10月9日より開催しているインド映画の祭典IFFJ:インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(全上映作品紹介はコチラを参照ください)に、上映作『復讐の町』の監督、シュリーラーム・ラーガヴァンさんと、『ヨイショ!君と走る日』の監督、シュラト・カタリヤーさんがはるばるインドから舞台挨拶とティーチ・インにいらっしゃいました。
写真:オープニングイベントの様子。左からIFFJ主催スレッシュさん、シュラト監督、司会のサラーム海上さん。
近年、日進月歩に進化を遂げているインド映画界において、その先頭を走るお二人にそれぞれの監督作の魅力について聞いてきました。
『ヨイショ!君と走る日』監督 シュラト・カタリヤーさん
脚本家としてキャリアをスタートさせ、多くのヒット作を担当。シェイクスピア「夏の夜の夢」を翻案した『10ml Love』で監督デビュー。『ヨイショ!君と走る日』は2本目の監督作。
ええ、初めてです。東京はムンバイやニューヨークのような洗練された国際都市という印象を持ちました。様々な国の人々がいて、おいしい食事があって、そんな中でとても親切な人々に囲まれて楽しく滞在しています。
-『ヨイショ! 君と走る日』の物語はどんなきっかけで思いつかれたのですか?
とある写真展で奥さんを背負って走るという奇妙なレースの写真を見たんだ。それで「もしも、奥さんが太っていて、旦那さんが痩せていたらスポーツ・アクション映画みたいな作品が出来るんじゃないか?」と思ったのがきっかけだよ。
-1995年を舞台に、カセットテープ屋を営む男性というのは映画の主人公としては珍しいですね。
脚本を書いた6年前にはまだカセットテープ屋さんはあって特に気に留めていなかったんだけど、撮影を始めた2014年にはDVDやCDに完全に入れ替わってしまってたんだ。
それで時代設定を変える必要に迫られたんだけど、脚本を書いていた6年前に戻すくらいなら、自分の青春期で「ミックス・テープ」を作るという文化もまだあった1995年まで戻してしまうことで、ノスタルジックな気分も感じられるようにしたんだ。
-主人公のプレームは青年団に入ってます。日本の青年団はすごく真面目な地域貢献なんかをしているグループなんですが……
インドの青年団とはちょっと違うかもしれないね。集まってスポーツしたり、ムダ話をしたりするようなコミュニケーションの場になっているんだ。男ばかりだから、“ラブ・ライフ”についての下世話な話もする、いたって気さくなグループだよ。
-本作ではケンカをしていたり、深刻な知らせを受けたり、というシリアスな状況にコミカルな要素をぶつけてくる場面が多くあります。
現実でも、思わず笑ってしまうような状況だよね。シリアスだったりロマンチックな場面にコミカルな要素を常にぶつけていくことで、コメディであることが強調できると思ったんだ。
あと、インドの国民性にも繋がっているかもしれないな。悲しい時や辛い局面でも、楽しいことに気を取られて「まぁ、いいか!」と流してしまうようなところがある。
ほら、今も大人が真面目くさって仕事の話をしている横で子供が大騒ぎしていたりするじゃない(※監督の2歳になるお嬢ちゃんが隣で遊んでいました)。人生ってこういうものだよね(笑)。こういう楽しい空気を映画に取り込めると考えたんだ。
-主演を務めたアーユシュマン・クラーナーさんについてお聞かせください。
最初に会った時、彼は既に人気のあるスター俳優だったんだけど、そんなことを全く気にかけない気さくな人物なんだよ。取り巻きを引き連れてるワケでも無いし、気取ったところも無くて、極めて地に足のついた俳優なんだ。
本作がきっかけで会ったんだけど、私の脚本を気に行ってくれて、正確な理解をした上で、キッチリとキャラクターを作り込んでくれた。現場では特に注文をすることも無かった程だよ。仕事上で良い関係が築けて、今は良い友人の一人でもあるんだ。
-奥さん役のブーミ・ペードネーカルさんは女優さんでは無かったと聞いています。
そうそう。彼女はキャスティング・デイレクターのアシスタントだったんだ。カメラの後ろでオーディションを受ける俳優の相手役としてセリフを言ってたんだけど、オーディションを受けた誰よりも彼女の方が上手かったんだ(笑)。
コメディ的なオーバーアクトが無い、自然な演技が出来るんでプロデューサーにも「何故、彼女を起用しないんだ?」って言われたよ。全く異論は無かったね(笑)。それでも、素人ではあったから色々と演技に注文はさせてもらったよ。僕たちスタッフが彼女を育てたという自負はあるかな(笑)。
(※現在は、大変スリムになられています。)
-本作や監督ご自身の映画的なバックグラウンドについて教えてください。
本作で言えば、特に参考にした様な作品は無いんだ。誰かの作品をリメイクするというのもあまり興味は無い。
僕自身の好きな作品は、日本映画だと黒澤明監督の『乱』は僕にとって特別な作品だよ。あとは滝田洋二郎監督の『おくりびと』も素晴らしかった。
それと、エルンスト・ルビッチの『桃色(ピンク)の店』やフェリーニの『8 1/2』。それに何と言ってもビリー・ワイルダーの大ファンで『サンセット大通り』『お熱いのがお好き』が大好きなんだ。ロサンゼルスにある彼のお墓にお参りにも行ったよ。ジャック・レモンとウォルター・マッソーのお墓と一緒に並んでいるんだ。感慨深かったね。
-最後に、これから見る人へのメッセージを。
う~ん。特に無いなぁ(笑)。僕の映画を見てくれて、映画を好きになって欲しいね。
『復讐の町』監督 シュリーラーム・ラーガヴァンさん
2004年、サスペンス・スリラー『Ek Hasina Thi 』でデビュー。『復讐の町』は4本目の監督作。前作は日本でも公開された『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』。
-日本に来て、まだ3~4時間で空港と映画館周辺くらいしか見ていないかもしれませんが、印象を……
昔から日本には強い関心があったんだ。今回、映画祭に呼ばれて来たけど、この機会が無かったとしても将来的には必ず来ようと思っていたよ。ただ今は本当に何も見てないんでこれからの滞在で色々な所へ行くつもりなんだ。
-『復讐の町』を作るきっかけは何だったのでしょうか?
