『ヤクザと家族 The Family』大ヒットを記録した『余命10年』の藤井道人監督が横浜流星を主演に迎えたサスペンス・エンターテイメント『ヴィレッジ』が、4月21日から公開中。
本作のエグゼクティブプロデューサーを務めたのは、藤井監督を映画『新聞記者』に抜擢した故・河村光庸氏。昨年惜しまれつつも亡くなった河村氏の遺志と遺伝子を受け継いだ藤井監督と制作会社スターサンズが、この理不尽な現代社会で生きる人々に熱く問いかける作品です。
今作はまさに「受け継がれるもの」がキーワードとなっており、藤井監督が河村氏から受け継いだ映画制作の情熱が、物語ともリンクするような内容となっています。
横浜流星が見せる、かつてない”深い苦悩”
本作の主人公、片山優を演じるのは、若手演技派の筆頭、横浜流星。2022年『流浪の月』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞を獲得した彼が、藤井監督とタッグを組むのはこれで6度目。互いを良く知るからこそ引き出せる深い演技と、持ち前の深い脚本理解力で、地に足のついた主人公に命を吹き込んでいます。
河村プロデューサーは生前、横浜流星の才能に注目しており、スターサンズの作品で彼をスターにしたいと言っていたそう。河村氏の没後に実現したスターサンズ作品での主演となりましたが、その期待に恥じない見事なパフォーマンスで映画を牽引しています。
彼が演じる片山優は、とある架空の集落・霞門村にあるゴミの最終処分施設で働く青年。ギャンブル依存症の母と2人暮らしの彼は借金を返すためにここで働き、閉じた人間関係の村から出られず鬱屈感を抱えています。かつて、父が犯した事件も尾を引き、村で居場所を見出せない彼は、出口の見えない状況で必死にもがき前向きな人生を取り返そうと足掻きます。
この映画の横浜流星は、いまだかつて見たことがないほど深い苦悩に満ちており、閉塞的な村で絶望にあえぐ若者の姿を体現しています。どこにも逃げ場がない状況で人生の希望を見いだせず苦しむ優のような若者は、経済格差の拡大が続くこの国では決して珍しい存在ではありません。
しかし、幼馴染の美咲(黒木華)が帰郷することで、優の状況に変化が訪れます。美咲との再会で思いがけず希望を拾った彼は、人生をなんとか良いものにしようと努力し始めるのです。そんな優が最後に下す決断とその表情に、観る人は心を奪われることでしょう。複雑な感情が交錯する魂が震えるラストシーンは、映画館を後にしてもずっと心に留まり続けるでしょう。
これは私たちの生きる世界の物語だ
本作の物語は、片山の幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに大きく動き出します。処分場でいじめに近い仕打ちを受け、父親が過去に起こした事件のせいで爪はじきにされる彼に、美咲はゴミ処理施設の広報としての大役を任せます。そして、2人は次第に心を通わせていきます。美咲の弟・恵一(作間龍斗)は、上手く喋れない自分を何かと気にかけてくれる優をより尊敬するようになっていくのですが、人一倍正義感の強い恵一の取ったある行動が村の運命が大きく変わっていくことになるのです。
舞台となる霧門村は、深い山間にある山村。能の伝統を持ちかやぶき屋根の住居が残る風光明媚なこの村を支えるのはゴミ処理場誘致による行政からの補助金。厳しい経済環境で清濁併わせ呑みながら処理場を運営する村長の大橋修作(古田新太)は、伝統あるこの村をなんとか残したいと考えていますが、きれいごとだけでは人口減少が進む地方ではやっていけない現実が重くのしかかります。美咲と出会い、前向きに生きることを決意した優は、そんな村の伝統と受け継ぎ存続させることに歓びを見出していくのですが、彼もまた清濁併せ吞むことを求められるのです。
そのような地域で生きる若者たちは優に限らずもがき苦しんでいます。村の実力者である秀作の息子、大橋透(一ノ瀬ワタル)は、小さな村で特権的な地位に甘んじてきたがゆえに、横暴なコミュニケーションしか知らず、悲劇を招くことになります。また借金を抱えて処理場で働く心優しい龍太(奥平大兼)は、その経済状況ゆえに大人たちに利用される存在です。
登場人物それぞれが、現代日本の宿痾を象徴するような存在で、この映画を観る人は決して他人事だと思えないでしょう。スクリーンに映るこの人々は確かに私たちと同じ世界に生きている、そういう確かな肌触りがある作品なのです。この物語はもしかしたら、現実の日本社会と地続きなのかもしれない、映画館から出た後、そんな想いが頭をよぎることでしょう。
『ヴィレッジ』作品・キャスト情報
あらすじ:
夜霧が幻想的な、とある日本の集落・霞門村。
神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。幼い頃より霞門村に住む片山優は、美しい村にとって異彩を放つこの施設で働いているが、母親が抱えた借金の支払いに追われ希望のない日々を送っている。かつて父親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、その罪を肩代わりするようにして生きてきた優には、人生の選択肢などなかった。
そんなある日、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに物語は大きく動き出す――。
【出演】
片山優:横浜流星
中井美咲:黒木華
大橋透:一ノ瀬ワタル
筧龍太:奥平大兼
中井恵一:作間龍斗
丸岡勝:杉本哲太
片山君枝:西田尚美
大橋ふみ:木野花
大橋光吉:中村獅童
大橋修作:古田新太
監督・脚本:藤井道人
音楽:岩代太郎
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
上映時間:120分
公開日:2023年4月21日(金)公開
配給:KADOKAWA/スターサンズ
公式サイト:https://village-movie.jp/
(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会