画家ゴッホを題材にしたおすすめ映画10選《絵画への情熱、ミステリアスな生涯を描く》

「映画」を主軸に活動中のフリーライター

春錵かつら

画家フィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホを題材にした映画10作品を紹介。『炎の人ゴッホ』『夢』『ゴッホ 〜最期の手紙〜』『世界で一番ゴッホを描いた男』など。

ゴッホ、その名を聞いて知らない者はいないだろう。

かの有名な「ひまわり」、うねる夜空の「星月夜」、自らの耳を切り落とした後に描いた自画像、日本の浮世絵を取り入れた数々の絵画。いくつもの作品を残したにもかかわらず、生前はほとんど評価されず、絵は1枚しか売れなかったと言われる。

絵画はもちろん、そのドラマティックでミステリアスな生涯は、今もなお多くの人の心をとらえて離さない。今回は、そんな画家ゴッホを題材に取り上げた映画10作品をご紹介する。

ゴッホとはどんな人物か?

ゴッホ

「自画像」(1887年)シカゴ美術館蔵

本名はフィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホ。オランダではミドルネームを含めて苗字とされるため、実は省略せずにヴァン・ゴッホと呼ぶのが正しい呼び名だ。ここでは日本で定着したままに「ゴッホ」と呼ぶことにする。

1953年3月30日、オランダ南部にある村で牧師夫婦の長男として生まれた。3人の妹と2人の弟を持つ6人兄弟。彼の生まれる1年前に死産でなくなった兄もまたフィンセントという名で、真ん中の弟・テオとは、生涯を通して固い絆で結ばれることになる。

幼い頃から精神的に不安定だった彼は、家族にとっては扱いにくい子供だったという。教師、書店員、神学校の学生、聖職者と挫折を繰り返しながら職を転々とした後、1880年、27歳の時に家族の厳しい目に耐えられず、放浪の旅に出る。この旅でゴッホは絵を描くことを決意。各地を転々としながら、絵に没頭したとされる。

同時に弟テオによる生活費の援助が始まるが、この援助はゴッホが亡くなるまで続けられることになる。テオからの仕送りのほとんどは絵のために使われたという。

フランスのパリでテオと同居した後に、今度はアルルで画家ゴーギャンと同居するも衝突を繰り返し、ある日ゴッホは左耳を自身で切り落とすという事件を起こす。1888年12月23日、ゴッホ35歳の時のことだった。傷は回復して退院したものの、その後も度々アクシデントを起こして精神病院に入院。意識を失う発作を繰り返し、鬱に悩まされた。

ゴッホ37歳の1890年5月、体調が回復した彼は療養のためにフランスのオーヴェル=シュル=オワーズという農村を訪れ、つかの間の平穏の中で制作に励む。そして同年の7月27日、左腹部に銃創を負った姿で帰りつき、29日に死亡。作品がやっと評価され始めた時期での死であった。

当時、ゴッホの死は「自殺」とされていたが、他殺説も出ており、現在もはっきりとした真相は分かっていない。

『炎の人ゴッホ』(1956)

ゴッホ役:カーク・ダグラス

ゴッホの宣教師時代から始まる本作は、アーヴィング・ストーンの1934年の小説「炎の生涯 ファン・ゴッホ物語」を原作に製作された。冒頭、ゴッホ作品の撮影を許可してくれた美術館への長い長い謝辞から始まり、そして謝辞で終わる本作。それが示す通り、本物のゴッホ作品が劇中に数多く使用されている。

さらに、ゴッホが作品を描くシーンでは実際の場所が使われているのも特徴。絵画への激しい情熱と、世間の無理解に苦しむゴッホの姿が描かれている。主演のカーク・ダグラスの迫真の演技はもちろん、ゴッホと親密だった画家ゴーギャンを演じたアンソニー・クインは、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞した。

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『ゴッホ』(1990)

ゴッホ役:ティム・ロス

「アメリカ・インディペンデント映画の父」と称されるロバート・アルトマンが監督を務めた本作は、もともとイギリスの放送局BBCで計4時間のミニシリーズとして企画されていたもの。評判が良かったため、アルトマンと脚本のジュリアン・ミッチェルによって2時間半まで短縮され、映画作品となった。

物語の始まりは現代。世界中で知られているオークションハウス「クリスティーズ」でオークションが行われている。出品作品はゴッホの絵画だ。そこから一転、カメラは過去に遡り、アムステルダムで過ごすゴッホの姿を映し出す。原題「Vincent & Theo」が示すように弟のテオにもスポットが当てられ、2人の受難の日々と不思議な絆を映し出す、趣深い一作だ。

『夢』(1990)

ゴッホ役:マーティン・スコセッシ

8話からなるオムニバス形式で展開する「世界のクロサワ」監督作品。夏目漱石の小説「夢十夜」の各挿話の書き出しと同じく「こんな夢を見た。」という冒頭で各話とも始まり、実際に黒澤明監督自身が見た夢から作られている。その中、ゴッホが登場するのは第5話『鴉』だ。

中年になった「私」がゴッホの絵の中に入り込んでしまい、苦悩しながら自作の中を渡り歩くゴッホの後をついて行く様子が描かれる。ゴッホを演じたのはなんと名作『タクシードライバー』などで知られるマーティン・スコセッシという贅沢な一作。アプローチとしては『ゴッホ 最期の手紙』の先を行く映像演出で、黒澤監督のスゴさが分かるイマジネーション豊かな一作となっている。

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『ヴァン・ゴッホ ~最期の70日~』(1991)

