『ビリーブ 未来への大逆転』フェリシティ・ジョーンズ「物の見方が大きく変わった」【来日インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

フェリシティ・ジョーンズは公私ともに充実している――インタビュー中の弾んだトーク、何度か見せた可憐な笑顔からは、輝きがこぼれ出すようだった。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』でのひたむきなソルジャー、『博士と彼女のセオリー』のタフで献身的な妻。どんな役でも、そこはかとなく品が漂うのは、本人の資質に拠るところなのだろう。最新作『ビリーブ 未来への大逆転』でも、“男勝り”とは少し異なる、意志が強く、聡明な女性を説得力を持って演じた。

ビリーブ

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名門ハーバード法科大学院を首席で卒業したルース・ギンズバーグは、弁護士の夫マーティと娘に囲まれ幸せそうに見えたが、心中ではたぎっていた。弁護士として働きたくても、約60年前のアメリカでは、女であるという理由で法律事務所に雇ってもらえない。諦められないルースは、マーティから見せられたある訴訟の記録をヒントに、弁護に乗り出そうとする。

1975年、「男女差別」の訴訟を最高裁に持ち込み、歴史を変えることになったというドラマティックな実話を描いた本作。モデルとなったルース本人は86歳の今もなお、最高裁判事を務めているというからたまげる。来日したフェリシティに、実在する歴史的人物を演じる上での苦悩、理想の夫婦関係、共演したアーミー・ハマーとの思い出まで、語ってもらった。

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――働く女性の背中を強く押してくれるような、勇気をもらえる映画でした。ルースさんを演じる上で、何をポイントにしましたか?

フェリシティ ルースさんを演じるということは、アイコンを演じるということになるわけだから、大きな責任を伴うし、大変な努力を必要とすることを最初からわかっていたので、決して軽い気持ちで受けた役じゃないの。作品に入る前、何カ月も前から準備期間を取って、いろいろな側面からアプローチをしたわ。ルースさんには多くの自著もあるので、彼女の書いたものをたくさん読むのもリサーチの一部だった。ルースさんは、本当に素晴らしい物書きでもあるの……! 言語というものが、人の意見をシフトさせるために、どのくらい力を持っているものかをよくわかっていらっしゃるからこそ、本当に精査して言葉を選んでいらっしゃる方。本を読んでいるだけでも、彼女のすごさをすごく感じたわ。

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――ルースさんはご健在どころか、今でもバリバリ現役の方なので、やりにくさみたいなものも同時にありましたか?

フェリシティ ……もちろん(笑)。だけれど、何よりも私の一番のゴールは、彼女が『ビリーブ』を観たときに気に入ってくださること、そして「正しく描いてくれているわ!」と感じていただけることだった。今回、脚本は甥のダニエルさんが執筆していらっしゃるんだけど、何稿も書いた脚本をルースさんは全部目を通していらして、コメントを出しているの。自分のエゴからくる直しではなく、すべて法律的に正確な表現かどうか、ということだったそうなの。

――ルースさんの人物像に触れることが、役に影響したこともありましたか?

フェリシティ 彼女の決意の強さ、何かにコミットしたときのブレなさに、私は本当に感動して、演技の上で取り入れたいと思ったわ。すごく共感したのは、ひとりの人間として、自分の仕事や、やることを自分のやり方で成功させたいと思うところね。しかも周りが環境的にやらせてくれなくても、自分のやり方で手にすることは、すごく共感することができたのよね。

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――彼女には助け合える素敵な夫・マーティさんがいますよね。夫婦の絆や関係性について、どう思いましたか?

フェリシティ 実はお二人の記録映像が残っていて、観ているだけでも、本当にどれだけ愛し合っていたのかがわかるくらいで……! 私は、この物語はラブストーリーでもあると思っているわ。本当にお互いを心から愛しく思っていたし、ユーモアのセンスも同じものを持っていたし、とてもとても聡明であるし、理想主義的なところもあった二人よね。彼女たちが「こういうふうに行動しなければいけない」と周りに決めさせなかったことが、絆の大きな鍵だったと思う。自分たちのやり方で生きたという意味で、パイオニアでもあったのよね。

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フェリシティ ……けれど悲しいことに、この映画を観て、「いや、こんな二人って現実的じゃないよね」、「こんなカップルいないよね」と言う人もいて、「なんて悲しいことを言うんだろう」と思ったわ……。だって、むしろ健康的だし、こうあるべきだと思うから、決して私は手に届かない夫婦像だとは思わないのよ。

――マーティさんを演じたアーミー・ハマーさんとの共演に関しては、いかがでしたか?

フェリシティ アーミーは、肩に全然力が入っていない自然体な方で、人柄も素敵で、「イージーゴーイング」なのよ! 現場でも一緒に助け合いながら、自然に演じることができた。この映画のカップルのように、一緒に作り上げていくことができたのは、アーミーのおかげだと思う。

――ルースのような強い信念を持った女性を演じて、ご自身が影響を受けたり、変わったことはありますか?

フェリシティ 間違いなく、自分のものの見方は彼女と出会ったことで変わったわ。自信を得ることができたの。自分が信じていることを、そのまま信じていいんだ、と思えるようになった。例えば、そうねえ……私は演説がすごく苦手なの(笑)。すごく緊張してしまうんだけど、そういうときに、例えばルースのことを考える。彼女がいかに自分のやり方で、どんな状況でも、ただただ歩を進めていった、前に進んでいったかを思い出すと、自分も「よし!」という気になれるの!

