“爆撃音のない戦争映画”無人戦闘機からの戦場を描く新作『ドローン・オブ・ウォー』

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近年、我々日本人にも馴染み深いワードである「ドローン」。ドローンとは、無線操作によって飛行する無人機のことです。

そのドローンから戦地に行かずして空爆を淡々と行う一人のアメリカ空軍少佐。その彼から見た“もうひとつの現代の戦争”を独自の視点から描く異色の戦争映画『ドローン・オブ・ウォー』。

“モニター越しの戦争”にリアルは存在するのだろうか… 2015年10/1(木)公開開始した問題作の見どころをインターネット経由の“遠隔から”お届けします。

ドローンオブウォー ポスター画像

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戦場に居るようで実際はいない、異常とも言える日常

主人公のトミー・イーガン空軍少佐(イーサン・ホーク)は元々は戦闘機パイロットながら現在はドローン戦闘機でテロリストを一掃する任務に従事。操縦室に篭り黙々と上の支持に従い空爆を続ける毎日。

こちらが攻撃される心配もなく、ボタンひとつで人が死んでいく。時には、何の罪もない民間人を巻き添えにしてしまうことも― しかし仕事が終われば自宅に帰れるし家族とも毎日会える。

そんな“平和な家庭と異常なモニター越しの戦場”を往復する日々の生活に次第に精神をやられていくイーガン。徐々にエスカレートしていく上層部の命令が引き金となり、遂にイーガン少佐は精神的ストレスが極限にまで達してしまいます。

 

モニター越しの“音のない爆撃シーン”が今までにない衝撃を生む

『ドローン・オブ・ウォー』は戦争映画に分類される作品ではあると思いますが、戦場のシーンは一切ありません。あるのはドローンのカメラから映し出されたモニター越しの映像のみ。

この映画の特徴として、モニター越しにテロリストたちを爆撃するシーンが挙げられます。爆撃シーンはカメラからの映像のみのため、爆撃なのに音が一切ありません。

ドローンからミサイルが投下され実際に爆撃するまで約10秒の時間がありますが、その間観客は固唾を飲んでそれを見守ることになります。一切瞬きが出来ない程の緊張感があり、瞳孔が開きっ放しになってしまうことでしょう。

爆撃音が一切ないこの映画の爆撃シーンは、ある意味で他のどの戦争映画よりも人命が軽く思えます。キーンという電磁波のような静かな音だけが木霊し、それはいくつかの命が消えた事実を伝えるサインのように聞こえます。

こうも簡単に人が画面の向こうで死んでいくシーンを何度も見せられると、人としての感覚が麻痺していくイーガンの気持ちが痛いほど分かります。これは人道的なことなのか? と。

イーサン・ホークはキャリアでも重要な位置を占める演技を披露

そんな病めるトミー・イーガン空軍少佐を『6歳のボクが、大人になるまで』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたイーサン・ホークが熱演しております。

彼特有の「困り顔」は今回影を潜め、口数少なく苦悩する軍人を雰囲気と表情(ある意味困り顔ですが)で巧みに演じております。映画の内容と役どころといい、素晴らしいキャスティングと言えるでしょう。

派手さはないものの、常に一線級で活躍し、良質な作品に出演し続け映画ファンからも信頼が厚い彼。本作での演技は彼のキャリアにおいても最も素晴らしい演技のひとつになったのではないでしょうか。

アンドリュー・二コル監督、17年ぶりのイーサン・ホーク主演でのタッグが実現

監督は作品数は多くないながらも映画ファンの心に残る作品を世に送り出してきたアンドリュー・二コル。SFドラマの名作『ガタカ』(筆者の生涯5本指に入る作品)でもイーサン・ホークが主役を演じており、実に本作で17年ぶりの主演での再タッグとなりました。

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イーサン・ホーク×アンドリュー・二コルと聞いてニヤリとしてしまう人も多いはず。私の場合はニヤリというか大喜び。 この二人が組んで駄作などあり得ないと断言します!

淡々と派手さはゼロの演出ながらも徐々に崩れかけていく様は鋭く現代の戦争の闇を捉えており、心に響く無駄のない演出は安心して観れることを保証します。

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戦争の無情さを従来の視点から浮き彫りにする衝撃の問題作

アンドリュー・二コル監督作『ロード・オブ・ウォー』(こちらも素晴らしい作品。イーサン・ホークも出演)でも武器商人の視点から戦争を描いており、本作も従来とはまた別の視点から戦争を、そして人命とは何かを切り取っています。

戦争とはどのようなことなのか、そして何が起こっているのか―  現代の日本に住む我々は映画という媒体を通して「戦争」を知ることも多いですが、近年は今まで描かれなかった戦争の側面を描き出す映画も増えております。

ロード・オブ・ウォー

本作に至っては標的にされる中東のテロリストの“悪事”はほとんど描かれず、アメリカ空軍の一方的なドローンによる殺戮ばかりが描かれる…  むしろアメリカ軍側が悪魔のように見えます。

正義とはどこにあるのか? とイーガンと共にきっと自問せざるを得ないはず。このような映画を作れるハリウッドのバランス感覚はやはり凄いです。日本では間違いなくアウトかと。

ドローン機から送られてくる映像を通してまたひとつの戦争の形、そしてこんな戦場もまた存在するという事実を、本作を通して我々は目撃することになるでしょう。そしてそれを通して語られる一人の軍人の“選択”をその目でお見逃しなく。

