まもなく平成フィナーレ!平成元年(1989年)公開の邦画を振り返る

映画マニアと呼ばないで

夏りょうこ

先日、新年号を4月1日に公表することが正式に発表された。めまぐるしく過ぎた31年という平成の世が終わる。

31年前はどんな時代で、自分は何をしていたっけ?

それは当時の映画を観れば、きっと思い出す。

そこで今回は、平成元年(1989年)に公開された邦画17本をご紹介しよう。

魔女の宅急便』(7月29日公開)

自立すべし

魔女の宅急便

原作のファンタジー性を封印し、田舎から出てきた少女が自分で住む場所を見つけ、特技を生かして仕事に就き、社会にもまれながら自立していくという物語にしたのは大正解。

まだいたいけな13歳である彼女は、心が柔らかいのですぐ傷ついちゃうけど、人の温もりが染み込んでくるのも早くて、思春期特有のモヤモヤした恋もしたりする。ユーミンの歌が流れてウキウキ。雨に打たれてしょんぼり。でも大丈夫。あなたの人生は、まだ始まったばかり。

時が来れば人間も動物と同じように親元を離れ、自分の足で立たねばならぬ。かわいらしい絵柄に惑わされがちだが、なかなかシビアなテーマを忍ばせているこの映画は、就活中の大学生にもオススメ。鈴を鳴らして、さあ飛び立て。

オルゴール』(3月11日公開)

泣けてくるぜ

オルゴール

歌手である長渕剛が原案・主演・音楽を担当し、TVドラマ『とんぼ』の世界観を継承したヤクザ映画。仙道敦子が懐かしい(橋本愛に似てる?)。哀川翔が若い。

己の因果が家族に報い、犠牲になってしまった愛する者たち。自分がヤクザだったばかりにゴメンよ……でも奴らの卑怯なやり口は、許せねえ。怒りと後悔を胸に抱き、主人公はたった一人で大きな敵に立ち向かう。男には、負けるとわかっていても戦わなければならない時があるのだ。

任侠ドラマにありがちなストーリーでも、長渕剛が主演ということで付加価値があった時代。彼には守らなければならない妹と幼い息子がいて、それゆえに暴力の世界に引き戻されてしまうやるせなさを自己陶酔気味に演じ、長渕剛ならではの熱量が伝わってくる作品である。

利休』(9月15日公開)

演技合戦

利休

当時の時代劇は、目の肥えた大人が味わうジャンルだったよなあ。対照的な演技のぶつかり合いが生み出す心地よい緊張感は、まるで二人芝居を観ているかのよう。

三國連太郎が利休で山崎努が秀吉というみごたえのあるキャスティングに加え、劇中に使われる生花は、すべて草月流の家元である監督の手によるものだという気合いが、贅沢な重みとなって伝わってくる。これくらいのハイレベルな力量バランスでないと、二人の複雑な確執は描けないだろう。

美の追求者と粗野な権力者。それはキツネとタヌキの腹の探り合いのようでもあり、三國連太郎と山崎努を見ていると、どちらかに肩入れするというより、もうどっちもどっちという気持ちになってくるのは狙い通りか。同時期に公開された映画『千利休 本覺坊遺文』と観比べてみるのも一興。

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226』(6月17日公開)

出演者多し

226

1936年に勃発した陸軍青年将校らによるクーデター未遂事件「二・二六事件」。そこに至るまでの経過を陸軍将校側の視点から描いたことで話題になったが、将校たちのキャスティングに芸能ニュース的な注目が集まった映画でもある。

萩原健一と三浦友和は、この作品の目玉。一方、シブがき隊解散後に本格的な俳優活動を始めたばかりで、実力が未知数だった本木雅弘は、アイドルのオーラと可能性を期待されていたはず。意外だったのが関口誠人。バンドC-C-Bのヴォーカルとして人気があったからにしても、その唐突な出演が世間をざわつかせた。

青年将校たちの私生活や内面にも迫るストーリーのため、彼らの妻子も多く登場し、女優陣もきらびやか。実際この事件に参加した将校の兄が監修に当たるなど、硬派な歴史ドラマとして仕上がっており、今も活躍する俳優たちの31年前の姿を鑑賞できる作品としても楽しめる。

