“不遇の作家”佐藤泰志の生涯と実写化映画まとめ<『オーバー・フェンス』など>

2018.09.04
映画

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9月1日から公開の映画『きみの鳥はうたえる』。その原作者であり、北海道函館を舞台にした小説を書き続けた作家、佐藤泰志をご存知でしょうか。

同時代の村上春樹や中上健次らといった著名作家と並び評されながらも、文学賞や商業的な成功に恵まれなかった彼は、41歳という若さで自ら命を断ちました。そんな彼の作品がいま、20年近くの時を経て次々と映画化され、現代の人々の心を動かしています。

今回は、不遇の作家・佐藤泰志に注目し、彼の経歴や小説を原作とした映画作品の魅力に迫ります。

佐藤泰志の経歴

佐藤泰志 修正

1949年に北海道・函館市に生まれ、1966年、高校在学中に「青春の記憶」で第4回有島青少年文芸賞優秀賞を受賞。翌年「市街戦のジャズメン」で同賞優秀賞を受賞するなど、早熟な才能を発揮します。

1970年に國學院大学文学部哲学科を卒業後も作品を書き続け、純文学作家の登竜門であり、幼い頃から受賞を夢みた芥川龍之介賞には1982年、「君の鳥はうたえる」以降、「空の青み」「水晶の腕」「黄金の服」「オーバー・フェンス」で5回ノミネートされるも受賞は叶わず、「そこのみにて光り輝く」で三島由紀夫賞にノミネートするも落選。失意のなか、1990年に41歳という若さで自ら命を断ちました。

死後は全作品が絶版となっていたものの、佐藤の故郷である函館市民の発信により追想集や作品集が刊行され、佐藤の作品に対する再評価が進んでいきました。

近年では、彼の小説を原作とした映画作品や、ドキュメンタリー映画が製作、公開され、国内外で評価されています。

佐藤泰志原作の映画化作品とその魅力

海炭市叙景』(2010)

熊切和嘉監督作。函館市をモデルとした架空の地方都市・海炭市を舞台に、そこで暮らす普通の人々の日常の暮らしを描いた同名小説の映画化作品です。

海炭市

原作では18組の人々の人生が綴られており、未完の遺作となっています。映画はその中から、「まだ若い廃墟」「猫を抱いた婆さん」「黒い森」「裂けた爪」「裸足」の5編を中心に、登場人物たちがストーリーのなかで交差していくよう再構築されています。

開発が進みながらも寂れゆく地方の町中の暮らしは、全編を通してどこか仄暗さや窮屈さ、人々の諦めが漂っています。しかし、そんな人々の人生の中に垣間見える小さな小さな希望や、日常の美しさも感じ取れ、じんわりとした余韻が胸に残ることでしょう。

「海炭市叙景」の映画化をめざし、函館市の市民による製作実行委員が結成され、製作費のカンパやエキストラなど、函館の人々が中心となって映画化が実現しました。

映画化に伴い文庫も再販されており、素晴らしい才能に恵まれながらも、生前の評価に恵まれなかった作家の名作に再び力を与えた函館の人々の熱い想いも感じとれる作品です。

そこのみにて光り輝く』(2013)

呉美保監督作。海辺の町を舞台に、様々な問題を抱え、社会の底辺で生きる男女の出会いとその暮らしを描いた佐藤泰史の唯一の長編小説にして代表作、第2回三島由紀夫賞にノミネートされた同名小説の映画化作品です。

そこのみにて

函館をモデルにした架空の地方都市、それぞれに大きな問題を抱え、変えられない現状に諦めの気持ちを抱きながらも、なんとか日々を生きる主人公・佐藤達夫に綾野剛、家族のために体を売って生活費を稼ぐ女・大城千夏を池脇千鶴が演じ、その2人を繋いだ千夏の弟・拓児を菅田将暉が演じています。佐藤泰志が描いた辛く苦しく、抜け出すことの出来ない現状の中に、一瞬差し込む救いの瞬間を体当たりで演じた3人の役者魂溢れる演技は見物です。

本作でも佐藤泰志作品の映画化の実現に向け、クラウドファンディングでの資金調達など、函館市民の熱意が発揮され、4年の時を経て公開にたどり着きました。

公開後は国内での様々な映画祭における監督、俳優陣の受賞ラッシュのみならず、モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞や、第87回アカデミー賞外国語映画部門の日本代表として出品されたことでもさらに注目を集めました。

オーバー・フェンス』(2016)

山下敦弘監督作。第90回芥川龍之介賞にノミネートされた小説(彼にとってこれが最後の芥川賞ノミネート作)「黄金の服」の中の同名短編作の映画化作品です。

オーバーフェンス

妻に見限られ、東京から函館に戻って職業訓練校に通う、オダギリジョー演じる主人公・白岩義男。夢も希望もなく、ただ毎日を過ごしていた中で、スナックで働く聡(蒼井優)という女性と知り合います。自由さと危うさを併せ持つ彼女に引かれながらも、現実の自分の生き方に悩む主人公の葛藤が描かれています。

これら函館を舞台(モデル)に描かれた「函館3部作」は、佐藤泰史自身が過ごした日々が強く投影されており、どの作品にも共通する社会的弱者である人々への労りの視点が映画の中でも印象的に演出されています。希望の見えない状況下で生きる人間たちが抱える不安や閉塞感、満たされない日々への諦め。そんな中でも人と人とが織りなす心の交流が暗闇に光を射し、生きることへの希望やエネルギーが沸き立つ瞬間が生まれる可能性を感じることが出来るでしょう。

自分自身を投影し、日々命を削って執筆し続けた佐藤泰史。彼の小説は没後絶版となっていましたが、映画化をきっかけに再評価が進み、今では全ての小説が文庫化され、41年の人生を追ったドキュメンタリー映画『書くことの重さ 作家 佐藤泰志』も製作されました。佐藤泰史は不遇の作家であると同時に奇跡の作家なのかもしれません。

ぜひ『きみの鳥はうたえる』と併せて彼の原作映画化作品をご覧になってみて下さいね

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