斎藤工に「みんなが恋に落ちた」 エリック・クー監督最新作『家族のレシピ』【対談インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

斎藤工が、シンガポール・日本・フランスの合作映画『家族のレシピ』に主演した。世界を股にかけるエリック・クー監督と「どうしても組みたかった」というパッションのもと作られた本作は、原題『Ramen Teh』が示す、日本のソウルフードであるラーメンと、シンガポールのそれであるバクテー(骨付き豚肉の煮込みスープ)のコラボレート料理の如く、気鋭の意欲作となった。

家族のレシピ

物語は、群馬県高崎市でラーメン屋を営む真人(斎藤)が、父の死をきっかけに、両親の歩みをたどるべく、母の故郷・シンガポールに単身で向かうところから始まる。現地にて、父と母の切なくも許されぬ愛を知り、真人はバクテーと、ラーメンを融合させる料理作りに精を出し、自身の心も洗われていく。

2016年に、シンガポールと日本の外交関係樹立50周年を迎えたこときっかけに、両国を題材に企画された『家族のレシピ』。FILMAGAでは、プロモーションのために来日したクー監督と斎藤に顔を合わせてもらい、「出会うべくして出会った」と語るふたりの関係について、運命について、語ってもらった。

家族のレシピ

――しみじみと心に残る映画でした。監督は、真人という重要な役をどういった経緯で斎藤さんにオファーしたのですか?

監督 数年前、タクミとスカイプでいろいろ話をさせてもらう機会があったんだ。短い時間だったけれど、話をしていて、タクミの持っている繊細さに胸を打たれた。瞬時に「この人しかいない、本当にぴったりだ」と思ったので、出演をお願いしたんだ。この映画は、すべて彼の肩にかかっているんだよ。

斎藤 すべて……(笑)。そもそも、僕が映画ファンとして、エリックの作品を初めて観たのは『TATSUMI マンガに革命を起こした男』でした。当時、東京国際映画祭で公式上映されたので、エリックが来日していたんです。こんなことは滅多にないから、関係者に頼んで紹介していただきました。エリックはシンガポールだけでなく、ほかのアジア国やカンヌ、ベルリンなど、世界の様々な地で闘っていたので、映画人としてすごく尊敬していました。

その後、エリックが「日本人のキャストを探している」と伺ったので、つたない英語ではありますが、「何が何でも出たい!」と思って、スカイプオーディションのような形でお話をさせていただいたんです。

家族のレシピ

監督 光栄だよ。私はタクミの『blank13』(※齊藤工監督作)を観ていたので、彼の監督としての力をも信頼していた。今作では最初に英語の脚本ができたので、日本語に直す段階で、細かなニュアンスが落ちてしまう懸念もあったんだけど、タクミなら言葉の壁を超えても大丈夫だと思えたよ。真人を自由に、生き生きと演じてもらえた。だから私の監督としての仕事は楽だったね。通常どのシーンを撮るにもテイクを重ねるんだけど、彼の場合はほとんど1テイクでOKだったから、とてもスムーズだったよ。

――最初のテイクだけでOKだったんですか?

斎藤 エリックは最初のテイクからカメラを回してくれていたんです。そこで、ドキュメンタリーの瞬間がたくさん生まれたのかな、と思います。もし……「もう1テイク」と言われていたら、僕は同じようにはできなかったシーンばかりかもしれない。人間の動物的な心の動きや、繊細な部分だったり、皮膚反応のような反射的なものを、しっかりと僕らの作為の中ではなく、自由にはばたかせてくださった。そこでも、エリックが世界的な映画監督であるゆえんを感じました。だから……、僕は「映画の撮影をしていた」という感覚はないんです。そこに本当に佇んでいた、というか、僕の感情がそのままそこに、味つけをすることなく居てもいいんだな、と思わせてくれて。本当に、とても楽しかったです。

家族のレシピ

――日本の現場とは、かなり違いますか?

斎藤 日本の現場だと、どこか慣れていってしまう自分がいるんです。そうではなく、僕自身シンガポールは初めてだったので、その(主人公と重なる)状態を使いました。そういう環境を、エリックが作ってくれました。実際、エリックとのコミュニケーションは言葉を超えていたな、と今でも思います。劇中の真人に近くて、本当にテレパシーじゃないけれど、それを補うように言葉があるだけ。

監督 うん、うん! 本当に、そうだね。

家族のレシピ

斎藤 真人と同じように、人と人とが何でつながっていくかという根幹の部分が、すでにエリックと自分の中にはあったのかなと思います。

――監督も、斎藤さんを演出している中で何か感じるところがあったんですね?

