杉咲花主演の最新作、映画『市子』の新場面写真と、第36回東京国際映画祭で行われた戸田彬弘監督のQ&Aイベントのレポートが到着した。
【イベントレポート】『市子』(2023)
3年間一緒に暮らしていた恋人からプロポーズを受けた翌日、姿を消した川辺市子。痛ましいほどの過酷な家庭環境で育ちながらも、「生き抜くこと」を諦めなかった彼女の壮絶な半生を第三者の目線からも描き、自分の“存在”と向き合い続けたひとりの女性の生き様を映し出す本作。
メガホンをとったのは、映画監督のみならず、脚本家、演出家としてもマルチに活躍する戸田彬弘監督。映画『名前』(2018)、『13月の女の子』(2020)、『僕たちは変わらない朝を迎える』(2021)、『散歩時間~その日を待ちながら~』(2022)などを手掛け、国内外の映画祭で評価を得てきた。近年では、佐久間宣行が企画、根本宗子が脚本を担当したsmash.配信ドラマ『彼の全てが知りたかった。』(2022)を監督し、今後の活躍にも目が離せない。本作は、戸田監督が主宰を務め、全作品の作・演出を担当している劇団チーズtheaterの旗揚げ公演である人気舞台「川辺市子のために」を原作としている。
この度、第36回東京国際映画祭にて本作の公式上映が行われ、戸田彬弘監督が観客からの質問に答えるQ&Aが行われた。観客と熱い質疑応答を交わした監督は、作品を共有できた喜びを噛み締めしめるかのように、表現方法や作品の背景を赤裸々に語った。
まず、主人公・市子本人の心情は描かれず、他者の目線から彼女を映し出していく本作の構成について訊かれた監督は、「(観客が)想像意欲を使えるようにと思い、主人公・市子の人生ドラマとして描いていくのではなくて、客観的な目線からその人を浮き彫りにしていき、想像していくことでしか彼女を想えないというスタイルにしました。」と独特の演出を明かした。
さらに、「映画にするとき、ファンタジーやSFでなくこういうリアリズムなものを撮る際は、カメラに映ったものが真実として映っていくものだと考えています。本作では、市子に実在性がないように映していくにはどうしたらいいんだろうと考えて、最終的には視点を変えていく、市子の主観としてのシーンを見せず、客観的な視点にカメラポジションを置いてドキュメンタリータッチのように構成をしました。」と、舞台原作からの映画化で苦労、工夫した点も語った。
さらに、杉咲花とどのように“市子像”を築いていったのかを訊かれ、「杉咲さん自身も市子というキャラクターにシンパシーを感じてくれていましたので、とても思い入れを持って演じてもらえました。構成上、キスシーンもちょっと深めにやりたいと相談したところ、“もちろんです。”と一言で受け入れてくださいました。」と杉咲の本作への熱量を明かしつつ、市子という人物を作り上げていくうえで、「市子が置かれた境遇の方が持つ傾向を有識者に訊くと、“目立った服装や髪型をしない”とのことだったので黒のワンピースを象徴的に使い、髪型も染めたり巻いたりせず臨みました。メイクに関しても、本人からスッピンでやりたいと言ってくださいました。」と語った。
【場面写真】『市子』
さらに今回、杉咲花演じる主人公・市子が、力強い眼差しで一点を見つめる場面写真が公開された。市子がとった“ある行動”が映し出されるワンシーンであり、杉咲はおよそ6分間にも及ぶセリフ無しの圧巻の演技を披露。表情や所作で魅せる圧倒的な表現力で観客を唸らせた衝撃の場面となっている。
今月行われた釜山国際映画祭での公式上映後のQ&Aでも、この部分を好きなシーン・印象深いシーンとして挙げており、「この作品は、セリフがないシーンがたくさんあるのですが、中でも、台詞がまったくないこのシーンは杉咲さんのお芝居ひとつにお任せしていて、6分ほどの長尺のシーンを俳優さんのお芝居ひとつに任せて撮っていくといことが非常に楽しくもありました。映画の中で重要なシーンのひとつなので印象に残っています。」と語っている。
『市子』は、2023年12月8日(金)テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開。
『市子』あらすじ
川辺市子(杉咲花)は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、忽然と姿を消す。途⽅に暮れる⻑⾕川の元に訪れたのは、市⼦を探しているという刑事・後藤(宇野祥平)。後藤は、⻑⾕川の⽬の前に市子の写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生……と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は部屋の中から一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてきた壮絶な過去と真実を知ることになる。
原作:戯曲「川辺市子のために」(戸田彬弘)
監督:戸田彬弘
脚本:上村奈帆、戸田彬弘
出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
公式:https://happinet-phantom.com/ichiko-movie/
(C)2023 映画「市子」製作委員会
※2023年10⽉31⽇時点の情報です。