Keep Portland Weird!街の魅力から読み解くガス・ヴァン・サント最新作『ドント・ウォーリー』

映画と本とコーヒーと。

藤ノゾミ

「Keep Portland Weird(変わりもので行こうぜ!)」をスローガンにしたアメリカ北西部オレゴン州の街、ポートランド。古くはヒッピー文化、最近はコーヒーやクラフトビール、徹底したローカル主義でも人気ですが、その“変な”街を車椅子で疾走していた風刺漫画家がいました。

名前はジョン・キャラハン

酒におぼれ、四肢麻痺となった彼の半生を描くドント・ウォーリーが公開中です。監督は『マイ・プライベート・アイダホ』や『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で知られ、同じくポートランドを拠点とするガス・ヴァン・サント

故・ロビン・ウィリアムズが主演を熱望したという本作は、キャラハンの再生の物語ではありますが、ただの感動ストーリーではありません。風刺と皮肉をスパイスに、ぐっと胸に迫る『ドント・ウォーリー』のみどころを、舞台となった街の魅力も交えてポートランド居住経験のある筆者がお届けします!

『ドント・ウォーリー』

車椅子の破天荒な風刺漫画家ジョン・キャラハン

まず、ジョン・キャラハンとはどんな人物だったのでしょうか。

キャラハンは1951年、オレゴン州の中西部・ダラスという小さな町に生まれます。生まれてすぐ母親に捨てられ、その境遇が影響してか、生活は荒れました。十代からアルコール依存症に陥り、21歳で交通事故に遭って車椅子生活を余儀なくされます。

ドント・ウォーリー

胸から下が麻痺して一変した暮らしは彼の人生をも大きく変えます。誰かの助けを借りなければならない生活の中、キャラハンはもがきながらも自身と向き合い、イラストを描きはじめます。創作活動に救いを見出し、27歳の頃には禁酒にも成功。作品はやがてポートランドの地元新聞「ウィラメット・ウィーク」に掲載されるようになりました。

キャラハンの作品は日本ではほぼ知られておらず、アメリカでもものすごく有名というわけではありません。ですが、「ウィラメット・ウィーク」での連載は27年間にわたり、地元の人たちに愛される一方、過激すぎる内容にたびたび抗議も殺到するなど、常に話題を呼んできました。

その作風の一端がわかるのが、自身の伝記に添えたイラスト「Don’t Worry, He Won’t Get Far on Foot」です。空っぽの車椅子を前に、馬で追いかけてきたらしい警察官が一言、「大丈夫、どうせ遠くに歩いて行けやしないさ」。車椅子の主はもちろんキャラハン本人です。皮肉たっぷりのこのイラストは、アニメになって映画にも登場します。

ドント・ウォーリー

キャラハンを生んだ「個性派」大歓迎の街

キャラハンは赤い髪をなびかせ、ポートランドの街を電動車椅子に乗ってものすごいスピードで走り回っていたそうです。ガス・ヴァン・サントも目撃していたというその姿は映画でも描かれており、キャラハンは段差につんのめって車椅子から吹っ飛ばされます。

助けに来るのは街のスケボー少年たち。キャラハンが身に着けているし尿袋に「くせー!」と悪態をつく彼らですが、面白がって車椅子を起こすと、キャラハンの作品集を興味津々に覗いてきます。美しすぎない優しさが印象に残る、本作の名シーンの一つです。

「Keep Portland Weird」のスローガンが表すように、ポートランドは個性的なこと、人と違っていることを歓迎する雰囲気があります。例えば、街いちばんの観光スポットが、百貨店の跡地が駐車場になることに反対して作られた何もない広場「パイオニア・コートハウス・スクエア」だったり(煉瓦一つ一つに寄付した市民の名前が刻まれています)、呪いのブードゥー人形をかたどったドーナツ屋さんが大人気だったり。