監督 観ていただければわかると思うけど、この映画は会話がメインではないんだ。心の交流をもって、この作品の主題を伝えたかった。特に最後のシーンでは……タクミをカメラを追いかけながら、自然と涙が流れていたよ。自分の作品を撮っているときに泣いたのは初めてだった。それほど素晴らしかった。

斎藤 そのシーンは、日本での撮影を経て、シンガポールで撮影をしていたエリックと彼のチームと過ごした時間があったからこそできたシーンでした。ほかのどこでもできない、演技をしない演技というか……そうやって導いてくれた、引き出してくれたのは、エリックと彼のスタッフだったからです。

――本作には、シンガポールで真人を案内するフードブロガー役で、松田聖子さんが出演していますよね。「ザ・松田聖子」という役ではなく、いち女優として成立させていて、日本人の監? ?ではできなかった手腕ではないかと思いました。成功の鍵はどこにありましたか?

監督 そもそも僕は、10代の頃から聖子さんの大ファンだったんだ! レコードも持っていたし、最初にお会いしたときは、すごく緊張したよ。いざスカイプでタクミと聖子さんとワークショップ(読み合わせ)をしたら……もう……彼女の声に本当に魅せられてしまった。素晴らしい声をお持ちだよね。ただ、シンガポールに撮影に来ていただいたときは、当初は不安だったけれど。というのも、まったく贅沢な環境ではなかったから。日本とは全然違う天候で、とにかく暑かったし、素敵なお弁当もないし。

斎藤 (笑)。

監督 けれど、聖子さんは何ひとつ文句を言わず、「全然かまわないですよ」と最後の最後まで、撮影の現場ではプロフェッショナルに、女優さんとして、いてくださった。またぜひ一緒にお仕事がしたいと思っているよ。

家族のレシピ

斎藤 ……補足すると、聖子さんの撮影最終日は僕も一緒だったんです。終わった瞬間に、スタッフが自宅から持ってきた聖子さんのカセット、CDを手に並んでいました。聖子さんがそのひとつずつにサインをしていて、みんな、撮影中ずっと我慢していたんだなって(笑)。聖子さんは本当に丁寧で、優しく、包み込むような対応をされていて、美しい景色でした。聖子さんを通して音楽でつながっているんだな、と実感した瞬間でした。

――松田さんと共演という経験は、斎藤さんにとってもなかなかないものでは?

斎藤 そうですね。今回エリックの作品に「ぜひ出演したい」と聖子さん側から発せられたと伺いました。聖子さんのアンテナの張り方、行動力、未来の見方、海外での活動、クリエイターに対して敏感なところも含めて、本当に素晴らしい方だと思います。

僕らからしたら、あまりにも伝説のミューズなので、「松田聖子」という巨大な看板を意識してしまいそうになりますが、エリックの聖子さんのポジショニングは実に見事でした。僕も脚本読みで聖子さんの第一声を聞いたとき、真人が信頼できる相手として、氷がすべて溶けていくかのように「……ゆだねます!」という反応を自分自身がしていました。日本の監督ではできなかったと思うので、エリックは本当に天才だと思います。

『家族のレシピ』

――実際、真人と美樹(松田)のシーンは、あまりに自然で台本がないようにすら感じました。

斎藤 ベースは台本のままなんですけど、僕が結構イレギュラーなことを言ったりもしていて(笑)。食べるものに対してのリアクションは、ほぼリアルです。本当においしいものを、「おいしい!!」とあふれるように言葉が出ましたし。いくつか台本と違うものを投げてしまったんですけど、聖子さんはすべて受け止めてくださって、軌道修正もしていただきました。僕ひとりだと、たぶん揺らぎすぎていたと思うんですが、聖子さんが正してくれたので、聖子さんの大きな器の中にいたな、と。役柄そのものでした。

――監督が今後、斎藤さんに期待していることはありますか?

監督 期待も何も、必ず世界で成功すると思っているよ! タクミは役者としても、監督としても才能を持っているから、ひとりの芸術家として僕は見ているんだ。だから、積極的にタクミの関わっている映画作りにプロデュース面でも支援させてもらっているよ。あと、何よりもタクミは魂が優しい……。シンガポールのスタッフは全員、彼の持つ人間性に魅了されてしまった。みんなが恋に落ちた。彼のことを家族だと思っているし、タクミとの取り組みは、魂の旅だったと感じているよ。

斎藤 ありがとうございます。僕なんかは変則的に映画を作る側面を手にした人間なので、導いて下さる方や、出会いがすべてなんです。エリックは、そういう意味では俳優としてもフィルムメーカーとしても、僕の扉を開いてくれた人。僕はエリックに出会ったことで、アジアのクリエイターは映画を作るにあたって、自分の足元を見つめ直さないといけないというか、すでにあるものの威力をもっと見つめ直さないといけないな、と思いました。海外に対する憧れみたいなものから、自分にないものを足してしまいがちですけど、そうではなく、自分が歩んできた時間はどのみち作品自体に宿るものなので、よくも悪くも自分の過ごしてきた時間、場所こそが、ほかの誰にもない「オリジナルなんだ」と認識できました。

