【山形国際ドキュメンタリー映画祭記念】ありのままを描いたドキュメンタリー映画6選

映画も音楽も本も好き。

丸山瑞生

今月、10月8日より、山形国際ドキュメンタリー映画祭が開催されます!

みなさんはアジアで最初に国際ドキュメンタリー映画祭を開催したのが山形市だということをご存知でしょうか。1989年に始まった山形国際ドキュメンタリー映画祭は、当時の主催者である山形市の市制100周年記念行事として産声を上げ、以来2年に一度、山形でもっとも気持ちのよい季節である10月に開催されています。

ドキュメンタリー映画はシネコンなどの大きな劇場ではあまり上映されないので、必然的に足を運ぶひとが少ないジャンルのひとつですが、近ごろでは町の施設やカフェ、ギャラリーなどの映画館以外の場所でも見る機会が増えています。フィクションを描く映画作品とは異なり、実際の出来事や人物を映し出すのがドキュメンタリー作品の魅力

今回は、6つのドキュメンタリー作品をご紹介させていただきます!

ごく普通の市民が国立美術館にたくさんのアート作品を寄贈した!『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』

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郵便局員のハーブと、図書館司書のドロシー。夫婦共通の楽しみは現代アートのコレクション。ふたりが選ぶ基準はふたつ。ひとつは「自分たちのお給料で買える値段であること」。もうひとつは「1LDKのアパートに収まるサイズであること」。実在する現代アートコレクター、ヴォーゲル夫妻を追ったドキュメンタリー作品。

みなさんは現代アートのコレクターと聞くと、どんな人物を想像するでしょうか。広大な土地と豪華な屋敷。裕福な人物に許された高尚な趣味だと思い浮かべたりはしませんか?

この作品の主役である、ヴォーゲル夫妻はそんなイメージとはかけ離れた生活を送っています。しかし、住まいの1LDKのアパートには約30年の歳月をかけコツコツと買い集めた作品で溢れ、いつしかそれらは20世紀を代表する作家の名作ばかりになっていました

ヴォーゲル夫妻は決して欲張らず、ふたりの基準とお眼鏡にかなう作品の収集を続けます。それらを少しでも売れば裕福な暮らしができたのにもかかわらず、ふたりはそんなことはしません。

『ハーブ&ドロシー』は現代アートのコレクターを追ったドキュメンタリーであると同時に、豊かな人生を送る夫婦の物語でもあります。裕福な暮らしよりも大切にしたいもの、人生の在り方を考えられる作品です

メンバー全員が知的障害者のバンドの笑えて泣けるドキュメンタリー『パンク・シンドローム』

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2009年にワークショップの一環で結成されたパンクバンド「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」。メンバーは全員、知的障害者。フィンランドが生んだ知的障害者によるパンクバンドの「愛ある笑い」に溢れた日常に元気をもらえる抱腹絶倒の音楽ドキュメンタリー。山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された作品です。

知的障害者のドキュメンタリー映画と聞くと、身構えてしまうところもありますが、この作品ではそんな固定観念は捨てましょう。そして、大いに笑いましょう。「知的障害者×パンク」という、あまりにもかけ離れたふたつの要素。しかし、彼らの魂の叫びを聴くと、これが意外にハマる。

「精神科施設のメシはまるで豚のエサ」「いつかグループホームを爆破してやる」「少しばかりの敬意と平等が欲しい」と歌う彼らはパンクスそのものです

「パンク・ロック」とは反体制的、または左翼的なメッセージを歌う音楽のことを指していました。彼らの音楽を聴くと、そこには社会への不満や周囲への怒り、自由、欲望が込められている。なおかつ、かっこいい音楽を鳴らしている

泣けて、笑える、最高の音楽ドキュメンタリー。バンドが好きなひとにぜひオススメしたい作品です。

伝説のバンドをドキュメントで見る!『ミッシェル・ガン・エレファント “THEE MOVIE” -LAST HEAVEN 031011-』

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THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(ミッシェル・ガン・エレファント)。メンバーはチバユウスケ、アベフトシ、ウエノコウジ、クハラカズユキ。1991年に結成された唯一無二のロックバンド。2003年10月11日のラストライブとその舞台裏を追った、ロックンロールを転がし続けたミッシェルのドキュメンタリー作品。

