第37回ぴあフィルムフェスティバル開催中。今年のグランプリ作品を大胆予想!

俺は木こりだいい男よく眠りよく働く

谷越カニ

自主制作映画の祭典、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)は東京のみならず、京都、神戸、名古屋、福岡でも開催される全国規模の映画祭です。

最大の目玉は「PFFアワード」と呼ばれるコンペティション部門。園子温、森田芳光、黒沢清、矢口史靖、内田けんじ、石井裕也などがPFFアワードで注目を集め、人気監督への道を駆け上がるきっかけを作りました。日本国内の最重要映画祭と言っても過言ではありません。

さて、学生である筆者はまだ夏休み中。有り余る時間をどう使おうか考えた時、「PFFアワード上映作品をすべて見てやろうかなあ」と思い、実際に全20作品を見てきました。

その中から特に面白い!グランプリ候補に違いない!と確信した3作品を紹介します。この3作品の中からグランプリ作品が選ばれる!… と思う!

グランプリ候補作①『ムーンライトハネムーン』

監督: 冨永太郎(1992年生まれ、東北芸術工科大学 デザイン工学部 映像学科 卒業)

あらすじ

東北の冴えない大学生・大沼幸一には2つの秘密があった。1つは仲間内での人気ナンバーワン女子・ユウコと付き合っていること。もう1つはブルセラサイトを経営していることだ。

下品なコメディだけど泣ける!

間が生み出す笑いが秀逸です。沈黙を破る行動や発言、カット割りのタイミングまで完璧と言っても過言ではありません。BGMを排除した静かな作風はダルテンヌ兄弟の影響を受け、全体的に山下敦弘監督の『リアリズムの宿』からの影響を受けているとおっしゃられていました。

この映画は下品なコメディです。下着のもっこり加減が強烈です!登場人物の誰かがおしっこを飲みます!ところが、最後には泣かされてしまう。『リアリズムの宿』のラストシーンを換骨奪胎した感動のラストシーンが最後に待っています!

PFFアワードコンペティション作品の中で最も笑いが起き、唯一観客が鼻をすする音が聞こえてきた作品。文句なしのグランプリ候補筆頭だと思います。

グランプリ候補作②『海辺の暮らし』

監督: 加藤正顕(1987年生まれ、東洋大学 文学部哲学 中退→映画美学校 修了)

あらすじ

極端な中央集権化により過疎化が進む港町に住み、架空の生き物・ネコムシの密漁で生計を立てている主人公の女。湖の街を出て行った金持ちのように海外で暮らしたいと考えている彼女はある日、謎の男に監視されていることに気付く。

反則級のおもしろさ!

主人公のキャラクターが優れています。他作品のそれと比べて抜きん出ているな、と思いました。行動を起こすだけで笑いにつながる設定はお見事。セリフのセンスも冴えています。動けば笑いが起き、喋れば笑いが起き…反則級です。作品の雰囲気は『川の底からこんにちは』に似ていますね。

演じたふわふわした雰囲気の脇役たちの言動も愛おしく、とても愛さずにはいられません。何も考えずに笑っていると、突然日本の将来を暗示するような設定が明らかになったり、殺人事件が起きたりしてハッとさせられる。

それでも雰囲気を崩すことなく笑いに持っていく手腕がお見事だと思います。

グランプリ候補作③『わたしはアーティスト』

監督: 籔下雷太(1984年生まれ、ビジュアルアーツ専門学校大阪写真学科 卒業)

あらすじ

学校に馴染むことができず、ビデオアートで自己表現することが生きがいの主人公。撮影現場をさえない男子生徒に偶然目撃されてしまうが、これをきっかけに仲良くなり、次第に恋心へと発展していく。

こじらせた自分の過去を思いだす!