家族のレシピ

斎藤 日本で俳優をしていてなかなか見られない景色をエリックに見せてもらいましたし、闘い方を習っているところです。とっても影響を受けています。ここで出会うべくして出会った、家族のような人ですし、すべてが必然でつながって、奇跡的に形になったと思っています。(取材・文=赤山恭子、撮影=林孝典)

映画『家族のレシピ』は2019年3月9日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー。

家族のレシピ

監督:エリック・クー
配給:エレファントハウス
公式サイト:https://www.ramenteh.com/
(C)Zhao Wei Films/Wild Orange Artists

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斎藤工

応募締切 2019年3月21日(木)23:59までのご応募分有効

【応募資格】
・Filmarksの会員で日本在住の方

【応募方法および当選者の発表】
・応募フォームに必要事項をご記入の上ご応募ください
・当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます

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    ↓のレビューは、以前のアカウントにて鑑賞直後に投稿したレビューになります。 ☆☆☆★★ これぞ飯テロ映画。美味しそうな料理が次から次へと登場します。お腹が減っている時に観たら苛々する事は間違い無し。 母親の味が忘れられないのが斎藤工。両親の出会いと共に、自分のルーツを辿る旅へ。 忌まわしい大戦も遥か昔に…。現在では、日本文化や和食を始めとする日本ブームがアジア諸国で起きている。 でも…。 ある程度の年齢の人には、日本の植民地時代の辛い思い出を忘れない世代は確実に居る。 それでも、美味しい料理を食べてしまうと。顔はにやけてしまうし、ついついサムアップもしてしまうってもんだ。 …って事で。多少は、映画全体を通して。都合が良すぎる展開等、ちょっとだけ気になるところでは有りましたが。それほどの大きな問題でも無い…ってところでしようか。 斎藤工と松田聖子の、2人の共演場面での台詞回しですが。観ていて自然に感じたのが、ちょっとした驚きでした。 監督が外国人の人だけに。ある程度の打ち合わせから、2人の自然な流れに任せたアドリブが入っていた様に見受けられたのですが、どうなのでしょう。 ところで、気になった点が2つ。 斎藤工は産まれてから10歳までシンガポールに住んでいた…って設定だった。 流石に子供時代に住んでいれば、言葉もある程度は喋れるだろうし。土地勘も有りそうな気もするが(¬_¬) もう一つ。彼女らしき女性を高崎に置いたまま、シンガポールへと旅立ったみたいですが。結局、彼女はどうなったのでしょうか? もしも捨てられてしまったのならば、凄く不憫(。-_-。) 2019年3月18日 丸の内TOEI 2
  • ぽぽこはるん
    3
    オープニングのラーメンに かぶせて原題が出たとき ん?となって、見すすめると あ〜なるほど!となるので 最初に原題をしっかり抑えて おいた方が良いかな。 松田聖子さんと斎藤工さんの 食事シーンはアドリブ? 自然なやりとりがとても 良かったです。
  • Hookasunity16
    2.8
    非常に繊細で丁寧でホロリと来るような作り。 セリフや表情がとても自然。 いつも力が入っているような斎藤工もとても自然でいい。 シンガポール料理もシンガポール風ラーメンもとても美味しそう。 個人的にはなにか始まりそうなラストカットはいらなかったかも。
  • かお0307
    3.5
    近年珍しく、清潔感溢れる斎藤工氏。 台湾飯、一度は本格的な物を頂きたい!
  • tomotta
    4.3
    過去に録画したものをやっと見た。 美味しそうなシンガポール料理の数々。 コロナで気軽に海外に行けなくなったけどこういう映像を見ると脳内に蘇る屋台やお店の雰囲気や味。今は恋しい。 ストーリーとしては単純だけど母の味と思い出や記憶は母を亡くした私にとっては本当に理解でき、涙溢れました。 母の味を作りたい。それを食べることで母の存在が生き残る。決して料理が上手なわけでもないですが残していきたい思いが自分の中で生まれたんです。 そして斎藤工と松田聖子。 今回不思議だったのはそれぞれが見るからに斎藤工と松田聖子なんだけどストーリーにはまっていてリアルな人間だった。 聖子ちゃん実は演技が上手いのだろうか? 聖子ちゃんの家での料理のシーンはまた別の意味で苦しく思えてしまった😿
家族のレシピ
のレビュー(580件)