【ネタバレ解説】映画『複製された男』蜘蛛の謎とラストの意味を徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴが2002年に発表した原作小説を、『メッセージ』や『ブレードランナー 2049』などを手がけたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映像化した『複製された男』。

観念的で難解なストーリーと、意味不明すぎる衝撃の結末に、度肝を抜かれた方も多いのではないだろうか?

という訳で、今回は『複製された男』をネタバレ解説していきましょう。

複製された男

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映画『複製された男』あらすじ

トロントの大学で教鞭をとる歴史講師アダム(ジェイク・ギレンホール)は、映画を鑑賞中に自分に瓜二つの俳優がいることを発見する。彼がアンソニー・クレア(ジェイク・ギレンホール)という名前であることを突き止めたアダムは、好奇心から彼と面会を果たす。

アンソニーは1日だけお互いが入れ替わることを提案し、アダムは渋々それを受け入れるが、やがて物語は思わぬ事態へと向かっていく…。

複製された男_5

※以下、映画『複製された男』のネタバレを含みます。

アダムとアンソニーの正体とは?

ジェイク・ギレンホールが、アダムとアンソニーの二役を演じる。

タイトルからすると「アンソニーはアダムのコピーロボットなのか?」と、あらぬSF的想像や、「アンソニーはアダムの二重人格が生んだもう一人の自分なのか?」と、ジキル&ハイド的妄想をしてしまいそうになるが、果たしてこの二人は何者なのだろうか?

改めて彼らの特徴を確認してみよう。

■アダム

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職業:大学の歴史講師
性格:気弱なM男
配偶者:独身。メアリーというガールフレンドがいる
住居:ボロいアパート
移動手段:ボロい車

■アンソニー

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職業:映画俳優
性格:強気なS男
配偶者:既婚。妊娠6か月のヘレンという妻がいる
住居:オシャレな超高級マンション
移動手段:スズキのバイク

容貌は瓜二つだが、キャラは正反対であることがよく分かる。だが気になるのは、アダムの母親(イザベラ・ロッセリーニ)が息子に対して呟くこんなセリフだ。

「教員をやってて住まいも立派ね」

オカシイ。住まいが立派なのは、俳優のアンソニーの方ではないか?しかも、母親は続けてこんな言葉も投げかけるのだ。

「三流役者とそっくりなんて話はよして」

なぜ彼女は、会ったこともない役者の演技が三流だなんて断言できたのか? 答えは明白。彼女は彼の芝居をみたことがあったのだ。実の息子の芝居を。つまり、アンソニーとアダムは同一人物なのである

もう一つ重要なシーンがある。アンソニーが所属している事務所にアダムが訪れるシーンで、受付の男が「会うのは半年ぶりだ」と答えているのだ。半年という数字は、アンソニーの妻ヘレンの妊娠6か月という数字に呼応する。

さらにもう一つ! アンソニーが妻のヘレンと、こんな会話をするシーンがある。

「あの女と?」
「蒸し返すな」
「また会っているの?」

どうやらアンソニー(=アダム)はかつて浮気をしていたらしい。ここから導かれる答えはこうだ。

売れない俳優のアダムは、妻帯者であるにも関わらずメアリーと情事を重ねる浮気者。やがて妻の妊娠を機に役者業を諦め、大学の歴史講師という地味な仕事にジョブチェンジ。メアリーとの関係を清算し、まっとうな人生を歩もうとしていた。

だがどこか満たされない想いが募り、人生の底打ち感ハンパない。豪華なはずの自分の家までも、みすぼらしく思えてしまう始末。

どうにもこうにも欲望を押さえつけることができず、本来あるべき自分(ありたい自分)であるアンソニーというドッペルゲンガーを生み出し、メアリーとまた浮気を重ねてしまう。

つまり、アンソニーはアダムにとってのリビドー(性欲)の化身なのである!!

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蜘蛛が象徴するもの、ラストの意味とは?

『複製された男』では、蜘蛛が重要なモチーフとして登場する。秘密クラブで金髪美女がハイヒールで踏みつぶそうとする蜘蛛。蜘蛛の顔をした女。街を練り歩く巨大な蜘蛛…。

ところで皆さんは、六本木ヒルズにある巨大な蜘蛛のオブジェをご覧になったことがあるだろうか?

これはフランス出身の芸術家ルイーズ・ブルジョワ(1911年〜2010年)による作品で、六本木以外にもオタワのカナダ国立美術館、ニューヨークのグッゲンハイム美術館、ロンドンのテート・モダンなど、世界中に9箇所設置されている。

Mamanルイーズ・ブルショワの彫刻“ママン”(カナダ国立美術館)

この巨大な蜘蛛のオブジェの名前は“ママン”(=母親)。ルイーズは幼少時に、両親と父親の愛人が一緒に暮らすという異常な状況を体験している。彼女にとって母親とは、父親の傲慢な振る舞いを耐え忍ぶ哀しい存在だったことは想像に難くない。

『複製された男』における蜘蛛もまた、“ママン”的な象徴として考えられないだろうか? しかしそれは男サイドからすると、自分の性的欲望を抑えつける抑圧の象徴としての母(もしくは妻)となる。

そう考えると、「アダムが部屋の片隅に巨大な蜘蛛を発見する」という意味不明すぎるラストシーンも解釈しやすい。それは秘密クラブのカギを発見して、リビドーがパンパンとなったアダムの浮気願望を察知した妻ヘレンの姿。だからこそアダムは自分の過ちに気づいたかのような表情を浮かべるのだ。

ちなみにアンソニーとメアリーが自動車事故を起こすシーンがあるが、これは妻の愛情にほだされたアダムが、自分の欲望(メアリーとの浮気)に終止符を打とうとする脳内映像(妄想)である、と推察いたします。

事故を起こした車のフロントガラスのヒビが、蜘蛛の巣状になっていることに注意! それは事故ること(浮気を止めること)で、あえて自らママン(=妻)の巣の中に入り込もうとする行為だったのではないか?