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※2022年4月24日時点のVOD配信情報です。

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  • Kazushiguchi
    3.2
    物語の特徴だとは思うが、迫力にかける。 全体的に静かな映画。
  • 3.2
    イーサン・ホーク主演のまた一風変わった戦争映画。 タイトルにもある通り本作はドローンを使った攻撃、ドローンのパイロットの物語。 テロリスト壊滅の為、音もなく上空から近づきターゲットを爆破。カメラの映像を頼りに操縦機を握りボタン一つでハイ空爆。 エアコンの効いた部屋で淡々と任務をこなし、戦争の泥臭さ、スリルも興奮も悲惨さもない。 「ゲーム感覚での人殺し」「リアリティのない戦争」 これに徐々に疑問を抱いていく主人公が精神をすり減らしていく… ドローンの映画だけどドローン本体の映像は映らないのが特徴的だと思った。ドローンが映す映像のみが登場しバーチャルな感覚。 主人公は元々戦闘機のパイロットだったので余計にこの感覚に違和感を覚えていく。やっていることはテロリストと何ら変わらないんじゃないか?と自問自答していくところが重みがあって良かった。 イーサン・ホークの堅物な演技も自分不器用っすから…みたいな感じでかっこよかった。
  • fujisan
    3.3
    画面越しに戦場が迫る――ドローンが拓く新たな戦争の形。 2014年、アメリカの戦争ドラマ映画。監督は「ガタカ」、「ロード・オブ・ウォー」、「TIME/タイム」などの低予算で良い映画作るアンドリュー・ニコル。 ◇ 本作は米軍によるドローン攻撃に対する、鋭い批判映画となっていました。 主人公のトミー(イーサン・ホーク)は戦闘機F16の元パイロットで、今は無人攻撃機の操縦士。ラスベガスのンテナハウス基地から1万キロ以上離れたアフガニスタンで作戦を遂行しています。 朝はサラリーマンのように車でクーラーの効いたコンテナ基地へ通勤、まるでゲームをしているかのように1万キロ先の上空で飛ぶ無人攻撃機を操って人を殺し、夕方はまた帰宅して、友人たちとバーベキューを楽しむ。そんな毎日。 命令は軍からだけではなくCIAからのものもあり、911テロ以降、実際に現地で本人を確認してから行動する『標的攻撃』から、テロリストの特徴があれば攻撃して良いという『特徴攻撃』に変わったCIAの攻撃指示は非人道的なものでした。 銃を持っているから攻撃して良い、標的と一緒に行動しているから攻撃して良い、首謀者と会話しているから攻撃して良い、そんな事を言いだしたら、誰でも殺して良いことになりますよね。 『捕まえて拷問するよりコストが安い』 『標的であると、”ほぼ”断定できる』 『対テロ戦争には、事実上、国境は存在しない』 『個人ではなく、集団を排除するんだ』 『Good Kill(よくやった)』 『バラバラで何人死んだかわからないな』 そんな、非人道的な会話が飛び交う”リモート戦場”で働くトミーの心は、どんどん蝕まれていきます。 無人攻撃機から発射したミサイルが地上に届くまでのタイムラグは10秒。発射時の標的は一人でも10秒の間に子どもや妻が接近し、巻き添えで死亡する。そして、それは”仕方がない”と処理される。そんな誤爆が多発します。 それでもトミーの奥さんは、死と隣り合わせの戦地よりも毎日家に帰ってきてくれる今の方が良いと伝えますが、トミーの心は徐々に限界に近づいていきます。 また、現地戦闘の経験があるトミーは”命の軽さ”に耐えられませんが、怖いのは現地戦闘もないゲームが得意だけの若者が作戦に参加していること。彼らは血を見ていないので作戦遂行に躊躇がありません。 命の軽さに葛藤するトミーはどうなっていくのか。続きは映画にて。 ◇ 本作は2014年の作品で、無人攻撃機パイロットの精神疾患の問題は、当時話題にもなりました。 そしてあれから10年。今どうなっているかというと、パイロットさえ不要なAIによる無人化が進んでいます。 AIは事前に入力された条件さえ揃えば自動的に行動します。しかも24時間トイレにも行かず寝不足や体調不良によるミスもない。ゲーマーよりもさらに好都合な存在です。 (このあたりは先日再放送されていたNHKのドキュメンタリーや、NETFLIXドキュメンタリーの「アンノウン」が詳しいです) 選「ハイテク対テロ戦争 ロボット兵器」 - BS世界のドキュメンタリー - NHK https://www.nhk.jp/p/wdoc/ts/88Z7X45XZY/episode/te/WLLW92LM6M/ ウクライナロシア戦争で使われているドローンは航続距離70Kmと言われ、あらかじめ入力された目標に向かって地図情報を元に自動的に飛んでいき、搭載した爆弾で自らを爆発させる遠距離自爆型ドローン。 残念ながらこの映画の内容は”今よりもまだましだった時代”のものになってしまっており、この10年で事態はさらに深刻になっていることに恐怖を感じます。 ◇ 余談: 終始重苦しい内容の映画ではありましたが、たまにイーサン・ホークが柳沢慎吾に見えることがあって、それが息抜きになりました😓 『悲しいけどこれ戦争なのよね』 ◇ 2023年 Mark!した映画:312本 うち、4以上を付けたのは34本 → プロフィールに書きました
  • yoshi
    3
    https://ameblo.jp/yuuqyu/entry-12654242605.html
  • 3.5
    記録
ドローン・オブ・ウォー
のレビュー(3743件)