柳楽優弥が、氏の監督助手だった広瀬奈々子の第1回長編映画『夜明け』でも主演を務めることになった。出演について、柳楽本人は「是枝さんのデビュー作がある流れからの、今、この役柄のキャスティングだと思う」とめぐり合わせを自負し、穏やかに語った。
片田舎にて、河原で倒れていた謎の青年「シンイチ」と、彼を偶然見つけ介抱し、やがて同居していく哲郎との奇妙な交流を描いた同作。秘密を抱えて逃げてきた得体の知れない「シンイチ」を柳楽が、広い心で「シンイチ」を支えながら、孤独ゆえに自身も救われたいと願う哲郎を小林薫が、繊細な表情で演じた。
大河ドラマ『おんな城主 直虎』以来、間を空けずの共演となった両者の対談は、小林が会話をリードしながら、柳楽が横でうれしそうに「うん、うん」とうなずくスタイルで始まった。キャリア42年、役者の大先輩・小林が柳楽に対して向けた温かい眼差しと、役者としての心構えも胸を打つ。
――『夜明け』は広瀬監督のオリジナル映画です。脚本を読んだときの気持ちや役へのアプローチからお聞かせください。
小林 そんな準備もしていないんですけどね(笑)。言ったら、僕(哲郎)は奥さんも息子も亡くして「シンイチ」という謎の男が突然目の前に現れるわけです。そこで、自分の過去をもう一度回復しようというか、必死になるわけですよね。どうせそういうものは本物じゃないから、借物だから、と思っていました。
小林 こうした親子関係の話であったりすると……、答えが出ないじゃないですか。やっているときも、今でも実は難しいなと思ったのは、「こういうことが言いたい」と明確にある映画ではないので、そうすると、僕らはどうやったらいいのかな、と。これだけシンプルなのに、親子なのに、なぜそれぞれがうまくいかない話をしているんだろうって。よく30歳の若い監督がこんな渋い映画を撮ったなあ、もっと気楽な映画もあったんじゃないかな、と思いましたね(笑)。
――演じている最中から今でもモヤモヤと言いますか、そんな心中だったんですね。
小林 答えが出ないんですよね。それが正解っちゃ正解かもしれないし、自分がやったことは正解と思わざるを得ないですよね。あのときの全力だから。ああも考えられる、こうも考えられる、といまさら言ってもしょうがないので。ただ、同時に「こう」と言い切ってしまったら、そこから表現できなかったものがいっぱいあるから、そういうものを考えると、答えがこれだよね、というのはない映画だと僕は思っています。それが、僕たちがやっているときのひとつの難しさではあったのかもしれないです。
柳楽 僕も、難しいなあ……と思いました。難しいことを考えようとしても、僕、無理なんで す(笑)。今回は、監督が描きたいものがある、ビジョンが見えているような雰囲気でずっと 現場にいてくれたので、自分の中で信じたものをやって、あとは監督に言われたことをやるよ うにしていました。インする前に思ったのは、『誰も知らない』という作品で是枝さんのデ ビュー作がある流れからの、今、この役柄のキャスティングだと思うので、僕が居る意味とし て、何かしらの生命力みたいなものを雰囲気で出せたらいいな、と意識していました。……本当に答えがない印象だったので、「どういうものができているんだろう」というワクワクと怖さはありましたけど。
――となると、完成作をご覧になっての感想はいかがでしたか?
柳楽 難しくて、わかんないな……って。
小林 (笑)。
柳楽 はっきりと「こういう映画」とするのではなく、観ていただく方に先入観を持ってもらうよりも、たまたま観た人が「心に残った」と思ってくれたらいいなって。すごい可能性に懸けている映画だな、と思っています。
小林 監督自身、「こう思って、こう答えが決まっています」という映画を作りたいわけじゃないんだよな、たぶん。お互いに理解をしたいがために作っている映画じゃないな、と思いました。
小林 今回はカメラマンもドキュメントを中心とした、初めての劇用映画の方が撮っているんですよ。例えば、工場の場面で、「おはよう」と哲郎が入ってくるんだけど、「おはよう」の方向にカメラが向いていないんだよね。もちろん台詞を言う側にドラマがあるわけではないから、聴く側がどう聴いているかこそ撮りたいのはわかる。そのときにふっと「面白いな、なるほどな」と思ったりしました。「こうきて、こうきて、こうなりたい」という映画を作りたいなら、劇用のカメラマンを使うだろうから。そういう意味で、僕らもいわゆる劇用の映画ではないんだな、という思いはちょっとあって、違和感も含めて面白かったですよ。
――数あるオファーの中から「難しい」この作品を受けた決め手は何だったんでしょうか?
