カメラを止めるな!』(以下、『カメ止め!』)が、トップ10の入れ替わりの激しい興行収入ランキングに長らくランクインするようなメジャー映画へと移り変わっていく様子は、ドラマティックで圧巻だった。新宿K’s cinema、そして池袋シネマ・ロサというわずか2館での上映から火がつき、瞬く間に全国拡大公開、ロングランヒットを記録した奇跡的な作品が、12月5日(水)に早くもブルーレイ&DVDでリリースされる。
『カメ止め!』が邦画界に与えたもの、彼ら自身に残したものとは、一体何だったのだろうか。発売を記念して、8月以来2度目のインタビューとなった上田慎一郎監督と、さらには妻のふくだみゆき(監督)に顔をそろえてもらい、「この3か月以上に楽しい時期が、今後人生で来るのかな」と表現した日々について、夫婦ならではの視点を交え語り合ってもらった。
――8月以来のご登場、ありがとうございます。普段インタビューをしていて、主演俳優さんから「どうしたら『カメ止め!』のように口コミで拡がりますか?」という逆質問を受けます。当事者のおふたりからヒントをいただけますか?
上田監督 ええっ、いきなり(笑)?
ふくだ 自分たちでエゴサしまくって、リツイートしまくって、盛り上がっている感じを出す、っていうのも大事だよね(笑)? 『カメ止め!』は、初期の頃からキャストやスタッフが総出で、SNSの「いいね!」をしにいっていたんです。普通、主演俳優から「いいね!」を押されるとか、ないじゃないですか。そういうのもあって、より発信するのがうれしくなる、という方もいらっしゃるし。
上田監督 そうだね。メジャー映画にできないことでいえば、今日で公開から95日目なんですけど(※取材時点)、95日間、1日も欠かさず舞台挨拶をしているんですよ。誰かしらが、どこかで。「写真撮影も動画撮影もオッケーです」「拡散してください」と。終わった後にはサイン会をして、撮影会をして、というのを毎日は、なかなかできないじゃないですか。その様子がどんどんSNSに上がるし、上がったやつを全員が「いいね!」とかリツイートしにいくのは、すごくやっていますね。状況は、逐一『カメ止め!』LINEグループで共有されていますし。部活感とでもいうか。
ふくだ 公開前からキャストがいろいろな所に行ってチラシを手渡したり、本当にそういう泥臭さが響いてきてはいるんだろうな、と思います。
――ふくださんはご自身も映画監督でありながら、旦那さまの監督作『カメ止め!』の宣伝もしっかりされているんですね。
ふくだ 特に最初の頃は、上田が毎日舞台挨拶やトークイベントをやっているから、上田がSNSをやると時間が遅くなっちゃうんですよ。みんながSNSを見る時間帯に、できるだけ私が一番最初に発信しとこうかな、と思ったりして。あと、都心が盛り上がったからこそ、実際にキャストたちが行けないところでも席が埋まっていると聞くと、口コミが届いて、それだけの方が動いてくださっているんだな、とうれしく思ったりします。
――振り返ると、怒涛の95日ですか?
上田監督 もう怒濤も怒濤です。……95日前が本当に大昔やもんな?
ふくだ ねぇ。
上田監督 あらゆることを95日で経験しましたよ。95日前は本当に2館で、3週間で終わる予定だったのが、今300館以上になって。
ふくだ まさか、冬までやっていると思わなかったもんね。
――95日以前、以後で、おふたりの関係の変化はありました?
ふくだ (笑)。何も変わらんね?
上田監督 家庭内は、常に明るかったね。
ふくだ 付き合っているときから数えたら、もう7年目とかなんですけど、上田はずーっと映画のことを考えている人で、私も映画が好きだったから成り立っているんだろうな、とは思います。映画に興味がない人だったら、嫌気がさすんだろうな、と(笑)。
上田監督 俺もふくだもすごく楽天的というか、どんなに最悪なことが起きても笑い話にできる、というのも変わらないよね。
ふくだ うん。ふたりとも、あんまり深く考えすぎないよね。
上田監督 それがあるから頑張れているんやろうな、と思うときはあります。
――強烈な楽天的エピソードは、ありますか?
