【知って得する映画の楽しみ方】秋の夜長に長回し!7本のエンタメ映画で長回しを学ぶ

映画はいつだって人生の鏡像だ

鈴清

映画の撮影技法のひとつに長回しというものがあります。

かつてはアンドレイ・タルコフスキー監督や溝口健二監督などの伝説的な巨匠がその技法を好んで用い、最近では、第87回アカデミー作品賞などに輝いたアレハンドロ・ゴンサレス・イリャリトゥ監督による『バードマン』でも長回し技法が話題になりました。

そうやって聞くと、長回しが敷居の高いものに思えてくる方もいるかもしれませんが、この技法、エンタメ作品においても使われていることが意外と多いのです。

今回はその中からいくつかの作品を紹介します。普段とはまた違った観点から映画を楽しんで観てください!

※長回しとは……カット(編集)をはさまず、カメラを回し続けながら一連のシーケンス(場面)を見せる技法。

『トゥモロー・ワールド』(2006)

まずは、長回しと言えば必ずといって良いほど名前が上がるアルフォンソ・キュアロン監督による作品です。​​

tomorrowworld

近未来。子供が生まれなくなってしまった世界で、人類最後の希望である妊娠した少女を守るために逃避行に出る男・セオの運命を描いたストーリー。

この作品では長回しが使われているシーケンスが複数あります。なかでも印象的なのが中盤、少女を連れ田舎道を車で走るセオ一行がつかの間の穏やかな時を過ごしているところから武装集団の襲撃にあい、セオにとって大きな喪失が起こる混沌とした流れを、車内でカメラを縦横無尽に動かし続けて描かれる部分です。

事態の急変に混乱し焦る彼らの姿は、長回しによって没入感が増した観客の共感をさそい、クライマックスに向けて物語へ大きく引き込む効果を発揮しています。

また、圧巻なのが物語の終盤、武装蜂起で混乱する難民キャンプを銃弾の雨にさらされながら、さらわれた少女救出のため突き進むセオの姿を6分ほどの間ノーカットで追いかけるシーケンス。

こちらにおいては緊張感の持続という上で長回しの効果が存分に発揮されています。

キュアロン監督は2013年に公開された『ゼロ・グラヴィティ』でも長回しを多用していて、現代における長回しの代名詞のような監督なのかもしれません。

『キル・ビル Vol.1』(2003)

クエンティン・タランティーノ監督によるアジア映画への敬愛が溢れるバイオレンスアクション映画です。映画愛に溢れ、作中に無数に散りばめられたオマージュにより、自作を通して映画批評を行っているとさえ言われるこの監督も、やはり長回し技法を用いています。

killbill

自分からすべてを奪ったかつてのボスであるビルへの復讐に燃える女、ブライドの戦いを描いたストーリー。

ビルの部下であり、いまは東京を仕切るヤクザのトップにまで上りつめたオーレン・イシイとの対決を描くクライマックスの一歩手前、イシイたちが陣取る料亭内のシーケンスで長回しが用いられています。

BG音楽として流れるThe 5.6.7.8’sのライブパフォーマンスの最中、その喧騒にまぎれるように複雑な店内を進むブライド、その一方でやはり店内を進むイシイの秘書ソフィ。

ヤクザ来店に右往左往する店主と女将のコミカルな演技を間にはさみながら、カメラは360度、縦横無尽に動きながら彼らを追い、ほつれた糸がつむがれるようにある場所でブライドとソフィが遭遇することになります。複雑なピースが合わさるような快感を味わうことができるでしょう。

『パニック・ルーム』(2002)

『ソーシャル・ネットワーク』や『ゴーン・ガール』など、話題作を次々に生み出すデヴィッド・フィンチャー監督のサスペンス映画です。

panicroom

緊急避難用の密室、パニック・ルームにこもり強盗団と攻防を繰り広げる母娘の運命を描いたストーリー。

物語の序盤、強盗団が母娘宅へ侵入をはかる様子を家内(観客が被害者側に感情移入する視点)から撮影し、じわりじわりと迫りくる恐怖を描きます。

CGを駆使し、通常の長回しではとうてい不可能な、鍵穴の中までカメラが入り込むなどエキセントリックな演出もあり、フィンチャー監督ならではの観客を惹きつけるシーケンスに仕上がっており必見です。

『アンタッチャブル』(1987)

