『ムード・インディゴ うたかたの日々』(2013)、『イヴ・サンローラン』(2014)など数々の話題作に出演する俳優・シャルロット・ル・ボンの長編監督デビュー作『ファルコン・レイク』が、8月25日(金)より渋谷シネクイントほかで全国公開される。

第75回カンヌ国際映画祭監督週間正式出品、第58回シカゴ国際映画祭ゴールド・ヒューゴ(新人監督賞)受賞など、世界の映画祭を席巻している今作の魅力を深堀すべく、FILMAGAではシャルロット・ル・ボン監督にインタビューを決行。
自身のキャリアから制作の裏側について、さらには、今作のキャラクター形成に影響を与えた日本映画の話までを語ってくれた。
──映画監督としてのキャリアをスタートしたきっかけは?

私は元々美術を勉強していて、グラフィックデザイナーか画家になろうと思っていたのだけど、パリに移住した後に俳優として活動するようになったの。両親が俳優だったのでどういう仕事なのかはわかっていたし、沢山の映画に関わる機会はあったけど、ある日、自分が創作活動から離れていることに気づいて、自分の物語を作らなければならないと強く思い、監督や脚本家として活動することを決めたの。
──本作は、バスティアン・ヴィヴェスのバンド・デシネ『年上のひと』をもとにしていますが、この作品を知ったきっかけを教えてください。
私の友人である俳優、プロデューサーのジャリル・レスペールが原作本をプレゼントしてくれたの。「この作品は君にぴったりだと思うし、もし気に入ったら、君の初長編映画として共同製作を手伝うよ」と。まさに彼の言う通りだった。非常に繊細でさりげない物語で、映画化へのポテンシャルが大いにあることは明らかだったの。でも最初は原作者本人でさえ、映画化する提案に驚いていたわ。彼はこの物語は、映像で表現できないと思っていたから。私にとっての真の課題は、物語を自分のものにするために個人的な作品にすることだった。
脚本家のフランソワ・ショケとの共同作業のおかげで、物語に満足のいく新たなアイデンティティを与えることに成功したわ。この作品は原作を大まかに脚色したものなの。
── 原作の舞台は海沿いのブルターニュですが、映画ではカナダ・ケベック州の湖畔が舞台となっていますね。

私は、子供の頃からモントリオールの北西にあるローランティッド地域の風景や地域をよく知っているの。舞台として選んだのには、私自身が安心するという理由だけでなく、フランス人の主人公に試練を与えるためにも、慣れ親しんだロケーションが必要だったから。主人公が異質で慣れない場所に立ち向かい、孤立感をつのらせ、真の感情的な目覚めが起こるというアイデアが気に入ったの。ぽつんと建った木造住宅や、湖、森のような場所でね。このシンプルな物語構想は、ティーンエイジャーのクロエとバスティアンを含む、ロマンチックな休暇の真っ只中にいる数名の旅行客によって進められていくの。
── 撮影時期を真夏にしたのは何故ですか?
ケベック州、特にローランティッド地域の夏は、魔法がかったみたいな雰囲気なの。何ヶ月もの凍えるような冬の寒さの後に訪れる夏の暑さは、精神と肉体を解き放ち、自然に雄大な美しさをもたらす。私たちはそんな夏を思う存分楽しむけれど、長続きしないという感覚も伴うの。だって秋が待ち伏せしていて、過酷な寒さはいずれ戻ってくるわけだから。私は、こうした自然、そしてそのありったけの美しさは、同時に悩みにもなり得るということを表現したかった。
湖の水は素晴らしいけど、それは暗く、時に生温かい。私はいつも湖で泳ぐことは、楽しさと恐怖の両方の体験だと思っていたの。水の中ではしゃぐ喜びは、いつもうっすらと感じる不安と共にある。
湖の一番底に何があるのか、わかることはない。そんな気持ちは耐えがたい不安にもなり得る。「デジャヴ」という忌まわしい感覚に陥る度に感じる驚きなんだと思う。これが『ファルコン・レイク』の主題なの。底で何が起こっているのかわからないけど、体験したことがあるような感覚を持つのよ。
──作中で日本のアニメのようなものを鑑賞するシーンや、スタジオ・ジブリのポスターなどが登場しますが、日本のアニメーション作品はお好きですか?

宮崎駿監督の新作『君たちはどう生きるか』(2023)を観ることが待ち遠しくてたまらない。私のいる国でも早く公開して欲しいと待ち望んでいます。私は宮崎駿監督の大ファンで、『千と千尋の神隠し』(2001)は本作のクロエの幽霊への憧れにも大きな影響を与えているの。
── バスティアンとクロエの複雑な人物設定は、どのように創り出したのですか?