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座頭市』(2月4日公開)

難産の末に大ヒット

座頭市

盲目の市が、諸国を放浪しながら驚異的な居合術で悪人と対峙するアクション時代劇。その後も『座頭市』(03)では北野武、『ICHI』(08)では綾瀬はるか、『座頭市 THE LAST』(10)では香取慎吾が演じるなど不滅のキャラクターである。

勝新太郎は、この作品で脚本・製作・監督を兼任したが、膨れあがる製作費や撮影所の問題などが山積みとなり、ついには真剣を使った殺陣のリハーサルで死亡者が出るという前代未聞のスキャンダルが発生。その後も公開が危ぶまれる事態となったものの、結果的には大ヒットを記録した執念の一作である。

勝新太郎のただならぬ存在感。素早い殺陣は様式美のすごみがあり、樋口可南子との濡れ場は温泉にゆらゆら浸かりながらという斬新さだ。なんと内田裕也が親分役で出演しており、アナーキーな雰囲気がなかなか役柄にマッチ。最近はこういう本格的時代劇になかなかお目にかかれないだけに、ちょっとニヤニヤしてしまう。

丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる』(1月14日公開)

まさか映画に

大霊界

俳優であった丹波哲郎が、「あの世」について持論を展開するようになってからは、その話題で注目されたりモノマネされたり。結局「大霊界の人」というイメージが残ってしまった。

TVドラマ「Gメン‘75」シリーズ(75)などで活躍した有名俳優であり、心霊学の研究家としても知られる丹波哲郎が執筆したベストセラー本を、自らの主演で映画化。脚本と総監督も兼任し、舞台化もされた。続編『丹波哲郎の大霊界2 死んだらおどろいた!!』(90)、『大霊界3 死んだら生まれ変わる』(94)あり。

事故死してしまった学者が、霊人に導かれて霊界へ。そして彼は霊界を案内され、霊界の様子や転生について教わるのである。霊格。自殺者の森。霊祭。天界層。天使層。そういった丹波哲郎の思想が具現化された霊界への旅物語。2006年に亡くなった丹波哲郎は、人間界へ生まれ変わっていると思いたい。

その男、凶暴につき』(8月12日公開)

北野映画の原点

その男、

粗野で暴力的だが優しい人間性も合わせ持ち、愛情表現が不器用な照れ屋。この役は、俳優・北野武というより北野武のイメージそのものである。

犯罪者を追い詰めるためには、殴る蹴るの暴力もいとわない刑事。そんな彼は署内でも危険人物として浮いた存在であったが、信頼できる相棒や守るべき妹がいて、たまにホッとする時間があるのがささやかな救いだ。しかし、兄が生み出したヤクザな因果が悲劇を呼ぶ。

突発的で淡々とした暴力シーンも少ないセリフもキタノブルーも、今や北野作品の特徴として当たり前になっているが、当時それがどれだけ新鮮な衝撃だったことか。思いもかけず監督をしなければならなくなった北野武が、自分の全てを出し切った作品。そして31年前の北野武がカッコよく、その色気と優しさを再認識。これ、今だからわかることかも。

彼女が水着にきがえたら』(6月10日公開)

とってもバブリーな

彼女が水着に

東京アーバン・マリンリゾートを舞台に描かれる宝探しと若者たちのオシャレなライフスタイル。何の心配事もなく浮かれている彼らの姿が、まぶしい。

ウィンタースポーツをテーマにした前作『私をスキーに連れてって』(87)とは打って変わり、今度はマリンスポーツがテーマ。次作の『波の数だけ抱きしめて』(91)と合わせて、バブル時代に公開されたホイチョイ・プロダクションズ原作のホイチョイ3部作と称される。企業タイアップが特徴で、音楽はもちろんサザンオールスターズである。

アパレルメーカーに勤めるヒロインは、クルーザーパーティに誘われるが、相模湾でダイビング中に遭難しそうになり、通りがかりのヨットに助けられる。肩掛けタイプの巨大携帯電話(お金持ちの証拠)。ソバージュヘアの原田知世にボディコンの伊藤かずえ。織田裕二はチャラ男だ。このお気楽なノリに嫉妬するか呆れるか。時代の資料としては貴重な作品。