小林 偉そうに決め手があったとかは言えないけど……ひとつはね、監督や共演者が若いこと。それは、かなり興味がありますね。かつて自分が若いときは、周りも全員若かったわけだけど、年齢を重ねていくとどうしてもいろんなことが硬くなってしまうからね。こういう現場に入ることでいろいろな要求をされたり、とまどって大変なこともありますが、そもそも映画ってそういうものなんじゃないかな、僕の中では決め手でありますね。
それと、千葉の旭市を拠点に撮影していたんです けど、毎日通えないから行ったきりしかないんですね。そうすると、何となく現場の空気にずっとなじむ感じがするんですよ。毎回自宅に帰る仕事と、ちょっと意味合いが違うんです。自分でも気づかないところで化学反応を起こすことがあるから、楽しいかなとは思いましたね。……まあ、僕は毎晩飲みに行ってもいたんだけど(笑)。
柳楽 (笑)。
小林 3~4軒しかないところを順番に行っていました(笑)。共演者と飲んだりできてね、東京に帰っているとバラバラになっちゃうので、できないけど。
柳楽 本当に、そうですね! ずっと千葉だったので、YOUNG DAISさん、(鈴木)常吉さん、僕を薫さんが食事に連れて行ってくれて。撮影していないところでの雰囲気みたいなのが、すごく映画に出ると感じたので本当にありがたかったです。出演オファーについては、是枝監督のもとで監督助手で何本もやられている方の初監督作は面白そうだな、と。台本を読んで少し共感できる部分もあったし、ぜひやりたいなと思いました。
――現場でのおふたりの関係性は、どんな感じでしたか?
小林 お任せですよ。お互いに余計なことは慎んで「このシーンどうしようか」という相談とかは、しなかったよね。広瀬さんの作品の性格によると思うんですけど、お互いに納得して答えが出ちゃったらつまらないじゃないですか。わからなさの不安があるんだけど、そりゃわからないことやってんだもん。お互いに「こういうシーンだからこうやろうよ」というのじゃ済まないな、というものがあった気がします。
柳楽 そうですね。
小林 だけど妙なもんで、ある1シーンだけは自然と「こうしようか」と話したところがありました。広瀬監督の環境、千葉で合宿していたこと、突然「これはふたりにとっての重要な節目のところ」という思いが重なったのか、それぞれが役のことを考えたときに計算とかなく、そこだけ神様が下りてきたような感じは今でもしますね。ふっとそういう関係が成立するときがあるんだね。
――柳楽さんにとって、小林さんはどのような存在ですか?
柳楽 大河ドラマから続けて『夜明け』に参加したので、半年以上、薫さんとご一緒していたんです。薫さんだったからこそ、少し落ち着いていけた部分がありました。現場以外のところでも、意識されているわけではないと思うんですけど、自然と役柄っぽい感じで普段もいられたのは、作品自体も助かったのかなと思いました。
――小林さんからご覧になって、柳楽さんという役者はどういう刺激ですか?
小林 役者同士って、そんなにほかの人に興味があるわけじゃないと思うんだけど……。
柳楽 (笑)。
小林 ただ、役以前で役者の在り様ですごく悩んでいるというか、ためらいがある方かなと。僕は、それは続けたほうがいいと思っているんですよ。僕らの商売はあまりにも腰が落ち着いたら、それはそれでつまらなくなっちゃうと思うから。妙な居心地の悪さというか、を、抱えていく職業なのよ。そこを卒業しないで、しんどいけれどやってもらいたい感じはしますね。僕らは答えの出ないことをやっているから、どんと構えてもしょうがないし、つまらないじゃないですか。最期、死ぬまで答えの出ないことをやっていると思いますよ。最近、正しいことってわからなくなってきちゃっているし、逆に言うと「こういうものだ」と言っている人がいたら、心の中で「いいね、お気楽で」って思う。そう決めたほうが楽だもん。
柳楽 (うなずく)
小林 人を妙に納得させたりすると、「いいこと言うなあ」と思うと同時に、皮肉も出てくるよね。僕は何がいいんだか、正しいんだか、わからなくなってきちゃった。そんな居心地の悪さは、ずっと続くんじゃないかなと思う。役者としての在り様や役を掴む方法を、いつも「どうしたら」と考えていくしか……柳楽くんもないと思うんだよね。
柳楽 確かに、そうですね。メジャー映画というか、エンターテインメント作品も大好きですけど、今回しっかりとこうしたインディペンデントな現場でモノづくりを、同世代の初監督の方と一緒にできたことは大きかったです。薫さんがおっしゃったように、もちろん満足とは程遠いところに今自分はいられているので、これからも耐えて、頑張ります(笑)。(インタビュー・文=赤山恭子、撮影=岩間辰徳)
映画『夜明け』は、2019年1月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
配給:マジックアワー (C)2019「夜明け」製作委員会
公式HP:https://yoake-movie.com/
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