長回しを多く用いることでも有名なブライアン・デ・パルマ監督による大ヒット作です。

『戦艦ポチョムキン』を引用した乳母車の階段落ちのシーケンスが有名な今作ですが、長回し技法もあるシーケンスで効果的に用いられています。

untouchable

禁酒法時代のアメリカを舞台に、アル・カポネ逮捕のために奔走する財務省捜査官たちの姿を描くストーリー。

物語の後半。捜査官のネスを支え続けたマローンが自宅でカポネが放った殺し屋に襲撃されてしまうエピソードで長回しが駆使されていて、そこでは前述の『パニック・ルーム』とは逆に、殺し屋主観で部屋に忍び込む視点が描かれているのです。

部屋でくつろぐマローンにじわりと接近する殺し屋視点。窓の外から静かに見つめるそれはやがて部屋に入り、刻々とマローンに近づいていくにつれて観客の恐怖が募り、長回しによって張りつめた緊張感を持続させています。

『タンタンの冒険』(2011)

現代の巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が漫画『タンタンの冒険』を原作にモーションキャプチャによって作り上げたアドベンチャー映画です。

tintin

少年記者タンタンが、海賊の襲撃によって沈んだユニコーン号に眠ると言われる財宝を巡る争いに巻き込まれていくストーリー。

モーションキャプチャを用い、実写とアニメを融合させたような作品を描いているなかで、ここでは他作品とは一線を画した長回しが見られます。

終盤の、タンタンと悪役が坂道でチェイスを繰り広げるシーケンスにおいて、その攻防をふんだんに詰め込まれたアクションアイデアによって、スリリングかつコミカルに怒濤のごとく見せる手法は、スピルバーグ監督が『インディ・ジョーンズ』シリーズでも描き続けた連続活劇の遺伝子を脈々と感じさせ、それはそれは息をつかせぬ娯楽アトラクションのような魅力です。

『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)

日本が世界に誇る押井守監督によるアニメーション作品。アニメにも、長回しが潜んでいるのです。

urusei

誰かの夢に閉じ込められた主人公のあたるたちが、学園祭の前日という、同じ日を何度も繰り返すなかで脱出をはかるストーリー。

諸星宅にて、あたると友人たちが一堂に集まって食事をするシーンです。セリフや演技でそれぞれのキャラを立たせ、互いを有機的に絡ませるなかでそれが一枚一枚の絵が動いているとは思えない実在感を持たせています。

通常、アニメーション制作においては1カットごとに原画を束ね、袋につめてそれをカット袋と呼び管理をしていますが、この食事シーンのカットは長回しのため膨大な枚数を必要とし、袋に収まらず箱に詰められてカット箱と呼ばれていたというエピソードが語り継がれるほど、ファンの間で伝説になっているシーケンスです。

『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)

『うる星やつら』に続いて邦画をもう一本ご紹介。こちらは入江悠監督による『SR サイタマノラッパー』シリーズの三作目です。

SR

一作目の主人公MC IKKUたちと袂を分かち、ラップで天下をとるべく東京へ向かったMC MIGHTYが、ある事件を起こしてしまうことで破滅へと加速するストーリー。

一作目『SR サイタマノラッパー』でも印象的な長回しを見せていた入江監督ですが、技術的にも、見た時のインパクトも今作のほうが上回っています。

終盤、八方塞がりになって絶望の淵に立ったMC MIGHTYが、遠くで微かに聞こえる音楽に引き寄せられ、やがてかつての親友たちのステージを目の当たりにするまでの一連のシーケンスが長回しです。

しだいに大きくなるライブパフォーマンスのステージ音と、絶望するMC MITHTYが無意識に音楽への情熱を思い起こしていく姿がリンクし、音楽映画としてこの上ないクライマックスになっています。

おまけの一本

こちらは劇場映画ではないのですが、あの国民的人気コンテンツ『踊る大捜査線』シリーズでも長回しは用いられています。

odoru

1997年にスペシャルドラマとして制作された『踊る大捜査線 歳末特別警戒スペシャル』の冒頭シーケンスにおいて、恩田刑事たちが被疑者をエントランスから署内へ連行しながら、年末の忙しさにプライベートが圧迫される愚痴をこぼすシーケンスが長回しです。

従来の正義のヒーローではない、刑事が見せる庶民性が垣間見えるシリーズならではのシーケンスに仕上がっていて、『踊る大捜査線』ではそれ以外の作品でも、青島刑事たちが署内を進む中で上司や同僚と絡み合う姿をなるべくカットを割らずに描き、湾岸署メンバーを活き活きと描いています。

 

このように、長回し技法は様々な作品で用いられ、思いのほか身近なものであるとおわかりいただけたでしょうか?

ご自身のお気に入り作品や、最近見た映画を思い返してみてください。効果的な場面で長回しが用いられているかもしれませんよ。

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