『犬ヶ島』ウェス・アンダーソン監督が語る日本愛と、感じる今「映画オタクがいなくなった」【来日インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

ウェス・アンダーソン

5月25日(金)より公開中の映画『犬ヶ島』は、第68回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞し、世界中で高い評価を受けているウェス・アンダーソン監督の最新作。先日、登壇した来日記念舞台挨拶では、「僕にとっては今日が本当のワールドプレミア」と、“本国”ともいえる日本での公開に感無量の表情を見せていた。

消えた愛犬を探して旅に出た少年アタリと、犬たちとの言葉を超えた育みを描く、近未来の日本を舞台にしたハートフル・アドベンチャー『犬ヶ島』は、少年と犬が心を通わせるストップモーション・アニメ作品として楽しめるのはもちろんのこと、ウェス監督ならではのこだわり抜いた表現が冴えわたっている。海外作品の中で描かれる「日本あるある」の違和感は微塵もなく、例えば、相撲、旧きニュース映像、万歳三唱、寿司職人、一本締めなど、挙げればキリがないほど忠実な描写がなされ、細部まで研究しつくされている。

日本への敬愛は、いくつも用意された黒澤明監督へのオマージュとおぼしき場面からも感じられ、そこにはウェス監督による、「日本の若い人にも黒澤作品を知ってもらえたら」というメッセージも込められているという。「映画監督を目指すようになったとき、周りには映画オタクと呼ばれる人がいっぱいいたが、最近はなかなかいなくなったような傾向を感じている」と本インタビューで激白、来日したウェス監督の今の声を聞いた。

ウェス・アンダーソン

――日本を舞台にしていただいて、とても嬉しかったです。特に日本の映画ファンのために用意したシーンなどはありますか?

監督 寿司のシーンはそう見えるかもしれないけれど、正直に言うと、僕のためにやりました(笑)。きっと、これまでお寿司が握られている過程をストップモーション・アニメで作った人は誰もいないと思ったので、僕が観てみたいなと思ったから。結果的にはすごく複雑で、とても難しくて、何カ月もあの短いシーンにかかってしまいました。考えてみると、毒を塗る以外、あまり意味のないシーンではあるんですけどね、何より僕が観たかったから(笑)。けど、映画が大きなひとつの織物だとすると、その一部としてうまく入って皆さんに楽しんでいただけたらいいな、と思っています。

――日本版ボイスキャストについて、聞かせてください。iPhoneで収録したことも話題になっています。

監督 今回、僕がお願いしたいと思っていたボイスキャストが、皆「Yes」と言ってくださったので、理想としていた人たちを集めることができました。iPhoneの録音については、結構よく言われるんですけど、実際に(量は)そんなじゃないんですよ(笑)。短い台詞でもう一度録り直したかったり、新しく録り直さなければいけないものをe-mailや電話で「すみません、これだけ吹き込んでくれる?」とお願いした、ということなので。最近のiPhoneは性能もいいですしね。

ちなみに、ブライアン・クランストン(チーフ役)、エドワード・ノートン(レックス役)、ボブ・バラバン(キング役)、ビル・マーレイ(ボス役)の4人だけは一緒に録音しています。ほかは単独でやりました。

――そうでしたか。第68回ベルリン国際映画祭では日本から夏木マリさん(おばさん役)たちも出席していましたが、現地でのコミュニケーションはありましたか?

監督 夏木マリさん! 夏木さんを起用したのは『千と千尋の神隠し』(湯婆婆役)をやっていらしたからなんです。実際に僕がベルリンでお会いしたとき、夏木さんとティルダ・スウィントン(オラクル役)がいてね、容姿からアーティスティックな部分まで、すごく似ているなと思ったんです。ふたりで話をしているときにも言ったんですけど。

ウェス・アンダーソン

――犬をメインにすることは当初から想定されていたそうですが、なぜ犬だったのでしょう?

監督 イギリスで映画『ファンタスティック Mr. Fox』を撮っていたとき、毎朝スタジオに行く道に「I love dogs.」という看板があったんです。ロンドンには「Isle of Dogs」(ドッグ島)という島があるんですけど、いつも見ていて「面白いなあ、犬の島か~」というふとした思いから、この物語が生まれました。そもそも、そこで犬になっていましたね。僕自身は今、犬も猫も飼っていませんが。

――本作には60年代の黒澤監督へのオマージュ、リスペクトが散りばめられていますが、日本の若い層は残念ながら、観たことのない人も多かったりします。ウェス監督の作品がきっかけとなり「過去の映画も観てみよう」と思うようなことも想定されていましたか?