ポートランド

ポートランド

キャラハンの作品が初めて掲載されたのはポートランド州立大学の大学新聞でしたが、PSU(Portland State University)の略称で親しまれるこの大学は、公園と一体化するようにキャンパスが街の中にあり、市民の憩いの場となっています。週末にファーマーズマーケットが開かれたり、平日には学生のライブがあったり。筆者は住んでいた頃、特大の鮭を焼いて無料のランチをふるまうイベントに出くわしたこともありました(激旨でした!)。

ポートランド

ウィリアムズとの約束、フェニックス兄弟との絆

ロビン・ウィリアムズはキャラハンのファンで、約20年前『グッド・ウィル・ハンティング』(97)に出演したことをきっかけに、ガス・ヴァン・サントにキャラハンの自伝の映画化を持ちかけました。ウィリアムズの学生時代からの友人である俳優クリストファー・リーヴ(初代スーパーマンを演じました)も乗馬中の事故で身体麻痺になり、友のためにという思いもあったのかもしれません。

ガス・ヴァン・サントもまた、『ドラッグストア・カウボーイ』(89)を撮っていた頃からキャラハンの存在は「ウィラメット・ウィーク」を通じて知っており、同世代ということもあって映画化には積極的でした。当時を振り返り、「僕たちふたりは自分たちの世界をはじめたばかりだった」と語っています。

しかし、キャラハンにインタビューを重ね、脚本を何度も練ったものの、映画化は実現せず、2010年にキャラハンが59歳で死去、2014年にはロビン・ウィリアムズも亡くなってしまいます。

ちなみに、ガス・ヴァン・サントのデビュー作『マラノーチェ』(85)と『ドラッグストア・カウボーイ』、リヴァー・フェニックスとキアヌ・リーヴスが共演した『マイ・プライベート・アイダホ』(91)は、すべてポートランドが舞台で「ポートランド三部作」と呼ばれています。

似た時代設定を考えれば、「四部作」とも言えそうな『ドント・ウォーリー』。主演は1993年、23歳の若さで急逝したリヴァー・フェニックスの弟、ホアキン・フェニックスです。『マイ・プライベート・アイダホ』は母探しの物語、『ドント・ウォーリー』のキャラハンにも母はなく、二つの映画はどこかでつながっているようで、ホアキンが今回の出演にあたって「とてもパーソナルな映画になると確信した」と語っているのもうなずけます。

『マイ・プライベート・アイダホ』

振り返ると、ガス・ヴァン・サントは2012年にも長年コンビを組んだ撮影監督ハリス・サヴィデスをなくしており、実に多くの盟友がこの世を去っています。そんな背景を考えた時、キャラハンを導く禁酒会のセラピスト、ドニーが物語の終盤でつぶやく「失いたくない人を失うんだ」という言葉には迫るものがあるのではないでしょうか。

だけど、この映画のタイトルはDon’t Worry、大丈夫

キャラハンは言います。「コメディは、ホラーに対抗できる大切な武器だ。だからこそ、死をも吹き飛ばせるんだ」

『ドント・ウォーリー』を観るためには、涙を拭くハンカチはいりません。クスっと笑って、ちくりと胸を刺されて、観終わった後は爽やかな風を浴びたような気持ちになるでしょう。

いつか読みたい原作 ぜひポートランドも訪れて!

映画化にあたり、ガス・ヴァン・サントは原作をかなり大胆に抜粋、脚色もしています。自伝には、キャラハンが母のことを突きとめるエピソードも含まれるとか。今のところ邦訳は出ていないようですが、いつかは読みたいものです。

また、ぜひ舞台になったポートランドも訪れてみてください。ニューヨークやサンフランシスコのような派手な観光地はないですが、暮らすように滞在できるのんびりした街です。

ただし、ポートランドは10月頃から雨季に入り、5月ぐらいまでは毎日毎日、雨か曇り空です。気分が滅入ってそれこそビールにでも逃げたくなるので、初めてならくれぐれも夏に訪れることをおススメします(笑)。

ポートランド

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