前作の『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』はサイフ・アリ・カーンという大スターが主演とプロデュースを務め、大きな予算がついたことで多大なプレッシャーや横ヤリを受けて作った映画だったんだ。そんな苦労の割に興行的には芳しくなかったんで「今度は低予算でもイイから自分のやりたい企画をやりたい様に作るんだ!」と、思い立って作ったのがこの映画なんだよ。
-日常の風景が急激に表情を変えるオープニングが素晴らしかったです。
当初、オープニングは銀行強盗をする場面を想定していたんだけど、なんだかしっくり来なかったんだ。そこで、日常の光景が突然崩壊していく様子をワンカット内で見せていく手法へ変えたんだ。
-前作『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』とは随分とタッチが変わっています。
私は映画を作るにあたってコンセプトを第一に考えるんだ。『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』は「インド版のジェームズ・ボンド」というコンセプトだった。私としてはドキュメンタリー・タッチにして「インド版のジェイソン・ボーン」にしたかったんだけど、サイフ・アリ・カーンが「どうしてもジェームズ・ボンドで行きたい!」と(笑)。多少衝突もしたよ。あくまで“ハッピーな衝突”だけど(笑)。
本作についてはティム・ロビンスの『デッドマン・ウォーキング』の様なドラマを描きたいという欲求があったので、必然的にタッチを変えているんだ。
-映画が始まる前のスペシャル・サンクスにドン・シーゲルの名前を見つけました。
ドン・シーゲルが好きなんだよ。本作に特に関係は無いんだけど(笑)。ただ、『ダーティ・ハリー』や『突破口!』のような、ハリウッド製の映画ながら荒々しいタッチの傑作を作った監督への敬意を表したかったんだ。最近の人はあまりドン・シーゲルに気を留めないから見つけてくれてうれしいよ(笑)。
-本編にダフネ・デュ・モーリアの短編集『いま見てはいけない』を読んでいる場面があります。
幼い子供を失った親の物語として関連性を見せたかったんだ。ニコラス・ローグが映画化した『赤い影』も好きだし、作品の持つテーマの一つ“贖罪”にも通じる部分があると思ったんだ。
ただ、タランティーノが『パルプ・フィクション』の中で登場人物に『唇からナイフ』の原作小説を読ませている、ああいったお遊びの意味もあるけどね。
-出演者について、強盗役のナワーズッディーン・シッディッキーさんはスクリーンでは恐ろしいイメージありますが、どんな方ですか?
出典:http://www.apotpourriofvestiges.com/2015/02/badlapur-2015-indian-filmmaker-sriram.html#axzz3oFJe5HzC
彼は非常に優しくて、謙虚で、真面目で、物静かで…… 私の映画でのキャラクターとは真逆の人物だよ(笑)。
私の映画での彼は『真夜中のカーボーイ』でダスティン・ホフマンが演じた「ラッツォ」を想定しているんだ。目が離せない、惹きつけられる部分があるけれど、近寄りたくは無い(笑)。そんな人物として作りあげたんだ。
-ヴァルン・ダワンさんは多くの作品で、弾けるように明るい若者を演じています。そんな彼を、暗い物語の中心に据えた理由は何でしょうか?
出典:http://www.apotpourriofvestiges.com/2015/02/badlapur-2015-indian-filmmaker-sriram.html#axzz3oFJe5HzC
まず、彼に脚本を見せたらすごく興奮した様子でやる気になってくれたというのが大きな要因だ。それに、彼はああ見えてずいぶんと落ち着いた大人なんだよ。
加えて、彼が生来持っているヒーロー的なイメージも良かった。本作では善人が悪人へと変わっていく物語だからね。今までの彼を知っている観客は新しい一面を見つけることになったと思うよ。
-監督ご自身の映画的なバックグラウンドについて教えてください。どんな映画が好きですか?
……多すぎて絞れないなぁ(笑)。
強いて言うならまずはヒッチコックだ。映像学校に入ったきっかけはヒッチコックになるだろう。彼の映画を何度も何度も見て映画の勉強をしたよ。
それと、映像学校には多くの映画があって黒澤明監督作品に出合えた。彼の映画でスペクタクルやドラマを盛り込む脚本作りを勉強したよ。大島渚監督や今村昌平監督との出会いもあった。思い返せば、映像学校ではハリウッド製以外の、世界中の映画と出会えたことが大きな収穫だったね。
最近は仕事として日常的に四六時中映画を見ているけど、とりわけコーエン兄弟が好きだ。『ファーゴ』は大好きな作品だよ。好きな映画を上げるのは時間がいくらあっても足りないなぁ(笑)。
-最後にこれから見る人へのメッセージを。
今日、日本の観客と一緒に自分の作品を見られたのは嬉しい体験だった。これから見る人にも楽しんでもらえることを願っているよ。
スケジュール参照