『複製された男』は“コントロール”の物語

結局のところ、『複製された男』は「結婚したら浮気はダメだよ!自分の性欲は自分でコントロールしようね!」という倫理的な(!?)映画なのだ。アダム自身、学校の講義でこんなセリフを吐いているではないか。

「支配(コントロール)。支配が全てだ」

歴史講師のアダムは古代ローマの話をしているのだが、これは結局自分自身の性欲(のコントロール)の話をしているのだ。

本作の原題である『Enemy』(=敵)が、性欲のコントロールを邪魔する最大の敵が自分自身であることを、明快に示している。

見るからに怪しい秘密クラブは、おそらく現実に存在するのものではなく、男の性欲そのものの表象するメタファー。秘密クラブのカギは、要はリビドーのスイッチボタンだ。

現実と妄想がゴチャ混ぜになっていることが、『複製された男』を難解映画にせしめている最大の要因。それさえハッキリ分かってしまえば、そこに広がっているのはしょーもないオジサンの浮気話なのである!

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※2020年9月22日時点のVOD配信情報です。

  • ミーハー人間
    -
    https://www.instagram.com/p/B43l7WqltEihzL7Ppy0DoC7QCoRIzxB_JFkNqo0/?igsh=MTluMDd4c24wa3dxdQ==
  • 甘口スパイシー
    3.7
    SFだと思って観始めると、ラストに向けて欲しい答えがもらえず、心理の迷宮に放り込まれる。そんな映画です。 邦題は『複製された男』ですが、原題は『Enemy(敵)』です。 この原題を知ると、印象が変わるかもしれません。 もう一人の自分とは、SF的な存在ではなく、自分自身の中に潜む、人生を壊しかねない最大の敵=自分自身であり、抑えきれない欲望や本能を指していると受け取れます。 通常SF作品であれば、クローン技術、タイムトラベル、パラレルワールドといった「なぜ同じ人間が二人いるのか」という科学的、あるいは論理的な説明がなされますが、今作ではそのプロセスが完全に排除されていることで様々な読み解き方が可能です。 人には誰しも二面性がありますが、自力で変わろうとしても本質はなかなか変わりません。しかし、反面としてきっかけひとつで価値観が変わり丸くなったり、時に予期せず別人のように雰囲気が変わったりもします。 それは特性だったり特別なスキルではなく、誰にでも訪れうるあくまでターニングポイント次第だったりしますよね。 別人に変化したのではなく改心して、出会った頃の夫に「戻る」ように感じたり、そういった人ならではの人格や表現の揺らぎのような面を別人というメタファーで描いている。 アンソニーの心境が婚姻後どう変わったのかは描かれず知る由はありませんが、ヘレンと出会った頃からそうでなかったことはヘレンという描写でわかりますよね。 妻が妊娠したことによって女性として興味を失い本性が出たとか、そもそも初めから最初だけ全力で人を愛せるが手に入れれば他に目が行く性質だとか。 現代のモラル感覚で言えば悪者に映りますが、時代や立場が変われば許容されただろうそれは、人としての善悪ではなく単に価値観の一つに過ぎないとも感じます。 マルチバースのように、同じ人間が教授と俳優といったこれほど違う人生を歩める無限の可能性も秘めていますよね。 アダムとアンソニーの両者を外見的にわかりやすく髭や髪型まであえて一致させ、変装するまでもないほどの設定にしたのも、差異よりむしろ同一性を視覚的に表したのかもしれません。 または、ヘレンやメアリーといった女性が全く同じ姿でありながらすぐに別人であると気づくのは、男がどれだけ取り繕っても、指輪の痕のような些細な詰めの甘さを見逃さないという女の勘や、疑惑ではなく確信みたいなものを表してるようにも読み取れます。 意図せず雰囲気が変わる、好みが変わる、機嫌がいい、本人にはコントロールできない「違和感としての当たり前」を、女性側もまた意図せずになんとなく目がいったりと、染みついた変化に気づいてしまうものです。 もし、ストレートに作品を視聴して、作中の蜘蛛などに違和感や突飛さを感じたなら、「複製された男」というSFから、そうやって心理的な面で見てみるとまた違った楽しみ方ができると思います。 ラストシーンで納得するか、驚くか、不可解に思うか。その時に改めて敵とは何かを考えるとよりわ深く考察できるかもしれません。
  • morimotoseiichi
    -
    この映画。 https://x.com/mikazzz2024/status/2041471046092517636
  • 穏やかな民
    -
    👬🕷️
複製された男
のレビュー(19600件)