クロエはバスティアンの心を捉えるために、自分の美しさと横柄さだけでなく、内面の奇妙さと闇も駆使しなければならない。彼女は、家族や友人といても自分の居場所がないと感じているのよ。
彼女が悲劇的な物語や幽霊に抱く強い関心は、彼女自身を孤立させるものであり、密かに感じている孤独を表現する一つの要素になっているの。
一方、14歳を迎える少年のバスティアンは、子供から大人になり始める未知の領域の中にいる。この人生の遊び場ともいえる中間地点で、クロエとバスティアンは出会い、お互いを理解し、愛し合うの。
── バスティアンとクロエを演じる俳優はどのように選んだのですか?

私は本当に彼らのことが大好きだけど、単に彼らが好きというのは理由にならないわね。ジョゼフ・アンジェルに関しては、ルイ・ガレル監督の『パリの恋人たち』に出演しているのを観たの。当時の彼はとても若く、10歳くらいだった。無名の子役だった彼を発見した後、彼の両親に1ヶ月間カナダで私と一緒に過ごさせて欲しいと説得しようと思った。納得してもらうまでは時間がかかったけど、偶然にも、ジョゼフは撮影中に14歳になっていたの。
14歳という年齢は、行動と態度が矛盾するどころか、反発し始める、ためらいがちな時期の真っ只中。ジョゼフは体と感性を全て出し切って、このキャラクターを演じている。ティーンエイジャーとしての美しさに成熟した心の知能を吹き込んでいるわ。クロエ役を探すのにはもっと時間がかかったわ。サラ・モンプチは、400人以上の応募があったオンラインキャスティングに参加していたの。私はすぐに彼女が理想的なクロエになるとわかった。繕った感じもなく、ある種の無頓着さがあって、自分の美しさに全く気づいていないの。彼女はキャスティング時、18歳だったにもかかわらず、驚くような知恵と知性を持ち合わせていると感じたわ。その後、原作同名のセバスティアン・ピロット監督の映画「Maria Chapdelaine(原題)」で、彼女がマリア・シャプドレーヌ役を演じていたことを知ったわ。
──『 ファルコン・レイク』を表す言葉を教えてください。

私が大好きな言葉の1つ「憂鬱」ね。私が思春期の絶頂期で経験して以来、未だ纏わりつくこの憂鬱感は、私にとって安全な避難所であり、背中を押してくれるものでもあるの。憂鬱な気分は飼いならして自分の味方にしないと。悲しみに対抗するための一生の友達なのだから。
──監督された短編映画『ジュディット・ホテル』と『ファルコン・レイク』の共通点として、どちらも監督自身の死生観が反映されているように感じました。今後も映画を制作するにあたり、それは重要なテーマとして紡がれていくのでしょうか?
生と死は全ての基礎であり、私たちはそれに縛られていると感じているの。私はそれらの間にある世界、つまり光と闇の間にある空間を探求し、ある種の心地よい並行空間を行き来することが自分の創作において今後も重要になると思っているわ。
──Filmarksには映画好きのユーザーが集まるので、日本の映画好きにおすすめの作品があれば教えてください。

最近で特に良かったのはエスキル・フォクト監督の『イノセンツ』。
──今後はどのような作品を制作していきたいですか?または、待機作など予定はありますか?

もっとたくさんの物語を作りたいとは思っているのだけど、次のプロジェクトはまだ決まっていません。急いで創作を進めたくないので、なぜ映画を撮りたいかを今一度自分自身に問いかけてから実行していきたいと思っているわ。
『ファルコン・レイク』あらすじ
もうすぐ14歳になる少年バスティアンは、母の友人ルイーズのもとでひと夏を過ごすため、家族でフランスからカナダ・ケベックの湖畔にあるコテージを訪れる。森、湖、深い自然に囲まれて過ごす数日間。メランコリックで大人びた雰囲気の3つ年上のルイーズの娘・クロエに惹かれていくバスティアンは、彼女を振り向かせるため幽霊が出るという湖へ泳ぎに行くが……。
原作:バスティアン・ヴィヴェス「年上のひと」(リイド社刊)
監督・脚本:シャルロット・ル・ボン
出演:ジョゼフ・アンジェル、サラ・モンプチ、モニア・ショクリ
提供:SUNDAE
配給:パルコ
公式:sundae-films.com/falcon-lake
(C)2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
※2023年8月19日時点での情報です。

