抜け出す勇気をくれる名作です
社会学者 作家 古市 憲寿さん
ふるいち・のりとし/1985年東京都生まれ。著書『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』などで注目を浴びる。『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』『平成くん、さようなら』など他にも著作多数。最新刊は『誰の味方でもありません』。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。
従来の物語の魅力プラス
現代的アレンジが随所に
子どもの頃からアニメーション版『アラジン』が大好きで繰り返し観ていました。実は中学1年の文化祭でアラジンの劇をクラスで発表することになった際、僕が脚本と監督・演出を担当したほど。それぐらい好きで、思い出深い作品です。だから実写化されると聞いてとても楽しみにしていました。
本作を観てまず驚いたのは王女ジャスミン。現代的な女性の強さが色濃く投影されていました。お城から飛び出してアラジンと出会い、恋に落ちて結婚を望むところは同じなのですが、加えて本作のジャスミンは真剣に国民の幸せを願い、ごく当たり前に女性の自分が王位を継承することを考えている。彼女がより主体的に自分の力で未来を切り開く存在として描かれている点がとても新鮮で、いかにも2019年らしさがあって素敵だなと思いました。
権力を求める怖さが伝わる
社会風刺の利いた作品
全体的にさわやかで気持ち良く楽しめるエンタメ作品なのですが、随所に風刺が利いていて、単なるファンタジーではないところが本作の魅力。例えば邪悪な国務大臣ジャファー。ナンバー2の立場から国王の椅子を狙って悪事を次々と画策し魔法のランプのお陰で一度は国王になりますが、彼の姿やたどる命運はいまの政治を風刺しているようにも見えました。何よりどんな政治家にも最初は根っこに「社会を良くしたい」といった自分なりの夢があったはず。それを忘れてジャファーのようにただ権力にしがみつくと欲望だけが肥大化し、結果的に不自由になっていくということを示唆しているように思えました。こんな具合に様々な社会風刺が内包されているので、世界情勢や社会問題を知っていると幾重にも本作を楽しむことができるはずです。
自由をつかむためには
世界を知り、勇気を持つ
最後にアラジンは魔法のランプという保険を、ランプの魔人ジーニーは宇宙一のパワーを、そしてジャスミンも今までの安定した暮らしを、彼らの〝本当の願い〟をかなえるために手放します。人は誰かと出会うことで新たな世界を知ることができる。でも、そこから一歩踏み出して自分を変えるためには、自ら選択する勇気が必要なのだとアラジンたちの行動から改めて気づかされました。
そして『アラジン』と言えば名曲「ホール・ニュー・ワールド」です。音楽と共にアラジンとジャスミンが魔法のじゅうたんで世界を旅するシーンはやはり圧巻。胸のすく爽快感があります。2人がそれぞれの日常から離れて世界を知るように、僕たち観客も映画を通して非日常を体験できる。今の社会に対して違和感があってもそれを受け入れなくていいし、もっと幸せに生きていい。そんな自由と夢を抱かせてくれる映画です。生きることに窮屈さを感じたり、閉塞感を覚えたりしている人にこそ届いてほしいなと思います。(談)
◆映画『アラジン』imformation
■STORY■ ダイヤモンドの心を持ちながら、本当の自分の居場所を探す貧しい青年アラジンと自由に憧れる王女ジャスミン、そして“三つの願い”をかなえることができるランプの魔人ジーニー。果たして3人はこの運命の出会いによって、それぞれの本当の願いをかなえることができるのだろうか――?
美女と野獣のディズニーが「アラジン」を実写化
監督:ガイ・リッチー
出演:ウィル・スミス、メナ・マスード、ナオミ・スコットほか
音楽:アラン・メンケン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:Disney.jp/Aladdin
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※2021年8月30日時点のVOD配信情報です。