監督 僕としては、若い人たちが観てくださることが、この映画の最高の結果だと思います。『犬ヶ島』を観て「へえ、黒澤っていう監督の作品に影響されているんだね。どういう映画なのかな?」と、黒澤監督の作品を観てくださることが、本当に素晴らしいことだと思います。

僕が映画に興味を持つようになって、映画監督を目指すようになったとき、周りには映画オタクと呼ばれる人がいっぱいいました。皆、すごく詳しくて、昔の映画をよく観ていた。最近、そういう人がなかなかいなくなったような傾向を、僕自身は感じているんです。哀しいことだと思うんです。なぜなら、シネマとはとても重要だし、歴史の長いひとつのアートだから。新しい映画もアートとしてのシネマの歴史の上に積み重なるべきだと思うのに、スコーンと抜けてしまっているときがあるような気がしています。大きな土台として映画の歴史があって、そこから新しいものが積み重なっていくことを僕は願っています。

ウェス・アンダーソン

――「新しいもの」で言えば、例えば、日本のクリエイターに注目したり、今のアニメーションなどにも興味はお持ちですか?

監督 新海誠監督の『君の名は。』は観ていますし、DVDも持っています。スタジオジブリだと、最近だと宮崎駿監督の『借りぐらしのアリエッティ』も観ています。いいよね、ほかに何を観るべきかな? あと、そうそう、是枝裕和監督がこの間、カンヌで賞を獲ったよね(※『万引き家族』)。それにも、とても注目しています。

――野村訓市さんが日本の実写映画をウェス監督に撮ってほしいとおっしゃっているそうです。もし実現すれば、どのような雰囲気になるんでしょうね?

監督 そもそもこの映画を作ったのも「日本で撮影したい」という気持ちからだったんですが、結果的にミニチュアだったから、全部ロンドンのセットで日本を作ってしまったわけです。どこか違う外国の都市で撮影をすることは、自分自身を本当に驚かせるし、いろいろな出会いが生まれるものだと思います。日本で撮影するとしたら、ストーリーによって都市だったり、田舎だったり、変わってくると思うけど、ロケハンをしながらいろいろなものを発見できると思います。発見したことによって、ストーリー全体が変わってくることもありますしね。

いぬがしま

『グランド・ブダペスト・ホテル』のときには、すごく大きなシフトがありました。実際、ロケハンをしているときに、共産主義の影響で建物が変わってきたことがあって、共産主義の時代の流れを汲む建物は、その時代でない建物と明らかに違うわけです。共産主義の時代をストーリーの中に入れたのも、実際に僕が建物の違いを見て感銘を受けたから。そういうことがあるので、実際に実写で撮影をするのも貴重な経験だと思います。

ウェス・アンダーソン

――ちなみに、次回作は決まっていますか?

監督 フランスが舞台の物語です。ただ、空想の都市なので、まだどこで撮影するかは決まっていません。

ウェス・アンダーソン

――とても楽しみにしています。本日はありがとうございました。(インタビュー・文=赤山恭子)

映画『犬ヶ島』は5月25日(金)より全国公開中。

いぬがしま
(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

【あわせて読みたい】
※ 『犬ヶ島』ボイスキャスト コーユー・ランキン×ジェフ・ゴールドブラム、54歳年の差対談!【来日インタビュー】
※ 孤独な少年を独特の彩度で描くウェス・アンダーソンの映画世界【ネタバレあり】
※ 【イラストで解説】3分でわかる!ベルリン国際映画祭(オススメ受賞作も紹介!)