ゴッホ役:ジャック・デュトロン

ゴッホの晩年が綴られるフランス作品。物語の始まりは1890年。冒頭、精神病院を退院したゴッホが降り立ったのは、まさに彼が生涯最期の70日を過ごす場所・オーヴェルだった。

複数の精神疾患を患っていたゴッホは、幼いころから極度の躁鬱状態を繰り返しては大きな発作を起こした。この不安定に入り乱れる躁鬱に苛まされる孤高の画家をジャック・デュトロンが熱演し、本作でセザール賞男優賞を受賞した。

『ゴッホ:天才の絵筆』(2009)

ゴッホ役:ジャック・ガンブラン(声のみ)

本作は最初の油絵を描いた27歳当時から死を迎える1890年までの軌跡をたどる39分のドキュメンタリー。弟テオに宛てて書いた何百通もの手紙をもとに、ゴッホの生涯をゴッホ自身の目線で綴る。

約10年という画家としては短い活動期間という理由もあるだろう、生きているうちに評価されなかったゴッホだが、彼の「自分の絵を安く売らないで欲しい、安く売るよりは売れない方がいい」という言葉には彼の絵画に対する想いとプライドが垣間見える。

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『ゴッホ 真実の手紙』(2010)

ゴッホ役:ベネディクト・カンバーバッチ

TV用映画としてBBCに製作された本作は、ゴッホの手紙から「ゴッホ」という人物を描きだすドキュメンタリー。ベネディクト・カンバーバッチがゴッホに扮し、画面越しに私たちに語りかける演出は、ゴッホの気持ちにより共感できる演出となっている。

60分という短時間ながらも、初期の地味で暗い作品から後の色彩渦巻く名画の誕生といった作風の移り変わりが綴られる。ゴッホをよく知らない人にも分かりやすく入門編としては最適な一作となっている。

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『ゴッホ ~最期の手紙~』(2017)

ゴッホ役:ロベルト・グラチーク

ゴッホの友人だったという郵便配達人の息子が、ゴッホが弟テオに宛てた手紙を届ける過程でゴッホの死の謎を解き明かしていく。全編油絵風のアニメーションで描かれた異色のサスペンスだ。

俳優が演じた実写映像をもとに、世界各国の125人画家によって計約6万枚の油絵が描かれ、それらをアニメーション化するという独特の手法でつくられている。日本からは唯一、画家の古賀陽子が参加している。

ゴッホの名画を彷彿とさせるシーンが随所に登場し、全編を通してゴッホの絵の中に迷い込んだような驚きの映像に目を見張る。まさに「動く油絵」と言える映画作品。

ゴッホ

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『フィセント・ファン・ゴッホ 新たなる視点』(2015)

フィセント・ファン・ゴッホ 新たなる視点

ゴッホ役:ジェイミー・デ・コーシー

2018年10月6日に公開された本作は、美術史を変えた芸術家たちの人生にスポットをあて、ヨーロッパで話題となったドキュメンタリー「アート・オン・スクリーン」シリーズの第三弾。

ゴッホ没後125年にあたる2015年、ファン・ゴッホ美術館では館内全作品の再展示が実施された。当時、美術館には全世界から800以上ものオファーが殺到したが、その中でファン・ゴッホ美術館による全面協力を得ることに成功し、館内深部での取材によって製作されたのが本作。

再現パートで登場するゴッホ役のジェイミー・デ・コーシーも自画像で見られるゴッホにそっくり! 各機関の研究者や各所の美術館学芸員、画家の解説を交えながら、ゴッホが画家となる27歳までの軌跡、パリでの才能の開花など、その人生を追体験できる内容になっている。

『世界で一番ゴッホを描いた男』(2016)

ゴッホ役:-

2018年10月20日から公開が始まった本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017で監督賞を受賞したドキュメンタリー。ゴッホの複製画を20年間描き続けている中国人男性が「本物のゴッホの絵を見る」という夢を実現するため、アムステルダムを訪れるまでを描く。

中国の「ダーフェン油画村」では世界の有名画家の複製画制作が産業として根付いている。なんと世界市場の6割ものレプリカがこの村で制作されているのだとか。半ば納得も入り交じった驚きの事実を、このドキュメンタリーを通して知ることができる。

世界で一番ゴッホを描いた男

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『At Eternity’s Gate(原題)』(2018)

ゴッホ役:ウィレム・デフォー

日本では2019年に公開予定の本作。タイトルはゴッホが精神病棟で描いた作品の名から取っている。物語は1880年代、絵がまったく売れないアルル、サン=レミ時代のゴッホの苦悩の日々を描く。

監督を務めたのは自身も画家であり、ジャン・ミシェル・バスキアの伝記『バスキア』で監督デビューを果たした実績をもつジュリアン・シュナーベル監督。第75回ベネチア国際映画祭のコンペティションに出品され、ウィレム・デフォーが最優秀男優賞を受賞。公開に向けて期待は高まるばかりだ。

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最後に

37歳で短い生涯を遂げたゴッホ。多くの障害を幼少期から抱え、多くの挫折を繰り返し、社会に適応できなかった孤独な天才。彼が画家でいたのはたった10年だが、その間に描いた絵は900枚にも上る。

死後こんなにも多くの人から愛された彼の芸術人生は濃密そのものと言えるだろう。ゴッホにまつわる映画がこれほどに多いのも、彼の短いながらも激しい一生に魅せられるからかもしれない。

(C)Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.、(C)Seventh Art Productions & Annelies van der Vegt-42、(C)Century Image Media(China)、(C)Walk Home Productions LLC 2018

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