カウリスマキ監督『希望のかなた』出演女優ヌップ・コイブ「衣装は監督の自前!」【現地インタビュー】

2018.07.04
映画

FILMAGA編集部

フィルマーくま

シリアから北欧の街、ヘルシンキにたどり着いた青年カリードが心機一転、レストランビジネスを起業したオーナー、ヴィクストロムと知り合い、人生の希望を共にスタートさせる涙と笑いの物語『希望のかなた』。難民問題で揺れるヨーロッパで、2017年のベルリン映画祭では監督賞を受賞したアキ・カウリスマキ最新作品だ。

舞台となるレストラン「ゴールデン・パイント」はいわゆる、フィンランドのどこにでもありそうな特徴のない料理店から、流行りのスシバーへの転身を試みるが……。

劇中、淡々としたウエイトレス役を演じ印象的だったヌップ・コイブ。今も、カウリスマキ兄弟が運営する映画館内のバーで働いているという。ヘルシンキの中心、カンピ地区にある彼らのインディペンデント映画館「キノ・アンドラ」に、ヌップを尋ねた。

希望のかなた「キノ・アンドラ」にて日本版パンフレットを見るヌップ・コイブ

希望のかなた「キノ・アンドラ」、劇場への入り口とロビー・エリア

ーー2フロアで思った以上に広いですが、「アンドラ」はどれくらい続いているのですか?

ヌップ 25年以上よ。映画館の他に、隣にはちょっとした上映、演奏や演技のできるステージのあるパーティースペース「ドブロブニク」があるの。1階は、ビリヤードもプレイできる「コロナバー」ともう一つ、貸し切りのバー「カフェ・モスクワ」。すべて、カウリスマキ兄弟と仲間で運営しているわ。アキは今ポルトガルに行っていていないけれど、夏の間はいるので、色々な国からゲストが来るの。去年の夏も、はるばる日本からアキのファンだという男性が来ていたわよ。

希望のかなた
ヌップ・コイブ。「アンドラ」劇場のお隣のパーティースペース「ドブロブニク」にて

ヌップ 劇場は170席あって、ご覧のとおり、座席もゆったりしているし、映写機も一流のものを完備しているので、試写会やプライベート上映などにも使われているのよ。『希望のかなた』のはじめての試写も皆で集まって、ここで行われたの。

希望のかなた
劇場内はカウリスマキ監督も好きな色、赤で統一されている

希望のかなたニューヨークのストリートスタイルを取り入れた「コロナバー」

希望のかなた

ーーヌップさんは「コロナバー」で働いていると聞きましたが……。

ヌップ 今は少し手伝う程度だけれど、15年くらいここで働いてるわ。20〜30歳くらいまで、大学に行っていたり、何もしない時期もあって、でも女優業を続けながらね。アキとはそんなわけで長い間の顔なじみなの。もちろん、私が彼の作品にいつか出たいと思っていたことは知っていてくれて、覚えていてくれたわ。彼の会社スプートニックで制作された白黒映画『ジャンヌダルク』に出演したこともあるの。アキが監督を務めた『希望のかなた』で初めて声をかけてもらって、即答で出演が決まったわ。

ーーオーディションではなく?

ヌップ アキは配役も全員、自分で決めるのよ。キャスティングも彼の映画作りのひとつで、ストーリーに合うような役者をオーディンションなどはなしで選んでいるの。アキは口だけで簡単に約束したりはしていなかったけれど、ずっと私の存在は知っていたし、覚えていてくれていたことも嬉しかったわ。

希望のかなた

ーー『希望のかなた』でヌップさんは新しいオーナーがやってきたレストラン「ゴールデン・パイント」のウエイトレス役。新オーナー、ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)はやる気のないシェフの冴えないレストランをなんとか立て直すため、シリア難民のカリードも雇い、スシバーをオープンするという流れとなります。現場はどんな雰囲気だったのですか?

ヌップ 和気あいあいとしていたわ。もちろん、皆、プロだからカメラが廻っている時は真剣そのものだけれども。お互いが自分たちの存在を認め合うような、いい空気が流れていたわね。

希望のかなたレストラン「ゴールデン・パイント」のヘルシンキにあるロケ地跡。残念ながら近く、解体が予定されているそう

ーーヘルシンキの街中には本当にスシバーがたくさんありますね。スーパーでもお寿司が売られていたりして。でも映画のシーンはかなり怪しいインテリアに、スタッフはキッチュな浴衣に前掛けというかなりステレオタイプのカウリスマキ監督らしい演出でしたよね。

ヌップ 私の着ていた浴衣はアキの自前だったのよ。アキは日本好きだからね。普段の他のメンバーの衣装も、特に準備しないものもあるの。アキってリサイクルが大好きなの。

ーー何か理由があるのでしょうか?

ヌップ アキの撮影はすべて16ミリフィルムで行われるので、1シーンの撮影も慎重。他の部分で経済的にね。それだけでなく、アキは無駄が好きじゃないんだと思う。セットに使われるものは、実はここ、アンドラ・コンプレックスで使われているものも多いのよ。「ゴールデン・パイント」に出てくる青い椅子は、一階の「コロナバー」のものだし、ジミー・ヘンドリックスのポートレイトも、地下の「ドブロブニク」にあったのを持ってきたわけ。

ーーそう言われると、カウリスマキ監督の映画に出てきそうなものがたくさん、ありそうですね。

ヌップ アキはワインレッドとかブルーといった色が好きで、セットのことを考えていると、自然に身の回りにあるものが理想とぴったりだったりするので、迷いもなく、シーンに入れちゃうんでしょうね。

ーーそういえば、カウリスマキ監督のわんちゃんも出ていたことが話題になりましたね。

ヌップ ヴァルプ(愛犬の名前)はリサイクルとは言わないけれど(笑)、慣れているから撮影にもぴったりだったわね。

希望のかなた「ゴールデン・パイント」で使われていた「コロナバー」の椅子。

希望のかなた「ドブロブニク」にあるジミヘンのポスターは映画にも登場した

ジュークボックスや映画のポスター、カウリスマキ映画のどこかで観たことのあるものが、実はアンドラ・コンプレックスにはたくさんあった。飾らない、型にはまらないカウリスマキ監督のもうひとつの一面を知って、ますますファンになってしまった。

実際にお会いしたヌップはとても明るく、チャーミングな女性だった。『希望のかなた』の大きなメッセージでもある「Power of Equality(平等の力)」というTシャツを着ていたのも印象的だったな。(取材・文=浦江由美子/写真:高橋マナミ)

希望のかなた

希望のかなた
7月4日(水)発売
価格:ブルーレイ 4,700円/DVD 3,800円(ともに税抜)
発売・販売元:松竹 提供:ユーロスペース/松竹
(C)SPUTNIK OY,2017

<あらすじ>
内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、偶然にも北欧フィンランドの首都ヘルシンキに流れつく。空爆で全てを失くした今、彼の唯一の望みは妹を見つけだすこと。ヨーロッパを悩ます難民危機のあおりか、この街でも差別や暴力にさらされるカーリドだったが、レストランオーナーのヴィクストロムは彼に救いの手をさしのべ、自身のレストランへカーリドを雇い入れる。そんなヴィクストロムもまた、行きづまった過去を捨て、人生をやり直そうとしていた。それぞれの未来を探すふたりはやがて“家族”となり、彼らの人生には希望の光がさし始める……。

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