【ネタバレ解説】映画『時計じかけのオレンジ』タイトルの意味とラストシーンを徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

スタンリー・キューブリック監督作『時計じかけのオレンジ』をネタバレ解説。あらすじ、タイトルの意味、驚愕ラストシーンの真相、ナッドサットの用語解説、呪われた映画としての歴史を徹底考察

ハイハイゼア!

ホラーショーなドルーグたちが、アルトラするシニーといえば、『時計じかけのオレンジ』! フィルマガ読者の皆さんは当然ビディーってますよね? ビディーってない人は、プレティ・ポリーを払ってでもビディーった方がいいですよ!

(以下、上記ナッドサットの翻訳)

やぁみんな!

サイコーな仲間たちがめっちゃドツき回す映画といえば、『時計じかけのオレンジ』! フィルマガ読者の皆さんは当然観てますよね? 観てない人は、大金を払ってでも観た方がいいですよ!

※ナッドサット:『時計じかけのオレンジ』で主人公たちが使用する人工言語

…あ、最初からナッドサット連発でアピ・ポリ・ロジー(ごめんなさい)。

という訳で今回は、鬼才スタンリー・キューブリック監督が1971年に発表した“映画史に燦然と輝く激ヤバ・ムービー”『時計じかけのオレンジ』についてネタバレ解説していきましょう。

時計じかけのオレンジ

映画『時計じかけのオレンジ』あらすじ

近未来のロンドン。ライバルの非行グループとケンカに明け暮れたり、ホームレスを袋叩きにしたり、不良の限りを尽くす15歳の少年アレックス。やがて仲間の裏切りによって警察に逮捕され、懲役14年の刑に処されてしまう。

強制的に目を見開かされたまま残虐な映像を見せられる「ルドヴィコ療法」によって、一切の暴力行為に生理的拒絶反応を引き起こすようになったアレックスは、“真人間”として出所し、自宅に戻る。

しかし両親からは冷たくあしらわれ、昔の仲間からはリンチを受ける始末。満身創痍の彼は、やがて一軒の家に救いを求めるが、そこはかつて自分が襲った作家の自宅だった……。

時計じかけのオレンジ出典元:YouTube(Movieclips Classic Trailers)

※以下、映画『時計じかけのオレンジ』のネタバレを含みます

驚愕のラストシーンは原作小説の出版ミスが原因

あらすじを読んだだけでもそのヤバさがダダ漏れ状態の『時計じかけのオレンジ』だが、そもそも原作からしてヤバい。

どのくらいヤバいかというと、セックス・ピストルズのポール・クックが「俺はあんまし本は読まないんだけど、『時計じかけのオレンジ』はクールで超好きだぜ!オーイェー!」と公言しているくらい、ヤバい。

原作を書いたのは、イギリス人作家アンソニー・バージェンス。元々は陸軍に従事していた軍人だったが、身重の妻が4人の脱走アメリカ兵によってレイプされた上、自分自身も脳腫瘍のために余命いくばくもないと診断されてしまい、残される家族への遺産がわりにと筆をとったのが、この『時計じかけのオレンジ』だった。

生きる希望を失った42歳のアンソニーは、アルコールに溺れながらこの入魂の一作を書き上げる。全20章から成るこの小説は、実はこの時点で「アレックスが暴力性を取り戻す」という映画と同じ終わり方だった。しかし救いのないラストに出版社が難色を示し、「真人間になったアレックスが、温かな家庭を築こうとする」という最終章(第21章)を付け加えるように命じる。

ところがアメリカで出版された『時計じかけのオレンジ』には、出版ミスでこの第21章がごっそり抜け落ちていた。アメリカ版を読んで映画化を決めた監督のスタンリー・キューブリックは、当然のごとく「アレックスが暴力性を取り戻してオシマイ」というシナリオで進めてしまう。