愛と平成の色男』(7月8日公開)

ムズムズが止まらない

かつてトレンディドラマでモテ男を演じていた石田純一。そんな石田純一が初主演し、昼はエリート歯科医、夜はジャズ・サックスプレイヤーという設定がムズムズするバブル映画である。

元号が平成になったというだけで、当然世の中はまだ昭和の匂いがプンプン。これもバブルの軽い気分満載の薄っぺらい恋愛ストーリーだが、独身主義のプレイボーイが不眠症という病んだ側面ものぞかせ、いちいちキザなセリフも石田純一の口から発せられると違和感なしだ。これはすごいことかも。

そんな彼と関係を持つ女たちは、パターン化されたキャラクター。その1人である鈴木京香(当時ホクロあり)は、東京に出てきた田舎娘だったが、石田純一によって磨かれ、アカ抜けていくプリティウーマンである。ディスコで踊る彼女のファッションが、奇抜でSFちっく。石田純一は結婚したくない男。それも時代だねえ。

ファンシイダンス』(12月23日公開)

俳優・本木雅弘の誕生

ファンシイダンス

人気漫画を原作とした本木雅弘の初主演作。シティボーイが送る坊主ライフのドタバタ青春コメディで、31年前なのにモックンの変わらなさときたら!

ロックバンドを組んでいた軽いノリの大学生が、実家の寺を継ぐことになってしまい、田舎の禅寺で修行を始める。ところが、最初は厳しい生活にとまどっていた彼に価値観の変化が……すると今度は外の世界になじめなくなってしまい、恋人もいるのに、さあどうする?

当時はまだアイドルのイメージが強かった本木雅弘が、坊主頭の僧侶という大胆なイメチェンに挑んだ作品。そんな役をこなせるのかとハラハラしたが、今までとは違う俳優としての姿を披露し、プレッシャーを見事にクリア。これにて俳優の道が拓けたということで、感慨深い一作である。

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どついたるねん』(11月11日公開)

通天閣がまぶしい

どついたるねん

荒削りでひたむき。昭和の泥臭い新世界で、ボクシングしかできない不器用な男が、命を賭けてリングに上がる。

阪本順治の監督デビュー作であり、ボクサー・赤井英和が俳優として飛躍するきっかけとなった作品。公開は映画館ではなく特設テントを設置しての上映だったが、口コミで評判が広がって大成功を収めた。下町の人情と古き良き大阪を感じさせる一方、ボクシングでしか生きられない男の切なさが身に迫る。

K.O.負けした時のケガにより再起不能に陥ったボクサーが、ボクシングへの思いを断ち切れずに自暴自棄な生活を送るが、やがて周りの反対を押し切って復活戦に臨む。それは「浪速のロッキー」というより「浪速のジョー」だ。無軌道になりがちな彼を「このアホ!」と怒鳴りながら励ます相楽晴子が、幼馴染ならではの愛をにじませてよい。

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ブラック・レイン』(10月7日公開)

日本とアメリカの化学反応

ブラックレイン

ガンに侵されていた松田優作が、その痛みに堪えて壮絶な演技を見せた遺作として取り上げられることが多いが、病身でなくても松田優作は素晴らしかったはず。

日本人俳優がハリウッド映画に出演するのが、まだ珍しかった時代。高倉健と松田優作が共演するだけでも大ニュースなのに、これは画期的な出来事であった。ガッツ石松も出ているのはご愛嬌。大阪の中心街を舞台にしているのにとても大阪には見えないあたりが、さすがはハリウッドマジックだ。

ヤクザの殺人現場に偶然出くわしたばかりに、犯人の狂気に翻弄される2人の刑事が気の毒になるほど。現代の映画に比べると、追い詰められ方が少々甘い気がしてしまうが、何を考えているのかよくわからない東洋人の不気味さはあったかも。単なるアクション映画として語れない奥深さもあり、再観賞してみたい一作。

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鉄男 TETSUO』(7月1日公開)

