『舟を編む』で第37回日本アカデミー賞・最優秀作品賞を含む計6部門を受賞。“史上最年少”での最優秀監督賞受賞となった天才・石井裕也監督の最新作は、前代未聞の豪華キャスト×現役高校生の超新人を主演に迎えて描く『町田くんの世界』。すでに<今までのセオリーを覆す新しい日本映画!><すべてのセオリーをブッ飛ばす、衝撃の人間讃歌!>という宣伝文句とともに注目を集めている感がある期待作で、前代未聞の1,000人から大抜擢したという超新人俳優コンビの活躍も楽しみな作品となった。
その超新人俳優コンビと対峙する石井組常連の演技派・池松壮亮と、石井裕也監督にツーショットインタビュー。映画に登場するキャラクターたちが町田くんとの出会いを経て人生観を次々と変えていくように、役柄を演じながら作品を撮りながら自分たち自身も変化があったことを明かした。
ーー原作がある作品ですが、その時の感想はいかがでしたか?
石井 びっくりしました。35歳で少女漫画に初めて触れ、こういう表現方法もあるのかと。最初は気恥ずかしかったですが、ものすごく純粋に人を好きになる気持ち、人に優しくするとはどういうことなのか、そういうことを丁寧に描いていたので、驚くと同時に感動しました。
ーー池松さんは脚本で初めて世界観に触れたそうですね。
池松 近年まれにみるような素晴らしい物語だと思いました。自分が関わる映画に限らず、日本映画としてなかなかない。たとえば自分がワンルームで暮らしていて、絶対に開けなかった窓を開けてもらったような感覚。すごくいい映画になると思ったし、平成の最後に作った映画を令和の最初に出すというタイミングも含めて、2019年に必要な映画だと思いました。
ーー主演のふたりは新人ですが、脇を固める実力派俳優たちとの化学反応も見ものです。
石井 この映画を観ていただいて、ふたりの新人がものすごく瑞々しく見えて、かつ脇にいる人たちも愛せれば、化学反応というものは成功していると思う。このふたりの無垢な何色にも染まってない存在を浮き立たせるために周りの人たちがいると言っても過言ではないですし、その逆も言えると思うんですよ。あの、実力があって世界を知りすぎた俳優たちのために無垢なる存在を用意した、お互いにいい影響を及ぼし合えるような、そういうキャスティングにしました。
池松 詳しく解説しないとわからないこともあるかもしれないですが、やっぱり目の前で相手をすると全然違います。ベテランと違い、本当に丸腰で向かって来る。ボケとツッコミじゃないけれど、技術でお互いにどうにかするということではない。とにかくこちらがペースを合わせる、あるいはこちらのペースに持ってこないと成立しない。もっと言うと画面内での化学反応もそうですが、観た人に化学反応が起こるような気がします。
ーー今回、池松さんには、どのようにオファーしましたか?
石井 実は今回、わりと面白いケースというか、ちょっとした面白いエピソードがありまして。まずEXILEのHIROさんたちと飲んでたんですよね。
池松 『ウタモノガタリ-CINEMA FIGHTERS project-』という短編映画集の打ち上げがあって、僕もいて、岩田剛典さんもいた。監督もプロデューサーさんもみんないました。
石井 HIROさんに直談判したんです。岩田君とまた一緒に仕事がしたいんです、と。そしたらHIROさんにも喜んでいただけて。
で、28歳か29歳の岩田君に高校生の役について説明していてパッと横見たら、もっと若い池松君がいて(笑)。だとしたら、彼にはもっと年上の役がいいだろうとふと思って、たぶんその時に脚本を送ると言った気がする。たまたま岩田君の隣にいたんです。そういう流れのオファーでした(笑)。
ーーただ、常連ではありますよね?
石井 でも、必ず作品ごとに<なぜ池松君じゃなきゃダメなのか?>という理由があり、それは毎回内容が違います。常連と言うと馴れ合いのような意味合いが込められてしまいがちですが、そういうことはないですね。
ーー呼ばれるほうもプレッシャーを感じますよね?
池松 もちろん感じます。特に今回、下手なことできないと思っていましたし、この映画の行く末が決まってしまう役柄だとも思っていたので、自分の人生を賭けて町田くんを信じられるかどうか、人生を試されるような出来事だったとも思います。それはこの映画を観た人たちもそう感じるかもしれないし、以後の自分の人生の進め方も変わるような気がしますね。
ーーこの作品を経た今、この世界はおふたりにはどう映っていますか?
池松 作品を提供する立場ですので、そういう人間があれこれ言うと冷めるような気もしますが、ちょっと外野ヅラして言うと、僕はこの映画に出会ったことで、変わったものが確実にありました。それを説明しはじめると、ヘンな宣伝みたいになりそうで嫌ですが(笑)。僕は、町田くんに普段開けない窓を開けてもらました。世界が変わったな、と思っています。
石井 <この世界は悪意に満ちている。でも町田くんがいる。>というコピーもありますが、町田くんのような人がいる可能性みたいなものは考えるようになったかもしれないです。基本的には世界は疑わしいものですよね。でも、それだけではない。この作品は善人になってくださいとお願いする映画ではないんです。少しだけ改めて考える、いい機会になればいいなと思っています。(取材・文=鴇田崇、写真=映美)
映画『町田くんの世界』は、6月7日(金)より全国公開。
監督:石井裕也
脚本:石井裕也、片岡翔
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/machidakun-movie/
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