出来上がった映画に猛然と非難を浴びせたのが、アンソニー・バージェンス本人。何と脳腫瘍は誤診で、彼はその後も元気に76歳まで人生を全うするのだが(スゴイ話ですね…)、「俺は青少年がちゃんと更生する話で終わらせたのに、何でこんなバッドエンドにしたんだ!」と烈火のごとく怒りまくったのである。

しかしキューブリックはさるインタビューで、

この小説には異なる2つのバージョンがありますが、私は脚本を完成させるまで、21章あるバージョンの方は読んでいませんでした。

新しく付け加えられた章には、アレックスのリハビリが描かれています。しかし私が懸念した通り、これは小説のスタイルや意図とは矛盾しています。(中略)ですから私はこのエピソードを使用することについて、真剣に考えることはしませんでした。

と、最終章を完全にコキ下ろして意にも介さなかったのだ。

思えば、『シャイニング』でも原作者のスティーヴン・キングに「腹立たしい映画」と酷評されてしまったように、スタンリー・キューブリックという御仁は原作小説を破壊的なまでに解体して、ストーリーを自家薬籠中の物にしてしまう映画作家。

シャイニング

驚愕のラストシーンは、一命を取り留めて「生きることの素晴らしさ」に目覚めたアンソニー・バージェンスにとってはサイテーなバッドエンドでしかなかったが、キューブリックにとっては、「更生という名の下に洗脳された少年が、やがて人間本来の暴力性と性衝動を取り戻す」というストーリーの方がはるかに説得力を持ち得ていたのである。

26年間イギリスで上映禁止の“呪われた映画”

『時計じかけのオレンジ』は単に暴力を描いた映画ではなく、暴力の“楽しさ”を露骨なまでに描いてしまった。人間誰しもが心の奥底に封じ込めている暴力衝動を、あからさまにエンターテインメントとして昇華させた映画だ。

一見するとジョージ・オーウェルの小説「一九八四年」的な、全体主義国家による管理社会システムを糾弾する作品のように見えてしまうが(もちろんそういう側面は強いのだが)、スタンリー・キューブリックの眼差しには、あり余るエネルギーをセックスとバイオレンスで消費する主人公アレックスへの共感が少なからず感じられる。

それは暴力の肯定ではなく、とりあえず倫理的な問題はさしおいて、暴力とは絶対的な快感であることの証明なのだ。

事実、アレックスが「雨に唄えば」を口ずさみながら作家の腹に蹴りを入れ、その妻に暴行を加えるシーンには、モラルを超越した高揚感に満ちているではないか。

そして、この映画は公開後まもなく呪われた映画となってしまう。

浮浪者を殺害した罪に問われた16歳の少年が、『時計じかけのオレンジ』の影響を受けていたことが弁護士によって明らかになってしまったのだ。殺人事件を喚起した張本人ということで、キューブリックの元には数え切れないほどの脅迫状が届くようになる。

家族の身にも危険が及ぶと案じたキューブリックは、イギリスでの上映を差し止めるように要請。以来キューブリックがこの世を去る1999年に到るまで、『時計じかけのオレンジ』は26年間に渡って劇場公開が禁止された「幻の映画」となってしまう。

ところが風変わりな形で、その遺伝子を継いだ作品がアメリカで公開される。

アラバマ州知事のジョージ・ウォレス暗殺を図って逮捕されたアーサー・ブレマーが、「『時計じかけのオレンジ』を観てからウォレス暗殺を決めた」と日記に記し、後年それが書籍化。その日記に触発された脚本家ポール・シュレーダーが手がけたシナリオが、1976年公開のタクシードライバー』として結実するのだ。

アメリカを代表する不条理サスペンスの傑作は、時計じかけのオレンジismの延長線上にある作品だったのである。

タクシードライバー

タイトルに込められた意味とは?

そもそも、『時計じかけのオレンジ』という奇妙なタイトルが意味するものとは何ぞや?