ふくだ 子供が産まれてから、「給料日まで半月ぐらいあるのに、9,000円しかないけどどうする?」みたいなときがあって。そのときも、「どうしようかね~~」「ないものはないしねえ~」みたいな(笑)。
上田監督 逆に、テンションが上がってくるというか(笑)。逆境が好きというのもあると思うんですけど、「9,000円、やばいな」という状況を笑い合えることが、たぶん楽しいんでしょうね。「やばいな」と言って笑っているときが、僕は一番楽しいんですよ。『カメ止め!』でも、スケジュールがぐちゃぐちゃで、結構組み換えながら撮っていて、「急げ、急げ」とか言ってる、ナチュラルハイ状態とでもいうか。それがよくて。
ふくだ わかる、わかる。何にも問題が起きずに終わった撮影よりも、問題ばかり? ??った撮影のほうが、後からすごい思い返して笑い話になる。そういうことなんだろうね。
――おふたりの共通認識で、根底で分かり合えているところが大きい。
上田監督 だから、やっぱり成功したり、お金持ちとかになったら、逆に僕にとっての幸せは逃げていく可能性があるな、とは思っているんです。……なんだか成功しないように生きているところはあるというか……成功した時点で、たぶん一番楽しい時期はもう終えてしまうから。
ふくだ 予算やスケジュールがない中で、「どうやってやろうか」とやりくりしていることがプラスに働くことがあるので。すごくお金があったからといって、今の『カメ止め!』以上の作品ができたかといったら、それはどうなんだろう、というのはあるよね。
上田監督 いやあ、そうだね。本当、ときどき思うのは、この3か月以上に楽しい時期が、今後人生で来るのかなっていうこと。それは、ちょっと怖くなるときがありますよね。
ふくだ 怖いね。
――計り知れないほど、いろいろなことがこの3か月の間にあったから、ですよね?
上田監督 うん。今まで移動は当然、電車で行ったりしていたのが、地方に行ったらジャンボタクシーとかで、アテンドの人までいるんですよ。みんなで、「うわあ。アテンドの人いるよ」とか、「タクシーやで」とか言っているときが、おそらく一番楽しいじゃないですか。慣れてくるともう……、ね。
ふくだ うん。
上田監督 「ホテルが広い!」というだけで、喜べる今が一番楽しいじゃない。そういうことが、怒濤のようにあったんですよ、この3か月。喜んでいたのが、これからもしも当たり前になってきてしまったら……というのはあるかもしれない。当然これ以上楽しいことを探すけれど、この3か月を超えるのはなかなかやな、と思います。
――どうしたって次回作は期待されますよね。さらなるムーブメントなり、納得のいく1本を撮れるのがベストだと思いますが、変な話、ドーンと下がるようなことがあったとしても、上田監督はきっとそれもバネにして楽しむのかもしれない。
上田監督 こけても、ってことだよね(笑)。いや、本当に来年の今はどうなっているか……読めないよね。
ふくだ うん。わからんね。
上田監督 僕、中途半端に転ぶのが一番ダサいなと思うんです。守りに入って、60~70点ぐらいの映画を作ってしまうのが一番のダメージ。「まあまあやん」というのが一番へこむ気がするし、クリエイターにとっては一番しんどいですよね。
ふくだ 『カメ止め!』自体も、0点か200点か、みたいな感じで作りはじめたので、本当にちょっと精神がギャンブラーなんだろうね。実際のギャンブルは全然しないけど、人生自体をギャンブルにしているところが上田には、あるから(笑)。それに、上田が向いているのは断然コメディだと思うんです。『カメ止め!』も、「構造が斬新」と言ってくださる方もいらっしゃいますけど、1個1個見ていったら、目新しいものは何もないんですよ。上田は王道とかベタを、すごく気持ちよく見せるのが得意だから、そこを生かした作品がいいなと思ったりします。
上田監督 ……「目新しいものは何もない」?
ふくだ ちょっと言葉のあやです(笑)。けど、『カメ止め!』だけの監督にはなってほしくないです。
上田監督 もちろん、もちろん。
――では、最後に。ブルーレイ&DVDには上田監督の初期作品『お米とおっぱい。』も収録されるとのことで、楽しみにしているFILMAGA読者にメッセージをお願いします。
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ふくだ 『お米とおっぱい。』は、上田の長編最初の作品です。『カメ止め!』と通じるところもありますが、『カメ止め!』の王道さとはまたちょっと違った、シュールな笑いと言いますか、万人受けするというよりも、上田の今のルーツとなるような作品なので、好きな方は好きになってくれるはず、と信じています。今日はありがとうございました。
上田監督 本当に僕のポケットマネーで、完全に貯金で作った自主映画です(笑)。スタッフも当時mixiで募集してかき集めた大学生とか、よく知らなかったおっちゃんとかで作ったんですよ。「“お米とおっぱい”、明日この世からなくなるとしたら、どちらを残すべきか?」というのを102分、5人の男たちが話している映画です。「何それ……」と思うじゃないですか? すごく色物っぽく見えるじゃないですか? けど、最終的には、結構普遍的なところに行きつくようになっています。
『カメ止め!』が大衆に愛される王道ならば、『お米とおっぱい。』はシュールなところもあって、自分の邪道の部分で作った映画です。2~3か月にわたってみんなで稽古をして、並行して脚本を書き進めていったから、制作スタイルは『カメ止め!』と似ているので、自分の作家性みたいなところはつながっています。作った人は同じ僕なので、2本比較して観ていただいても面白いかなと思います。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=FILMAGA編集部)
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※2022年3月27日時点のVOD配信情報です。