自己愛が強すぎる主人公の、普通なんて嫌だ!というアーティストとしての自覚と恋心を抱く普通の女子高生らしい本音とのギャップに苦悩する様がおかしくて笑ってしまいます。

『海辺の暮らし』の主人公とのコメディ映画の主人公としての違いは、どれだけ感情移入できるキャラクターなのかという点にあるでしょう。

主人公を見ている観客は、こじらせていたあの頃の思い出をどうしたって思いだしてしまいます。その恥ずかしさで笑っちゃう。そして感情移入してしまうんです。

クライマックスの告白シーンは他人ごとには思えませんよ。青春時代のこじらせ度が強ければ強いほど思い入れが強くなるタイプの映画だと思います。脇役の演技もナイス。

…ということで、以上の3作品が私のグランプリ予想です。どの映画も面白いですよ!絶対に損しません!私が保証します。こちらの作品以外にも面白い映画はあるのですが、言い出したらきりがないので3作品だけ名前を挙げさせてください。

変化を拒み続ける青年の姿を虚実入り交じった映像で描く『モラトリアム・カットアップ』(柴野太郎監督)。ニートが謎の男に付きまとわれるホラー『THE ESCAPE』(島村拓也監督)。国民の健康のため、チョコレートが規制された世界を描くディストピアコメディ『甘党革命 特定甘味規制法』(諸星厚希監督)。どれも忘れがたい作品です!

大注目のグランプリ発表は9/24(木)。表彰式の後にグランプリ作品が上映されます。

PFFアワードの賞はグランプリだけじゃない!

PFFアワードの最優秀賞はグランプリですが、それ以外にも準グランプリ、審査員特別賞(3作品)、エンタテイメント賞(ホリプロ賞)、ジェムストーン賞(日活賞)、映画ファン特別賞(ぴあ映画生活賞)、観客賞、日本映画ペンクラブ賞といった賞があります。

受賞作品にはPFFスカラシップに挑戦する権利が与えられます。PFFスカラシップとは若い映画監督を支援する奨学金プログラムのこと。

PFFスカラシップ専属プロデューサーが受賞者たちの企画を吟味し、最も期待できる1人を選び、約2年もの時間をかけて商業映画を制作させてくれるのです。

過去のPFFスカラシップ作品は『川の底からこんにちは』(石井裕也監督)、『運命じゃない人』(内田けんじ監督)、『バーバー吉野』(荻上直子監督)など。

すべての観客には観客賞の投票用紙が配布され、1人1票投じることができます。あなたの1票が未来の人気監督を生み出すかもしれない!こちらにも是非参加してみてください。

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  • Nyayoi
    3.8
    何をやってもうまくいかない、「仕方ないんじゃない」が口癖で人生を惰性で生きているような佐和子。父親が倒れて実家のしじみ工場を継ぐことになる。倒産寸前、迫力のおばちゃんたちの前になすすべない状況。見ていて苛立つ前半。 そんなところからやるしかない、と決めてから一転、気持ちいい展開に。 「中の下なんだから頑張るしかない」というメッセージが心に響く。 覚悟を決めてぶつかっていくことで皆と気持ちがつながった。逃げた男も戻ってきて気持ちをぶつけ合った。 頑張ろうという元気をくれる笑いも詰まった作品。 工場のおばちゃん達も最高だ。
  • すー
    4
    面白かった。笑える所が多く、少し泣けた。 誰にでも、やれば出来る力が備わっているんだろうな。 開き直るのも悪いことじゃないと感じた。吹っ切るのも大事。
  • -
    2023/11/29
  • すずか
    3.9
    一生懸命生きている人はそれだけで滑稽に見えるものですよ
  • Kohei
    3.8
    満島ひかりという俳優が佐和子に適役すぎて。 「しょうがない」で受け入れられるのも、ひとつの強さだと思うんだよなあ。その境地に至るまでに苦悩している人も一定数いるだろうし。 新社歌を歌っている時のみんなの面構えが個人的なハイライト。大好き。
川の底からこんにちは
のレビュー(11788件)