実はコレ、元々ロンドン東部の労働者階級が使っていたスラング(俗語)。「表面上はマトモに見えるが、その中身はかなりヘン」という意味で、「Queer as a Clockwork Orange」(時計じかけのオレンジのように奇妙な〜)という言い回しがあるのだ。

表面上はルドヴィコ療法によって更生したアレックスだったが、その実態は暴力に対して機械的に無防備になるだけの洗脳状態……という皮肉として使われている。

そして、この『時計じかけのオレンジ』というタイトルにはもう一つの意味がある。アンソニー・バージェンスが一時期暮らしていたマレーシアの言葉では、人間のことを「orang」(オラン)という。「A Clockwork Orang(e)」=「時計じかけの人間」とも解釈できるのだ。

「The」は特定の何かを表すが、「A」の場合は不特定多数のなかの一つを表す(中学校で習いましたね)。つまり特定の誰かを指し示していない分だけ、あらゆる人間が「時計じかけ」になり得る、という警告として響くのである。

さらに深読みをすると、アタマのAは冠詞ではなく、アレックス(Alex)の略語とも取れる。そうなると、直訳して「時計じかけのアレックス」。タイトルがお話の内容そのものになっているではありませんか!

これが単なる妄想ではない証拠に、映画のジャケットには「A」を表す三角形にアレックスが鎮座している。「A=アレックス」説の大きな証左と言っていいだろう。

時計じかけのオレンジ

日常会話で使えるナッドサット用語12選

言語学者でもあったアンソニー・バージェンスによって編み出された若者言葉「ナッドサット」。英語にロシア語を混ぜ合わせた架空の言語だが、『時計じかけのオレンジ』には、このナッドサットが隅から隅まで横溢している。

ここでは日常会話で使えるナッドサットとその使用例をいくつかお教えしましょう!

1. ドルーグ(仲間、友達)

昨日の敵は今日のドルーグ
(昨日の敵は今日の友)

2. アルトラ(暴力)

アルトラ反対!
(暴力反対!)

3. トルチョック(殴る)

この手はトルチョックするためにあるんじゃない!
(この手は殴るためにあるんじゃない!)

4. ウンチング(食べる)

今日、何ウンチング?
(今日、何食べる?)

5. ビディー(見る)

ビディーってビディーぬ振り
(見て見ぬ振り)

6. ホラーショー(最高)

『ロッキー・ホラー・ショー』ってホラーショーだよね!
(『ロッキー・ホラー・ショー』って最高だよね!)

7. シニー(映画)

フィルマークスでホラーショーなシニーをチェック
(フィルマークスで面白そうな映画をチェック)

8. スメック(笑う)

スメック門には福来たる
(笑う門には福来る)

9. デボチカ(女の子)、ボルシャイ(男の子)

君たちデボチカ、僕たちボルシャイ
(君たち女の子、僕たち男の子)

10. タッシュトゥック(ハンカチ)

タッシュトゥックのご用意をお忘れなく
(ハンカチのご用意をお忘れなく)

11. ルッカフル(雀の涙)

どれだけ働いても給料はルッカフル
(どれだけ働いても給料は雀の涙)

12. スームカ(醜い)

スームカ アヒルの子
(醜いアヒルの子)

キューブリックイズムが充満した真性鬼畜映画

いかがだったろうか。『時計じかけのオレンジ』がどれだけヤバい映画か、お分かりいただけただろうか。

強烈なアイロニー(皮肉)とニヒリズム。全体主義に対する痛烈なアンチテーゼ。キューブリックのフィルモグラフィーのなかでも、キューブリックイズム(そんな言葉ないけど)が最も充満した真性鬼畜映画が『時計じかけのオレンジ』であると断言してしまおう。

「この映画って暴力礼賛主義っぽいからキライ」なんて奴を見かけたらアレックスよろしくトルチョッーーーーーク(殴ってよし)!

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