世界のクロサワ、世界のキタノ、その異名に加わる新たなる才能…世界のハマグチ。日本映画専門チャンネルでは、映画『ドライブ・マイ・カー』で第94回アカデミー賞の国際長編映画賞をはじめとする各賞を総なめにした若き異才監督、濱口竜介を総力特集。11月から来年1月まで「3ヶ月連続 監督 濱口竜介の軌跡」と題し『ドライブ・マイ・カー』はもちろん、最新作『偶然と想像』、さらに『ハッピーアワー』『親密さ』といった代表作に加え『PASSION』などの超貴重な初期作までがたっぷりと放送されます。
さらには、ここだけでしか見ることのできない濱口監督への特別ロングインタビューも前後編に分けて大放出。ファンなら絶対に知りたい濱口監督の映像哲学や製作秘話などが語られる夢のようなこの企画は、もはや“特集”の枠を超えた“レトロスペクティブ”であり“解体新書”。その全貌のほんの一部をご紹介します。
代表作からテレビ初放送&未ソフト化作品まで見逃せないラインナップ
11月の放送作品
特集スタートの11月からすでに見ごたえ十分のプログラムで幕開けします。ブレイク前夜の『PASSION』(2008)、『永遠に君を愛す』(2009)、『THE DEPTHS』(2010)、『親密さ』(2012)などの初期作を一挙放送。しかも『PASSION』以外は未ソフト化という監督ファン必見のラインナップになっています。もちろん映画監督・濱口竜介という名を世界に広く轟かせた『ドライブ・マイ・カー』(2021)も放送予定です。
注目作『ドライブ・マイ・カー』<PG-12>
妻の死という喪失を抱える一人の演出家・家福悠介(西島秀俊)が、「ワーニャ伯父さん」公演プロジェクトのために広島へと向かう。舞台公演までの間の専属ドライバー・みさき(三浦透子)や若手俳優・高槻(岡田将生)との出会いを通して、家福は心の傷と対峙していく…。
熱狂的支持を集める作家・村上春樹による同名短編小説をベースに、村上による「シェエラザード」「木野」をミックスしてストーリーを再構築。さらにアントン・チェーホフの名戯曲「ワーニャ伯父さん」のセリフが、家福の置かれた状況や心境を代弁するモノローグのように配置されます。亡き妻がベッドで創作した物語、多言語劇として表現される「ワーニャ伯父さん」、そして家福が亡き妻との対話空間として死守するように乗る愛車サーブ900ターボの存在が隠喩となって重層構造のドラマが浮かび上がります。孤独と再生への道を歩む人間の姿を独自のみせ方で観る者に突きつける本作は、第74回カンヌ国際映画祭では脚本賞など4冠に輝き、第94回米アカデミー賞では4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞しました。邦画の同賞受賞は『おくりびと』(2008)以来13年ぶりの快挙となりました。
12月の放送作品
12月は、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞した『偶然と想像』(2021)をテレビ初放送。濱口監督に大きな注目が集まる契機となった5時間超の『ハッピーアワー』(2015)は、これまで観たくても観られなかったというファンも多いはず。未ソフト化『不気味なものの肌に触れる』(2014)、『ハッピーアワー』のクラウドファンディング特典として企画された『天国はまだ遠い』(2016)もピックアップされます。
注目作『ハッピーアワー』
30代も後半を迎えた、あかり(田中幸恵)、桜子(菊池葉月)、芙美(三原麻衣子)、純(川村りら)は今でも親友同士。あるとき、純が離婚調停を進めていることを初めて知ったことであかりはショックを受ける。何故なら4人は今まで何でも話し合える間柄だと思っていたからだ。その一つの波紋はやがてさざ波となり、それぞれの関係性に変化を与えていく…。
演技初挑戦の非俳優を起用しながらも、主演女優4名が第68回ロカルノ国際映画祭にて最優秀女優賞を獲得したことが日本でも大きな話題に。カメラの前でリハーサルをしてその場でカット割りを決める即興性を採用したり、感情を排してただセリフを口にする独自の本読みスタイルを取り入れたり、のちの濱口作品を支える演出メソッドを形作った原点的劇映画です。この演出が、5時間超の物語を「自分自身の物語」として観る側へ届けることに成功しています。さらにはトータル約8ヶ月かけて製作した豊潤な撮影体験が、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『偶然と想像』製作へと結びつくことになります。
注目作『偶然と想像』<PG-12>