日本のバンドシーンが好きな方であれば、彼らの名前を知らないひとはいないのではないでしょうか。名前を知らずとも、某音楽番組に出演した際にドタキャンしたミュージシャンのかわりに演奏したのは有名なので、見たことがあるひとはいるかとおもいます。

彼らはその硬派な佇まいと鳴らされる無骨なロックンロールで多くの音楽ファンを魅了しました。音楽に関しては読むよりも聴いてもらうのが一番なので、こちらを。

ドキュメンタリー作品というよりも、ライブ映像作品としての趣きが強い映画です。また、この作品は急逝したギタリストのアベフトシに捧げたとも言えますが、あまり感傷的な構成ではなく、ただただ彼らの生き様を見せているような内容です。

しかし、それが不器用で彼ららしくもある。近ごろではこんな音楽を鳴らすバンドは少ないので「世界の終わり」と聞いたときに、SEKAI NO OWARIが浮かぶ世代に、見て、聴いていただきたい作品。もちろん、リアルタイムで彼らを知る世代の方もぜひ。

知られざるコーヒー農家の実情に迫るドキュメンタリー『おいしいコーヒーの真実』

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コーヒーは世界で最も日常的な飲み物であり、全世界での1日あたりの消費量は約20億杯と言われています。

コーヒー市場は大手企業が支配し、いまでは石油に次ぐ取引規模を誇る国際商品となっている。しかし、コーヒー農家に支払われる代価は低く、多くの農家が困窮し、農園を手放さなくてはならないという実情。このパラドックスがもっとも現れているエチオピアにスポットを当てたドキュメンタリー作品です。

「サードウェーブコーヒー」などの言葉を耳にするようになり、コーヒーカルチャーに流行の兆しが見える昨今ですが、この『おいしいコーヒーの真実』を見れば、それとは異なる視点からコーヒーのことを考えられるかもしれません。

劇中にも登場するスターバックスでは300円程度で手軽にコーヒーが飲めます。きっと、多くのひとが利用したことがあるでしょう。

しかし、エチオピアで豆を選別する仕事の日給はその金額を下回ります。コーヒーよりも「チャット」という麻薬の原料となる植物のほうが高く売れるので、それを育てているひとも増えている。彼らは「生活のためだから仕方がない」と言います。

「最高のコーヒー」と言われている豆も育てているにもかかわらず、最低限の生活も営めない現実。農家のひとたちは「車や電化製品を買うためじゃない。安全な飲み水と子どもたちに教育を受けさせるだけのお金が稼ぎたいんだ」と言い、その言葉には胸を打たれます。

コーヒーとは日常的な飲み物であり、それゆえに深く気に留めずに飲んでいるというひとも多いかとおもいます。そんなコーヒー好きのひとにオススメしたい作品です。

また、同じくコーヒーを題材とした『ア・フィルム・アバウトコーヒー』というドキュメンタリー映画も12月に都内で公開の予定です。『おいしいコーヒーの真実』と合わせ、こちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。

グローバル経済の引き起こす現実を見る『ダーウィンの悪夢』

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ビクトリア湖に繁殖した巨大魚「ナイルパーチ」を通して、タンザニアからヨーロッパ、日本への加工品輸出を軸に、1日1ドル以下で生活する人間たちのグローバル経済が引き起こす現実を描いたドキュメンタリー作品。この作品も前述の『パンク・シンドローム』と同様に山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映された作品です。

「飛行機で欧州からアフリカへ武器を輸出し、その飛行機が欧州へ帰るときにナイルパーチの加工品を積み込んでいる」というパイロットの証言により、欧州とアフリカの経済的な関係が明らかになり、そこから派生した様々な問題が浮き彫りになります。

ナイルパーチという外来魚の繁殖により壊される生態系。それらを非衛生的な状態で食す人々、そのなかで育つ子どもたち、売春、エイズ。食べ物を奪い合い、殴り合いの喧嘩が起こるようなタンザニアの現実を映し出しています。

ちなみに、わたしはナイルパーチという魚のことを知らなかったのですが、日本にも輸出されていると知り驚きました。ナイルパーチの体長は2mを超え、体重は100kgにもなるといいます。日本にいる「スズキ」という魚に似ているということもあり、ファミリーレストランや弁当の材料として使われているそうです。