なぜ俺が

鉄男

パンクロックに身を任せるように、とりあえず難しいことは考えず、めきめきと金属化していく男の姿を「すげ~っ!」と思いながら観ればよし。

ある男をひき逃げしてしまったせいで、その男の恨みを買い、なぜか肉体が次第に金属化していく。最初はニキビのような突起だった。それが、皮膚のあちこちから金属が溢れ出し、最後は鋼鉄の鎧をまとったような異形の姿になってしまう。CGではないアナログならではのグロさ。造形の面白さ。

バイプレイヤーとして注目された田口トモロヲも当時は無名の俳優だったが、この作品で一躍注目を集めただけに気合いはバッチリ。続編『鉄男II BODY HAMMER』(92)、そのまた続編『鉄男 THE BULLET MAN』(09)は全編英語で製作され、世界の映画監督にも多大な影響を与えたカルトムービー。

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あ・うん』(11月3日公開)

節度のある三角関係

あ・うん

夫の親友から密かに慕われていることを知りながら、2人の男の間でやじろべえのように均衡を保つ人妻。その微妙なバランスに揺れ動く女心は、女性にしか描けないシロモノだ。

向田邦子の小説を映画化。17年ぶりにスクリーンにカムバックした富司純子が、「この人ならプラトニックに横恋慕されてもアリ」という美しき昭和の女性を演じ、彼女を理想の女性として長い間想いを寄せているのが、ストイックで誠実な高倉健という納得のキャスティングだ。

それにしても女という生き物は、気づいてしまうものなのである。哀れで気の毒なのは、高倉健の妻。一方、夫の方も気づいているのかいないのかは曖昧で、しかしわかっていたところで人間の感情なんてそう簡単に割り切れるものではなく、彼らは互いの存在を大切にし、支えあいながら激動の時代を生き抜いていく。昭和的な大人の物語。

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風の又三郎 ガラスのマント』(3月11日公開)

風を操って

風の又三郎

宮澤賢治の童話を映画化。これで3度目の映画化となるが、この作品では原作にはない少女を登場させ、彼女の視点から物語が語られるという設定が新しい。

村の分教場に転校してきた少年。彼は二百十日の風の日にやってきたので、風の又三郎と呼ばれるようになる。野山を駆け回り、泥まみれのシャツを着ている田舎の子供たちに比べ、真っ白な帽子に洋服というハイカラないでたちの又三郎は、見るからにお坊ちゃんの異邦人。

東北の方言が使われ、仲良しのおばあちゃん役で樹木希林も出演。主人公の少女は結核を患う母親と二人暮しで、片方の耳が聞こえないという身の上だが、又三郎との交流を通して健気に生きていこうとする。「セロ弾きのゴーシュ」「銀河鉄道の夜」などの作品をイメージした映像が挟み込まれ、宮澤賢治作品へのオマージュのようなファンタジー。

YAWARA!』(4月15日公開)

知る人ぞ知る実写版

YAWARA

柔ちゃんがアイドル映画になるとは。こんな時代もあったんだなあとしみじみしてしまう一作である。

浦沢直樹の人気漫画を映画化。アニメより先に製作された実写版である。ヒロイン役が人気アイドル・浅香唯で、猪熊滋悟郎が小林桂樹、猪熊虎滋郎が菅原文太、松田耕作が阿部寛というレアなキャスティング。有名な柔道家やプロレスラーもカメオ出演しているので、いろいろツッコミながら観賞すると盛り上がりそう。

当時の浅香唯はね。超アイドルだったのですよ。その彼女に柔道の達人役をやらせるなんて、それだけ原作の人気が高かった証拠でもあるが、無謀な冒険には違いない。31年前の阿部寛は必見。この2年前に『はいからさんが通る』で南野陽子の相手役として映画デビューしたばかりの初々しさにムズムズする。

いかがでしたか?

平成元年がどんな時代だったのかを知るには、映画を観るのが手っ取り早い。

主に50代にしかわからない作品ばかりかもしれないが、今でも活躍している俳優の若かりし頃の姿を観ることができたり、当時のファッションや若者たちの風俗に触れるのは楽しいはず。

映画は時代を映す鏡。31年前にタイムトリップしてみませんか?

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