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――効果絶大ですね。では、『ビリーブ』はフェリシティさんのキャリアにおいて、どのような作品になりそうでしょうか?

フェリシティ そうねえ……数年経って振り返らないと、どんな意味合いを持つ作品になったかは、わからないかもしれないわね……。例えば、日本語のポスターがそこにあるでしょう?(※部屋の中に飾ってある)それだけでも感動するの。ルースさんの物語が、こうやってグローバルに届けられること自体、すごく特別なことだし。公開されて、果たしてどんなインパクトを残すかはわからないけれども、少なくとも観客の方には、ルースさんの物語から希望というものを得ていただきたいなと思う。

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フェリシティ 何と言っても、私たちの住む今の時代は、本当に奇妙なことになってしまっているでしょう? 不安も多ければ、恐怖心もある。大きな変化に、私たちはまさに直面しているところで、変化は人に恐怖を抱かせるものでもあるから。そんな中でも、私たち皆が彼女から希望を得られれば、と願うわ。(取材・文=赤山恭子)

映画『ビリーブ 未来への大逆転』は、2019年3月22日(金)より全国ロードショー。

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監督:ミミ・レダー
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/believe/
(C)2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC.

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※2022年5月30日時点のVOD配信情報です。

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  • eminchi
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    2019年3月30日 日比谷シャンテ 別館シアター13 I-4
  • NAO141
    4.2
    〈RBG〉 名前の頭文字で呼ばれ、米国で多くの方から尊敬された女性最高裁判事がいる。 彼女の名前はルース・ベイダー・ギンズバーグ。1970年代、まだ男性優位だった時代から男女平等を目指して闘い続けた弁護士であり、その後最高裁判事にまでなり、87歳で亡くなるまで現役で活躍し続けた女性である。名前の頭文字で呼ばれる米国の有名な人物といえば〈JFK(ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ)〉第35代大統領が思い浮かぶが、彼女も米国では親しみを込めて頭文字で呼ばれ、亡くなった今も絶大な人気を誇る。本作はそんな〈RBG〉が男女平等裁判で史上初の勝利を勝ち取るまでを描くが、彼女がどんな家庭環境で育ち、どんな夫婦生活だったのかも描かれている点がポイント。特に夫マーティンとの協力関係は素晴らしく、彼女がここまで信念を持って活動出来たのは、この夫の支えがあったからなんだろうな、と思えてくる。素晴らしい関係性だね。 本作、というか彼女の活躍を通して感じるのは、彼女の闘いは〈女性のため〉という以上に〈多様性を認める社会の実現のため〉であったのだという点。物語の冒頭は彼女がハーバード大学の階段を上がるシーンから始まる。そしてラストは法廷への階段を上がるシーンで終わる(ここで本人が登場するのだが、それがまた秀逸だなぁ)。このシーンは対になっているわけだが、彼女が〈前へ前へ〉と常に歩み続けてきた姿を象徴するシーンだと思う。 法律を遵守することは正しい事ではあると思うが、50年・100年という単位で捉えれば現代社会にそぐわない部分も出てくる。〈変化すべき時〉というものは訪れるもので、その時に〈前へ進み続けるか〉〈文化・伝統として変化を拒むか〉。我々が今当たり前だと思っている事が当たり前ではなかった時代は存在した。どんな歴史や行動を通して今の社会が存在するのか。どんな時代であっても変化を起こすのはいつも1人の人物の信念と行動から。我々も変化を拒むことなく、〈前へ前へ〉と進み続けたいね! 〈RBG〉亡き今、米国はどう変わっていくのか、世界が再び注目している。米国というのはリベラル派(民主党:オバマ、バイデン)と保守派(共和党:ブッシュ、トランプ)が常に対立している国でもある。妊娠中絶や銃規制など重大な問題については憲法判断に委ねられ、その時代の趨勢を最高裁が決定してきたという側面がある。最高裁判事は〈良識の長老〉等とも呼ばれ、これまではリベラル・保守・中間である意味拮抗していた形でバランスを保っていたとも言えるが、トランプ政権になってからはこのバランスが崩れた。最高裁判事の指名は5分の3の賛同(60%)が必要であったが、トランプ政権時に過半数(50%)によって承認できるようにルールが変更されている。さらに大統領任期の最後の1年で判事に欠員が出た場合は、選挙後の大統領にその指名を譲るという不文律のようなものが存在したが、トランプ政権はここも破壊(?)した。〈RBG〉が亡くなってすぐに、トランプ政権は保守派の判事を任命している(ちなみにRBGはリベラル派)。つまり、それまでバランスが保たれていた最高裁判事の数はトランプ政権時に大きく保守派に傾いた事になる。トランプ政権のこのルール変更は良心に基づくと言われた慣習を破棄することから〈核オプション〉とまで呼ばれた程だ。米国で社会問題になっている様々な案件は今後どのような判決が出されるのか、そしてその事で米国社会はどう変わっていくのか。〈RBG〉の死は米国の1つの時代の転換期としても大きな事だったように思う。
  • minori
    3.7
    ルースの闘いと、家族との気に感動。 未来のために頑張る大人はかっこいい
  • Pgchanisthebest
    -
    記録
  • ひな
    -
    7/6/2023
ビリーブ 未来への大逆転
のレビュー(16400件)