そういった背景を知ると、わたしたちの生活に無関係とは言えない映画と言えるでしょう

世界中の食通をうならせる鮨屋を外国人監督が映し出す『二郎は鮨の夢を見る』

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東京の銀座の地下にあるたった10席ほどの鮨屋「すきやばし次郎」の店主、小野二郎。87歳の現在でも職と技に対するこだわりを持つ彼が握る鮨はミシュランガイド東京で最高の三つ星を獲得し、世界中の食通をうならせた。そんな二郎の鮨に魅了されたアメリカ人監督のデヴィッド・ゲルブにより制作された異色のドキュメンタリー作品。

この作品で映し出されるのは、店主の二郎と師弟でもあるふたりの息子へのインタビューが中心です。そこから読み取れるのは、貪欲においしいものを追求する二郎の向上心と仕事に対する誠実な姿勢。その姿を目の当たりにすると、背筋をピンと伸ばさなくてはと思わせられます。

また、彼らの他にも「すきやばし次郎」の従業員、築地市場の仲買人など、多くのプロフェッショナルの仕事を丁寧に描いており、どんな職種でも丹精を込めた仕事というものには魅力を感じます。

劇中の音楽といい、鮨をオーケストラに例えることといい、音楽を絡めることが不思議だったのですが、監督のデヴィッド・ゲルブの父は音楽プロデューサーであり、メトロポリタン歌劇場総裁でもある、ピーター・ゲルブなのだそうです。

インタビューの合間に挿入されるリズミカルな調理のシーンは映像としても楽しめる、芸術的なものに仕上がっていますので、そちらにも注目していただきたい作品です

ありのままを映し出す

ドキュメンタリー映画とは、映画でありつつも、そこに映し出されるものはフィクションではないので、わたしたちに突きつけられるものがあります。

『二郎は鮨の夢を見る』のようにプロフェッショナルの仕事を描いた作品を見れば、その仕事ぶりに尊敬の念を抱きますし、『おいしいコーヒーの真実』や『ダーウィンの悪夢』のような社会派の作品を見れば、国は違えどわたしたちと無関係とは到底おもえない。

「事実は小説よりも奇なり」とは言いますが、ドキュメンタリー映画の魅力とはありのままを圧倒的に描くということにあるのではないでしょうか。もしも、気になった作品があれば、ぜひこの機会に見てみてください。

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  • nonoka
    3.0
    これ本当にドキュメンタリーなのね!ってくらい(映像はドキュメンタリーなんだけど)映画っぽく出来上がってる感じだった。 あんなにいろいろな瞬間どうやって撮っているんだろう?ずーっと密着してるのかな? パンクバンド、だけどメンバー全員知的障害者。まとまらないしうまく行かないことが多い4人だけど愛おしく思えてくる。 歌と演奏はめっちゃ上手いわけではないけど、なんか聴いてしまう。 ライブ映像なんかも流れてたけど、ちょーパンクな若者から障害の方まで幅広くの人たちに愛されていたバンド。素敵でした。
  • 山本一仁
    3.7
    トニが一番かわいい
  • ばーとん
    1.0
    どのような美辞麗句で取り繕おうがこれは形を変えて現代に蘇ったフリークショー。けれど肝心の芸の中身がつまらない。パンクってのを差し引いても下手糞過ぎるし曲がダサい。音楽映画であるからには音楽がカッコよくないと、彼らが何者だろうと興味は湧かないね。 メンバーの一人が後に政治に関わっていったように、彼らはバンドをやってるように見えて、実は政治活動をやっていたのだとすれば、一部の抜け目のない人間たちにとって何らかの利用価値があったのかも知れない。
  • hinano
    3.6
    フィンランド発、メンバー4人の全員が知的障害者であるパンクバンド『ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト』を追ったドキュメンタリー。 彼らの等身大かつストレートな歌詞やサウンドにはガツンとやられました、、! メンバーもお客さんもロックを謳歌している姿が良い◎ バンド活動だけじゃなく日常生活の様子も多く映されていて、ちょっぴり笑えるシーンがあったのも印象的でした。
「パンク・シンドローム」
のレビュー(374件)