社会学者 古市 憲寿(ふるいち・のりとし)さん
平成最後の今だからこそ観てほしい!!
インターネットの世界観が
スリリングで楽しい
まず素敵だと思ったのは、インターネットの世界をビジュアルで見事に具現化し、ファンタジーとして描き切っていること。僕も毎日ウェブサイトを見ていますが、本当のところ全体像なんて分かりようがない。それでも本作を観て「インターネットってこんな感じ!」と素直に納得。たぶんメタファー(隠喩)がうまいからでしょうね。
動画サイトにハート形の「いいね」を送ったり、ポップアップ広告を思わずクリックしたりする感じなど、僕らがインターネットで当たり前に経験していることを面白おかしく、しかも分かりやすく表現しています。ファンタジーですが描かれた都市には「Google」や「YouTube」など、現実の世界でなじみのあるものもたくさん描かれているのでスッと本作に入り込んでいけます。そこも魅力です。
友情はゴールや契約のない
関係だから尊い
物語の主役は好奇心旺盛なヴァネロペと心優しいラルフ。ふたりは四六時中一緒にいる親友なのですが、インターネットの世界に迷い込んでからは価値観にズレが生じ、その後、いろいろな形の友情を経験していくことになります。そもそも友達って不思議な関係ですよね。恋愛には結婚というゴールがあり、法律的に承認させることができますが、友達は〝友情届〞を出すわけでもなく何の契約もない。でも、だからこそ大切で尊い。
なぜなら今は家族や会社がもはや依存の対象ではなく、これに頼れば大丈夫という確たるものがない時代だからです。ゆえに、目に見える保証がなくても互いを思いやれる関係というのはとても貴重。気付けばヴァネロペとラルフの友情を応援したくなっていました。
平成最後にディズニーが
魅せた心意気
また、本作にはディズニーキャラクターが続々と登場します。まさかディズニーがここまでやるなんて!と驚くようなパロディーや小ネタも満載。特に面白かったのは、歴代のディズニープリンセスたちが普段着スタイルで女子会のように集まるシーン。他の映画会社では作れないですよね(笑)。
僕は小説「平成くん、さようなら」で「平成は終わらないのではないか」ということを書きました。昭和と平成の大きな違いは、平成はインターネットの登場によって、10年20年前の記録がアーカイブとして集積されるようになったこと。つまり、元号が変わっても一つの地層のように平成という時代は残っていくことになるんです。そう考えるとなおさら、ディズニーが平成最後のアニメーションにおいて、インターネットの世界をテーマにしたことは非常に興味深い。今だからこそ観てほしいチャーミングな作品です。
(取材・編集 朝日新聞社メディアビジネス局)
古市 憲寿さん
ふるいち・のりとし/1985年東京都生まれ。著書「絶望の国の幸福な若者たち」で一躍注目される。「今後の経済財政動向等についての集中点検会合」委員、内閣府「クールジャパン推進会議」メンバーなども務める。著書に「だから日本はズレている」「保育園義務教育化」など。最新作の小説「平成くん、さようなら」が第160回芥川賞候補作にノミネート。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。
『シュガー・ラッシュ:オンライン』
STORY:好奇心旺盛な天才レーサーのヴァネロペと、彼女の大親友で心優しいゲームの悪役キャラクターのラルフは、レースゲーム〈シュガー・ラッシュ〉の危機を救うため、誰も見たことのないインターネットの世界へ飛び出す。見るものすべてが新鮮で刺激あふれるネットの世界に夢中になっていくヴァネロペと、早く元の世界に戻りたいラルフは、次第に心がすれ違ってしまい……、ラルフのふとした行動からネットは崩壊寸前!二人の冒険と友情も最大の危機に⁉ はたして彼らを待ち受ける驚くべき運命とは……。
12月21日(金)公開!
監督:リッチ・ムーア&フィル・ジョンストン
製作:クラーク・スペンサー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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※2022年7月30日時点のVOD配信情報です。