商業デビュー作『寝ても覚めても』でメジャー映画の製作スタイルに衝撃を受けた濱口監督が、『ハッピーアワー』のプロデューサー・高田聡と再びタッグを組んだインディペンデント映画。親友同士のガールズトークを切り取ったような「魔法(よりもっと不確か)」、研究室での大学教授と生徒の会話劇「扉は開けたままで」、女友達との20年ぶりの再会を描く「もう一度」の3編で構成されています。この3編のキャラクターやストーリーはそれぞれ独立していますが、「偶然」がテーマとして通底。主人公たちに訪れる偶然はほんの些細なことなのに、それが次第にサスペンスのようなドキドキ感に転じていく様に目が離せなくなります。さらにその偶然によって、これまで気づかなかった自分の姿や深層心理を浮かび上がらせるという展開は、前出の『ハッピーアワー』と通ずるところがあり、もはや濱口監督の代名詞とも言えます。
全7編のエピソードからなる短編集シリーズのプロローグ的位置づけで、企画から撮影まで約1年半をかけてじっくりと作り上げられました。第22回東京フィルメックスでは観客賞を受賞、第71回ベルリン国際映画祭では銀熊賞を受賞しています。
1月の放送作品
来年1月も東出昌大&唐田えりか共演の『寝ても覚めても』(2018)や東北三部作のラストを飾るドキュメンタリー『うたうひと』(2013)と、しっかりカバー。
3ヶ月にわたって濱口監督の軌跡を俯瞰するかのように辿る、ファンにはたまらない内容であると同時に、濱口監督作ビギナーにとっての入り口にもなりえる優れた特集といえます。
注目作『寝ても覚めても』
朝子(唐田えりか)の目の前から忽然と消えた、エキセントリックな恋人・麦(東出昌大)。2年後、大阪から上京した朝子は麦と瓜二つの男性・亮平(東出・二役)と出会う。混乱する朝子だったが、亮平の優しさに徐々に惹かれていく。しかし亮平との結婚を間近に控えた朝子の前に、唐突に麦が現れ…。
作家・柴崎友香による第32回野間文芸新人賞受賞作の映画化にして、濱口監督の商業映画デビュー作。2人の男性の間で揺れ動く女性の恋心を描くというシンプルなストーリーラインながらも、セリフだけでは表現することのできない心境を映像で表すことで重厚な物語に昇華させています。朝子と麦の運命的出会いを象徴するかのように爆発する爆竹や、コインの表裏のような麦と亮平を思わせる東北の海面と曇天など、物語の強度を補完する映像演出が細部にまで冴えわたります。まさにビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』『エル・スール』に勝るとも劣らない映像の数々です。
映画監督・濱口竜介によるマスタークラス的ロングインタビュー
監督作品の一挙放送の豪華さに加えて、ファンへ向けたイチオシ目玉作品がこれ!「3ヶ月連続 監督 濱口竜介の軌跡」のために収録された濱口竜介監督へのロングインタビューは、まさに“耳で聞く重厚なメイキング”です。『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』などの代表作の製作背景や秘話はもちろんのこと、濱口監督の演出スタイルや演出哲学にも深く分け入り、前後編に分けて映画監督・濱口竜介の思想やメソッドに迫ります。ジャン・ルノワールが提唱したイタリア式本読み導入の理由は?テーマとは?物語とは?演技とは?はては「映画」とは…?カメラアングルやカット割り、演技に対する考え方を濱口監督自らがじっくり思考・分析しながら自分の言葉で一つ一つ紐解くように解説。濱口監督による貴重なマスタークラスを自宅のテレビで堪能できます。
濱口監督ファンはもちろん、気になっていた監督の過去作を見逃していた映画ファンにとっては、日本映画専門チャンネルの「3ヶ月連続 監督 濱口竜介の軌跡」で得られる満足度の高さは想像に難くないはず。
日本映画専門チャンネルでは、最新作から不朽の名作、他では観られない未ソフト化の作品や映画ファンなら思わずうなる特集企画まで全作品ノーカットで放送中。
12月以降も、三宅唱監督の過去作をたどる「12.16『ケイコ 目を澄ませて』公開記念 監督 三宅唱のまなざし」、『愛なのに』『猫は逃げた』をTV初放送でお届けする「2ヶ月連続 城定秀夫と今泉力哉」を放送!
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◆日本映画専門チャンネル「3ヶ月連続 監督 濱口竜介の軌跡」
11/21(月)よる9時スタート!※3夜連続放送
・日本映画専門チャンネル公式サイト:https://www.nihon-eiga.com/index.html
・詳しい視聴方法はこちら
・Twitter:@nihoneiga