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • ベビーフェイス
    3.9
    メガサキシティ
  • たけ
    4.4
    ウェスアンダーソンの日本を舞台にしたストップモーションアニメ。日本人としては嬉しい限りです。やっと見れました。 いやぁ、メイキング映像も見たけどウェスの日本への愛やこの映画に対するこだわり、美術班の努力が素晴らしいです。全てのものを手作りで犬や人の顔や毛の一本一本まで植えつけて撮影したらしく、努力の賜物です。拍手喝采。 もちろんウェスの世界観も盛り込まれていて、日本の文化が所々散りばめられスパイスとして映画を更に良いものにしています。更に芸術作品の様な構図に配色。少しのシュールな笑いも飽きさせない一つの要素として盛り込まれています。 舞台は20年後の日本、架空の都市メガ崎市での繰り広げられる。小林市長の犬をゴミ島に追放する法令が通り、全ての犬がゴミだらけの島〝ゴミ島〟に送られる。そこで愛犬を探しに来たアタリ少年と犬達のお話。 出てくる犬達の個性が愛らしい。CM出てた犬とか野球チームのマスコットドッグとかノラ犬とか。。。声優陣もウェスの作品ではお馴染みの役者さんがしているので慣れ親しんだ声が聞けるのではないでしょうか。 素晴らしい映画でした。 犬が更に好きになる。
  • chiyo
    4.1
    なんやめちゃくちゃええやんか… 一見シュールに見えるし、アニメなので夢あるファンタジーかと思いきや…現実的問題を叩きつけられ、考えさせられた内容だった。少しホロっと来てしまう。 吹替で見たんですけど、鑑賞後に字幕でもう1回見ました。犬たちすごいイケボなのいいな。あと主人公の男の子、カタコトだって意見が多かったんだけど自分は円盤で見たけどすごく普通に聞こえました。修正でも入ったのか? メガ崎市という日本っぽい架空の都市が舞台。ドッグ病という病気が蔓延し、ゴミの埋め立て地である犬が島に、全ての犬が隔離されてしまう。小林アタリ少年はそんな犬が島にひとり着陸する。大事な飼い犬のスポッツを探すために。 アタリ少年が犬が島で出会った犬たちと共に、愛犬スポッツを探しに行くんだけど、その会話がユニークでウィットに富んでて良い。私は日本人なので、吹替でも字幕でも違和感なく見れてしまったわけだけど、本来ならば犬たちの言葉が言語化されていて、人間側の言葉は字幕がないので理解できないはずなのだ。 この映画は、犬の方の言葉が字幕で理解でき、人間の言葉は何を言ってるかわからないはずの映画なのだ。 だからもし、アタリ少年の言葉がカタコトで分かりづらかったなら、日本語でも日本人に理解しづらい吹替にしていたのかも知れない。 犬と人は言葉は交わせなくても心を通じ合わせることができる。そういったメッセージを込められた映画。無機物でシュールに見える世界観に、愛が目一杯込められていた。人と動物の繋がり。動物と動物、人と人との繋がり。 言葉が交わせなくても通じ合えるものをこれだけ描いた中に、言葉が交わせるならもっと通じ合えるという意味もきっと込められている。 アタリ少年の句はなんだか私も胸にくるものがあった。 とストーリーについてダラダラ書いたけど、アニメもウェスアンダーソンらしい絶妙で独特なテンポと動きで魅力的でした。犬たちもとても可愛い。アタリ少年も誠実で愛情をもった少年で、少しどんくさい感じがとても愛嬌的。 横スクロールみたいな感じもちょいグロみたいな感じも、この世界観に引き込まれる。ウェスアンダーソンマジック… ウェスアンダーソンの作るアニメ、また見てみたい。面白かった!
  • souma
    3.9
    『決を取ろう。賛成ならアイだ!』 日本人が観ずして これは誰が観るんだというべき作品。 監督の日本愛が凄すぎる。 スパイダーバースがなければ これがアカデミー賞取ってたに違いない。 犬と人間のハートフル作品。 ストップモーションアニメってあまり見たことなかったけど 表現が非常に細やかだったし 内容も凄く独創的。 舞台は日本なんだけど 独自の日本があまりに圧倒的で 嫌いじゃなかった。 ストップモーションと世界観の独自性は 好き嫌いがある部分かもしれないけど 音楽や表情、細かな演出と 全ての部分において 作り手の情熱が伝わってくる。 なぜ日本が舞台なんだろうと思ったけど 黒澤明や小津安二郎へのリスペクト(らしい)。 ◆あらすじ 舞台は近未来の日本、メガ崎市。 ドッグ病の蔓延により ゴミ島(ゴミだめの島)へ全ての犬が隔離されることになる。 自分の犬を探しにゴミ島へ来たコバヤシと6匹の犬のゴミ島冒険が始まる。 ◆クレジット 吹替で観ちゃったからわからないけど 英語の声優陣も豪華なのね。 エドワード・ノートンやスカヨハまで。 日本人も多く起用されていて 渡辺謙や山田孝之、松田修平、松田翔太など。 ニュースキャスターが野田洋次郎ってわかるかい!笑
  • GEKI
    4.0
    ドラマチックな演出を全て廃し、淡々とストーリーを見せる監督。嫌いではない。
「犬ヶ島」
のレビュー(23586件)