一つといえます。
彼の作品の主人公に多く共通する点として、はた目は一人前の男性だけど、家庭内不和や人間不信といった何かしらの問題を抱えている、というのがあります。
『宇宙戦争』でも基本設定はH・G・ウェルズが発表した原作に沿っていますが、映画版の主人公は妻に離婚され、子供達とはそりが合わない男に変更されています。
そうした男が恐竜や宇宙人から子供を守るために奮闘する事で、本当の意味での大人になっていくのです。
原作に話を戻すと、マイケル・クライトンの小説は科学的、社会的考証を元にした作品が多いので、じっくりと読書をしたい時などには最適だと思います。
タランティーノが愛してやまないクライム小説が原作:『ジャッキー・ブラウン』
最後にご紹介するのは、クエンティン・タランティーノ監督作品から。
新作の西部劇『The Hateful Eight(ヘイトフル・エイト)』が、12月25日のクリスマスに全米公開されるとあって、早くも期待が高まっています(日本公開日は未定)。
アカデミー脚本賞を2回も受賞するなど、オリジナル作品にこだわるイメージの強いタランティーノ監督ですが、原作小説を元にした作品も手掛けています。
それは1997年制作の『ジャッキー・ブラウン』です。
原作は犯罪小説家として名高いエルモア・レナードの92年発表の『ラム・パンチ』。タランティーノは13歳の時にレナードの小説『ザ・スイッチ』を万引きして捕まるほど、彼の熱狂的なファンだったそうです。
それもあってか、映画は原作にほとんど忠実です。クライマックスのショッピング・モールでの50万ドル持ち逃げのシーンなども、丁寧に映像化しています。違いは主人公のジャッキー・バークという白人女性を、黒人のジャッキー・ブラウンに変えた点ぐらいでしょうか。
ただし、映画ではあまり見せ場のなかったブリジット・フォンダ演じるメラニーが、原作で大活躍する描写があります。
仲間のオデール(映画ではサミュエル・L・ジャクソン)とルイス(ロバート・デ・ニーロ)が銃器を奪いにネオ・ナチのアジトを襲うも逆に捕らえられ、絶体絶命のところにメラニーが二丁拳銃を持って大暴れし、二人を助けるという描写があるのです。
なぜこの描写を映像化しなかったのか不思議なくらい、この三人組のやり取りが痛快です。ちなみに、この三人組はタランティーノが万引きした小説『ザ・スイッチ』にも登場しています。
他のタランティーノ作品と比べ、『ジャッキー・ブラウン』が全体的に大人なムードなのも、エルモア・レナード原作だからといえるかもしれません。
レナード原作で他に映画化された作品は『アウト・オブ・サイト』や『3時10分、決断のとき』などがあるので、興味があれば併せて観てみるのもおススメです。
映画⇔原作の“橋渡し”
以上、原作を元とした映画をいくつか挙げてきましたが、映画は基本的に映像表現なので、論理的にはあいまいな部分が出てきます。そのため、観てよく分からなかった映画は原作を読むと、登場人物の思わぬ性格や作品自体のテーマが分かる場合もあります。
「読書の秋」「芸術の秋」だからというわけではないですが、この秋は映画が面白かったら原作を、原作に興味を持ったら映画を、という“橋渡し”に浸ってみるのはいかがでしょうか。